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ワニモドキ

今回は爬虫類っぽいものとの戦闘シーンがあります。

 クチンがもう少し洞窟から近ければいいのだが、毎回洞窟スタートというのは地味に疲れる。


 だいたい、トンネルの出口が高さ30cmくらいしかないのだ。これが意外に出にくい。


 最初の時は足から入ったため出た時には立つ姿勢であったが、尻尾ポケットにものを入れるようになって足から入りにくくなってしまい、頭をやや下にして通ることになったためだ。


 しかも今回は大鼠のお出迎え付きである。しかも、1匹だけでなく3匹ほどいるようだ。


 木の扉を開けると、ほんの数m先の赤く光る眼と見つめ合うことになった。

 某ネズミ―ランドの奴の様な愛嬌もない敵意に満ちた眼である。

 しかも、顔を出した位置が低くて小さな相手とでも思われたらしく、いきなり跳びかかってきやがった。


 慌てて扉を閉める。扉の向こうからは鼠がぶつかって来た音が響いてくる。


 扉を開きざま魔法を撃てば良さそうだが、トンネルにいる間は魔法が使えない。これは実験してみたことがあるのでわかっている。

 そのままゆっくりとトンネルを後ずさり、資料倉庫に戻った。


 資料倉庫でレンチを見つけたので武器として持つことにし、懐中電灯をマグライトに換え、何かに使えるかも知れないのでハサミとロープをポケットに入れる。


 トンネルに潜るようになって、ちゃっかり棚の一角に自分用のスペースを確保してあるのだ。再びトンネルをくぐると、大鼠はまだ同じようなところにいた。


 マグライト200ルーメンの光束をお見舞いする。


 ほぼ真っ暗なところにいた状態から思いっきり明るい光を浴びせられれば誰だって一瞬は目が見えなくなる。


 大鼠が怯んだところでトンネルから出て、レンチでの一発を後頭部にくらわす……はずが、少々手元が狂ってしまい鼻先を殴ってしまった。悲鳴を上げた大鼠が逃げにかかる。あと2匹ほどいるが、トンネルから出てしまえばこちらの方がかなり有利に動くことができる。

 1匹は狙い通り後頭部を殴打、もう1匹は蹴り上げた。蹴り上げた奴が逃げて行こうとしたので、こいつも後頭部をレンチで一発、沈めてやった。


 人を攻撃しようとして無事逃げられると思ってもらっては困る。

 とはいえ、最初の鼻先を殴った1匹は逃げてしまったようだ。


 血抜きのため斃した2匹の大鼠の頸動脈をハサミで切っておく。解剖バサミではないのでなかなか皮が切れない。


 さすがに仲間がやられたのがわかるのか、そのあと出口まで大鼠の襲撃や遭遇はなかった。


 洞窟を出るまで大鼠にも出会わなかったが、ハナ達にも出会えなかった。


 大鼠は1匹重さが10kg近いので、2匹もぶら下げると灯油缶を満タンにしてずっと持ち歩いているようなものである。重いし、持ちにくい。背負ったらいくらかマシだろうとは思うが、おそらく背中が大鼠の血だらけになってしまう。


 洞窟にはハナ達が来ているものと信じており、獲物をさっさと渡すつもりだったので持って来たが、大鼠をぶら下げてクチンまで行くのはきついな。


 尻尾か首を持つことになるのだが、どちらもそれなりに持ちにくい。


 尻尾はしっかり握っていなければ歩くのに従ってズリズリと下がっていくし、首を持つと胴体がこすれて気持ち悪いので腕の角度が中途半端になってものすごく疲れる。


 幸いなことに途中で長さ2mほどの棒を見つけたので、両端に大鼠をしばりつけた。天秤担ぎにすることで、少しは持ち易くなった。


 荒れ地の中を通る道を大鼠がぶら下がった棒を担いで歩き続け、あと少しでクチンだというあたりで、遠くの方から近づいてくるものがいるのに気付いた。


 それは、巨大オオトカゲだった。体長ざっと3m、尾の先まで入れれば4m近いだろう。コモドオオトカゲに似ているが、はるかに頑丈そうで歯も鋭く、一目で上位ニッチにいることがわかる奴だ。大鼠の臭いにひかれて来たのかもしれない。だとしたら、隠れても無駄だろう。


 最初に会った日にハナがワニモドキの話をしていたが、コイツのことだろうか。


 洞窟で大鼠にしか会ったことはなく、奴らは蹴りだけでどうとでもできるため、持っている武器はレンチとハサミだけである。


 次からはもっと強力な武器を持って来ることにしたいが、大学の構内で強力な武器になりそうなものを持っているのを見つかったら大問題である。


 こちらに気付いているワニモドキは、とんでもないスピードで接近して来る、ものすごく速い。


 本来昼行性なのか夜行性なのかわからないが、こんなのがうろついているのならハナ達も明るいうちに帰りたくなって当然だ。もしかしたら、今日はこいつらがうろついているので洞窟行きを止めにしたのかもしれない。


