巨大カニと西の国の顛末
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「うぉ~い、サクラ居るかー? 今年初物のデビルキャンサー持ってきてやったぞー!」
本格的に寒くなる前に、毛布とコタツ布団を納戸から出していたら、庭の方からブルーノさんの声が聞こえてきた。
「ブルしゃん、おはよー。おっきいカニしゃんだ~!」
「ブルーノ! てめぇ、今まで自分のダンジョンからは滅多に出て来なかったくせに、何でそんなしょっちゅう家に来るんだよ」
「ははははは、ここに来れば美味いものが食えるからな!!」
レオンとレイちゃんも外にいたのね、賑やかな話し声が聞こえる方へ近付いていくと、甲羅の部分だけで1メートルはありそうな巨大カニを担いだブルーノさんがいた。
「おはようございます、ブルーノさん。うわぁ~、大きなカニ!! ありがとうございます! 私、カニ大好きなんです」
焼きガニ、茹でガニ、カニ鍋、カニ玉、餡かけチャーハンも良いなあ……あ、カニクリームコロッケも、これだけ大きいと色々作れそうね。
何を作ろうかと考えていたら、隣から不機嫌な気配が漂ってきた。
「サクラがデビルキャンサーが好きなんて初めて聞いたな、今度俺が狩ってきてやるよ」
これは平静を装ってるけど、もしかしてレオンってば、ヤキモチ焼いてる?
「レオンが狩ってきてくれたら嬉しいけど、他所のダンジョンの魔物でしょ。それにこんな大きなカニ、家族だけじゃ食べきれないよ」
なんて言ってみたら、レオンの不穏な空気に気が付いたブルーノさんから以外な台詞が飛び出した。
「レッカとブランも今から来るって言ってたから、こいつは食い尽くしちまうだろ。別に1匹や2匹、レオンが魔物を狩りにきても構わねえぞ」
えーっ、レッカさん達も来るの? 大変、すぐに料理始めなきゃ……来る前に連絡して欲しかった。
「このデビルキャンサーって、普段はどうやって食べるの?」
「丸ごと火魔法で丸焼きして、殻を叩き割って食うけど」
「生は不味いんだよな、変なえぐみがあって」
普段はどうやって食べるが聞いてみたら、なんだかワイルドな料理法が……その前にこれ、私一人で解体は無理だよね。
「焼きガニは美味しいですけど、他の食べ方もしたいので解体お願いします。お腹側の下の、そうソレを外してもらえますか……」
レオンとブルーノさんに先ずはカニのふんどしを外してもらうと、メスのカニだったのでふんどしの内側に子ガニが一杯付いてました。
「あ~子供がついてたか、小さいのをチマチマ食うのは面倒だ、捨てちまうか?」
子ガニと言っても、見た目も大きさも毛ガニそっくりで、料理にするならこっちの方が扱いやすそうだと思っていたら、信じられない様な言葉がブルーノさんから飛び出しました。
「捨てる? 勿体ない事言わないで下さい! 食べられない訳じゃないですよね」
「食えない事は無いが親より味は薄いぜ、何よりそんな小せえの食うのは面倒だろ」
ってレオンまでそんな事言ってるし、こっちでは子ガニサイズでも日本だったら十分大物サイズですよ。
「わかりました、私が料理するには子ガニの方が扱いやすいので、親ガニはレオン達で焼きガニにしてくれますか?」
「子ガニって面倒じゃねえのか? こっちの足の身、外してやるぞ」
なんて心配そうにレオンが言ってくれましたが、親ガニは大きすぎて料理が大変そうだし、丁重にお断りして料理を始めましょう。
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「で、西はまだごたついてんのか?」
「あれねー、スタンピード自体は割と早く収まったんだけどね。皇帝とギルドがやらかしてくれたのよ」
「何じゃ、ギルドが保身に走ってスタンピードの責任を冒険者達に押し付けでもしたかね」
「それもあるけどね……せっかく見つけたエルフが死んだのは、そこまで追い詰めた冒険者のせいだって、皇帝が大激怒したらしくって、トライアスラとノルディークを罪人として指名手配しようとしてるのよ」
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私が料理を始めてすぐに、我が家にやって来たレッカさん達は何やら難しい顔で話し合いをしてます。
お茶でも出そうと用意していたら、レオンに
「悪りぃな、ちょっとサクラには聞かせられねえ話しなんだ。
茶とかいいから、こっちはほっといてくれ」
って、申し訳なさそうに言われちゃった……ダンジョンマスターって大変なんだなぁ、せめて美味しい物作って食べてもらおう。
昆布だしをはった土鍋に白菜、キノコ、人参、葛とカニをたっぷりのカニ鍋と、千切り大根とカニをマヨネーズであえたカニサラダ、ご飯は鍋の〆に雑炊にしたら良いよね。
後は、カニ味噌を甲羅ごと網の上で炙って、そこにカニの身を混ぜたのは日本酒好きの友人の好物だったから、お酒好きのレオン達も好きかもと作ってみました。
テーブルにガスコンロをセットして、鍋の準備も出来たけど、そろそろお話終わったかしら?
