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ダンジョンの隠し部屋でのんびり生活  作者: 泪
神様の弟子の置き土産
19/54

ダンジョンの決死行

 俺達トライアスラは、ダンジョンから戻ってすぐに騎士団にギルドに連行され、国王から指名依頼を受けさせられた。

『この箱を、ダンジョンに捨ててこい』と、まぁ実際は箱の中身は忌み子の姫で……本来、拒否権を認めないなんて冒険者ギルド規約違反なんだがな。


 何とか幼い姫を助けたい、というのが俺達の総意だが、ギルドの一室に軟禁された状況では何の手立てもなく、その日の夜中に騎士団と共にダンジョンに向かう事となった。

 装備の手入れは自分達でしたのだが、食料やその他の補充をギルドに任す事になってしまったのが不安だ、特にダンジョン前まで付いてきたギルドマスターのニヤニヤ笑いが気になる、何を仕掛けたのか……


「お前達2名は冒険者と共にダンジョンに入り、所定の場所にこの箱を廃棄するのを見届けよ」

「「はっ、承知いたしました」」

「うむ、そなた達が無事任務を終える事を願っている、景気付けに1杯やっていけ」

 と、騎士団長が2人の騎士に杯を渡す、今からダンジョンに入る人間に酒だと?なに考えてるんだ……

 只でさえ、ろくに訓練もしていない騎士なんてお荷物にしかならないというのに。


「くそっ何で貴族の俺様が、こんな穴ぐらに潜らなけりゃいけないんだ!」

「あ~あ、こんな仕事早く終わらせて帰りたいってのに。お前らさっさと歩けよ!」

 案の定、ダンジョンがどんな場所かも分かっていない騎士達が、セーフティーエリアでもない場所で大声をあげる……くそっ、さっきの大声に反応して魔物が出た。


「うわぁあ魔物が出た!お前らさっさと倒せよ!」

「静かに、あなた方の大声に反応して魔物が寄って来たんです、戦えないのなら黙ってて下さい」

「なにぃ?平民の分際で貴族の俺様になんて口をきいてるんだ!ふざけんなよ!」

 魔物が出た途端、俺達の後ろに隠れた騎士達に注意をしたら、信じられない事に魔物ではなく注意した俺に向かって剣を抜き襲い掛かってくる、冗談じゃないぞ本当に。

 幸いまだ3階とダンジョンの浅い階の魔物は弱く、スイムとバイクが簡単に片付けてくれたから良いものの、この足手まといを2人も連れて行くのか……俺に襲い掛かってきた騎士は驚くほど弱く、簡単に剣を取りあげて、とりあえずセーフティーエリアで話し合いをすることにした。

 話し合いに成ればいいのだが……


 先ずは装備の点検だが、騎士達は自分の身を守る鎧と剣だけで、食料もポーションも持っていなかった、貴族は荷物を自分で持つものではないそうだ……そして俺達のカバンには、カビの生えたパンが2つと石が詰め込まれていた。

「おい何だこれは、俺達の食料はどうした。石しか入ってないではないか」

「俺達も驚いていますよ、このカバンの中身は冒険者ギルドで用意されたものです。俺達が1部屋に閉じこめられて何の準備も出来なかったのは貴方達の方がよく知っているでしょう」

 俺達だけなら魔物の肉を食べる事も出来るが、貴族にそんなことは出来ないだろうな。


「ダンジョンの中は少しの油断が命取りです、貴方達の腕では30階まで付いてくるのは無理です。ここからは私達だけで行きます」

 と事実を突きつければ、激昂した騎士に掴みかかられる。

「ふざけるな、そう言って逃げるつもりだろう。俺達を傷1つつけることなく守る事もお前達の仕事だ、ぐずぐず言わずにきちんと仕事をしろ」

「いちゃもんをつけて金をせびるつもりか?これだから平民は、あさましい」

 掴みかかってきた騎士を軽くいなしたが、魔物に襲われた事による恐怖と、食料が無いことの不安で騎士達の顔色も悪いと思っていたら、

「うげっ……う……げほっ……」

「……なぜ?……げ……げぼぉ……」

 騎士2人がいきなり血を吐き、苦しみだした。

 今まで普通に行動していた騎士がいきなり血を吐く等、王都で流行っている病気の症状とも違う……まさか、ダンジョンに入る前に飲んでいた酒に遅効性の毒でも入ってたのか?


