副官と恵方巻
私の名前はアイン、ハイオーガでこのダンジョンのマスターである黒竜様の副官をしている。
最近、黒竜様が仕事の途中姿を消す事が増えてきました。
ダンジョンの地下32階に新しく作った隠し部屋でコソコソ何かをしているようですね、獣人族の隠れ里からも数日置きに人が来ているようですし。
まったく、獣人族が人間に見つかればどんな騒ぎになるか分かっているのでしょうか。
何のために私が苦労して地下30階より下の階の構造を毎日変更しているのか、構造の変更自体は黒竜様の膨大な魔力で賄っているとはいえ管理の手間はすべて私に任せっぱなしなんですから。
やはりここは一度、黒竜様に一言申し上げておくべきですね。
カラカラカラ、先日シバさんに届けてもらったビーノン(大豆)をフライパンで空いりする。
ここは異世界だけど、せっかく大豆が有るのだから節分には豆まきしたい。
元の世界に居た時は、鰯を焼いて柊の枝に刺して玄関に飾ったりしたけど、あれって5分もしない内に近所の野良猫に食べられちゃってたのよね。
恵方巻も作らなきゃ……恵方がどちらか分からないけど、気分的に食べたいしね。
升に空いりした豆を入れて、レオンさんが来てから一緒に豆まきしようっと。
「これは、黒竜様は一体何をやってるのでしょうね?」
32階にある隠し部屋に来てみれば、見たことの無い木と家が建ち、地面には一面の薬草が生えている上に最大級の大きさのワイルドコッコが2羽歩き回っています。
「「コッコッコッコッ」」
しかもこのワイルドコッコ達、上位種の魔物である私に向かって来ようとしてますね……普通は逃げ出す筈なのに、どうやらこの家を守ろうとしているようですね?
「フム、家の中に入って見ますか」
「「コッコッコッ、コケーッコッコッ」」
ピーちゃんとコッコちゃん?レオンさんやシバさんならこんなに鳴かない筈、誰か来たのかしら?
又獣人族の人が襲われてるのかと慌ててドアを開けると、そこには鬼が立ってました。
「きゃーっ、鬼は外ー鬼は外ー」
思わず持っていた豆をぶつけてしまった……
「ぎゃはははは、アインお前何やってんだよ、ビーノンまみれじゃねえか」
私が悲鳴をあげて直ぐに表れたレオンさんは、仏頂面のアインさん?を指さし笑い続け、ピーちゃん達が地面に落ちた大豆を食べてる、何この地獄絵図。
「サクラ、コイツは俺の副官でハイオーガのアインだ」
「アイン、コイツはサクラ。異世界の人間で、神のジジイに頼まれたんでこの隠し部屋で保護することにした」
神からの預かり人ですか?
ああ魔力が無いですね、これでは外で暮らせないでしょうが副官である私には一言、言ってほしかったですね。
「アインさん、先ほどはすいませんでした」
サクラさんが頭を下げて謝ってきました、人間の力でビーノンを投げられた位では痛くも痒くもありませんがね、
「いえ、人間が私をいきなり見たらビックリするでしょうから平気ですよ、ですが鬼は外とはどういう意味でしょうか?」
「私のいた国では2月3日に、鬼は外、福は内と言って豆をまき、邪気を払う節分という行事が有るのです。それで、アインさんの姿が私の国の鬼に似ていたものですから、すいません」
アインさんは額から2本の角を生やしているものの真っ赤な髪をオールバックに撫で付けて眼鏡をかけきっちりとした服を着た知的なイメージの人でした、何であの時ちゃんと見なかったの私……
「ほぅ、異世界には変わった行事が有るのですね、他には何もしないのですか?」
「恵方巻と言う巻き寿司を食べます、いっぱい作ったのでアインさんも一緒にどうですか?」
今日の恵方巻の具は、ワイルドコッコのもも肉の照り焼きととピーちゃん達の卵で作った柔らかめのスクランブルエッグ、冷蔵庫に残ってたきゅうりの細切りです、お皿にピラミッド型に盛り付け後は、玉ねぎのお味噌汁をテーブルに運んで、さぁ召し上がれ。
「サクラ、この黒い紙で巻いてあるのって飯だよな、これどうやって食うんだ?この黒い紙剥がすのか?」
「これはこのまま、手で持ってかぶり付きます。この黒いのは海苔と言って海藻の一種を干して作ったものなので食べれますよ」
「海の匂いがするな、中の具の甘い卵と鳥肉に歯ごたえのある野菜も合わさって美味ぇ、この茶色い汁もよく合うしな」
レオンさんってば、両手に1本づつ巻き寿司を持って交互に食べてる……アインさんは対象的に両手で縦笛を吹くように持って食べてるけど、二人ともペース早いなあ。
食事をごちそうになってから、仕事に戻りました。神からの預かり人だけあってサクラさんは良い人間のようですし、異世界の料理は美味しかったですし、何か困ったことが合ったら相談にのってあげないといけませんね。
今度オークの肉でも持って行けば、又美味しい異世界の料理をいただけるでしょうか……
次の投稿は2月5日になります。