新しい家族と一緒に
魔力無しの子供を守りながらトライアスラの連中は良くやった、まさかあの状況から31階のセーフティーエリアまで無事たどり着けるとは驚きだ。
だから、その事に敬意を表して俺が出向いてやる事にした、
「よう、お疲れさん。トライアスラの連中だな」
警戒されないように軽く声をかけたんだが、さすがAランク冒険者だな俺の力が分かったみてぇで、いつでも動けるように慎重に距離をとってる。
「あーそんなに警戒するなよ、お前等に危害を加えるつもりは無ぇよ。俺はこのダンジョンのダンジョンマスターだ。今回は神のジジイの命令でお前等を助けてやることになった」
「それを俺達が素直に信じるとでも思ってんのかよ、俺達を助けるってどうやってだよ。大体神だってんなら外で流行ってる病気を何とかしろよ、何人死んだと思ってんだ!」
冒険者の一人が噛みついてくるが、俺は神じゃねえよ。
大体、今回死んだ人間の大半は病気じゃなく人間に殺されてるんだがな。
「今回の病気で死んだ奴等は、ろくでなしの悪人だけだぞ、子供でも矯正不可能なくらい根性のネジ曲がった奴等は死んだだろうが」
「王都でかなりの人数の死人がでたと聞いたのだが、それにそんな悪人だけ死なせるような事が出来るのか?」
さすがにリーダーは落ち着いてるな、こいつらはダンジョンから出てすぐ戻ってきたし、人間達が何をしたか知らなねえのか。
「神のジジイがその辺りは上手くやるって言ってたからな。だが今回の件で死んだ人間の大半は、病気がうつると困るってダンジョンに捨てられたり、家族に殺されたんだぞ」
「ダンジョンに捨てる?家族が病人を殺す?嘘をつくな!俺達はこのダンジョンで、死んだ病人を見てない」
又こいつか、まぁいきなり出てきた見ず知らずの俺に言われても、信じられねえか……
「このダンジョンは出入口に騎士団が居たからな、信じられねえなら帰ってから確かめろ」
「ははっ、まじかよ。本当どうしようもねえな」
力が抜けた様に座りこんで、虚ろに笑う奴等には信じられねえんだろうな。
「ダンジョンマスターのあなたが、何故俺達を助けてくれるのですか?」
しばらくすると落ち着いたのか、リーダーの男が俺に問いかけてきた、
「さっき言っただろ、神のジジイの命令だ。お前等は珍しくまともな人間だからな、死なすには惜しいんだとさ。まあ、あの状態からこの場所まで生きてたどり着いた実力は、俺も認めてやるよ」
「この子も……助けて……お願いします」
ずっと子供を背負っていた男が、すがるような顔で俺を見て言う、他の2人もじっと俺を見つめてくる……男にそんな目で見つめられても、嬉しくねえぞ。
それに、魔力無しは外では最下級の奴隷になるしか生きる道はないだろう。
「その子は俺が育ててやるよ、馬鹿な噂が流れていた上に魔力無しだ、外の世界では生きていけないだろ」
ジジイからこの子供の話を聞いた途端、サクラが泣き出した。
「どうして?どうして病気の原因が、こんな小さな子供に有るなんて言うの?何で町の人達は、それを信じてしまうの?」
この世界の人間共は、あのクソ女の言うことは絶対だと思ってるからな、元々魔力無しへの偏見は酷かったから神殿の言うなりになりやすい。
「ねえレオン、魔力無しってそんなに罪なこと?自分の保身の為なら、小さな子供を殺す事も平気なんて……そのうえ母親から子供の記憶を奪う?子供からも全ての記憶を奪うなんて」
ポロポロ涙をこぼしながら怒るサクラを宥めていたら、だんだん俺も腹がたってきた。
「人間ごときが俺の番を泣かすんじゃねえよ!おいジジイふざけた事言ってる連中殺しちゃダメか?」
「レオン、駄目。いくら酷い人達でも、そんな事で人を殺しちゃダメ」
サクラが目に涙を溜めながらも、必死で俺を止めるから我慢することにするが……
「ふぉふぉ、仲が良くてうらやましいのう。あやつ等はこの世界の害悪にしかならぬようだからの、消えてもらうよ、病気で死んだことにしての」
さすがに食えねえジジイだな、この機会に纏めて邪魔なものを処分するつもりか?
