2.はじめに
このエッセイを閲覧している人の大半は、パソコン、あるいはスマートフォンのブラウザを用いているはずです。そこで一旦このタブから離れ、べつのタブから検索エンジンを開いてみてください。そして検索ボックスに「小説」と入れ、enterを押してみましょう。1ページ目以内に「小説を読もう!」あるいは「小説家になろう」がヒットするはずです。
無料小説投稿サイトである「小説家になろう」は、2015年1月末現在において、登録者数531,000人、投稿小説296,000件を記録する巨大サイトとなっています。
ちなみに2014年8月末においては、472,000人が登録していました。この数字をそのまま信じるならば、わずか4ヶ月あまりのうちに、新規ユーザーを6万人近く増やしていることになります(2013年の時点では、PVが1日あたり2000万件、ユニークアクセスは1日あたり80万件となっているそうです。詳細はkai-you.net/article/6995、2014年8月31日閲覧)。
――……
「小説家になろう」で活動している書き手の多くは、自らの作品にどのくらいのブックマークがつくかを気にしていることだろうと思います。
その中で、次のような意見を心に抱いたであろう書き手の方は、少なからずいるのではないでしょうか;
「ランキングの上位には1000や2000、果ては10000を超えるようなブックマークを確保している作品がある一方で、自分の作品はブックマークが1件や2件、10件もいくのがやっとな作品がばかり。これはどういうことなのか」
このような考えは、書き手に限らず、読み手の人の中にも宿る疑問でしょう。なぜこれほどまでに格差が広がっているのか? そしてその格差の原因には、いったい何が存在しているのか?
PCのブラウザを開いている人がまだいるならば、今度は某大手匿名掲示板サイトをのぞいてみましょう。「小説家になろう」のスレッドと同じ掲示板内で「マイナーの集い」というスレッドも並存しているはずです(「はずです」と言ったのは、現在私がそこを利用していないため、実情が不明であるためです)。
そのスレッドには「ブックマークが100件以上の作品を有している作者は、掲示板に参加しないこと」という内規が設けられていたはずです。
なるほど100という数字はキリがよいため、目標とするには充分な値と言えるでしょう。ですが、この「ブックマーク100件」というルールには、はっきりした数理的な根拠があるのでしょうか。あるいはそもそも「数理的な根拠」を主張できるほど、「小説家になろう」のブックマーク数には構造が機能しているのでしょうか。
このテキストは、「小説家になろう」で語られている数々の疑問点を、できる限りの説得力をもって説明することが目的です。
上述した「ブックマークの格差」については、ある程度数理的に解釈を与えることができます。格差の正体を数理的にはっきりさせることで、「格差に対して個々の書き手は何ができるのか」が分かります。
そして、それさえ分かってしまえば、書き手がブックマークの少なさに悩むことは少なくなります(もちろん、少ないよりかは多い方がいいに決まっているのですが)。
――……
ブックマークについての考察に続いて、「ポイント」、「感想」そして「なろうテンプレート」についても、随時考察を進めてゆきたいと考えております。
たとえば、こんな経験をした書き手の方がいるはずです;ある書き手が自作品のユーザーページを覗いてみたところ、「文章:ストーリー=1:1」の評価が入っていました。
「くそっ! 全然評価されていない!」
怒り、もしくは落胆に身を委ね、書き手はその作品を削除してしまいます。ところが、評価をつけた当の読み手は、作品が削除されていることを知って愕然とします。なぜならば、その読み手は加点方式で評価を入れる人だったからです。
上の例はやや極端ですが、読み手と書き手の認識の齟齬が、「ポイント評価」制度において生じてきます。この問題を書き手側がいかにして捉えるべきかもまた、重大な問題といえそうです。
こうした問題意識を有している方は、私以外にも大勢いると思います。「エッセイ」のジャンルには、こうした問題意識に基づいて書かれたであろうエッセイも数多く存在しています。
ですが、そのような過去のエッセイは、なるほど共感を誘うようなエモーションについては述べられているものの、しかしそのエモーションの原因にまで焦点が当たっていないものが多いように見受けられます。
たとえば、「なろうではあるジャンルだけがもてはやされるが、これはいけないと思う」というような。確かに共感する人はそれなりにいると思いますが、しかしなぜ「なろうではあるジャンルだけがもてはやされる」のか、そして本当に「そのことはいけないこと」なのか、というところにまで目を向ける必要があると筆者は考えます。
次回は、「小説家になろう」におけるブックマークについて考察を進めていきたいと思います。