part 13 揺らぐ意識
読んでいただき、ありがとうございます。
他人の空似、なのだろう。
そう思いつつも愛宮はあらかじめ追加しておいたはずの一ノ条の連絡先を探す。顔と顔を向けて話はするが、電話やSNSでは全く話していない。連絡をとる必要があれば、という非常用で追加しておいたのだ。
盾や横にスクロールして探し、ようやく出てきた連絡先の通話ボタンを押す。
もしかしたら一ノ条もその場にはいないのかもしれない。偶然、赤の他人の二人が食事をしているだけだろう。少し間をおいて、一ノ条が電話をとった。
すると『なんだ。人助けでもする気になったのか?』と、質問するつもりが先に訊かれてしまった。私用で電話をかけただけなので別にそんなつもりはない、という意思表示をすると、嘘つけ、金を返せと催促するつもりだろう、と訳の分からないことを言われた。まるでいちゃもんをつけるクレーマーのようだ。
『それよりもあんたまだファミレスにいる?』
訳の分からないことをぐだぐだ言われる前にそのことを確認することが優先だ。もしも、居るということは一ノ条が来店していることは確定することになる。そうなれば、一ノ条の前にいる女性が誰なのかを把握しないといけない。
だが返ってきた答えは違った。既に店を出てしまったらしい。
しかしそうなると、友人の見間違いではない限り、一ノ条は『愛宮燈音』らしき人物と食事をしたことになる。一ノ条に今一人かどうかを訊くと、『さっきの子だよ』と言われた。『愛宮』とではなく、別の誰かと行動をしているらしい。
だがそのような人物は今の愛宮からすると、どうでもよかった。むしろ、愛宮燈音のふりをして、どこかに消えてしまった『愛宮燈音』がどこにいるのかが知りたい。
その上、一ノ条の話している雰囲気が、先程まで一緒にいたからわかるだろう、ということを言われるので、ほぼそのような人物がいたことに確定することができる。
怖い。
恐ろしい。
そのような感情が心の中から滲み出てきそうだ。首元や手首に指を添えて心拍を計る必要もないくらいに、心臓の音が身体を伝わって耳に届いている。
『今どこにいるの?』
このような事実を知った後に、悠長に紅茶など飲んでいられる気分ではなかった。一度合流してそのことを話そう、そう思って愛宮は一ノ条の居場所を訊く。恐らく自宅か、ファミレス近くにいるはずだろう。そう考えていたが、一ノ条は町の西ゲート付近だと言う。そんな工場や研究所だらけの地帯に何の用があるのだろうか、と愛宮は少し疑問になった。だが恐らく、一ノ条とともに行動している人物が関係しているのは間違いないだろう。
しかし、愛宮は一つ思い出したことがあった。
今のこの昼ごろの時間帯は、西ゲート付近は全くと言っていいほど、人通りが少ない。確実に誰かがいる場所はゲートと外を行き来するところに駐屯している人ぐらいだ。それ以外は、会社や研究所のなかで働いている。
この暑いなか、そんな無人のコンクリート壁に囲まれた地帯に望んで行くものはいないだろう。むしろ、今その地帯にいるのは一ノ条と同伴している人物ぐらいだと愛宮は推測する。
何となく、愛宮は周りを警戒するよう指摘し、電話を切った。もし、愛宮燈音を装う人物が、偶然ではなく、何らかの目的で一ノ条に接近したとするならば、愛宮だったら人気の少ない場所を選ぶだろう。そう考えると、今の一ノ条の居場所は、狙われる絶好の機会を自らでつくってしまったのかもしれない。
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もし一ノ条海斗の『異能』が正式に能力として認められていたら、きっと彼はランクの位など関係なく、超能力者と同じくらいの影響力で噂され、知る人ぞ知る有名人になっていたかもしれない。
つまり『人の能力を覚える』というものは、極めて希少な存在なのだ。愛宮燈音が珍しがるのも無理はない。最強とさえいえる超能力者の能力を簡単に覚えることさえできるのだから。
条件である『覚えられるのは三つまで』というものだって、三つの超能力者の能力を記憶することができれば、愛宮以上の存在になるに違いない。『一人につき、能力は一つまで』という、この都市の常識からかけ離れている時点で、イレギュラーな存在であることに変わりはない。
これだけ最強である『異能』の力が、世間に認められないのがとてもおかしく感じる。
まるで、一ノ条海斗の保持している『異能』はあえて隠されているかのように思えるほどに。
だが、その力もこの場では何の役にも立たない。
(……俺の日常は、もっと穏やかな雰囲気だったのに)
勝てるとは微塵も思っていない。
