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part 7 動き

読んでいただき、ありがとうございます。

今回は少し長めです。

 結局、海斗が決めたものを注文することになったのが不満だったのか、少女は頬を餅のように膨らませていた。


(…怒っているのか?)


 店員に注文したときに「あれも頂戴!!」と、不貞腐れた様子で、海斗と少女が出会ったドリンクバーの位置を指さして叫んだ限り、何も話さなくなってしまった。


「……なあ」


 少し退屈そうに海斗が話しかける。


「さっき家がない、って言ってたけど家出でもしたのか?」


 いろいろ聞きたいことがあるが、まず初めに訊きたかったのはそのことだった。


「……家出とかじゃ、ない」


 不満そうにしていた表情ががらりと変わる。真剣な顔に変わった少女は話をつづけた。


「わたし、逃げてきたの」


 先程も同じことを聞いたな、と思い、海斗は尋ねる。


「どこから?」

「わからない」

「わからないって…」

「本当にわからないの」


 冗談で話しているようには思えなかった。

「どこかも分からない道をただひたすら走って、逃げてきたの。そして気が付いたらこのお店の近くで寝てた」

「誰から追われているのか?」

「それも…」

「そうか」


 言葉に詰まったところを見て、恐らく覚えていないのだろうと予想した海斗はあえて遮るように言い放った。これ以上考えさせるのも酷だな、と思い、自分の飲み物を飲む。


 とりあえずは、食事を済ませてから話したほうがいいと判断した海斗はそのまま注文した料理が運ばれてくるまで話すのをやめることにした。


 第一、この少女は何に追われているのかが分からない。記憶の曖昧さに、もしかしたら記憶喪失なのでは? という疑問も現れたが、それを確認する手段がない。

 ほんの数分間、無言で思考を続けていると「おまたせしました」と、頼んだ料理が運ばれてきた。机に食べ物が乗った皿が目の前に置かれると、先程まで暗い表情だった少女が明るくなる。


「わあっ!」


 初めてそのものを見るような驚き方をした。

 主菜が置かれると、続いて平らな皿に載せられたご飯が置かれた。事を済ませた店員は一度礼をして店の奥へと帰っていった。


「いただきます!」


 少女が飛びつくような勢いでハンバーグにありつく。一口食べるととても美味しかったのか、口をもごもごさせながら声にならない声を発している。口のなかが空になると、


「これはなんという食べ物なのかな!?」


 目を輝かせて少女は訊いてきた。


「はい?」


 自分が食べたものが分からない、とでも言うのだろうか。それに、先程彼女だって自身で指さして選んでいたというのに、その食べ物の名前が分からないだと? 生きていて一度はめぐり合うはずの料理を知らないのか?


「これはなんという食べ物なのかを聞いたんだよ!」

「え、ハンバーグだけど?」


 当然のように海斗は答えた。

 すると少女は目を輝かせて、「おお! これは『はんばーぐ』というのか!」と更に興奮する。


「食べたことなかったのか?」

「こんなにおいしいものを食べたのは初めてだよ!」

「いくらなんでもこんなファストフード店で大袈裟過ぎだろ。もっと美味いものだってあるぞ?」

「なんと!? この『はんばーぐ』よりもおいしいものがあるとは! ふぁっとふーどとはそんなにおいしいのか!?」

「ファストフードな」


 分からない。

 この子の食生活はどのようなものなのかが、分からない。

 海斗はハンバーグを頬張る少女に尋ねた。


「いつもはなに食べてるんだ?」

「んー、ちょっと覚えていないや」


 少女はすこし笑みを浮かべながら答えた。


「あ、自己紹介を忘れてたね。私の名前はオリジンっていうんだ」

「お、おりじん?」


 外国人なのか偽名なのか、それともあだ名なのか。初めてカタカナの名前を自己紹介で言われたので海斗は少し戸惑った。金髪で翡翠色の瞳をしている時点で彼女が日本人ではないことは確かだが、その名は海斗にとっては違和感を感じるものでしかなかった。


「偽名ですか? それともあだ名?」


 海斗が訊いたことに対して怒ったのか、オリジンは口のなかの食べ物を飲み込んでから叫んだ。


「失礼な! 本名に決まっているんだよ!」

「いやいやいや! だってそれ苗字じゃないの!? そのもう一個先に何か言葉があるんじゃないの!? ほらほら、名前を教えてくれ! カムバック!」

「カムバックってどういうこと!? わたしの名前はオリジンだって言っているんだけど!」

「じゃあ生徒手帳でも名札でもいいから身分証明できるもの持ってこい!」

「せいとてちょう…それは食べ物なの?」

「なんでそうなるんだ!」


 食べ物を口にすることができたお陰なのか、先程よりもはつらつとしていて元気がいい。


 名前のことなんてどうでもよくなってきたので、質問を変えてみる。


「ところでさ、さっき誰かから逃げているって言ってたけど誰から? まさか『クカタチ』とかじゃねえよな?」


『クカタチ』とは、学術都市内での警察のことだ。能力者の事件や暴動には拳銃一つの普通の警察官では対処しきれない。だがそれを抑えるために用意されているのが『クカタチ』だ。


 といっても、警察官の武装の質や量を増やしただけに過ぎない。大人が能力をつかえない限り、そうでもしないと鎮圧できないどころか、自分の身を滅ぼすことになりかねない。


「…?」


 オリジンは何も話さずにただ首を横に傾げた。隠し事をしているというよりかは、その単語の意味が分からないというような表情だ。


「…まあいい。それよりも食べなくていいのか? 冷めちまうぞ」

「あっ!」


 食べる口が止まっていたので海斗は忠告した。記憶が曖昧なところがあるが、きちんとテーブルマナーは覚えているらしい。それともただ食い意地が張っているから身体に染みついているだけなのかもしれないが。


 ところで。

 ふと一ノ条海斗は気付いた。



(…この子を助けたのはいいが、本当にここからどうするんだッ……!?)



