乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が、婚約者をヒロインから――あ、やばい、BL物だこれ。
試しに短編を書いてみました。
16歳の誕生日、公爵令嬢のロザリアは、突然前世の記憶を取り戻した。どうやらこの世界は、現代日本で平凡なOLだった自分が、生前大好きだった乙女ゲームの世界とそっくりそのままらしい。
――でも、どのゲームだったかしら?
コアなゲーマーだった私は、何百本と同じようなタイトルを遊び尽くしていた。そのせいかも知れないし、転生による記憶の混乱のせいかも知れない。ともかく今一、この世界がどのゲームに基づくものか思い出せなかった。
かろうじて思い出せるのは、自分――ロザリアが典型的な悪役令嬢だったということだけだ。婚約者である王子をライバルに奪われて、惨めに敗北する役どころ――それだけは覚えている。
「……それだけはさせませんわ!!」
拳を握り締めて吼えてみる。8歳の時に婚約したクリス王子は、前世の記憶を取り戻す前のロザリア――気が強くてわがままで、意地悪ばかり言う少女に対しても、いつも優しく接してくれた。自分が今まで行ってきた意地悪も、王子に対する子どもっぽい愛情の裏返しなのだということも、今のロザリアには自覚できる。
前世の記憶が蘇った今でも、自分の王子に対する感情は変わらない。ぽっと出のヒロインに、横から彼を掻っ攫われるなんて我慢できない。今までの行いを改め、己を磨き、まだ見ぬライバルに備えなければならない。
ストーリーや自分と王子以外のキャラクターが思い出せないのが今一不安だが、自分ほどのゲーマーならば、少々捻くれたフラグでも、初見で見抜いて攻略してみせる。目指すは王子とのハッピーエンド――
「……急にどうしたんだい? ロザリィ」
「――……はっ! な、何でもありませんわ!」
おっとしまった。そう言えば今は、自分の誕生パーティーの真っ最中だった。傍に立っているクリス王子が怪訝な顔を向けてくる。引きつった微笑でごまかした。
「大丈夫? 様子が変だよ? 水でも取ってくるから――」
そう言ってクリス王子は自分の傍から離れていく。王子は本当に優しい。彼を失わないためにも、何とかライバルのヒロインの名前くらいは思い出したいところだが……
「うわ!!」
「も、申し訳ありません王子! 大丈夫ですか?」
大きな物音がして、そちらに目を向けた。
同い年くらいの黒髪の男の子とぶつかった王子が尻餅をつき、グラスの水を頭から被っている。
――うわ、あの男の子も王子と同じくらい美形だわ。ふぅむ、察するにあれもヒロインの攻略対象…………あれ?
「申し訳ありません。王子に対してとんだ粗相を――」
「いいんだ。私が不注意だった。君は?」
「俺――いえ、私はアヴィンと申します。……ユベール伯爵の息子です」
あれあれあれ?