ただオリジンが逃げる時間を稼げるのなら、何でもよかった。
だが、死ぬのは嫌だと、あの子を守ると決心した今でも思う。
迫る恐怖が、身体を震わせる。
九条は黄金の槍を片手に形成する。現代的なデザインなのも、彼女があえてそのようになるように形成しているのだろうか。
九条が大きく足を踏み込む。
また投げてくる、そう思った海斗だったが違った。投げる構えではなく、正面に突きつけるように向けた状態で海斗に接近する。腹を串刺しにするのだろう。だがその場合、投げた時よりかは断然速度が落ちる。
海斗は正面を向き、構えて九条を睨んだ。もしかしたら、落下してくる小さな槍の時のように注意をそらして不意を突いてくるかもしれない。
だが、それは見当違いだった。槍を前に向けて真っ直ぐ突進してくる九条は顔色一つ変えずに向かってくる。
「――ッ!」
身をよじり、ぎりぎりのところでかわすことができた。本当にそのまま突進してくるとは思っていなかったのだ。
しかし、つかの間の休憩などは全くない。
「ふらふらしていると死にますよ?」
九条の履いているスニーカーが地面との摩擦で甲高い音を出す。
それにより九条の身体は急停止した。半歩程後ろにいる九条が持つ槍が、横に風を切る音とともに横に振られる。
「ぐ、はっ…!?」
腹部に槍の柄の部分が直撃した海斗は勢いよく地面に転がる。
三メートルほどある槍を九条は振り回したり、投げ飛ばしたりするのに、華奢な腕をしていた。普通の人間なら持ち上げることもできないだろうし、たとえ持ち上げられても投げることはできないだろう。
一ノ条海斗の身体は地面に背中から激突し、勢いよく転がる。勢いはすぐには止まらず、ただ身体が自然に止まるのを待つことしかできなかった。
数メートル程地面に全身を打ち付けられた後、一ノ条海斗の身体は転がるのを止めた。地面にぐっだりとする。口のなかが切れたのか、血の味がしており、気持ちが悪い。
「…覚悟を決めたのではなかったのですか?」
呆れた表情で九条が地面に転がる海斗を見て言った。一ノ条海斗はふらつきながら無言で立ち上がり、構える。その様子を見て九条は、
「私を殺すつもりでこないと、あなた死にますよ」
槍の直撃した腹部に重い痛みが生じる。日常でこのような痛みが身体を蝕んでいたら、きっともがき苦しんで呻いているだろう。だが今の状況ではそのようなことさえもできない。呻いたりせず、無言でその痛みを噛み締めているほうが今の状況ではいいことなのだろう。
無言で何も答えない海斗を見限ったのか、九条は更なる一手を繰り出す。
「『リターン』」
呟くと、手に光の粒が集まりだす。
「…これはさっき言った、八つの形態とは全然関係のないものです」
そして。
「『シャドウ』」
先程までは目視できていた黄金の槍が、うっすらと透明に消えていく。海斗が一度瞬きをすると、既に槍は目に見えなかった。凝視しても、光の粒一つ見えない。
一気に身体がこわばる。
意識が朦朧としているので、最初は見間違いか、もしくは幻覚でも見ているのかもしれないと思っていた。
だが消えたのは本当で、九条の手に槍が握られているのかも、ただ握っているように装っているだけなのかもわからない。九条は表情一つ変えずに次の行動に出る。
「『ブレイク』」
九条が呟いても、何も様子は変わらない。周りを見渡しても、足元に視線を向けても何も変わりはない。それがさらに緊張感を増幅させる。この場を動いても大丈夫なのか、動いたら何かが発動するんじゃないのか、という複数の予測をした思考が、頭の中いっぱいになる。
「『テイク』」
またもや、周りに変化はない。もしかすると、自分をだますためにそのようなことを呟いているのではないか、と思っていると…。
次の瞬間、九条が指を鳴らしたときに、驚愕の景色が目に入った。
「…あ」
九条神奈の背面上方に、ぱっと見たところでは数えきれないほどの黄金の槍が一気に現れた。それは『アスぺリアス』と同じくらいの長さと細さの槍ではあるが、数は比ではない。これほどまでの応用力のある能力は初めて見る。だがそんな悠長な考えをしている暇はなかった。自然と足が後ろへと下がる。
「ターケットを捕捉。発射」
言葉の後、槍先が一斉に海斗の方を向き、弓矢のように発射される。
「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああがっ!?!?」
逃げる海斗の背中に槍が刺さる。すると刺さった衝撃が原因なのか、足がもつれて自分自らこけてしまう。
そして。
ドスドスドスッッッッ!!!!
容赦なく一ノ条海斗の身体に槍が刺さる。




