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part 6 少女

読んでいただき、ありがとうございます。

「――というわけでして」

「というわけでして、で分かるわけないだろこの馬鹿野郎!!」


 愛宮燈音の叫び声が店内に鳴り響いた。それは海斗の鼓膜に突き刺さる。

 一ノ条海斗の隣にちょこんと座る少女はその音には動じず、机の上に広げられたメニューを見てよだれを垂らしている。


「頼むよ~この子の分はまた後で払うからさ~」

「なんでわたしが見ず知らずの子に奢らなきゃダメなわけなの!?」

「かといって、そのままほったらかしにするのもかわいそうだろ?」

「それは! ……そうだけど」


 海斗でさえ知らないこの子を、愛宮が知っているはずもなかった。少女はメニューに写真付きで載せられているお子様ランチのページを開いて、「なんでも食べていいの!?」と海斗に訊いてきた。「ああ、いいぜ」と気前よく答えるが、この場でお金を払うのは愛宮だ。なので今、海斗はどこから来たかもわからない少女のために必死に貸金を提供してもらおうとしているのだ。


「でも、その子それからどうすんのよ。これから今日一日潰してでも家を探してあげるの?」

「それは…」


 言葉に詰まる。

 それ以降のことは何一つ考えていなかった。

 ただ単に家を探すとしても、まずこの少女の格好だ。半分裸の状態のまま、一緒に街中を歩いていると恐らく変な目を向けられるのは海斗のほうだろう。


「てか、なんであんたそんなにその子の面倒見ようとするの? もしかしてロリコ…」

「それは絶対に違います!」


 きっぱりと断言した。そんなやましい思いを抱いて少女を助けたわけではない。どちらかといえば、さっさと家に帰してやりたいと思っている。


「頼む! ほんの少しでいいからこの子に食事と服を提供してやってくれ!」

「なんであんたに請求されなければなんないのよ……」


 助ける理由もない。むしろ、飲み物を入れてさっさと席に帰ってきてもよかったと思う。だが、そのようなことを一ノ条海斗という人間はできない。面倒見がいいとか、そういうものでもないのだが。


 愛宮はチラリと少女の顔を見たあと、「あ~あ」と独り言をつぶやいてから面倒そうに言った。

「……仕方ないわね」

 ブランド物の鞄の中からそれまたブランド物の財布を取り出した。愛宮は財布を開くと五千円札を取り出し、海斗に差し出す。


「あ、ありがと」

「絶対に返しなさいよ」


 むすっとした表情で愛宮は海斗を睨む。


「分かってるよ」


 差し出されたお札を手に取り、海斗は少女に向けて「きまったか?」と訊く。


「じゃあ私もう帰るから。あんたの分は払っとくわね」

「え、一緒に探してくれないのか?」

「あなたほど暇ってわけじゃないのよ」


 愛宮は机の片隅に置かれている、斜めにカットされた透明の筒からレシートを取り出すと、席を立った。


「そっか。じゃあまた今度な」

「じゃあ、また」


 今日は気分がよかったのかな、と海斗はレジに向かう愛宮の背中を見て思った。普段なら飯を奢ったり、お金を貸したりはしてくれない。なのに今日はいつもとは違う。


 愛宮の座っていた席に海斗が座り、少女と向かい合わせになる。美しいほどに輝いている黄緑色の瞳はハンバーグがたくさん載っているページに釘づけだ。よだれが空いた口元から垂れている。


「ねえねえ! これ食べてもいいかな!?」


 興奮気味に少女はメニューの一部分を指さして言った。どれどれ、と海斗は指さされた部分に目を向ける。そこには『デカい! 美味い! デカい!! 超スーパーデラックスハンバーグ二九八〇円(税込)』と、メニューの見開き半ページがつかわれている部分を指さしていた。


「それはさすがにダメだ! 高すぎる! そして、多すぎる! それティッシュの箱ぐらいの大きさのハンバーグと山のように積み上げられたライスが運ばれてくるんだぞ! そんなバケモノ食えるか!」


 まずこの少女が完食するとは思えない。

 海斗があと二人いるぐらいでギリギリ完食できるようなレベルだ。しかも高カロリーなのは目に見えている。女性なら何かしらの意識はしてしまうだろう。だが、そんなものを気にすることを忘れてしまうほど、この子はお腹が空いているのか?


「えー…ダメなの…?」


 急に表情が落ち込み、とても残念そうに海斗の目を見ている。先程までの元気はどこにいってしまったのだろうか。その顔を見てしまうと、なぜだか罪悪感を感じてしまう。


「ぐっ…! それはダメだ、それ以外のものだったらいいが」


 限られた金銭のなかで、むやみやたらに高額商品を買ってはいけないのは分かりきっていることだ。この子は四桁の数字を読めないのかとすこし疑問に思う。


「じゃあこれは?」


 次こそは普通のものを選んでほしいと思いながら、海斗はまた指さされたメニューを覗く。

 そこには『ビック! 大盛りカルボナーラ一二六〇円(税込)』とかかれて、


「いやいやいや! ちょっと待って! 君の目には『デカい』と『ビック』しか目に留まらなかったの!? そして遠慮ってものがないのかな君には!? もう少し選ぼうよ!」


 確かに何を頼んでもいいのか、と訊かれて快諾したのは海斗本人だ。だが、それでも何かしらの遠慮をすると思っていた。何も食べていなくて倒れそうになったところを見ず知らずの男の人に飯を奢ってもらうという状況で、ここまで遠慮なく高価でビックサイズのものを頼むこの子は相当腹が減っているのだろう。だが、それは誤算だったようだ。


「じゃあこれ…」

「それも高いから! そしてこれも量が多い! ああもう、こっちのまあまあな感じで量が多くてリーズナブルなものにしときなさい!」


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