黒髪の美青年の鋭い眼が、王子の濡れた上半身を凝視している。王子の前髪から落ちる水滴に、身体に張り付いたシャツ。男がごくりと唾を飲む。それを見つめる瞳には、明らかに強い情欲の光が宿り――っておい。
ロザリアの頭に電光が走り、再び前世の記憶が蘇る。
この世界の元となったゲームのタイトルは――
『狙われた王子~ねえ、俺の玩具になってよ~』
――……すなわち、18禁のBLゲームだ。
◇
「なんなのよもう! 最初からヒロインなんていないんじゃない!!」
ベッドに枕を投げて当り散らす。何という誤算だ。てっきり典型的な乙女ゲームの世界だと思っていたが、典型的なBLゲームの間違いだったとは。
クリス王子は確かに攻略対象だが、同時に主人公で、ヒロインでもある……訳が分からない。要するに私のライバルキャラは皆男で、皆王子を狙っているのだ。性的に。
パーティーの席で王子にぶつかったのはメインキャラクターの一人だ。鬼畜キャラで、王子の濡れた身体に得体の知れない初めての感情を抱いた彼は、婚約者から王子を寝取るために――その婚約者って私か。ハハっ、酷いなこりゃ。
「BLものなら初めから女キャラなんか出さないでよ……」
両手で顔を覆って嘆く。完全なる自己否定だが、無理も無いと思う。
このゲームのコンセプトは、いわゆる「寝取り」だ。王子を婚約者から奪い取る。自分はそのニッチな需要を満たすためだけに用意されたキャラクター。すなわちおまけというか、ただのギミックだ。
――道理でこの国の男女比が9:1くらいな訳だわ。おかしいと思った。
あのイベントは王子と黒髪の出会いイベントだ。この休暇が明けると新学期だ。そこで王子と再会した奴は、王子を堕とすためにあらゆる手練手管を仕掛けてくる。最早一刻の猶予もなるまい。
奴を王子から遠ざけるための策を練り始めると、ノックの音が響いた。入ってきたのはロザリアの兄のラインハルトだ。
「どうしたんだいロザリア。帰ってきてからずっと機嫌が悪いが……私に何があったのか話してみなさい。――か、顔が怖いよ? ロザリア」
きっとお兄様をにらみつける。実はこの男、我が実兄もメインキャラクターの一人だ。学園の先輩でもある兄は、やがて妹の婚約者である王子を愛するという背徳の感情に呑み込まれていくのだ。
「お兄様がそんな人だとは思いませんでした!!!!」
「え!?」
「私の婚約者であると知りながら――しかも同性である王子に手を出すなんて!!」
「ええ!? ど、どうしてそういう事になってるんだ!? わ、私にそういう趣味はないぞ!?」
「今は違っても、これからそうなるのです!!」
「何その断言! 妹の中で、私はどういう人間になっているの!?」
「あまつさえ、妹の結婚式の最中に、王子を手篭めにするなんて!!」
「若い娘が手篭めなんて言わない!! そもそもお前たちはまだ結婚してないだろう!?」
「隣の控え室で妹がウェディングドレスに着替えているというのに『俺の花嫁はクリス王子だよ……』とか言いながら王子の白い肌をまさぐり『ここではやめてくれ』という王子の懇願にも関わらず、荒々しい動きで情欲にけぶる王子の濡れた唇を――」
「ストップストップ!! 真顔で何言ってるんだよ!! 怖いよ!!」
「でもお兄様、王子のこと、ちょっといいなって思ってたりしません?」
「ああ、たまにこいついい身体してるなぁって――思ってない!!!!」
お兄様は混乱の極致にいるが、付き合っている暇は無い。出て行ってくださいと大声で叫んで、扉を閉めた。
これから自分は忙しいのだ。転生者としての知識をフル活用して、王子が堕とされるエンディングを回避しなければならないのだから。
◇
新学期が始まった。ここからが本番だ。ゲームの期間は一年間。その間、迫り来る鬼畜どもから王子を守り抜かなければならない。
別に王子が堕とされたところで、私が殺されるとか、婚約破棄されるとか、没落するとか、そういうことは全く無いのだが――いやだよ! 婚約者をイケメンに奪われるなんて!
唯一の救いは、ゲームが始まった時点では、王子はまだその道に目覚めていないということだ。彼はこれから数多のイケメンたちと出会い、調きょ――もとい、洗の――もとい、思考を作り変えられるのだ。
――軽くホラーですわよね……。
自分が目指すのは、王子が誰にも攻略されないエンド。いわゆるバッドエンドだ。――人の幸せをバッド扱いするんじゃない!
いや、でも王子だってその方が幸せですよ? 鬼畜系男子のペットになるよりも、私のペッ――げふん。私と幸せな家庭を築く方がずっと良いに決まっています。
――いや、本音を言うとさ。私もBLゲームなんかやってたわけだし? 美青年同士が愛し合うのは嫌いじゃないけどさ。お願いだからそれはどこかよそでやって頂戴ってことよ!!
