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19.「小説家になろう」で実施されるジャンル変更が、何をもたらすのかについて

 「ジャンル変更のお知らせ(http://syosetu.com/teaser/genre/)」が、2015年12月21日に「小説家になろう」の運営から発表されました。


 詳細はURLを見ていただければはっきりするのですが、大きくまとめると「①今まであった16のジャンルは再編され、5個の大ジャンルに仕切られた19の小ジャンルへと変貌すること」、「②『異世界転生/転移』キーワードが設定された作品は、それ専用のランキングにおいて集計されること」というという特徴を見出すことができます。


 筆者の知るかぎりでは、書き手はおおむねこのジャンル変更を好意的に受け止めているようです。とりわけ「異世界転生/転移」モノ以外の作品を書いている書き手の方の間には、「自分の作品に対する注目度が上がるのではないか」といった希望も生まれていることでしょう。


 しかし、本当に上手く行くでしょうか。この問題については、以前書いた別のエッセイにおいて、駆け足で論じました。今一度、「ジャンル変更」の意味について検討してみましょう。


 まずは「ジャンルの細分化」について。多様性を認めるという観点からすると、一見意義のある変更のように見えます。しかしこの問題を検討するに際しては、そもそも「ジャンル」というものの起源について理解しなくてはなりません。


 ここで「ジャンル」という概念自体が、近代以降に西洋で確立されたものだということに留意する必要があります。近代以前、まだキリスト教が絶対的優位に立っていた時代においては、宗教が総合性を担保する礎として機能していました。ところが、近代以降にその機能が衰えるにつれ、統合されていたものは結びつきを失い、やがては自分の存在理由を自分で証明する必要性に迫られることとなりました。それゆえ、文学は文学らしく、絵画は絵画らしくというように、個々のジャンルが屹立するようになったわけです。


 上の説明だけ見ると、大げさな話に聞こえるかもしれません。しかし、ジャンルによって区切られたものは、異分子をできるかぎり廃除しようと努めます。それは19個の小ジャンルを眺めてみれば、おのずと明らかになることでしょう。「ファンタジー」ジャンルの黎明期においては、誰も細かな区別など考えもしなかったに違いありません。しかしいつからか「ローファンタジー」や「ハイファンタジー」などというジャンルが派生(分化)するようになりました。「ジャンルは生き物のようなものだ」と言えば、何か意味深な響きがありますが、今「ジャンルの細分化」という方向に「小説家になろう」の運営が舵を切ってしまった以上、これから先も度々「ジャンル変更」の必要性に迫られるのではないかと私は考えます。


 次に「異世界転生/転移」が、別のランキングへ特別に抽出されることの意義について考えてみましょう。「『異世界転生/転移』を別のランキングに組み込むことによって、『小説家になろう』に多様性をもたらそうとしている」と考えている方がおられるとすれば、それは誤りです。なるほど「異世界転生/転移」のタグを組み込まなかった場合、罰則規定に抵触するという処置は、一見すると上記の考えを補強する処置のように見受けられます。


 ですが、この処置の妥当性については、多くの留保をつけて考えなくてはいけません。まず「多様性をもたらそうとしている」という言葉の裏に「他のジャンルの作品にもブックマークが増えるだろう」という含意が込められているのだとしたら、それは見込み違いというものです。何度も説明している通り、インターネット上のコンテンツは、すべからくパレートの法則に従うためです。次に「『異世界転生/転移』を必須タグにした」ということは、「多様性をもたらそう」とする処置ではありません。むしろ逆に「『異世界転生/転移』は、『小説家になろう』の人気ジャンルである」ということを、運営が間接的に承諾したことを意味しているだけです。


 このように考えてみるかぎり、「『ジャンル変更』によって『多様性』が生み出される」という主張には、大きな疑問の余地があります。もちろん「ジャンル変更」によって読み手は作品を探しやすくなりますし、書き手は冒頭にかかる負担を軽減することができるでしょう。しかしもし「『ジャンル変更』によって『異世界転生/転移』以外のジャンルの作品もブックマークが増えるようになる」と考えているのならば、それは誤りです。たびたび指摘しているように、個々人が納得のいく作品作りを行なうことが、本当の意味で「多様性」をもたらすための、一番の近道なのです。

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