 毒消し薬もポーションも無い俺達には、どうすることも出来ず、数分後には騎士2人は冷たくなっていた。

「なぁラン、俺達は貴族殺しの罪で殺されるのかな?」

 スイムの放心したような声に、答える言葉が出てこないでいるとガンッガンッと何かを破壊するような音が、驚いて振り返るとバイクがあの箱を開けて小さな、本当に小さな子供を外に出していた。

「箱……暗い……ダメ」

「そうだな、箱の中は暗いし居心地も悪そうだ。バイク背負ってやってくれるか?」

 箱の蓋は釘で打ち付けられていた上に、箱の中には毛布1枚入ってなく、子供の手足には擦り傷が出来ていた。

「ん~、この子何で起きないんだ?運ぶのに結構揺れたよな、それに食事とかさせてたのか?」

 スイムが子供の顔を覗きこんでそう言うとバイクが、

「仮死の術……1週間位なら水も食事も要らない……目覚めなければ死ぬ」

「こんな子供が本当に呪いをかけれると思うか?」

「無いね、神殿も王家も今までだって信用してなかったけど、これは酷い。だからって、このまま王都に戻って俺達がそう言っても、街の連中は信用しないだろ……この子を殺せば病気がどうにかなると信じきってる」

「その前に、ダンジョンの出口は騎士団に固められてるはずだ、俺達を殺すためにな」


 最悪だな、これからどうする?

「食料も無い、唯一の出口は騎士団に固められ袋の鼠だな、2人はこれからどうしたい?」

 俺が問いかけたら、スイムが不敵に笑ってとんでもない事を言い出した。

「Aランク冒険者の名に懸けて、指名依頼達成してやろうぜ。この子を30階以下に置いてくればいいんだろ、って事は32階に有った隠し部屋でもいいんだよな」

「そうか、サクラさんには迷惑をかけることになるが、せめてこの子だけは助けたい。食料は魔物の肉を食えばいい、ポーションも無い事だし最短距離で駆けるぞ」

「おう、やってやるさ」

「……この子……助ける」


 スイムの提案に俺達の決意は固まり、セーフティーエリアを出ようとしていたのだが、バイク?そんな顔してどうしたんだ?

「……すまん……騎士達は毒状態で……これが毒に効くか分からなかった……だから、あいつらを殺したのは俺だ」

 とバイクが取り出したのは、見慣れない小瓶が3本……まさか

「それってもしかして、サクラちゃんのポーション?ラッキー、さすがにポーション無しで彼処まではキツイと思っていたんだ。それに俺も……じゃん」

 なんてスイムがおどけて言いながら、携帯食を3つ取り出すから、俺も

「騎士達を殺したのは毒を盛った奴等だ、そのポーションだって無駄になった可能性が高い、それならば俺達が有効に使おう、スイムもバイクもすごいな俺なんてこれしか持ってないぞ」

 と言いながら水袋を出す、幸いセーフティーエリアに水場があるから、水袋があれば水だけは確保出来る。


 王都に溢れる病人飲んでいた事、毒を盛られて死んだ騎士達、ダンジョンの出口で俺達を待つ騎士団、考えないといけない事は多いはずだが、俺達に何が出来る?せめてこの子だけでも、助けたい。

 俺達は魔物との戦闘はなるべく避け、最短ルートを選びダンジョンを駆けた。

 31階のセーフティーエリアにたどり着けたのは奇跡だとしか思えない、食料もポーションもとっくに無くなりボロボロに傷つき、たどり着いた先にソレはいた。


「よう、お疲れさん。トライアスラの連中だな」

 軽い言葉で俺達に声をかけたソレは、黒髪、金目で黒い服を着た若い男の形をした、恐ろしいほどの魔力を纏った何かだった。

 そのダンジョンマスターを名乗る男から聞かされたのは、病気は麗しの君が原因でありもうすぐ治まるということ、けれどこの機会にこの世界の害悪となる存在は病気にかかり、死ぬように神様が細工したということだった。

 又、俺達が連れていた姫は魔力無しの上に、バカな噂が広まった外の世界では生きていけないだろうと、この男が引き取って育てるという。

 まさか32階の隠し部屋に居たサクラさんと、この男が夫婦だとは思わなかった為、一悶着あったもののの俺達は食料とポーションを分けてもらい、セーフティーエリアで3日間体を休めた後、ダンジョンマスターの転移魔法であっという間にダンジョン付近の森の中に帰ってきた。


 俺達が王都に戻る頃には病人は随分減っていたが、王をはじめとする貴族、神殿の神官の大多数が死んだそうだ。

 騎士団や冒険者ギルドのギルドマスター等、本来なら治安を守るべき者にも多数の死者がでていて、愕然としたが納得もしていた。


 今この国は、成人した王族で唯一生き残った王妃様が後見人となり、聡明だと言われていた第2王子が王となった。

 王妃は、病気の後遺症で一部の記憶を失ったそうだ……民衆は、神殿の大神官も亡くなり事実が闇の中のため、王家の忌み子の事も忘れてしまったようだ。

 俺達は、あの小さな姫が健やかに育つ事を祈っている。


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