再会のカツカレー
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
機嫌良く家に向かうダンジョンマスターの後を歩きながら、さっきの失敗を思い出してため息をつく、はぁ斥候の俺が気を抜いて罠を発動させるなんて最悪。
あの時、モンスターハウスの奥の方にポイズンスネークが隠れていた、あのままダンジョンマスターが現れなかったら俺達は全滅のしてたかも……もっと頑張らないと。
俯いて歩いてたら、ランに後ろ頭を叩かれて活を入れられた、
「さっきの失敗の反省をするのは良いがしっかりしろよ、これからあの子に会うんだからな」
そうだ、王太后様からの指名依頼であの子の様子を見に来たんだった、結局あの時は箱を開けること無くダンジョンマスターに渡してしまったから、あの子の顔を見たことないんだよな、元気になってるといいんだけど。
「とーしゃま、おかえりなしゃ~い!ごはんできたよ~」
「ただいま、レイ。客に挨拶出来るか?」
家のドアを開けた途端飛び出してきた金髪の幼女を、蕩けるような笑顔で抱き上げてるこの人、誰?と一瞬気が遠くなる……
「おきゃくしゃま?こんにちは~、レイちゃんだよ」
ダンジョンマスターに抱かれながら、無邪気な笑顔で俺達に挨拶してくれたこの子って、
「こんにちは、俺は冒険者のランだよ」
「……バイク……よろしく」
「レイちゃんかっわい~なぁ、俺はスイムだよ」
ニコニコ笑う可愛い子のアタマヲ撫でようと手を伸ばしたら、ダンジョンマスターにべしっとその手を叩かれた。
「触るな、レイが減る」
「えーっ、ちょっとダンジョンマスターせこいー!俺にもレイちゃん撫でさせてくださいよ~」
なんて言ってみたら、すげぇ嫌そうな顔してレイちゃんを隠そうとしてる、とーしゃまなんて呼ばれてたし、まるきり親バカじゃないか?
「おかえりなさいレオン、トライアスラの皆さんもお久しぶりです。昼食が出来たところなんです、ご一緒にいかがですか?」
奥から出てきてそう言ってくれたサクラちゃんは、ダンジョンマスターに捕まってチュッチュッされてる……独り身には目の毒だよ。
真っ赤になってしまったサクラちゃんを見ているのも居たたまれなくて、横を向いたら引きつった顔をしたランと目があった、その向こうではバイクが赤い顔で俯いてるし、そんなに牽制しなくてもサクラちゃんに手を出すほど、俺達は命知らずじゃないから……
「「「ぐ~ぎゅるるるるぅ~!!」」」
カレーの匂いに耐えきれなくなった俺達の腹が鳴ると、慌ててサクラちゃんがダンジョンマスターを押しのけて部屋に案内してくれた、たしかこの家って中に入る時に靴を脱ぐんだったよな~。
「さあ召し上がれ」
目の前には皿に盛られた山盛りの白い穀物、そして前回食べた時には無かった薄茶色の楕円形の塊を4等分したものにカレーがたっぷりかかって食欲を直撃する匂いを振りまいてる。
いいんだよな、もう食っちゃっていいんだよな、ダンジョンマスターが食べ始めてるのを確認して薄茶色の塊にカレーをたっぷりからめて口に入れる。
「うおぉ~美味いっ、これってオーク肉?オークって、こんな柔らかい肉だっけ?」
「……カレー、美味い……肉も美味い」
「美味しいです。これだけの料理は、王都の有名料理店でもなかなか食べれませんよ」
バイクやランもなんか言ってたけど、さくっと簡単に噛みきれるこれって本当にオーク肉?噛みきった肉から溢れる肉汁が、カレーの香辛料と合わさってたまらない美味さになるそれは、普段食べるオーク肉とは別物みたいなんだけど。
「そのお肉はハイオークだっけ?オークキング?昨日レオンが狩ってきてくれたのを油で揚げてあるのよ。冒険者の皆さんなら、しっかりお肉が食べたいかなって」
「「「ぶふぉっ!!」」」
俺の疑問に答えてくれたサクラちゃんの台詞に、カレーをがっついていた俺達3人とも思わず噴き出した、ハイオークってとんでもない高級品なんだけど、ましてやオークキングなんて王族位しか食べられない様な代物だし……
「お口に合わなかったかしら?」
って不安そうな顔してるサクラちゃんには普通の食材なんだ……
「「「美味しいです!」」」
「高級肉なんでびっくりしただけです」
口に合わないなんてとんでもないと、慌ててそう言うと不思議そうな顔で、
「このお肉、そんなに高級品だったの?もしかして他のお肉とか魚介類も?」
なんてダンジョンマスターに聞いてるし、余計な事言いやがってって顔で睨まれたよ、怖ぇーよ、やべぇーよ。
っていうか、さっきサクラちゃん魚介類って言った?まさか、このダンジョン水場も有るのか……俺泳げねぇよ、まずくねぇ?
