お花見とウエディングドレス 1
「お姫様は王子様と結婚して幸せに暮らしました。おわり」
私が子供の頃に読んだ絵本を母が本棚に残しておいてくれてたので、レイちゃんに添い寝しながら読み聞かせをしてみたら
「かーしゃま、このどれすきれ~。まっしろでふわふわ~」
と絵本のお姫様を指差し、キラキラした目で私を見上げてきた……あちゃ~興奮させちゃった?これはしばらく眠らないかな?
「綺麗でしょ、これはねウエディングドレスよ。一生に一度、結婚式にだけ着る特別なドレスなの」
「とくべつなドレス?かーしゃまも、きたの?レイちゃんもきたいな~」
「そうね、レイちゃんが結婚するときには母さん頑張ってウエディングドレス作ってあげる。だからもう寝ましょうね」
「やったー、たのしみ」
これで眠ってくれるかな?くふくふ笑っているレイちゃんの布団をぽんぽんしていると、だんだん目がとろんとしてきて眠ってしまった。
居間に戻ると、カーテンが開いたままの窓から外の桜がそろそろ満開になりそうなことに気がついた。
思わずカーテンを閉める手を止めて見ていたら、後ろから来たお風呂あがりのレオンにお姫様抱っこされちゃった!?
「きゃあ、いきなり何するの?」
何でお姫様抱っこ?ちょっとレオン、そのまま歩き出さないで……
「サクラ、前に言ってた花見だけど明後日とかどうだ?」
お花見?たしかに明後日なら、満開だろうけどそれとお姫様抱っこは関係無いよね。
「自分で歩くから下ろしてレオン。お花見は分かったから」
「ん?何でだ?サクラの界の女神が新婚の夫婦は、夫が妻をこうやって寝室に運ぶもんだって言ってたぞ」
女神様?何て事言ってんですか、そんなの普通の人は経験ないですよ、ちょっちょっと待ってレオン、このまま寝室へって……
「サクラの飯は何でも美味いから、花見のごちそうが楽しみだな……ちゅっ、一番美味いのはサクラだけどな」
一番美味いのはって、それって……その後、私は寝室でレオンに美味しくいただかれてしまいました、まる。
「レオン~朝ごはんもうすぐ出来るから、レイちゃん起こしてあげて~」
「了解~」
台所からお願いすると、すぐにレイちゃんを起こしにいってくれたレオンの笑い声が、子供部屋から聞こえてきた、
「おはようレイ……あははは何してるんだ?」
「とーしゃま、おはようごじゃいましゅ。レイちゃんおよめしゃんなの」
ん~?お嫁さん?何をしてるのかな?
野菜スープを温めていた火を止めて、子供部屋を覗きに行くと、布団から剥いだ白いシーツをパジャマの上から体に巻いたレイちゃんが、昨夜の絵本の花嫁さんを指差し、レオンに説明していた。
「レイちゃんおよめさんなの、きれいでしょ」
って、レオンは絵本の花嫁さんとレイちゃんの姿が全然違うからか困惑してる?
お嫁さんごっこは女の子の定番で憧れだけど、レオンにはわからないよね。
私も子供の頃よくお嫁さんごっこしたなあ、両親が生きている内に花嫁姿を見せてあげたかったけど……仕方ないよね。
「レイちゃん、その格好は可愛いけどお嫁さんごっこは終わりにして、朝ごはんにしましょ」
「わーい、ごはんたべる~」
ごはん大好きなレイちゃんは、すぐにシーツから抜け出そうとしたのを手伝ってあげてる間に、レオンが布団をたたんでくれたので、さあ朝ごはんですよ。
その時、レオンが開いたままの絵本を見つめた後、そのまま絵本を持ち出したのに私は気がつかなかったのです。
「とーしゃま、いってらっしゃ~い」
「いってらっしゃいレオン」
朝ごはんを食べて、レオンがダンジョンマスターの仕事をしに出かけるのを、玄関でお見送りすると
「いってくる……ちゅっ」
私が抱上げたレイちゃんの目を手でふさいで、キス
をするまでが毎朝の日課になってしまった。
レイちゃんは毎朝目をふさがれるのが不満みたいだけど、こんなの見せられませんから。
洗濯や掃除など家事をしながら、明後日のお花見の料理を考えていたんだけど、メンバーは聞いて無かったんだった。
今回はレッカさん達、竜族の皆さんだけ?アインさんやシバさん達は、まだダメかな~?
