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転生悪役令嬢の専属執事は死にたがり

今回は短いです。

え?これが普通?

私の前で、深々とバルクが頭を下げている。


「………それはどういった意味かしら」




先程まで、私の部屋にはお父様かいた。

話は、昨日のアルリックとのやりとりについて。

朝のお出掛け前の忙しい時間ではあったけれど、支度を終えたお父様は、私の部屋を訪れたのだ。


昨日は、ウルリック共々部屋から追い出して、アルリックだけをその後は一度も側には呼ばなかった。それは今も続いている。

そんな状況を、バルクから報告があったのだろう。


『ルゼナ。彼はもう要らなくなったのかい?』


お父様はあれこれ言わなかった。ただ、それだけ 。


『まさか。ーただ…少し生意気でしたの。お仕置きですわ』


その答えに、お父様はちょっと困ったような笑顔を浮かべただけだった。

バルクはそんなお父様の出発を見送った後、私の部屋を訪れた。


そして、お嬢様、とだけ言ってから、この姿である。




「…失礼ながら、私にもどう申し上げて良いのかわからないのです」

「バルク?」

「報告では、お嬢様のお声に反応を返さなかったとのこと。誠に申し訳ございません。ですが、……感謝を申し上げとうもございます」

「感謝?………その先を。それに、いい加減頭を上げなさい。話が出来ないわ」


いつまでも、下がったままの頭に向かって話す気はない。バルクは素直に頭を上げた。


「お嬢様はお気づきでらっしゃるのでしょう?愚息には、何かが欠けていると」

「欠けている、ね。でも、誰もが苦手な部分をもっているものではないの?」


バルクは首を横に振る。


「確かに愚息は不得手なものもございます。ですが、それは、人の手を借りる事でこなす事もできますし、その術も知っているでしょう。ですが、そうした術ももってしても、埋められぬ欠点がございます。………お嬢様は、それを最初から気づいておられたのでございましょう?」


そう言えば、最初からバルクには「見ていて」と話していたわね。

実際の目と、兄弟の報告書や屋敷内の情報から、色々「見ていた」のかしらね。


しばし、私とバルクは見つめあう。

そして、私はふうと息をついた。


「それは、執着、かしら」

「……………やはり、お嬢様は知っておられた」


ふわりと弱々しい笑顔を見せたバルクに驚く。

ほっとしたような、泣きそうな。

お父さまの後ろに控える「これぞ執事」といった完璧な男が見せた一瞬の弱さ。それも、たった4歳の主の娘に対して。


咄嗟に言葉の出ない私に、バルクは吐露する。


「本人よりはっきりと聞いたわけではありせん。それが答えに違いないとは言い切れません。ですが、いつからか、ただ生きているだけになっていたように感じるのです。そんなあれを、お嬢様は気づいて下さった」

「…ウルリックや他の家族は気づいているの」

「どうでございましょう。そもそも、あれは、生を終えたいと強く願っているのとは、少し違うような気が致します」


私は、バルクから視線を外して考える。


「そうね。あれは終えたいというより、この瞬間終えても問題はないといった感じだわ」

「…同意致します。それ時までは、自分のやるべき事をこなすだけだというように、粛々と日々を過ごしているように思えるのです。まさに、愚息に欠けているのは」

「生への執着」


ー二人は沈黙する。


「バルク。あなたは、今もどかしい思いをしているのかしらね」

「…お嬢様?」

「原因があってそう願っているのなら、解消する道を探れるわ。でも、この場合、本人にもわからないかも知れないのだもの。ー厄介だわ。解決方法がわからない。本当にもどかしい事でしょうね」

「………………」

「でも、私は違う。怒っているの」


バルクは、驚いたように目を開く。


「生に執着がない?そんな事は知らないわ。私は許せないの。だって、アルリックはよりにもよって、私を傷つけたあの時を利用し、お父様に選択を委ねた」

「お嬢様」

「だから、アルリックをお父様にもらったの。主の私を利用したのだから、罰を受けてもらわなくては。私だけに仕え、余所見などさせない。………余計な事を考えるのも許さないわ」


