ドワーフ村の腐り水
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「ここが腐り水の湧いた場所だす。周りの草も枯れてきてるだすよ、本当に毒じゃないだすか?」
ドワーフ村の村長さんに案内された、村の外れの森に入ってすぐの場所には、もうもうと白い湯気をあげて湧き出る温泉水が溜まって小さな池が出来てました。
「うげぇ、前のよりはましだけど、臭っせーな!」
「くしゃい~!」
レオンとレイちゃんは鼻をつまんで嫌そうな顔をしていますが、これってやっぱり硫黄の匂いだよね。
溜まっているお湯にそっと触れてみると、ちょっと熱めのお風呂位の温度で、お湯につけた手がすべすべになった気がします。
「おいおい! そんな水に触って大丈夫だすか? 腐り水は沸き出した直後は透明だすが、しばらくすると白く濁っちまうんだす。しかもこの卵の腐ったような臭い……触れたら手が腐っちまわねえだすか?」
村長さんは焦ってますが、この水が毒ではなく触っても害が無い事はレッカさんが鑑定済みですよね、お湯から出した手もすべすべしてます。
「この水の効能は疲労回復、魔力回復、腰痛、関節痛、美肌……臭いは酷いが、毒はねえ」
「やっぱり、この臭いとその効能、硫黄泉ですね。レオン、空気中にも毒は出て無い?」
温泉を睨みつけるように鑑定していたレオンの言葉に、間違い無いとの確信をもって最後の懸念事項を聞いてみる。
「ああ、問題ねえ」
やったー、天然温泉だよ!! ここに露天風呂作ったら、森林浴も一緒にできて最高じゃない?
まだ見ぬ露天風呂を相続して一人でニヤニヤしている私を、周りの人達は変な顔で見てました。
「レッカさん、村長さん、これは温泉ですよ。お風呂の代わりにこのお湯に浸かったら、さっきレオンが言ってた効能が得られるんですよ。毎日お風呂を沸かすのって大変ですよね、ここに共同浴場を作ったら、村の皆さんも便利になるんじゃありませんか?」
「そりゃあ毎日風呂を沸かすのは大変だすが、こんな臭い水に入るのは気持ち悪いだす。村の衆も、誰も入りたがらねえだすよ」
うきうきとそう言った私の言葉に、困ったような顔で首を振りながら村長さんが反論し、レッカさんとレオンも微妙な顔でこっちを見てる。
確かに卵の腐ったような臭いはするけど、慣れたら平気じゃないかな、この白濁したお湯に浸かったら絶対気持ち良いのに……
「体に害が無くても、この臭いと水の色は気味が悪いからね。せっかく来てくれたサクラちゃんには悪いがレオン、埋めてくれないかね」
レッカさんの言葉に、村長さんもうんうん頷いてる……ここはレッカさんのダンジョンのドワーフの村だもんね、温泉が勿体ないってのは私のわがままだし、レッカさん達の思う通りにするべきよね。
「なあレッカ、ここは俺が責任もって埋めるから、その前に一度風呂作ってサクラに入らせてやってくれねえか?」
私がよっぽど残念そうな顔をしていたのか、レオンがそんなことを言いだした。
「それは構わないがね。サクラちゃんは本当に、こんな腐り水に浸かりたいのかね?」
レッカさんまで不思議そうな顔でそんなこと言いだしちゃった、そんな二度手間な事は申し訳ないよ、ドワーフの皆さんもこの水の事で不安に思ってるのなら、一刻も早く埋めた方が良いよね。
「俺の手間だとか考え無くて良いんだぞ、岩で風呂作るなんて簡単だ、サクラは浸かってみたいんだろ。どうせなら俺も一緒に入るし、風呂に入ってから埋めても今日中に終わるから」
「黒竜様が後で埋めてくれるんなら、おら達は文句はねえだす。どうぞ、ご自由にだすよ」
村長さんまでそんな事言ってくれるなら、良いかな? せっかくの天然温泉入ってみたいし、ってレオンは一緒にお風呂入りたいだけじゃないよね……
「わがまま言ってすいません、レオンお願いしてもいい?」
「まかせろ、この池の周りと底を岩で囲えばいいのか?」
お願いしたら、にかっと笑ったレオンがすぐに魔法で池の周りの土中から岩をはやし始めた。
大人4~5人が余裕で入れる位の大きさに、岩が円を描いて温泉を囲むと、真ん中の部分がべこっと凹み底にも平らな岩が並んでいく。
「とーしゃま、しゅご~い!!」
「うそ? こんなにすぐに出来ちゃうの、レオン凄い!!」
本当にあっという間に露天岩風呂が出来ちゃいました、私とレイちゃんの賞賛を浴びて、ちょっと照れてるレオンが可愛い。
でも、こんな素敵な岩風呂が簡単に作れるなんて、魔法って凄いなあ。
「ふむ、こうやって見ると中々良い感じじゃないか。私もサクラちゃんと一緒に入ってみるとしようかね」
出来上がった岩風呂に興味を持ったレッカさんが、そんな事を言いだしちゃったら……レオンが黙ってないですよね。
「はぁ? サクラは俺とレイと3人で入るんだよ! レッカは後から入れよ」
そんな風に私達が騒いでいる間、村長さんは岩風呂に興味津々で、うろうろしながら造りを調べてたのですが、
「黒竜様の岩石魔法は素晴らしいだす、もっと詳しく見たいだす……う、うわぁっ!」
バッシャーン!! って頭から落ちちゃいましたけど、大丈夫ですか村長さん?
「うわっぷ、ぺぺぺっ、酷い目にあった……あれ?意外と気持ち良いだすな。ちょうど良い温度でぬくぬくだす」
お湯から顔を出した村長さんは、そのままお風呂の中に座りこんで気持ち良さそうで
「おい! こんな腐り水気持ち悪いんじゃなかったのかよ! 触れたら手が腐るとか言ってたくせに、何呑気に浸かってんだ」
なんてレオンの怒声も、どこ吹く風とくつろいでます。
「な、なあぁぁっ、魔力が回復してるだす!! 昨夜徹夜で仕事して、さっきまですっからかんだった魔力が完全に回復してるだすーっ! これは凄いだす、村の衆にも教えるだすーっ!」
ところが村長さん、急に騒ぎ出したと思ったら凄い勢いで村の方向へ走って行ってしまいました。
「ああ本当に魔力が回復するね。確かにこれを埋めるのは勿体ないねえ」
いつの間にか、服を脱いで温泉に浸かっていたレッカさんもそう言ってる、私は魔力が無いから全然分からないけど、村長さんのあの慌て具合から見ると、温泉で魔力回復って凄い事なのかな?