 今更だが、飯を食わせた後のことを一切考えていない。家を探そうとしていたのに家がない、と言われ、名前は偽名なのか本名なのかわからないし、どこから来たのかもわからない。何かしらの手がかりをつかまないとここから動くこともできない。


「なあ、オリジン?」


 何を訊いたらいいのだろうか。彼女が答えられる範囲がいまいちつかめない。


「これからどうするんだ?」

「んー、またどこかに身を隠しながらこの街の外にでるよ」

「外、ってもしかして行く当てでもあるのか?」

「うん。聞いた話によるとね、あの壁の外の近くにわたしを助けてくれる人たちがいるんだ。多分そこまで行ったらもう追いかけられない」


 学術都市から外出する際には正規の申請書を書かないといけない、らしい。海斗は学術都市に入ったきり、『外』には出ていないので手続きがどんなものなのかは知らないが。


「そうなのか。でもどうやって出るんだ? 正式な理由がなければ『外』には出られないはずだぞ」

「え、そうなの!?」


 まったく知らなかったようだ。


「どうしよ、正式な理由ってたとえばどんなことなの?」

「そうだなー、親が倒れたから見舞いに行くとか、実家に帰るとか。……ぐらいかな?」


 そこからどこまでの範囲が『正式な理由』に該当するのかが海斗には分からない。そういう面倒なシステムをつくるから、こんな長期休暇でも実家に帰らない人が多いのも理由の一つなのかもしれない。


「ふぁ、ふぁあどうふればいいの?」

「こらこら、口のなかに物を入れたまま喋るな」


 街からの外出が可能かどうかが怪しくなってきたアナリアは、少し焦った様子ながらも熱いハンバーグを頬張っている。


「でも、それ以外の方法で『ここ』を出るのってないと思うぞ? 地下通路なんてものは聞いたことないし。もう強行突破するしかないんじゃね? ……命の保証はできないけど」

「安全な方法がいいんだよ!」


 と、言われても一ノ条海斗には『外』に出る手立てを講じることができるわけではない。


「…ったく、めんどくさいなぁ……」


 海斗が小声で愚痴をこぼした。

 すると。


「めんどくさい、だって…?」


 あと二口ぐらいで食べ終わるハンバーグと皿の三分の二程度残したライスを食べる作業を止めて少女は呟いた。


「じゃあなんであなたはわたしをこうやって助けてくれたのかな?」

「え、いや…」

「助けて、って求めてもないのに助けたくせになんでめんどくさいって言われないといけないのかな?」

「いやお前あれは明らかに助けを求めていただろうが!」

「でも助けたのには変わりないでしょ?」

「ぐっ…!」

「助けたのなら、最後まで手伝ってくれるのが常識なんじゃないの?」

「なんという理不尽なッ…!」


 フォークとナイフを持った手を机の上に置いたまま、「どうだこの野郎! ここまでいろいろと訊いてきたんだから最後まで手伝ってくれるつもりなんでしょうね!」というドヤ顔で胸を張っている。最近の女の子というものはここまで図々しいのか?

 だが、このまま少女を放って帰るつもりは彼にはなかった。


「……仕方ないな」


 そう言わざるを得なかった。


 だがこの時、一ノ条海斗はまだ彼女がどんな人物で、どれだけの危険から逃れてきているのかを知らない。


 こんなちっぽけな少女なのに。


―――――――――――――――――――


「ごちそうさま!」


 食らい尽くしたすべての食材に感謝するようにオリジンが言った。


「でもまだ食べれるかも」

「あんなにおいしそうに食べてたのに!?」


 質より量が問題だったのだろうか。少し不満げに少女は呟いた。


「じゃあ行こっか」


 海斗は支払い料金の書いている紙をとり、席を立つ。

 行こっか、と言ったのはいいが、まず彼女を『外』に出す方法を考えないといけない。だが、あいにく海斗にはゲートをぶっ壊して強行突破をしたり、警備員を洗脳して目の前を通り過ぎていったりするとこはできない。


 一ノ条海斗は無能力者だが、なぜか他人の能力を『覚える』ことができるのだ。しかも、3つまでという高性能である。今はまだ何も『覚えて』はいないので完璧な無能力者だ。


 だが、そんな便利機能を持ってしまったせいなのか、記憶力の面に支障がきたされているかもしれないということを愛宮に告げられて知ってしまった。この頭の悪さはそれのせいなのか、という勝手な妄想を抱いている。


 支払いが終わり、店をでると本格的にどこの方向へ向かえばいいのかわからなくなってしまった。昼を過ぎても暑さが身を焦がす。


「とりあえず、ゲートに向かってみるか」

「わかった! とりあえずあなたの言うとおりに動くからよろしくお願いします」

「そのあなたって言うの、なんか変な感じだからそろそろやめない?」

「え? でもまだ名前を…」

「あれ、言ってなかったっけ? 俺の名前は一ノ条海斗。海斗でいいよ。よろしくなオリジン」


 色々とありすぎて忘れて自分の自己紹介を忘れてしまっていた。海斗が名前を言うと、


「よろしく! かいと!」

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