そんなことを考えているとはおくびにも出さず。優しい微笑を浮かべながら、机で考え事をしている王子に話しかける。
「クリス様、何を悩んでいらっしゃるのですか?」
「ああ、ロザリィ。新学期の講義を何にしようかと思ってね。……このハドソン教授の薬草学なんかがいいかも知れないな」
「駄目です」
「え?」
「絶対に駄目です。その講義だけは取ってはいけません。非常につまらない上に、とても単位が取りづらいという噂です。それだけでなく、この講義を受けたせいで不幸になったという学生が何人も――」
「わ、分かった。君がそこまで言うなら取らないよ。……あれ? でも変だな、ハドソン教授は新任の先生のはずなんだが……」
王子は首を捻っているが、これは仕方の無いことなのだ。薬草学のハドソン教授。この男もメインキャラクター、王子を狙う男の一人だ。
眼鏡をかけた柔和そうな顔をしているが、この男の手にかかると、王子は不思議な薬草の力によって、こんなものやそんなものを、あんなところに入れられて悦ぶ肉体に改造されてしまうのだ。
「どうしたんだいロザリィ、三角フラスコなんか持って」
「――……はっ! 王子、これは人間の中には入りませんからね!?」
「当たり前じゃないか……」
「とにかく! そんなものよりこの講義を一緒に受けませんか? とっても面白そうですよ?」
「なになに……『実践保健体育~女性の肉体に感じるフェティシズムとエロチシズム』――なんでこんな講義があるんだ。『実践』って何するんだよ!」
「きっと王族として、大切なことだと思います」
隣に座ったロザリアが身体を寄せる。王子は咳払いをし、わざとらしく話題をそらした。
「ごほん。……とりあえず講義は後で考えよう。そう言えばロザリィ。ラインハルト先輩はどうしたんだい? この間は会えなかったし、挨拶をしておきたいんだが」
「お兄様は隣国に留学しましたわ。来年まで帰ってきません」
「そ、そうなのかい? 突然だね」
「はい。思うところがあったようです。…………留学から帰ってきたらお見合い三昧ですから、会ったとしても無駄ですよ?」
「無駄って何が?」
当然これはロザリアが父の公爵に手を回した結果だ。兄は目を白黒させていたが、別に留学もお見合いも悪いことでもないし、可愛い妹のためだ。ここは涙を呑んでもらおう。
そう言えばお父様も、非常に整った顔立ちのロマンスグレーだ。念のため、後で王子に対する接近禁止命令を出しておくか。
とにかくロザリアとしては、立ちそうなフラグを未然に折り、王子に女性の素晴らしさを説いていかなければならないのだ。
学園生活が始まってから、ロザリアはそのために走り回った。
講堂の裏で不良系の男子生徒に壁ドンされている王子を救い出したり、後輩の腹黒少年に絆されそうになっている王子の前で、その少年の本性を暴いて見せたりと、王子を守るためにあらゆるところに出現した。
それにしても、王子はまるで男を誘う誘蛾灯だ。何か変なフェロモンでも出してるんじゃないだろうか。
王子に壁ドンしてた不良なんて、「カツアゲしようと思ったら、つい手が王子のシャツの中に伸びてしまった。完全に無意識の行動だった」と怖い証言をしていた。
とにかくその魅力に当てられて、学園の生徒から用務員、上は70歳の老人から、下は6歳の幼児まで、あらゆる男が王子を狙ってくる。
ロザリアはその男たちをちぎっては投げ、ちぎっては投げ、王子の貞操を守るために奮闘した。