実は、番になってからレオンの竜族のオスの本能が爆発しちゃったらしく、この隠し部屋に同族以外の男の人が入るのを嫌がるんだよね。
竜族のオスの本能って本当に凄いらしくって、レッカさん達にレイちゃんを引き取って育てる事になったのを連絡した時に
「番を見つけたばかりの今の時期に、どんな理由があっても番以外を巣に迎えるなんて有り得ない!」
ってビックリされたくらいだもの。
レオン自身は、アレを番だって思ってた事に比べたら大抵のことは我慢出来るし、レイは可愛いからってかなりの子煩悩な育メンっぷりを発揮してますが。
ただ、女の子で幼児のレイちゃんは良くても、アインさんやシバさん達獣人族の男の人が、私の側に近付くのはまだダメみたいで、
「竜族は自分の番以外に興味ない上に、下手にちょっかい掛けたら殺し合いになるのから、絶対に他の奴の番には手を出さないんだ、だから例えブルーノでもサクラの側に居ても平気なんだが……」
ってレオンは困った顔で言ってたんだよね、でも例えブルーノでもって、ブルーノさんの扱いがヒドイ。
それに、アインさんはレオンが副官を任すほど信頼もしてるのに、かなりの実力者だからかえって不安になって私の側には近寄らせたくないんだって。
本能って、自分の頭で考えてる事より時に強く出るから困るって、ちょっと情けなさそうに言ってた。
今はレオンが仕事帰りに獣人族の里に寄って、野菜をもらって来てくれてるんだけど、シバさん達獣人族はレオンとの実力差が有りすぎるから、もう少し本能が落ちついたら又、シバさんに野菜を届けてもらえるようになるらしい。
やっぱり、取れたての野菜のほうが、夕方もらってくる物より美味しい気がするし、家族以外の人とお話できるのも嬉しいな。
でも今回は、私達家族と竜族のみのお花見かな?
その頃、ダンジョンマスターの部屋では……
「でな、サクラにウエディングドレス?とかいうドレスを着せてやりたいんたが、俺はそういうのは全く解らんから……」
朝からレイが、お嫁さんお嫁さんと騒いでた時、昨夜サクラがレイに話していた事を思い出した。
たしか、ウエディングドレスは女の子の憧れって言ってたから、サクラも着たかったんじゃねえかと思ったものの、俺にドレスの事が分かるはずもねえ。
仕方なく、こういうのが得意そうなブランに相談したんだが
「まさかレオンにドレスの相談されるとは思わなかったわ。番を持つとこうまで変わるのね、あのガサツなレオンがね~」
と、からかってきやがった。くそーレッカに相談した方がよかったか?
「でも、一生に一度だけ婚礼の際に着るドレスなんて素敵、エルフ達に頼んで極上のものを最速で作ってあげる。その絵本は異世界のドレスの参考にするから此方に送ってね、後は何か決まりは有るの?」
「そう言えば、ウエディングドレスは白いドレスだと言ってたな」
なんだかんだ言っても、面白そうだとブランが食いついてきたなら任せておけば安心だ、白いドレスには何か理由が有るらしいが詳しい事は知らんしな、とりあえず絵本を魔術でブランに送る。
「OK白いドレスね、このヴェールも素敵、デザインは私に任せてくれる?レオンはサクラちゃんの体のサイズ測っておいてね」
ブランは言いたい事だけ言うと、通話を切ってきやがったが、サクラの体のサイズ内緒でどうやって測ればいいんだよ。