ダンジョンの異変
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突然現れたブランに、思考停止状態になってるトライアスラの連中は置いといて、サクラとレイによってブランの分のカレーを頼んで席を外させる、サクラ達にはあまり聞かせたくない話だしな。
『あの話、よくエルフ達が納得したな』
『かなり揉めたのよ……勝手に里を飛び出した子達の為に、何で自分達の存在がばれる危険を侵してまで、助けなきゃいけないんだとかね』
ブランに念話で話しかけると、疲れ果てたような声でそんな念話が返ってきた、それでも冒険者達に向けている顔は余裕たっぷりに見せているあたりは流石だがな。
『それで、結局こいつらに頼むのか?』
『ええ、うちの最高到達記録保持者だからね。今回ある程度フォローもするし、このままの状態で一番困るのは人間達でしょ』
『その辺は、本人達と話し合えよ』
ブランが、自分達が散々性格が悪いと言ったウエストダンジョンのダンジョンマスターで、しかもその悪口が筒抜けだったという事に、パニックになってるトライアスラの連中を横目に念話での打ち合わせを続けていたら、サクラとレイがカレーを持って帰ってきた。
「ブランさんお待たせしました、カツカレーです。さあ召し上がれ」
「ありがと~って、これ……匂いは美味しそうなんだけど、凄い見た目ね」
カレーを見て、食べるのを躊躇し固まってるブランに笑いそうになる、実は俺も初めて見た時はアレにしか見えなかったからな。
「ブランしゃん、どーじょ。おいし~のよ」
レイにまでそう言われて、ブランは覚悟を決めたのか目を瞑ってカレーを食べた途端、
「美味しい!見た目はアレだけど香辛料がたっぷり入ってるのね、ちょっと辛いけどそれがご飯とよく合うわね」
なんて言ってバクバク食いだした……ふん、サクラが作ったんたから、不味い訳ねえだろ。
「あら?この肉、オークキング?魔物の調整さぼってたわね、レオン!オークなんて女の敵よ、キングが出るまで放っておいたらダメじゃない」
げっ、気付きやがった……元々流行病のせいでダンジョンに来る冒険者が減ってたってのに、最近になって更に減って入り口付近でゴブリンが異常発生したんだよ。
そんな場所に俺が行くわけにもいかねえから、調整に手間取ってる間に40階でオークキングが出来てたんだ、って元々の原因はブランの所か。
「例の件で冒険者がほとんどウエストに流れちまったからな、急に冒険者が減っちまったおかげで、入り口付近でスタンピードが起きかけて調整に手間取ったんだ」
「あ~うん、ごめん。ノースもか~、イーストとサウスも同じ状態らしくってね、さっき謝ってきたのよ。うちはうちで、冒険者が溢れかえって大変なんだけどね……レベルの低い連中が多くって10階層までは人間だらけよ」
あっという間にカツカレーを食い終わって、ため息をつきながらそう言った様に見せてるが、今のため息じゃ無くてゲップだろ。
大体それなら呑気に家で飯食ってる場合じゃねえだろ……副官のアンが泣いてるぞ、多分。
「ごちそうさまサクラちゃん。美味しかったわぁ」
「いえいえお粗末様です、もう片付けてしまってもよろしいですか?」
俺とブランの様子に何かを察したらしいサクラが、テーブルの上を片付けるとレイを連れて隣の部屋に行く、トライアスラの連中も何かを言いたそうに此方を見てるな。
「あの、例の件ってなんですか?俺達も、今回ダンジョン内の冒険者が少なすぎて、変だとは思ってたんですが」
そう質問してきたのはリーダーのランだったか?こいつらが例の件を知らねえのは、王族の護衛の依頼中だったからだな……契約を途中で解約して、ウエストダンジョンに戻るなんて言い出さねえように騎士団が隠していたか。
ブランと目配せして確認をとり、以前から決めてあった話をこいつらに説明する。
「つい最近、ウエストダンジョン付近でエルフの親子を見たって奴隷商人がいてな。それを聞いた王族や貴族が騒ぎだして山狩りを始めて、どうやらそのエルフ達はウエストダンジョンに逃げ込んだらしい」
「なるほど、そのエルフを捕まえれば一攫千金。それで冒険者がウエストダンジョンに移って行ったんですね」
「エルフか~、やっぱり美人なんだろうな~」
「……男の、可能性あり……」
「うげっ、バイク……人の幸せな妄想を壊すなよ」
俺の話を聞いたこいつらの反応は、まあ予想通りか。人間至上主義ではないものの、エルフに興味は有りってとこだな、ここからはブランのお手並み拝見だな。
「ちょっと良いかしら?それでね、うちとしてもダンジョン内に人間が多すぎて困ってるのよ。他のダンジョンにも影響が出てきてるし、何とかしたいのよね」
小首をかしげたそう言うブランの姿は、本性を知ってる俺からしたらウゲェ何やってんだと思うが、斥候の奴は鼻の下を伸ばして見てるな、お前こいつの事散々性格悪いって言ってただろ、ちょっとは思い出せよ。
「それは、しかしエルフが捕まるまでは、誰も諦めないと思いますが」
ランの台詞は予想通り、エルフ達の事は上手く誤魔化せよブラン。
「困ったわね、ダンジョンに侵入したのはエルフじゃ無かったのよ。政略結婚の相手から逃げた、貴族の女性とその侍女だったの、侍女は魔法が得意だったみたいなんだけど所詮貴族でしょ、すぐに魔物にやられて死んじゃったのよね」
「つまり、奴隷商人はその女性とエルフを見間違えただけで、エルフは存在しなかった。しかもその女性達はとっくに死んでしまったので、探しても見つかる訳ないと?」
確認するように繰り返すランの目は、油断なくこちらを見ておりブランの話を完全には信用していないな、まあ奴隷商人みたいな強欲な輩がエルフと人間を見間違えるってのはあり得ねえか?
「ええそうよ。でもね~こんな話、あなた達が信じない位だから、奴隷商人や貴族達が信じる訳が無いのよね」
「当然ですね、エルフの奴隷なんて王族や貴族にとって、喉から手が出るほど欲しいものでしょうから」
「エルフなんて伝説の美女、俺でも見てみたいからな~」
こいつらも他の人間と一緒か?だが、次の話を聞いてどんな反応をするかだな、こいつらならそれがどれだけ危険なことかは分かるはずだ。
「ただ、このままうちのダンジョンだけに冒険者が集中してる状態は拙いのよ、ダンジョンマスターがきちんと管理出来てる所はいいけど、そうでない所でスタンピードが起こるわよ、それも同時に何カ所も」