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転生悪役令嬢の目覚め

「ルゼナ!」



目が覚めれば、お父様とお母様がそれぞれ私の手を握って顔を覗き込んでいた。

二人とも目に涙をを滲ませながら、それでもほっとしたような笑顔を浮かべて私を見ている。


「…お嬢様はお気付きになりました。一先ずは安心というところでしょう」


ダンゼルク家専属医師シェームスの穏やかで優しい声が聞こえる。声の調子はゆったりで、その言葉に嘘はないと確信する。

とりあえず、私は生き延びた。大丈夫だと思っていたけど、こうして両親の顔を見て心がほっとする。


「……ルゼナ。苦しいかい?」


と同時にちょっと息をついたからか、お父様は心配そうに眉を寄せた。


「だっ……ぶ、と……まっ」


大丈夫よ、お父様。とまだ言葉を紡げなかった。コホコホと咳き込んでしまう。ああ、喉の奥までカラカラだ。

慌てふためく両親とままならない私を落ち着かせるように、大きなシェームス医師の手のひらが鎖骨の上に優しく置かれる。


「目覚めたばかりですからね。喉が潤っていないのでしょう」


さすが医師。的確に私の様子を読み取ってくれた。


「お嬢様。まだ頭は動かせませんので、布に水を含ませ、絞って口の中に落とします。よろしいですか?」


こんなおじいちゃんがしますがちょっと我慢してくださいね、とからかうように微笑んで私に聞く。

生まれる前から診てくれいて、どんなワガママも包んで応えてくれたシェームス。そう、いつもにこにこしていて、私は彼にワガママを通しきる事が出来なかった。

穏やかで優しいシェームスの手を、嫌がるなんてするものか。

ほら今だって、頭を動かす事も言葉を紡ぐ事も出来ない私が視線を送っただけで、気持ちをわかってくれるのに。


シェームスは手を洗った後、別の空の手桶の上で新品の綿布に向けて水差しの中の水を落としていった。

布が充分に水を含むと、軽く絞って私を見る。


「お嬢様、口を開いて下さい」


言われるがままに開けば、シェームスは布を口の上でまた軽く絞る。口からはみ出さず、かといって喉の奥に直接でもなくて、布から出た適量の水が私の舌に落ちて滑らかに喉へと流れてくる。お陰で、私は気持ち良く水が飲めた。

皆が見つめる中で喉を潤した私は、なめらかにではないけど、咳き込まずにようやく言葉が紡ぎだすことが出来る。


「おと…さま。おかあ…ま。私、だいじ…ぶよ」

「ああ、ルゼナ!」

「ルゼナ!」


感動の目覚め、再び。

私に飛び付くような仕草をして留まる二人。

気持ちはわかるし嬉しいけれど、今はちょっと控えて欲しい。代わりに安心させようとにっこりと微笑んで見たが出来ただろうか。

うん。出来たようだ。二人とも応えるように微笑んでくれたから。


「旦那さま、奥方さま。本当によろしゅうございました」

「ああ、本当に!」

「良くやってくれたわ、シェームス!」


しみじみとしたシェームスの言葉に両親は顔があげる。

両親は、私が目覚めた事とシェームスの暖かい言葉に心配で固まっていた心が解され、 一先ず緊張から解放されたようだ。

二人の雰囲気ががらりと柔らかいものに代わり、

ここまで処置をしたシェームスと向き合い喜びあう。

その三人の姿に、心配された喜びと申し訳なさか入り雑じった複雑な気分で、幾分眩しく感じながら見ていた。

……のだけど。

私の側からお父様が移動した事で、部屋の隅にいるのが見えてしまった。




ーああ、そうだ。私はこれから決着を着けなければならないことがあるんだった。





それは表情がなく白い顔色をした彼、だった。

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