「人間達では簡単に倒せない魔物だから高級品なんだろ、これは増えすぎた魔物を間引いただけなんだから気にするな」
「そうなの?美味しいお肉をいつもありがとう」
なんだか穏やかに簡単そうなこと言ってるけど、オークキングが居たって事は他にもオークジェネラルとかの上位種や大量のオークが居て国を形成してたって事で、普通なら騎士団と冒険者で大討伐部隊を作って決死の覚悟で処理する案件なんだけど……
「レイちゃん、カレーのお味はどう?ちょっと辛いかな?」
「かーしゃま、したがぴりぴりすゆの。でも、おいし~の」
「良かった、レイちゃん用はあんまり辛くならないように作ったけど、無理して食べなくてもいいからね」
ニコニコ笑いながら食べるレイちゃんとサクラちゃんが会話してるのを、ダンジョンマスターが蕩けそうな顔で見てる、種族が違ってもちゃんと家族に見える。
レイちゃんも二人の事を親だと思ってるみたいだし、二人は魔力無しに偏見を持ってなさそうだしな、幸せそうだ、良かったな。
シュバルツ王国で、いや何処の国でも魔力無しなんてバレたら、良くて最下層の奴隷、普通は拷問された上で公開処刑だ。
それなら王太后様には悪いけど、ここでこの二人に育ててもらった方がレイちゃんは幸せだよな、高級品の肉は食べ放題だし、サクラちゃんの薬師の腕もかなりの物だったし。
ランとバイクも、レイちゃんを見て安心したような顔をしてる、これで無事に帰って王太后様に報告すれば依頼は完了だ……戻るのも大変なんだけどな。
なんて考えながら、3杯目のカレーライスを食べていた時、
「レオン、いるー?って、なんか凄く美味しそうな匂いがしてるわね、サクラちゃん私の分もあるかしら?」
なんて言いながら、白銀の髪に銀色の瞳のとんでもない美人が現れた。
この美人は何者?ダンジョンマスターやサクラちゃんの知り合いらしいけど、しかもこの圧倒的な魔力量の気配って、
「あら?変な気配がすると思ったら、こないだうちのダンジョンでさんざん私の悪口言ってた人間達じゃない」
……今、なんて言った?この美人、うちのダンジョン?さんざん悪口言ったって、まさか……
「ブランお前、勝手に人ん家に転移してくんなよ。それにこいつら来るから、しばらく家に来るなって言っただろ」
「だから来たんじゃない。そこの冒険者にちょっと仕事を頼みたくてね」
俺達を見てウインクしたその人は、多分王都の酒場で見たならぼーっと見惚れる位の美人だったけど、その身に纏う魔力というか気配がダンジョンマスターと似ている。
まさか、ウエストダンジョンのダンジョンマスターとか、言わないよな……それにそんな人が俺達に何の用が?
「ブランしゃん、いらっしゃいましぇ。カレー、おいし~のよ」
固まってる俺達をよそに、レイちゃんがニコニコ美人に話しかけてるけど……サクラちゃんが美人用のカレーを用意しに行ったみたいなんだけど……ちょっと待って~。
俺達、これからどうなるの?