part 4 虚無
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声のするほうを振り返ると、そこには今一番会いたくない人物がふてくされた顔をしながら立っていた。
「……またか」
ため息交じりに海斗は吐き捨てた。すると愛宮はじろじろと海斗を見て、
「あらぁ? なんで楽しい休日が続くゴールデンウィークなのにあんたは制服姿なのかしら?」
え? 補習ですか!? 超うけるんですけど! マジお疲れ~という言葉がだだ漏れの愛宮の表情に、疲れ切った海斗は怒りを感じることさえなかった。
「はいはいそうですよ。さっきまでわたくしは補習という尋問を受けてましたよ。いーじゃないですかゴールデンウィークに補習。これで次の定期試験で高得点間違いなし!☆」
「……あんた、何言ってんのよ」
「すみません」
愛宮燈音は海斗よりかは頭はいいが、校内一賢いというわけではない。
「あんたってほんと頭悪いよねー。特に暗記するタイプの問題。国語とか数学とか、考えるのは普通なのに」
「ですねー」
反論する言葉もない。
「あれじゃないの? あんたの能力。ただでさえ非常識なんだからデメリット的なものじゃないかしら」
一部の能力者にもそのような欠点が身体に現れる事情もある。
人の能力を3つまで覚えることができる能力。それの影響によって一ノ条海斗が日常生活で記憶する容量が狭められているとでもいうのか。そんな副作用があるならこんな力要らねえよ!
「…いや! それはないだろ! 俺の努力が足りなかっただけかもしれないし、そんな『能力の影響』とかに分類されるのなら俺はとっくに能力者として扱われるだろ!そんなの絶対にないって」
「いや? わかんないわよ。私の友達で能力を使用したら頭痛や吐き気のみたいな症状になったりする子もいるわよ。医者は多分身体が演算に追いつかないから発症する、って言ってたし。あんたのその頭の悪さも、もしかしたらそういうものなのかもしれないわよ?」
「………………………………………………………………………………マジかよ」
突然現実を突きつけられて海斗は身体が硬直していた。もしかしたら……、とは思っていたが、もしそれが本当のことなのならば、愛宮の名前を海斗が覚えられないのもそのせい、という理由ができる。
「はぁ…。なんだか悲しくなってきたわ。自分がどれだけみじめなのかが今日一日でものすごくわかった気がする…」
一ノ条海斗のお腹が追い打ちをかけるように音を発する。立っているのもやっとの状態で足止めを食らっているともう歩くことすらしたくなくなってきた感じがする。
「…なに? お腹減ってるの?」
声を発したのは愛宮だった。
「まあな。まだ昼食ってないし」
もうすぐで午後一時になる。そろそろ気温が一番高くなる時間だ。それまでには家に帰りたいな、と思っていると…。
「じゃ、じゃあ、ご飯、行く?」
「えっ?」
突然の出来事で海斗はその言葉の意味がすぐには分からなかった。段々と言われた言葉の意味を理解し始めると海斗は重要なことを愛宮に伝える。
「あー。今すぐにでも飯を食いたいんだが、今日財布忘れててな。一円も持っていないんだわ。だからまた今度な」
「別にいいよ。奢るよ?」
「……はい?」
普段このようなことを言われたことはない。恐らく、今まで愛宮燈音と関わってきたなかでここまで親切にしてくれたのは初めてのことかもしれない。普段の愛宮燈音なら、「…ぷっ! そのまま何も食べることができずに餓死してそこの歩道で野垂れ死にすればいいのにッ!」という罵声をかけてくると思ったのだが…?
「もしかしてあれか? 今日奢ったから今度はもっと高いところで奢りなさいよ、的な感じの奴ですか?」
「違う違うそんなことない! 後から報酬とか求めたりとかしないから! 何となく誘ってみただけだから! ほんとにいいなら連れてかないわよ! どうするの!? 行くのか、行かないのか、どっち!?」
頬を赤らめながら少しむすっとした態度で愛宮は海斗を睨む。絶対に裏があると考えている一ノ条海斗だが、それでもこの空腹では思考回路が正常に作動しているのか分からない。
さらに催促をかけるようにまた腹の底から音が響く。
「……おねがいします」