――ああ、こういう行動がプレイヤーからはお邪魔虫に見えるのかなぁ。ごめん、ゲームの中のロザリア。あなたの気持ちがようやく分かったよ。
そんな感じでしみじみとした気分になったりしながらも、そうして何とか、ゲーム期間の一年が経過しようとしていた。
◇
ゲームの時間が終わるまであと少し。大体のフラグはへし折ったが、まだ王子を狙う者は残っている。――誕生日パーティーで会った、あの黒髪だ。
あの男はメインキャラの中でも更にメインを張っている存在だ。他のキャラと違い、2~3本フラグを折ったくらいでは、そのイベントは止まらないらしい。
この一年間、王子が奴に密室に連れ込まれそうになること135回。およそ三日に一度のペースだ。そんなに王子をモノにしたいのか。その執念には頭が下がる。ロザリアと王子が一緒に出かける時だって、必ず奴が現れた。あれでは最早ストーカーだ。
王子もさすがだ。これだけされているのに、全く奴の気持ちに気付いていない。
「彼かい? そう言えばよく会うよね」
ロザリアがイベントの進行を妨げているせいだろうが、王子にとってあの男はその程度の認識だ。
王子はロザリアが胸元を開いた服を着ようが、スカートを短くしてみようが、全く無反応の朴念仁だ。同じく王子を愛するものとして、彼に同情するところが無くは無い……。
しかし、その鈍感のお陰で、王子がいまだに禁断の道に目覚めてはいないのも確かだ。
このまま何とかエンディングを迎えて欲しい。そう思っていた矢先、事件は起こった。
学園では最後の試験期間が終わり、長期休暇に入った生徒たちは、ほとんどが実家へと帰ってしまった。あの黒髪も例外ではないはず。その思考が油断を誘った。
「おや、ちょっと忘れ物をしてしまった。取りに行って来るよ。すぐに戻るから」
「はい。転ばないで下さいね」
「ははは、子ども扱いしなくても大丈夫だよ」
王子はそう言うと、男子寮へと走っていった。王子の公務に関わり、ロザリアと王子は他の生徒よりも寮を出るのが遅くなっていた。既に夕方だったが、王子は中々戻ってこない。徐々に不安が募ってくる。
「……――まさか、あの男が!?」
あの男が、王子を襲っているのでは? 辺りが薄暗くなろうかという時、ロザリアははたと気付いて、男子寮に向かって駆け出した。
――王子!! どうかご無事で……!!
人気の無い学園の敷地を、悲痛な顔をした一人の少女が息を切らせて走る。
――ああ、もう王子は奴に、男同士の良さを徹底的に仕込まれてしまった頃かしら。
ロザリアは走りながら思った。
――最初は激しく抵抗しながらも、段々と快楽に逆らえなくなった王子が、最終的にはあの男に取りすがって「僕はもう君無しでは生きていけない」とか言って、あの男はあの男で鬼畜な笑みを浮かべながら「じゃあ――今日から王子は、俺の玩具ですからね」なんて言っている頃かしら。
王子の身を案ずるあまり、その胸は張り裂けそうだ。
――大体王子って、優しいんだけど隙が多くて、どう見ても誘ってるっていうか、完全に受けよね、あれは。そう言えばこのゲームのベストエンドって、王子が国民の男全員の(性的な)玩具になるってやつだったけど、それの何がベストなのよ! 誰にとってのベストなのよ!? 嫌だよ! そんな国!!
校舎を過ぎると、その視界に男子寮の建物が入る。
――そう言えばさ、私たちって16歳だけど、「この作品の登場人物は全て18歳以上です」ってやっぱり嘘だったんだな。制作会社め!
