人間達の闇と解けた呪い 上
今回、胸くそ注意です。
ごめんなさいm(。_。)m
「神官長様、娘を助けて下さいませ。昨日から高熱で苦しんでいるのです」
「何を言う、家の息子は3日前から高熱のうえ咳が止まらないだぞ、こちらが先だ」
「ええい庶民共は引っ込んでおれ、貴族である儂の家族が先に決まっておるじゃろう、退かんか」
1週間前から、神殿には大勢の病人やその家族がつめかけていた。
「神殿にも、もう少ししかポーションは有りません。皆様こんな時こそ麗しの君に祈りを捧げるのです」
「きっと麗しの君が助けてくださいます。さぁ皆様、麗しの君に捧げ物をいたしましょう」
くくく、この病気が流行りだしてからザクザクと金が集まるわい。
馬鹿な奴等はポーションをほんの少し混ぜただけの偽薬を高い金を出して買っていくし、麗しの君の加護が貰えると言えばどんどん金を出す、くくくく笑いが止まらぬわ。
地方から来た行商人が、高熱と咳が止まらない、ポーションがあまり効かず翌日には又高熱がでる等の症状を訴え神殿に助けを求めて来たのが1ヶ月前、行商人が神殿に来てから徐々に増えた同じ症状の患者は、ノースダンジョンから帰った冒険者が瀕死の状態で運び込まれた1週間前から爆発的に増えた。
押し寄せる患者に、王都の薬屋はすぐにポーションの在庫がきれ、薬草も近くのダンジョンに生えている分は採りつくした。
近隣の町に助けを求めようにも、この病気は王都だけに止まらず王国中いや、この大陸中に猛威をふるっている為どこも助けてはくれない……
王宮には、まだポーションも薬草もあるはずだが、騎士団を使い王都の薬屋に押し入り隠していた薬草等を無理やり奪うような王家に、国民は神殿に救いを求めるしかなくなり大勢の病人が詰めかけていた。
……なぜ!なぜだ?麗しの君とは、まだ連絡がとれぬのか……
いつもなら我等人間に災いが起こっても、神殿がある程度の金品を集めた頃をみて麗しの君から託宣があり、何らかの救済があるというのに、今回は何時までたっても麗しの君に連絡がとれない……
「神官長様、どんどん民達が増えてます。このままでは神殿に入りきれません」
「麗しの君からの託宣はまだですか?高いポーションを使っても効かないと、民達の怒りが高まってます」
「ええい、うるさい、うるさい!分かっておるわそんな事位、今しばらく待て!」
まずいな、このままでは暴動が起こる。
すでに子供や老人等体力の少ない者達が死にはじめた。
まぁ、民達が死ぬのは別に構わないが、我等神殿の権威が落ちれば金品を集め難くなるではないか!
何とか、民達の気をそらさねば……
……はっ、そういえば王は必死で隠そうとしているが、確か3年前に生まれた第5王女は魔力無しの忌み子だったな、
「今回の病気は王族でありながら邪悪なる忌み子として生まれた王女の呪いにより引き起こされた」
と、噂を流せば馬鹿な民達の怒りや恨みは王家に向かうはず。
くくく、王族から忌み子がでるとは恥以外の何者でもない、さっさと殺しておけばいいものをいくら正妃が庇うからといって魔力無しの出来損ないを何時までも生かしておくからこうなるのだ。
まぁ殺していたとしても死体さえ手に入れば、誰の子供で生前どれだけの魔力が有ったかを調べる能力を麗しの君に頂いた儂が、王家に忌み子が生まれた事実を民達に広める事は出来るしな。
最悪王家が倒れたとしても、神殿は生き残れる、くくくく……
「おい、麗しの君とはまだ連絡がとれぬのか!今回こそは神殿ではなく我が王家に加護を頂いてこの病気をしずめるのだ!」
ええい腹が立つ、神殿の古狸めが!
『この度の病気は、王家が必死で隠している邪悪な忌み子の姫による呪いが原因である』と声明をだすとは、いったいどこから話しが漏れたのだ……アレは死産だった事にしてあったはずだ……
だいたい、俺の子が魔力無しの訳がないではないか!
他の子供達は高い魔力を持っているのだ、俺の子が庶民にも劣る等有り得ぬ……
やはりアレは俺の子ではない!
アレは生まれてすぐに殺すべきだったのだ、今となってはアレを病気を引き起こした大罪人として公開処刑したとしても、王家に対する不満は消えぬ。
まったく、民達は誰のおかげで生活が出来ていると思っているのか、もっと王を敬うべきであろう……くそっ、それもこれも全てアレが悪いのだ!
「騎士団長、正妃の所へ行く、ついてまいれ」
「陛下、お待ち下さい。正妃様の所へ行かれて今さらどうなされるのですか?」
「うるさい!諸悪の根元のアレを殺すのだ。アレさえ処分してしまえば後は何とでも言えるだろう、民達を黙らせろ宰相」
……なんだ?宰相めニヤニヤして何を企んでいる。
「陛下、姫を殺すのは簡単でも死体を処分するのはちと面倒ですぞ。神殿は死体がどこの誰の子供か、生前の魔力の有無まで調べる事が出来るのです」
アレを俺の子だと言うつもりか、くそっ神殿の古狸どもめ。
「愚弄するのか宰相!俺の子が魔力無しの訳がないのだ、アレは俺の子ではない!」
「いえいえ陛下、陛下のお子でなくとも正妃様のお子である事は確実、神殿がその事実を問題にしないと思われますか?」
「うぐぐ、では如何すればよいのだ、何か考えはあるのか宰相?」
「そうでございますね、先ずは冒険者を雇い姫をダンジョンに捨てさせます。その後、陛下には『王家には忌み子など存在しない、病気はダンジョンから広がったのだ』と声明を出していただき、ダンジョン内に何らかの原因があると騎士団を派遣していただきます」
「それでは冒険者にアレの事がばれてしまうではないか」
「ですから、騎士団に姫と冒険者を始末させるのです。死体は魔物が処分してくれます、ダンジョンの30階より下は毎日構造が変わると言いますし、それで時間を稼いでいる間に麗しの君の加護をいただけば良いのです」
「ふははは、その手があったか。いくら民達が愚かだとしても、全てが神殿の言うことを信じている訳ではあるまい、麗しの君より加護を授かった後には、今回の病気の原因は神殿に有ったということにしてくれようぞ」
「けほっけほっ、はぁはぁ……誰か、薬を……」
「かあしゃま、苦しいの?大丈夫?お薬もらいに行ってくる?」
「ダメよレイティア、はぁはぁ……この部屋からは出てはダメ、私は大丈夫だから、ね」
あぁ、どうすればいいの……レイティアは確かに魔力無しだけれど大事な私の子供なのに。
私まで病気になった事で、今まで仕えてくれていた女官達さえ神殿の流した声明を信じて、誰もこの部屋には近寄らない。
このまま私が死んだら、レイティアは殺されてしまう……誰か、助けて。