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修羅場の続きは異世界で。  作者: ピコピコ
第1章
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北スラム6。

 俺達はどうやら召喚術が使えるみたいだった。絵里が図形を描き、千佳が詠唱を読む。そして何故か喚び出された召喚獣の使役の権利は俺に託されている。

 俺達は3人揃って初めて術を扱える、未熟な召喚師なのだ。

 だからこそ俺達は、常に一緒に居なければいけなかった。少なくとも召喚術が必要な場面では、離れ離れになる事はリスクでしかない。この世界における唯一のアドバンテージを、自ら放棄する事になるからだ。

 だから気付いた。俺はバカだ。

 あの2人を置き去りにして来てしまった。いくら伝説の竜を召喚出来たって、使役する俺の指示が届かなければ何の意味も無いのに。

 迫り来るカマキリに、俺は為す術なく身構えるしか出来なかった。

 その時。聞き慣れた音が鳴り響く。

「!?」

 だけど音の出所を探す暇は無かった。無機質に鋭い切っ先が、すぐ目前まで迫っている。

 避ける? 受け流す? 俺に出来るだろうか。千佳ならまだしも、俺は運動神経だってそこまで良くないぞ。

「バービット!」

 トアの声に、再びバービットが走り出した。そういえば最高速度はチーターすら超越するって言ってたっけ。その凄まじい速さで、あっという間にカマキリに辿り着いた。

 ッドンッッ!!!

 そして再び体当たりの爆発。だが、先程同様にその頑強な盾に防がれてしまった。盾は煙を上げているものの、傷一つ付いていない。

「ちょっとそれ卑怯よ!!」

 子供みたいに文句を言っているが……ナイスだ、トア。結果的にその攻撃が数秒の足止めに成功した。

 俺はすぐさま鳴り響く音の出所、携帯電話を取り出し耳に当てた。発信者の確認は必要無い。この異世界で俺に電話を寄越すのは、たった2人だけだ。

『柳っ! 呼んで!!』

 千佳の叫ぶ様な声を聞いたほぼ同時、光が溢れるのが見えた。それは電波塔が見える進行方向、下り坂の先……絵里と千佳が居る場所である。

「そういう事か」

 瞬間的に全てを理解する。さすがあの2人だ。頭の回転が早い。

 そして俺も思い付くのだ。ここからの最善の手を。俺には何の武器も強みも無いけど……予測したり推測したりするのだけは得意なのだ。

 絵里も千佳も、自分の力を信じている。与えられた力を存分に行使している。ならば俺も、全力で利用してやる。

「こっちに来い!!」

 カマキリの動きを確認しつつ、携帯電話に向かって大声で叫んだ。どうやって呼んだらいいかわからないけど、こんな感じだろうか。

「なんだ?」

 ギアッドが訝しむ。そういえば、この国に携帯電話というものは存在しないのだろうか。通信や連絡の手段に召喚術を使っているのなら、必要無いのかもしれないけど。

 俺の呼び掛けに応えたのか、前方から何かが走る音が近付いてきた。……あれ? てっきり蒼天の竜を召喚したのだと思ってたけど、違うのか? 走ってくるのか?

 駆け足の音は徐々に近付いてくる。その音に確かな違和感を覚え始めた時、高い場所でいち早くその存在を視認したギアッドが、驚愕した声で呟いた。

「なんだ……あれは」

 続いて俺とトアも、その姿を目撃する。反応はギアッドと同じ、2人して驚きの表情に変わった。

「な……何事!?」

「おいおい、まじかよ」

 前方から全速力で向かってくるそれは、火の玉の様に燃え盛るウサギ……バービットだった。だが、驚くべきはその数。1体や2体どころでは無い。およそ10体前後のバービットが、群れを成して向かってくるのだ。

『ふっふっふ……実験は大成功ですね』

 携帯電話の向こうからは、教師か学者の様な口ぶりの絵里の声。まさか、これ全部いっぺんに召喚してしまったのだろうか。まったく、発想が斬新でありながらそれを実行する決断力は、トアに通じるものがあるぞ。

 だが嬉しい誤算だ。むしろ好都合!

 俺はそのままバービットに指示を出す。それならそれで攻撃の幅は広がるし……どの道狙いは最初から一つだ。

 バービットの群れはあっという間に俺やトアを抜き去り、橋の真下にまで辿り着いた。その内の数体が瞬間的に軌道を変えて、ハナレオンと騎士の様なカマキリに突撃する。

 ドドンッ!!

 カマキリはまたも左手の盾で爆発を防いだが、ハナレオンには見事に直撃し、数メートル先まで吹き飛ばす事に成功した。

「バカな、これはお前の指示か!? いつの間に、一体どこから召喚した!?」

 ギアッドが困惑の声を上げ、トアも驚いた表情をしている。そうか、トアは知らないんだ。あの場面、トアは病院に運ばれてたから。

 俺達は作業を分担して召喚術を扱う。条件もリスクも増えてデメリットだらけかと思ってたけど、通信手段さえあれば遠隔で広範囲での利用が可能らしい。これは強みだ。それにグラウンさんが説明してたんだ。俺達みたいな方法は前例の無い稀有な例であると。それはつまり、相手を出し抜けるチャンスがあるという事。初手に限ってだけど、セオリー通りでは無い手順で相手を翻弄する事が出来る。

 残りのバービット数体は二手に分かれ、道の両端に移動する。そこから軽やかな跳躍を見せ橋の上に飛び乗り、ギアッドを挟み撃ちする形となった。召喚されるのが竜だと思って想定した計画だったけど……さすがウサギだ。この高さを物ともしないジャンプ力。両足に燃える炎がブースターの役割も担っているのだろうか。

「行けっ!!」

 間髪入れずにダッシュを促す。一瞬の猶予すら与えない。バービットは回転し攻撃態勢となり、両サイドからギアッドを襲う。そして。

「トアっ! 煙幕!!」

「は、はいっ!!」

 飛び跳ねる様にトアが動き出し、亀が背負う筒から再び大量の煙幕が噴出した。同時に俺も走り出す。

「チッ!!」

 両サイドから迫るバービットに、視界を遮る煙幕。新たな召喚をする余裕も無い。とすれば、ギアッドはどうするか。

 煙幕に覆われようが、俺の目標地点は明確だった。

 ギアッドが立っていた橋のすぐ真下。ここに……。


 ドサッ!!


「ッ!?」

「やっぱり降りてきたか。ここしか逃げ場が無いもんな」

 俺はギアッドに、握り拳を全力で振り抜いた。

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