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「この前の病で、バカな連中はジジイ皆殺しにしたんじゃ無かったのかよ」
「すまんのう、ある程度バカな奴は間引いたんじゃが、生き残ったのが権力を持った事で増長したようじゃ」
「げっ、ジジイ」
「今回レオンとブランが巻き込んだ人間達は能力も性質も良い、こんな事で死なすのは惜しいのう。いっその事、こちら側に引き入れてみるかの?」
「そうだな、トライアスラの連中は信用できる」
「ノルディークも今までのダンジョン内の行動を見る限り、まともで見どころある子達ね」
「では、何か問題があった場合は、レオンとブランが責任持つと言う事でいいね」
「俺も、それでいいぞ」
「それじゃ、皇帝は儂が始末しておこうかの。皇帝が死ねば貴族共も、冒険者の事などかまってられぬだろうからのう」
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なんて、物騒な話し合いがされていたとは露ほども知らず、客間のドアをノックした私は、
「皆さん、カニ鍋の用意が出来たのですが、お話しは終わられました?」
と声をかけたとたん、部屋から出てきたこの世界の神様にびっくりしてしまいました。
「カニ鍋とな! サクラさんや、それ儂にも食べさせてくれんかのう」
「えっ、神様? いらしてたのに気付かず、すいませんでした。カニはたくさんありますから、どうぞどうぞ」
「クソジジイ、サクラの料理食おうと狙ってやがったな」
クソジジイって、レオン神様に向かって失礼でしょ、バチが当たったらどうするの?
「さすがに、神も抜け目がないねえ。美味い酒と料理が目当てで、ここまで来るとは」
ってレッカさんも、けっこう言いますね……神様苦笑いしてますけど、良いんですかね。
レオンとブルーノさんに焼いてもらった焼きガニもテーブルに並んだところで、
「さあ、召し上がれ」
カニ鍋も良い感じに煮えてきたので、レイちゃん用にカニ身を解してあげてると、
「ほ~れレイちゃん、焼きガニじゃぞ。じいじが食べさせてやろうのう」
「おいし~ね~、じぃじぃ。ありがと~」
神様がレイちゃんを餌づけしてます……じいじって、良いんですか? そんな呼び方して。
「何がじいじだよこのクソジジイ! レイ、ほらこれも美味いぞ」
「あ~ん、おいし~ね。とーしゃまも、はい、あ~ん」
あ~あ~、レオンも張り合っちゃってるし、ブルーノさんとレッカさんは、
「嘘だろ、この青緑の気持ち悪い見た目で捨てちまってた部分が、こんなに美味いなんて!」
「あぁ、これは酒に合うねえ。いくらでも酒が飲めそうだよ」
なんて言って、カニ味噌を炙ってカニ身を混ぜた物をつまみにお酒を凄い勢いで飲んでます。
「はぁ、なんだかこの小さいカニの身を食べるのって、無心になれるわ。野菜にもカニの味が染みてて美味しいし、何だかクセになりそう」
ブランさんはカニ鍋を食べるのに夢中ですね、
「レイちゃん、カニ鍋も食べる? 熱いからふ~ふ~してね」
「ふ~ふ~。かーしゃま、おいし~ね~」
「美味しいね~」
ニコニコ笑顔のレイちゃんと顔を見合わせて、私も焼きガニを食べる。
親ガニはさすがの大きさだったから、身の繊維が大きいみたいだけど、ほどよい弾力と香ばしさがあって美味しい。
これはカニ玉とかカニ餡かけチャーハンとかにしたら絶対美味しいはず、今度レオンが狩ってきてくれたら作らなきゃ。
その後も皆さん、カニ鍋の〆の雑炊までしっかり食べて帰られました。
カニ味噌合えのせいでお酒が進み過ぎたと、神様とレッカさんとブルーノさんが千鳥足で帰られたのが、少し心配ですが……大丈夫でしょうか?
スイム 「フ、フ、ファックショーイ、なんだ? 寒気がする」
ラン 「は、ハックション! 誰か俺達の噂でもしてるのか?」
バイク 「へ、ヘクチッ」