1話〜始動〜
どうぞお楽しみください。
誤字&脱字があればご指摘お願いします。
日本の東部に位置するとある場所にその学校は存在していた。
国立士官学校東部第3学校
人類がインベーダー、そしてジーンに対抗する為のPAのパイロット、PAの整備士、戦艦のオペレーター、艦長、その他様々、多種多様の、戦争で活躍する人材を育成する為に作られた機関。
人類がインベーダーとの戦いで失った人口、その数は計り知れず、その穴を埋めるべく人類は兵士としてジーンを開発した。
人類はジーンの力を得て、"一時的"に兵力不足を補った。
しかし、今となってはジーンは人類の敵となり、一時的に回復した人口不足、そして兵力不足は人類を再び悩まさせた。
そこで人類は数は少なくとも優秀な兵士を集めようと、子供の頃より兵士としての育成をしようと教育機関として士官学校を設立した。
その一つがこの国立士官学校東部第3学校だ。
「人類の為に戦え、か」
酷く憂鬱そうに、少年ヤガミ・アキラは呟いた。
その声は人生を楽しむ、などという音色ではなく。むしろ何かを悟った大人のような音色だった。
国立士官学校東部第3学校
それがアキラの所属する学校の名だった。
「なーに30代半ばで結婚に悩んでるような顔してんだよ」
「いや、そこは普通に何辛気臭そうな顔してんだよ、でいいだろ」
アキラの憂鬱な顔を見て彼の隣の席に座る生徒はそうツッコミを入れた。
なんとも反応のしずらいツッコミであったがアキラにとってはそんなこと日常茶飯事なのか特に気にすることなくそう返した。
「ただ単に疲れただけだよ、この生活に」
「ん、ってことはお前この学校辞めたいのか?」
「いや、そこまでは……」
確かに嫌だとは思ったアキラだったがそう簡単に士官学校を辞められないのは知っている。
アキラが思ったのはただ少しでもこの訓練するばかりの生活に何か目新しいことが起きないかという思いだった。
アキラが何を思いそんな顔をしていたのかを分かっているかのように隣の席の主ことタカミネ・タイトはこう続けた。
「まあ生き伸びればそのうち良いことあるだろ。生き延びる為にも今は耐えようぜ」
「へいへい」
タイトの言葉をアキラは軽く流し、次の訓練の準備を始めた。いずれ来る戦いに備えて。
「……あ、そだ」
「どうした?アキラ」
「お前に言い忘れてた、訓練用のPA調子悪いからって次の訓練射撃になったんだった」
……………………………
「ちょっ、え?え?嘘だろおい!?バリバリPA乗るつもりで着替えてたんだけど!」
「普通周り見れば気づくだろ、ってことでガンバ〜。ついでに教室の戸締りも任せた」
GLという意味を込めてアキラは握りこぶしから親指を上げ、タイトに答えた。
まあようするに、面倒くさい戸締りとかその辺のことは全部任せた!