バルクは私の言いように少し眉を寄せていたが、最後に気づいたようだった。


「だから、アルリックが私の気に入らない事をしたら、今回のようにお仕置きするわよ。……まあ、使い物にならなくなったらつまらないから、お仕置きは少し考慮してあげるわ」


私の死亡フラグにも関わるしね。


「バルクも、父親として監督者としてちゃんとみているのよ。いいわね」


ツンと胸を反らして見せれば、バルクは閉じた唇を震わせた。


「畏まりました。お嬢様。今後も、愚息を思いのままにお使い下さいませ」

「ーもちろんよ」


反らした姿勢のままの私の前で、バルクは再び頭を下げたのだった。







昼から、私はいつものようにアルリックをそばに呼んだ。

私が呼ばない間、バルクはアルリックにちゃんと手当てを受けさせていたようだ。

少し、紅茶がかかった部分が赤い気がするけれど、その無表情な美形の顔をさらしているのだから、大した事はなかったのだろう。


内心ほっとしたけれど、もちろん態度には表さない。


「言った通り、私服に着替えてきたわね」

「はい」


そう。

アルリックはいつもの執事服ではなく、私服に着替えさせている。


だけど、何か変なのよねぇ……。


対して、黙って立つアルリックを観察しながら、腕を組んで前をうろうろする私は、いつもの上等なものではなく色も装飾も地味なドレスに着替えている。

もちろん、髪も地味にまとめあげ、装飾具もない。


ーあ。


「アルリック、身を屈めて、頭をこちらに出しなさい」


素直に出された頭にポンと手を置き、全体的に後ろへ流れるように整えられた黒髪をぐしゃぐしゃと荒らした。


ふむ。髪だけいつも通りで変だったのよ。

だけど、意外と柔らかくてさわり心地の良い髪ね。

どこまで、美形の良条件を揃える気かしら、この男。


少し苛立って、わしわしと乱していたら、後ろから戸惑うようなウルリックの咳払いが聞こえた。

あら、いけない。


「もう、良いわ。…では、出るわよ。ウルリック、予定の時間には戻るわ」

「………畏まりました」


一礼したウルリックを私がじっと見つめると、彼はその意味を測りかねて表情にだす。

子犬のような人懐っこく素直な気性の彼は、先程から時折感情を表に出しているのだ。


「ウルリック。あなた、もっと勉強なさい。色々と顔に出ていてよ」


お茶をかけた時を目撃した彼は、今何事もなかったように振る舞う私たちへの複雑な感情を見せていた。

それを、私が気づいていたとは思いもよらなかっただろう。

大好きな兄への思いから、本人は無意識かも知れないれども、それではいけない。


仮に、乙女ゲームの筋書き通りに研修期間なく私について、仕事中にこんなに表情豊かであったならー。


「ー不愉快だわ」

「お嬢様」


知らず小さく漏れ出た言葉に、半ば覆い被さるように、アルリックが呼ぶ。


「お時間がございません」


そうだった。

待ち合わせをしていたのだったわ。


私は見送るウルリックに背を向け、裏口に横付けされた公爵家の紋章がない、しかし貴族の物であるとギリギリわかる、これまた地味な馬車にアルリックに共に乗り込んだ。




今日のお出掛けは、セリーヌへの見舞品探し。

気に入ってもらえるものを見つけてみせるわっ!

「死にたがり」の意味が違うんじゃないかと思われる方もいらっしゃるかと思います。


ただ、今回の作品では、「生に執着しない」も死にたがりと解釈しております。

ルゼナは「なんかわかんないけど、そんなアルリックがムカつく!」「むふーっ!(ほっぺた思いっきり引っ張りたい)」とモヤモヤしてしまうのです。

そんな暇あるなら「私を見なさいよ!」「私の事を考えてなさいよ!」とある意味駄々をこねています。4歳児ですから。


次回は、もう一人の子犬くん。子爵家従者と保護者付きデート、です。

デートで済むわけ、ないんですけどぬ。

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