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18.「カクヨム」について

 KADOKAWAとはてなとが運営する新・小説投稿サイト「カクヨム」が、2月末にオープンするそうです。この話が持ち上がったのは2015年の10月頃であり、その当時はそれなりに話題となりました。「小説家になろう」に軸足を置いている書き手の方の多くも、「カクヨム」の動静に少なからぬ関心を抱いているはずです。


 改めて指摘するまでもないことですが、


①大手のレーベルが小説投稿サイトを作ろうとしていること、

②PCだけでなく、スマートフォン向けのアプリケーションも準備していること、

③KADOKAWAの人気タイトルについて、二次創作を作ることが許容されていること、


 などが主要な特徴として挙げられます。よく言えば、「組織力の高さを活かして、鳴り物入りで小説投稿ポータルに参入しようとしている」と言えるでしょう。また悪く言えば(有り体に言ってしまえば)、「『小説家になろう』のパイをせしめようとしている」と言うこともできるでしょう。


 「小説投稿サイト間の勢力図が書き換えられるか否か」という問題も、歴史学的・社会学的に考察すれば色々と面白いことが発見できるかもしれません。ただし、今回の目的はそこにありません。もっと個々の書き手に根ざした問題、つまり「『カクヨム』では、『小説家になろう』にはない多様性が生まれるのか?」という問題について、ここでは検討してみたいと思います。


 しかしながら、私たちはこれまでに「ブックマーク」、「評価」、「テンプレート」といった項目について、考えられるかぎりの考察をしてきています。ですから、ここではまず考察の結論から述べ、その結論が生じる背景を端的に素描するだけにとどめたいと思います。


 結論から言ってしまえば、「カクヨム」に「多様性」が生まれることは有り得ません。もっとも「小説家になろう」で人気の「テンプレ小説」が、「カクヨム」で通用するかどうかははっきりしません。しかし、その代わりに生まれるのは「カクヨム風のテンプレ小説」の出現です。


 具体的に言えば、「一部の作品にのみブックマークが集中すること」や「人気の出るジャンルが、ごく一部のジャンルに限られること」という状況は、「カクヨム」においても同じ状況だと思います。


 これはなぜか? 「インターネットがフラットな空間ではない」ところに、最大の原因があります。


 近年は教育課程において「情報」の授業が必ず組み込まれています。ですが大概の場合、そこで習うのは「PCの動かし方」や「ウェブサイトの仕組み」といった事柄であって、「ネットワークの構造」についてはあまり教えてくれません。「インターネットは平等な空間」という錯覚を、未だ多くの人は抱いているのではないでしょうか。


 なるほど、インターネットはオープンな空間です。しかし「オープン」であることと「自由・平等」であることとは別の問題です。第一章「ブックマーク」で説明したところの「一部の作品に数万のブックマークがつく一方で、1、2件程度のブックマークしかつかない作品が数万作品存在する」という構造は、実はネットワークの不平等性を反映しているに過ぎないのです。


 「小説家になろう」における「ブックマーク」の格差に対する不満は、ひとえにこの「インターネットは本来平等な空間であるはず」という錯覚に原因があるのではないかと私は考えています。はじめからインターネットが不平等を助長する構造であると知っていれば、ブックマークの格差に悩むことがいかに無駄であるかということは自明です。第一章で「自分が面白いと思う小説を書こう」と私が言っているのも、このネットワークの構造を踏まえているからです。


 そして、ネットワークを規定するこのような格差は、ウェブコンテンツに作用するだけではありません。サイトそのものの、ネットワークにおける位置までも規定します。ちょうど数万のリンクを抱えているウェブサイトが2,3個ある一方で、2,3のリンクしかないウェブサイトが数万個あるように。


 したがって、「カクヨム」が「小説家になろう」以上の小説投稿サイトになるかどうかについても、私はかなり懐疑的です。「小説家になろう」のユーザが「カクヨム」に流入しようが、新規のユーザが過半数になろうが、上記の特徴は必ず現れるものと私は考えます。これらの特徴はネットワーク上にコンテンツを作る上では、宿命といっても過言ではありません。


 この予想が外れてくれればどれだけ良いことでしょうか。なるほど、KADOKAWAもはてなも規模の大きい組織です。ネットワークデザインに通暁している人材が、「カクヨム」の設計に携わっていることでしょう。それゆえに、上述の問題を克服するような仕様でサイトを設計することもおそらくは可能なはずです。


 しかしながら、それにはコストがかかります。KADOKAWAもはてなも、善意で「カクヨム」を作っているわけではありません。これは企業ですから当たり前もことです。有意な作品を手軽に見つける目的で小説投稿サイト事業を構築しているわけですから、基本的なシステムは「小説家になろう」のシステムとたいして変わらないのではないかと思います。


 何が言いたいのかというと、「新しい小説投稿サイトには希望が満ち溢れている」という楽観論で「カクヨム」に登録したところで、期待を上回るほどの結果は得られないだろうということです。


 「カクヨム」はウェブ小説コンテスト等も実施してゆくそうなので、当面はコンテストを目的として登録しつつ、以前登録しておいた小説投稿サイトにもアカウントを残しておくという方針を、浮き足立っている方々にはオススメします。

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