「神様、あの子はどうなりますか?トライアスラの人達も、あの子を助けようと必死で……」
サクラは自分と同じ魔力無しの子供が、他人事とは思えねえをだろうが、そんな目でジジイを見つめんなよ、ってジジイなんだその勝ち誇ったような顔は!
「あまり個人に干渉するのは良くないんじゃがのう、まともな考えの出来る実力者は貴重じゃが、魔力無しの子供はのう……人間達の中では生きられん」
チラチラこっち見なくても分かったっつーのジジイ、サクラをこれ以上泣かすのは嫌だからな、しょうがねぇ……本当はもっと2人きりで……
「子供は3歳か、自分で食事も出来て親の記憶も無いなら、此処で俺とサクラの子供として育てるか?」
「きゃあ、レオン大好き。ありがとう」
サクラが俺に飛びついて、嬉しそうにはしゃいでいたが急に真剣な顔になり、
「神様、あの子を私達が育てる事を、あの子のお母様にお知らせすることは出来ないでしょうか?」
と言い出した、ジジイなら母親の記憶を戻す事は出来るだろうが、もう会えないなら忘れたままの方が良くないか?
「それは出来ん事は無いが……」
ジジイも戸惑ってるみたいだが、サクラはきっぱりと言い切った
「母親が自分の子供の事を忘れるなんてあり得ません、きっと心配してます。だから、私達が責任を持って育てますと伝えてほしいんです」
って事だったんだがなお前等、俺とサクラが夫婦で子供を引き取って育てるってのは、そんな驚く事か?
「え~、サクラちゃん人妻なの……ショック、俺狙ってたのに~」
おい!お前今なに言いやがった、死にたいのか?さっきまでと、随分態度が違うじゃねえか。
抑えてた魔力を少し開放しながら睨んでやると、そいつはビビった顔で飛び退く。
「す、すいません。スイムに悪気は無いんです」
リーダーの男が謝ってくるが、悪気が無かったら何を言っても良いわけじゃねえだろ、こいつはさっきも俺に噛みついてきてたし油断ならねえ。
まぁ、軽口に紛れて俺が信用出来るか調べてるようだがな。
「この子……任せてもいい?」
子供を背負ってた男が、不安そうな顔で俺と子供を見ている、
「ああ任せとけ、心配なら32階の隠し部屋に様子を見に来ればいい」
そう言えば、やっと3人は安心したようで32階まで来るのは結構大変だが、サクラの飯が又食えるかもしれないし、ちょくちょく様子を見に来よう等と話ている……おい、そんな度々来るなよ!
「お前等、隠し部屋に来ていいのは年1回だけだぞ。俺達は番になったばかりだ、本来なら巣の中に他のオスが来たら殺してやりたいんだからな」
「あははダンジョンマスター、何だか伝説の竜みたいなこと言わないで下さいよ。さすがに俺達は人の奥さんに手は出しませんから」
ひきつった笑いでリーダーの男がそう言うのに、他の2人が頷いてる……若干1人信用出来るか怪しいんだが、釘をさしておくか。
「あ?俺は黒竜だぞ、番が大事で何が悪い」
あの時のあいつらの顔、今思い出しても笑える。
「わぁい、とうしゃまだ~、おかえりなさ~い」
俺が帰るとレイがとてとてと走ってくる、あんまり急ぐと転ぶぞ……あ~あ。
「え~ん、とうしゃま~かあしゃま~」
案の定、転けて泣き出したレイを抱き上げ涙を拭ってやる、ここは一面に薬草が生えてるからそれがクッションになって怪我はしていない。
背中をぽんぽん叩いていればすぐに泣き止んで、笑いながら俺に抱きついてくる可愛い娘だ。
レイを引き取った当初は、栄養失調と記憶を失ったことによる情緒不安定でよく泣いていたが、元々の性格かサクラの献身的な世話のお陰かすぐに俺達になつき可愛い顔で笑うようになった。
俺も今じゃ立派な親バカだとブルーノ達にからかわれているが、悔しかったらお前等も番を見つけて子供を作れと言ってやった。
ブルーノなんざ、恨めしそうな顔で
「くそー、俺の番は何処だ~!俺もエロい事したいぞー」
なんて叫んでだが……アイツは番を見つけても、捕まえるのに苦労しそうだよな。
まさか俺のダンジョンの隠し部屋で、番と子供に囲まれてこんな生活が出来るなんて、ちょっと前までは考えもしなかったが、今はとんでもなく幸せだ。
何だか、レオンが〆に入っているようですが、まだネタがあるので続きます。
これからも、よろしくお願いいたします♪