多少の雑念は入っている気がするが、それでもロザリアは王子を思いながら必死に走った。人気の無い男子寮に忍び込み、王子の部屋を目指す。
階段を上がると、王子の部屋の前には、柄の悪い筋肉質の男が立っていた。あの男が用意した見張りだろうか。
「……――なんだてめ、え?」
廊下を走ってくるロザリアに気付いた見張りは、すごんだ声を上げようとしたが、次の瞬間にはロザリアは男の背後を取っていた。そのままチョークスリーパーで男を絞め落す。
――こんな所で転生者としての知識が役立つとは。完全に失神した男を床に転がすと、扉に耳を当てて中の様子を覗った。
「――! ―――!!」
男の声と、抵抗するような物音。まだ王子の貞操は無事のようだ。しかし扉には内側から鍵がかかっている。
ロザリアは小さく舌打ちすると、その美しい髪からピンを引き抜き、鍵穴に差し込んだ。ものの十秒とかからず鍵が開く。――またも転生者としての知識が役立った。
扉を蹴り開け、王子の部屋に侵入する。ベッドの上では、まさにあの男が王子を組み敷いている真っ最中だ。
「くっ、またお前か!! いつもいつも!!」
情事を邪魔された男は、ベッドから降りると殴りかかってきた。その突きを外し、ロザリアの拳が男の鳩尾に突き刺さる。――これも転生者としての知識が――まあそれはもういいや。
くの字に折れ曲がり、腹を押さえながら後退する男。追い討ちをかけて放たれたロザリアの鉄山靠が、男を窓の外まで吹き飛ばした。
◇
「か、彼は大丈夫!? ここって三階だよね!?」
猿ぐつわをはずすと、王子は歓喜に満ちた声を上げた。
「大丈夫ですわ。下は並木ですし、手加減もしました」
「そういう問題なの!?」
「…………クリス様、ご無事で良かったです」
「……ああ、うん。ありがとう。ロザリィのお陰で助かったよ」
ロザリアの涙ぐみながらの言葉に、王子も優しい表情で感謝の言葉を伝える。
「心配をかけてしまったね。ごめん。……――おっと、ははは、こんな格好では締まらないな。ロザリィ、すまないが縄を解いてくれないか?」
「…………」
「どうしたんだい、ロザリィ?」
涙をぬぐって改めて見たが、王子は両手両足をベッドに拘束されている。普段は綺麗に整えられた髪が乱れ、シャツの前がはだけている。ズボンのベルトも緩められ……えらく色っぽい格好だ。
――じゅるり。
「え? なんだいじゅるりって」
そうよそうよ、何でこんな簡単なことに気付かなかったんだろう。
――こういうのは早い者勝ちよね。王子に隙が有り過ぎるのがいけないんだから。
「え? ねぇロザリィ、何でベッドに登ってくるの? 笑顔が怖いよ? ちょ、ちょっと?」
王子に馬乗りになったロザリアは、優しく微笑むと、するりとドレスの紐を解いた。
◇
もうすぐ新学期だ。今日は二人でピクニックにやってきた。ロザリアは満面の笑みを見せながら、王子と並木道を歩いている。この年度が終わって学園を卒業すれば、すぐに二人の結婚式だ。これが笑わずにいられようか。
王子に不敬を働いた罪で、あの黒髪は学園を去った。しかし処刑されなかっただけ、彼にとっては儲けものだろう。――やはりああいうことを行うには、両者の同意が無くてはならない。
これで全てのフラグはへし折れた。お兄様もお見合いで気が合う女性を見つけたということだし、ロザリアにとっては万々歳、順風満帆の毎日だ。
「クリス様! 良いお天気ですわね!」
「ああ、そうだねロザリィ。――あんまりはしゃぐと危ないよ」
「大丈夫で――きゃ」
強い風が吹いて、ロザリアの帽子が飛ばされる。
「ははは。だから言ったろ? 今取ってくるから、そこで待ってて」
「はぁい」
――いやあ、青春してますわよねぇ、私たち。
ロザリアがそんなことを思いながら、目をつぶってうんうんと頷いていると、大きな物音がした。
「大丈夫か? ん? 君はもしや――クリス王子?」
「え、ええ。――あ、そう言うあなたは、隣国のガイウス皇太子ですか?」
「……ああ。来年度、君の通う学園に留学することになったんだ。……よろしく頼む」
目を向けると、王子と赤毛のイケメンが話している。王子が持っていたアイスクリームが、べったりと王子の顔や身体に張り付き、白い線を引いている。ごくりと喉をならす赤毛。尻餅をついた王子を助け起こす赤毛の瞳には、その髪色にも似た明らかな情欲の炎が宿っており――っておい。
ロザリアの中に、再び前世の記憶が蘇った。
――『狙われた王子2~隣国の王子を婚約者から寝取る。結んでよ、俺との同盟関係~』
――今、続編の幕が上がった。
ちゃんとコメディーになっているかどうか。
BL物の雰囲気は適当です。