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修羅場の続きは異世界で。  作者: ピコピコ
第1章
26/87

侵入者+α2。

 拳銃という武器の脅威性。それは、そこがどんな世界だろうが何一つ変わらない。指先一つで相手に怪我を負わせ、最悪命を奪う事だってあり得る。俺達が居た元の世界にも存在はしていたけど、決して身近なものでは無かったし、器用に扱える人だって知らない。

 この世界で拳銃という武器がどういった存在価値なのかはわからない。召喚術という文化もあるし、元の世界と比べてその危険性は薄れているのかもしれない。

 だけど、それにしたってこの2人は異常だ。

 ケミーと呼ばれたカッパを着た子は、声変わりの前のような中性的な響きで、男女の区別さえ難しい。背丈を見ると中学生くらいに思える。

 そんな子が2度、発砲した。

 感情が無いかのように無機質に。絵里を狙った際はグラウンさんが阻止してくれたけど、その時もためらいは無かった。トアの出血を見ても、恐怖も罪悪感も、何も感じていなかったのだ。

 そしてリッシュ。彼もまた普通では無い。まるで小石を拾うかのように落ちていた拳銃を手に取り、指を差す程度の気軽さで俺に照準を合わせた。そして躊躇も逡巡も無く、一瞬の間隔すら開けないままに俺に向けて発砲した。そこには感情も、特別な思考すらも無かったように思える。

 ごく自然な流れで、息を吸うように人を撃ったのだ。

 あまりに突然な事に、俺は身構える暇も無く、棒立ちだったと思う。こんなに突拍子も無く撃たれるだなんて思ってもいなかったから。先ほど絵里を守ったハリネズミはグラウンさんが送還してしまっていたけど、きっと召喚した状態でも間に合っていなかっただろう。阻止は不可能だった。

 それほどこの2人は、人を殺める事にためらいが無い。

 ところが。

「……あれ?」

 それなのに俺は怪我をしていなかった。

 どこも痛くない。そもそも俺に被弾した様子も無い。

 撃たれた事にも、無傷な事にも理解が追いつかずにいたけど、目の前が真っ青な壁になっているのに気付いて、現状を把握する。

「なんと……」

 ザイン国王が驚嘆した。

 俺は、蒼天の竜の頑強な尻尾によって囲われていたのだ。その結果リッシュが放った拳銃の弾丸を防いでいた。

 蒼い鱗の表面には焦げた後と硝煙が上がっているが、出血はしていない。きっと弾丸を弾いたのだ。

「どうなってるの……?」

 絵里が目を丸くしている。

「もしかして……竜が柳を守った?」

 千佳の疑問に答えたのか、竜はグルルと唸っている。

「……驚いたな。伝説の竜を召喚しちまうどころか、その守護対象が第三者に移されてるなんて」

 拳銃を構えたまま、リッシュは表情を変えずに淡々と呟いた。

「こんな事例は……見た事が無い。もしかして、さっきヤナギ君の訴えで咆哮が止まったのも、使役の効力がヤナギ君に移権されているからなのか?」

 グラウンさんが不思議そうに言った。

 効力が移権? 俺が使役する立場にあるって事か?

 でも何故だ。召喚に直接携わった絵里と千佳の呼び掛けに反応せず、どうして俺なんだ。分からない事が多過ぎて、頭がパンクしそうになっている。

 その時、バタバタとたくさんの足音が聞こえ、残りのサモニカのメンバーが応援に駆け付けた。それぞれ武器とノートを手にしていて、戦闘の準備が整っている。

「はー」

 うんざりしたような溜め息。

「降参だ。こっちに勝ち目はねーよ」

 不意にリッシュが拳銃を放り投げ、両手を上げた。そして不敵な笑みを浮かべながら近づいて来る。

「そもそも今日はこのバカを連れ戻しに来ただけだ。邪魔して悪かったな。早々に退散するよ」

 それだけの用件なら俺に発砲するのはおかしいだろ。ついでみたいにやる事じゃないぞ。

「でもその前に……」

 リッシュが、俺の前で立ち止まった。

 防御壁のように置かれた蒼天の竜の尻尾が、2人の空間を隔てている。まるで俺達の居た世界と、リッシュ達が居るこの異世界を明確に分ける境界線のように。

 そしてその境界を、今、リッシュが踏み越えようとしている。

「順序がおかしくなっちまったが。初めまして、異世界人。ヤナギとか言ったかな」

 リッシュが握手を求めてくる。位置関係的にそれが届かない事を分かっていながら、それでも示すその態度は、友好の証か、挑発の一つか。

 武器は手にしていないが油断出来ない。何しろ行動が読めないのだ。前触れも無く突然刺されるかもしれない。

「惚れた女の事はどうにも気になっちまうもんでね。昨日の一件も聞いてるよ。巻き添えくらったアンタのツレ2人が、伝説の召喚を成功させたって」

 どうしてそんな事知ってるんだ。まるで遠くから見ていたか、盗聴でもしていたかのようだ。だけどそれくらいあり得る。そういった用途の召喚術くらいありそうだし。

 いっその事こちらから仕掛けてやろうかと考えてもみるが……とても無理だ。仮に俺が体術に長けていたとしても、こいつに通用する気がしない。

 まるでこちらの内側まで射抜くかのような眼光が、俺の体を縛り付けている。

「半信半疑だったけど、実際ここで見て驚いたよ。こいつを召喚出来るのはトアか俺ぐらいなもんだと思ってたからな」

 蒼天の竜を見上げる。竜が一切動かずにじっとしているのは、やっぱり俺の指示を待っているからなのだろうか。

「その内改めて挨拶に行くが、これだけは先に言っとくぜ」

 口の端を釣り上げ目を見開き、今にも襲い掛かって来そうな凶悪な表情で、リッシュが言った。


「トアの事は、諦めるんだな」

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