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part 8 意志

読んでいただき、ありがとうございます。

「――やっぱり無理ですか」


「んー、ちょっと無理があるねー」


 やはりか、と海斗は頭を掻きながら思った。


 ゲート前に到着したところ、やはり警備は緩められていたりはしていなかった。ゴールデンウィークなので自由開放にされているのかも、と思っていたりしていたが、全くそうではなかった。


 無理矢理乗り越えるにしても、駅のホームのような形状になっているので事務所からはガラス張りで誰が通ったのかは常に見られている。事務所のなかにいる『クカタチ』の人にも尋ねたが「申請書がないと出ることはできない」と告げられた。


「わかりました。ありがとうございます」


 海斗が話を終えると、隣で話を聞いていたオリジンが口を開いた。


「なんで!? もう目の前なのになんで出られないんだよ!」


「ごめんねー、お嬢ちゃん。でもなんで『外』に出たいんだい?」


「それはいろいろとありまして…」


 説明しても時間の無駄になるし、何よりも日差しが暑いので、「とりあえず別の場所に行こう」と不貞腐れている少女に言ってその場を立ち去ろうとする。


「ありがとうございました」


 海斗は男性に律儀に挨拶をした。


「いえいえ。まだ五月だってのに今日は暑いから脱水症状にならないように気をつけるんだよ」


 海斗は、まったくもって仰る通りで、と思った。まだ五月なのに夏休みかと思えるくらい暑い。


 周りに人はいない。壁の近くになると住宅がほぼなくなり、研究所や会社のビルが多いので余計に人通りが少なくなっている。今の時間帯だと、ランチタイムは終わっているので既に仕事を始めているのも理由の一つだ。真っ昼間なのでバスや電車も通る本数は少なく、バスが近くの道を走る気配はない。歩いてきたのはいいが、これからまた同じ道を歩くのは骨が折れる。


 ――さて、どうしたらいいものか。


 二人が同じ道を無言で歩いていると、海斗の携帯電話が鳴った。急に海斗のポケットから音が鳴り響いたのに驚いたのか、オリジンの身体がビクッ、と痙攣する。


「な、なにそれ!?」


 海斗が取り出した携帯電話を指さしてオリジンが叫んだ。


「もしかして、お前まさか携帯知らないのか?」


 からかうように海斗が言った。


 だが、


「けーたい?」


 冗談で言ったつもりが本当のことだったようだ。「ちょっと静かにしてろよ」と海斗は忠告し、携帯電話の画面をタップする。耳元に添えると通話相手より先に海斗が話した。


『なんだ? 人助けの手伝いでもしたくなったのか?』


 電話の相手は愛宮だ。


『は? 何言ってんの? あんたがこの異常気象で倒れていないか気になって電話してみただけ』


『嘘つけ、本当は返金の催促でもするんじゃなかったのかよ』


 まず初めて愛宮から電話をかけてきたので海斗はそこに驚いている。


『違うって。ほんと何言ってんの? それよりもあんたまだファミレスにいる?』


『ん? もう出てるけど?』


『そっかー、じゃあ今あんた一人?』


『は? ちげえよ、さっきの子いただろ。あの子の面倒見てるんだよ』


 無言で隣を歩いているオリジンをちらりと見て海斗は言った。


『さっきの子? ……あー、さっきのね』


 生半可な答えを返してくるのに対して海斗は本当にどうしたのだろうか、と心配になる。


 すると愛宮が話を変えて、


『じゃあ今どこにいるの?』


『えーと、西側のゲート近くだけど?』


 真剣な声が耳に刺さる。もしかして何かあったのか、と思った海斗は訊き返した。



『どうしたんだ? なにかあったのか?』


『…いや、何でもないわ。それよりも気をつけなさい。そこら辺はあまり人通りが少ないから』


『? お、おう』


『じゃ、またね』


 そう言って通話は途切れてしまった。海斗の今の位置を訊くだけ訊いて理由は何一つ話してはもらえなかったので何が何やらさっぱりだ。


「なんだったんだ?」


 海斗がそう呟くと、「どうしたの?」と、隣からサイズ違いの白衣を羽織った少女が訊いてきた。


「いやさ、さっき――」


 海斗はつい先程のことを述べる。だが少女は自分が訊いたにも拘らず、話している言葉が耳に入っていなかった。


 少女の表情が、こわばる。


 オリジンの視線の先には誰かがいた。


「……どうした?」


 急に立ち止ったオリジンが心配になり、海斗が心配する声をかけた。この暑さなら体調を崩しかねないのだが、そういうものではないらしい。


 彼女は見向きもせず、まっすぐ前を見ている。その先が気になった海斗はオリジンの視線の先に焦点を合わせた。


 向こうの人物もこちらを向いているようだ。まあ、周りに二人以外に人がいないので目立っているだけかもしれないが。アスファルトから跳ね返ってくる熱が顔をじわりじわりと焦がす。目の前の人物を目を凝らしてよく見ると、相手は海斗と同年代ぐらいの女の子だと判断することができた。


「どうしたんだ? 知っている人か?」


「違う…」


 質問を跳ね返すように答えた。

 少女の頬を一粒の汗がたらりと流れる。


 そしてその一瞬。


 目の前を歩いてくる女性が急に海斗達めがけて走りだした。


「逃げて!」


 オリジンが海斗の腕を引っ張って、壁のほうへと走り出す。状況に追いつけていない海斗は身体が向いている方向と真逆の方向にかかった力によって腕がもげそうになる。


「あだだっ!! 何しやがるんだよ!!」


 力で身体が回転し、ステップを組むように二、三歩足が前に出る。


 その時。

 後方から砂が一か所に集められるような、アナログテレビが故障したときになる砂嵐のような音が聞こえた。

 一ノ条海斗は足を止め、ゆっくりと振り返る。


「…っな、んだ?」


 海斗はその光景に息をのんだ。


 地面の中から何かが掻き集められ、一人の少女の手のなかに棒状のものが形成されていくのだ。

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