part 38 優しい大黒柱
読んでいただきありがとうございます。更新が遅くなってしまい、大変申し訳ありません。
「え、まって。俺の脳内整理をさせてくれ」
――ここが家?
今いるのはお城、そして住民票の登録ができる受付窓口だ。海斗達以外にも何人か受付で会話していたり、待っていたりと自由に人が出入りしている。ここのどこが家だというのだ。まったくもって、
「うん。イミワカンナイ」
「はあ……」
九条がうんざりした様子でため息をついた。理解できないのだから仕方ないだろうが。
「まあ、ついてきたらわかりますよ」
そう言って海斗に背を向け、外へと歩き出した。
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「ここが玄関です」
先程の受付の場所から少し離れた位置に、大きな鉄格子があった。そこで九条は門の真ん中の位置で立ち止る。そして目の前の板のようなものに手を触れた。
「……?」
数秒間触れるととビーッという作動音とともに、音を立てながら鉄格子状の扉が開く。
「見た目より随分と近代的なものをつかってるんだな」
これだけ大きい扉となると、数名のお世話係の人が開きに来るのかと思っていた。それにモダンな街の風景の割には自動ドアや指紋認証機器があるのに少し驚いた。
「これがアエラムの一つの特徴というところでしょうか。初めてこの国に来る人は良く驚かれますよ。他の国では近古混合の街、と言われているらしいです」
――近古混合、か。
街のイメージを壊すことなく、自然に溶け込ませているのがこれまたすごいところだ。九条が指紋認証の機器に触れていたが、それも最初見ただけでは機械とは思わせない、ただの飾りのついた鉄板に見えている。そういう機械があるのを知らない人は恐らく彼女が何をしたのかもわからないだろう。
「他にもいろいろなところでこのような発展しているところは街を歩いていれば見られますよ」
城内に入る。整えられた芝生、庭の中心には陽に照らされ輝く噴水、そこへつながる石の通路。
「こりゃまた広いな」
ここで寝泊まりするとは考えられない。
「さあ。中へ」
――――――――――――――――――――
「…………、」
「どうしたんですか?」
海斗は無言で、周りをじろじろと見ていた。
家の玄関というより、城門が開かれると、床には真っ赤なレッドカーペットが敷かれていた。思ったより玄関内は狭かった。が、海斗の玄関の何倍もある。外からの様子だと奥はもっと広いのだろう。置かれている物はほとんどが高そうに見える。天井からぶら下がっている、薄く橙色がかったシャンデリアの光がこの一室内を包んでいる。
受付に行った時もそうだったが、やはり雰囲気が違う。住んでいる世界が違うとはっきりさせられている気がする。
「もうなんか、驚かなくなっている自分が怖いよ。もうどんなことがあっても驚かないかも」
「どういう意味ですか?」
「いや別に」
これが現実、というのを信じざるを得ないのだから、現実逃避ではない。
「客人か、神奈」
ふと、上方から少し枯れた声が聞こえた。
「それにアナリアも連れて帰ったか……。よくやってくれた」
目の前にある階段に一人、誰かが立っていた。シャンデリアの光が顔を照らす。
その顔は、人間に角を生やした形相だった。如何にもボス的な匂いがする。服装も見たことのないようなもので、目に慣れない。
何というか、心がもやもやとする。
男の顔を見る。髪は燃えるような紅色だ。少し顔にしわがみられる。
そして何より衝撃的なのが、目だ。通常なら白い部分が、その男は真っ黒で、瞳が赤く濁っている。少し目が合ったが、ぞわぞわっと背中がむずがゆくなる。威圧感をものすごく感じられる。
「はは。そんなに怯えることはないぞ。客人」
男は少し声を上げてがははと笑った。それに対して海斗は「……ははっ」と、口元に笑みを取り繕うことしかできない。
するとその男に、
「おじちゃんただいまー!!」
と、アナリアが飛びつく。すこしひやっとしたが、それを受け止めると男は「大丈夫だったか、アナリア」と声をかけた。まるで父と子供のようだ。見た感じだとアナリアの心配する必要もないだろう。
「ただいま、お父様。この方は一ノ条海斗です」
「ああ、先日聞いた者か……」
他に周りには誰もおらず、目の前の男、九条、アナリア、自分の四人しかいない。
「ここに来る予定はなかったのではなかったか?」
「それがですね、いろいろとありまして……」
九条は返事する声が段々と小さくなり、男から目をそらす。何と言ったらよいのか分からなくなってしまったのだろう。何てったって、こうなるのは予測できていなかったのだろうし。
「まあ、この時間にここへ来るということは何かあったのだろう。中へ入って話を聞くとしよう」
――――――――――――――――――――
「――まったく、お前らしいミスをしたな。神奈」
そういわれると九条はえへへ、と申し訳なさそうに笑う。
「そうなってしまったので、まあこの男にはこちらで少し生活をしていただこうかなと……」
「ここで住むのはいいが、向こうの生活面は大丈夫なのかね、一ノ条君」
「まあ、大丈夫ですよ」
「そうか」
学校に行くことと、食事ができることと寝ることができるのなら文句はない。
「あと俺のことは海斗でいいです」
「そうか、ならそうよばさせてもらうよ」
「でもなぜ今日からにしたのだ? すこし間をおいて準備が整ってからでも遅くはないが」
「それは……」
そう呟きながら、海斗は九条に視線を向ける。
「……なんですか」
「……なんでもねえよ」
二人の表情を見て炎髪の男は何かを察したのか、「そういうことか」と言う。
「まあ、部屋は余っているからどこでも使うといい。それと何か困ったことがあったら何でも聞きなさい」
「すみませんお世話になります」
海斗は一礼した。
「ところであの、名前は」
失礼なのかもしれないが、名前を知らないのもどうかと思うので恐る恐る訊いてみる。
「ああ、挨拶がまだだったか。私はこの国の王、ワドウッド=エイマドだ。以後よろしく頼む」
「どうも……、って国王なのか!?」
どうりで貫禄がある格好や顔つきだ、と感じた。
「それと神奈の父でもある」
「え、え、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええ!?!?!?」
前言撤回、驚くことはまだまだありそうだ。
書いてて楽しかったです。