ということだろう。
「え、なに。待ってくれるんじゃないのか?」
「なんで俺が待たないといけないんだよ?んじゃなー」
ガタン
無情にもアキラはタイトを残しアッサリと教室を後にした。
ポツーン
残されたタイトはというと……………
「ちきしょぉぉぉぉぉおおおお!!アキラの馬鹿野郎!!」
やり場のない怒りをこうして叫ぶことしか出来なかった。
こうしてアキラの日常は特に変わったこともなく過ぎていく。
この時のアキラはまだ知る由もないだろう。
己の運命と言う名の歯車が少しずつ動き出しているということを。
同日
とある森の中に1つの屋敷が建っていた。
決して古いわけでも、新しすぎるわけでもなく、まるでこの森が生まれた時からそこに在ったかのようにその屋敷は存在した。
"普段"ならばその屋敷は森の生き物達と共に静かに夜を過ごしていたはずだった。
「いや!誰か!誰か助けて!」
私は精一杯の力を込めて叫んだ。
あたり一面は燃え盛る炎の海、生きていたいと願う私にはあまりにも大きな絶望だった。
……ああ、私の人生もここまでですか。
短かったですけど、悪くない人生でしたね。
捨て身でこの屋敷から出ようにも、炎が屋敷全体に行き渡りいつ崩れてもおかしくない状態。
もし崩壊まで時間があるとしても周りの倒れた物が邪魔でこの部屋から出ることすら叶わない。
せめて、せめてあの子達だけでもっ……
ダッダッダッダッダッ
「おい!ファーストはまだ見つからないのか!」
「隊長!もうこれ以上は限界です!我々まで生き埋めになります!」
「………仕方あるまい、幸いセカンドとサードは確保した。ファーストは死亡したと報告しておこう」
「了解であります。早く出ましょう!もう時間がありません」
「よし、ついてこい!」
私の意識が消える前に聞こえたのは知らない大人たちのそんな会話だった。
「ちっ、間に合わなかったか」
目の前の惨状を見て彼はそう呟く。
彼の目の前には燃え盛る炎に包まれ、今にも跡形もなく崩れようとする屋敷があった。
その炎は全ての希望をも焼き尽くすかのように屋敷を焼き尽くさんとする。
「私は左回りに探します。兄さんは右をお願いします」
「了解。社長への連絡は俺がやっておく」
青年の隣にいた少女はそう指示を出し、その返事を青年がすると少女は頷き走り出した。
炎はこうして会話している間にも燃え広がっている。最悪の事態だけは避けようと青年_ハヤテも少女に続いた。
ハヤテはポケットから携帯を取り出すと社長と表示されている項目をタッチし電話をかけた。
「社長、現場に到着しました」
「ああ、んで状況はどうなんだ?」
「完全に先越されましたね。屋敷の崩壊は時間の問題でしょう。消化の方の連絡は頼みますよ」
「ったく、なんでアタシがこんな面倒くせえことやんねぇといけねぇんだよ。やっぱ引き受けるんじゃなかったな………とりあえず分かった。鎮火の方はアタシに任せろ。お前らは引き続き捜索に当たれ」
「了解」
ハヤテは返事と共に電話を切り、捜索の方へと本腰を入れた。
しかしこの炎の広がりようだ。とても生存者がいるとは思えない。そんな思いを抱きながらもハヤテは歩みを止めない。僅かな音、でも聞き逃さんと耳を傾け、何か小さな物でも見逃さないと目を光らせる。
しかし探し人は見つからず屋敷を一周してしまった。
「やはりそちらも成果はありませんでしたか」
「ああ、その様子だとお前の方もダメだったみたいだな」
到着し別れた屋敷の正面の真反対にてハヤテと少女は合流した。どちらも生存者は見つけられなかったようだ。
「どうします?これ以上の捜索は無意味と判断しますが?」
少女はそう指示を仰いだ。確かにハヤテらが到着してから時間も経った。普通ならここで諦めて帰還がセオリーだろう。
しかし……………
「いや、俺は一階の彼女達の部屋を調べてみる。シズノ、お前は俺がヤバくなった時の為に待機しておいてくれ」
少女_シズノはその指示を聞き数秒考える素振りを見せると頷き、了解という意思を告げた。
するとハヤテは屋敷の比較的火の少ないと思われる通路の窓から屋敷に進入した。
「おーい!助けにきたぞー!誰かいないのか!」
屋敷に進入したハヤテはある目的の場所を目指し進んでいた。この炎の広がりからしてあと数分持てばいい方だろう。
「あと一つ、頼むっ、無事でいてくれ」
微かな希望を胸にハヤテは進んだ。
そしてある一つの部屋に到着すると、その部屋のドアを蹴り壊して部屋に突入する。部屋の中にも炎は広がっていた。家具は全て燃え、この部屋の主の趣味だったのかぬいぐるみまでも燃えていた。その光景が惨たらしくハヤテは顔をしかめた。
ユラッ
広いこの部屋の奥、そこで僅かに動く影をハヤテは見逃さなかった。ハヤテは目を見開きその影の元へと走った。
火に包まれた家具や柱、その他諸々邪魔になる物を全て壊しながらハヤテは進む。
「おい!大丈夫か!」
部屋の奥で倒れていたのはハヤテよりも年下の少女だった。青みのかかった銀髪に金色の瞳。人形と見間違えるかのように美しい少女。
間違いない。この子だ。
ハヤテは社長から命じられていた少女の安否を確認した。
よし、大丈夫。まだ生きてる。
ハヤテは少女を抱えて全速力で屋敷から脱出した。
ハヤテが屋敷を出て1分程すると…………
ガシャァァァァァァァ!!!!!
屋敷が完全に崩壊し、その残骸すら残さんと炎が焼き尽くさんとする。
「危なく巻き込まれる所でしたね」
崩壊する屋敷を遠目に見ながらシズノはそう呟いた。
シズノの側には意識を失った少女とハヤテ。
少女の格好は黒焦げで、所々火傷を負っているようだった。対するハヤテは服こそ所々破けたり焼けたりしているが身体に怪我を負ってはいないようだった。
「救助できたのは1人だけだったな」
「やはりあとの2人は連れ去られたとみるべきでしょうね」
「だろうな。所々人為的に壊された場所もあったし、1人でも助かった事を幸運と考えよう」
自身にそう言い聞かせハヤテとシズノは少女の回復を待った。
ジェネシス社長室にて………
世界最先端を行くこの企業の社長室、その室内は暗闇に閉ざされていた。
室内にいるのは2人の人間、1人は背丈の低いとてもじゃないが大人には見えない少女、そして長身の黒ずくめの男だった。
2人は口を開かず、まるで何かを待っている様子だった。
「ハヤテより着信、ハヤテより着信、ハヤテより着」
少女は携帯を手に取り、通話画面を開く。
「ハヤテです。屋敷は崩壊しました。生存者は長女のみで、他の2人は発見できませんでした。屋敷での痕跡からすると恐らく連れ去られたとみて間違いないかと思います」
「ああ、分かった。あと数分でヘリが到着する。細かい話は戻ってきてから報告しろ。以上だ」
少女は通話を切り、入ってきた時から部屋の隅で突っ立っている男に向かいこう切り出した。
「だってよ、どうやら助かったのは長女だけだったようだな。残りの2人は諦めな」
「ああ、奴らも下手にあの子達を殺すわけはないだろう。次の手を考える」
ガタン
男はそれだけ言い残し部屋を退出する。
その姿を見送ると、少女_イチノミヤ・カズハは立ち上がり、デスクの上に置かれているコーヒーを口に含み、ある場所へと電話をかけた。
「私だ。例の戦艦の完成を急がせろ………ああ、頼んだ」
うう、何でしょう。頭が酷く痛いです。それに身体も熱いし痛いです。それにここはどこ?
目を開けるとそこには二人の男女がいた。
「目が覚めましたか。どこか痛い場所はありませんか?」
私が起きたのに気づいたのか二人のうちの一人である女性が声をかけてきた。
茶髪のショートカットに鋭い瞳、可愛いという言葉よりも綺麗という言葉が似合いそうな女性だった。
まずこの人たちは誰なんでしょう。本当に信用に足る人達なのでしょうか?
あからさまな警戒心を向けるともう一人の男性はニッコリと微笑み返してきた。
女性と同じ茶髪に同じ瞳。女性は鋭いというイメージだが、男性の方は柔らかいといイメージ。
兄弟かなにかでしょうか?
「大丈夫。僕たちは君を保護したんだ。あの屋敷の中からね」
屋敷?何のことでしょう?
……………………うっ、頭が痛いっ
「おい!大丈夫か!」
「は、はい。頭がとても痛いですけど我慢できないものではありません」
けど、痛いものは痛いです。いくら我慢できるとはいえこの痛みをずっと耐えなければいけないと考えると気が狂いそうです。
なぜ私がこんな目に遭わなくちゃいけないんでしょうか?
……………………あれ、私は誰?
「何か覚えていることはないですか?些細なことでもいいので覚えていることがあれば何でもいいので言ってくださいね」
「……………………あの、すいません。1つよろしいでしょうか?」
「「?」」
「どうやら私は……記憶喪失みたいです」