「炎よ集まりて敵を倒せ、ファイア」


 ゴオッと音がして炎が噴き出す。なんとか距離がある間に、魔法が発動した。ワニモドキは怯んでくれたが、逃げ出したりはしない。


 こちらを向いたままザザッと横に移動したかと思うと、何事もなかったかのように再びこちらに走ってくる。


 2度ほどは魔法が当たったのに、ワニモドキを退けることはできなかった。

 仕方がないので鼠をしばりつけた棒を振り回す。うわ、重てぇ。


 俺が棒を振り回したのを見たためと思いたくないが、ワニモドキも尻尾を振り回してきた。


 棒の先に付けた鼠で尻尾を受け止める。


 辛うじて棒は離さなかったが、ぐぅんと持って行かれそうになった、重い攻撃だ。こんなのが命中したら、骨の数本は覚悟しなければならないだろう。


 再び尻尾が振るわれ、(すんで)のところでギリギリ避けることができたのだが、その時、視界の端を何かが動くのがわかった。


 ワニモドキのいる方向とちょうど反対側、何かが近づいてくる。


「――――ッ!」


 それは、5m近くありそうなさらに大きなワニモドキだった。「はさみうち」というやつである。


 こいつらが狙っているのは俺か、鼠か。


 狙いが俺だったり、動くものを襲う性質があったらダメだが、鼠狙いと信じて最初のワニモドキの眼前に片方のネズミを突きだす。


 思惑通り、ワニモドキは棒の先の鼠を噛み千切った。


 棒は先の方が折れてロープも切れたので、噛まれた鼠の後半分を少し離れたところに投げ落とし、そそくさとその場を離れてじっと立ち止まる。


「俺は岩だ、俺は岩だ、俺は岩だ」


 少し離れたところで気配を消しながら、ギャロップしてくる大きい方を見ると、獲物に齧り付いているワニモドキに突進していった。よかった、狙いは俺の方ではなかったようだ。


 ワニモドキ(大)(:以下、ワニ(大))は、間に落ちている鼠の後半分には目もくれず、後脚で立ち上がったかと思うと鼠を咀嚼しているワニモドキ(中)(:以下、ワニ(中))目がけて思いっきり咬みつきにいった。


 口の中でバキバキ音がする。何かの骨が折れているような音である。あんなのに咬みつかれたら、俺だったらひとたまりもないだろう。


 ワニ(中)も応戦するが、体重が倍は違う相手では勝負にならない。もがくうち、横を向いたワニ(中)の尻尾がワニ(大)に当たった。


 どうも、長い物で叩かれると尻尾を振り回す習性でもあるのか、ワニ(大)が思いっきり尻尾をワニ(中)の顔面に叩きつけた。


 その時、ワニ(中)の口の中にはロープで縛られた鼠(ただし前半分)があり、顔の横にはロープに絡まった折れた木の棒があった。


 その木の棒はワニ(大)の尻尾に叩かれ、まるで自分の意思を持っているかのように、これ以上ないタイミングでワニ(中)の眼に突き刺さった。


「うわ、痛そう……あれは相当深くまで入ったな」


 ワニ(中)は攻撃することも忘れ、のた打ち回っている。


 ワニ(大)は勝利を確信したようで、大鼠前半分を拾い上げて食べ始めた。


 だが、その勝利も長くは続かなかった。大鼠には、まだロープが付いていたのである。もしゃもしゃと食べているワニ(大)の長い牙に、ロープの結び目が引っかかったようで、口からはみ出たロープが顎全体に絡まったのである。ワニ(大)は前脚を使ってロープを取ろうとしたが、短い前脚では届かず、余計に絡まってしまった。


 結構有名な話だが、顎を閉じる筋肉と開く筋肉が全く別であるため、ワニは噛む力こそ強いが開く力はそれほどでもなく、輪ゴムを掛けてしまえば顎を開けなくなるらしい。


 目の前のワニ(大)もワニモドキというからには同じようで、絡まったロープに口を開けることができずもがいている。


「これはチャンスだ」


 今なら余ったロープで顎をしっかり縛ってしまえば、ワニ(大)を無力化できる。そのまま、レンチでタコ殴りだ。


 そう思った俺は無謀にもワニ(大)の頭に跳び付き、持ったロープで顎をグルグル巻きに縛り上げた。


 咬みつかれる心配はなくなったが、ワニ(大)の攻撃手段はそれだけではなかった。


 俺を頭の上に乗せたワニ(大)は、邪魔者を振り払おうとするように立ち上がったのである。


「わーぉ、リアルドラゴンライダーだー」


 これを現実逃避という。


 高校の時、騎馬戦の騎馬から落ちて肩甲骨を粉砕骨折した奴がいるが、その時の高さより明らかに高い。もし、足元の石だらけの地面にワニ(大)がこのまま横向きに倒れたら、俺は何本も骨折した挙句にこいつのおやつコースであろう。


 俺はワニ(大)の首の周りにロープを巻くと、振り落とされる前に地面に降りた。


 途端に、ワニ(大)は尻尾を振り廻してきやがった。


 咄嗟に跳び上がって避けたが、尻尾ポケットは取り残されてしまった。


「おわっ」


 思いっきりポケットを引っ掛けられ、石の上に盛大に転んだ。


「痛ぇ、やりやがったな」


 俺はもう1匹の大鼠が付いている棒を拾い上げると、詠唱を開始した。


「熱よ、怒りの炎となりて奴を書き尽くせ、ファイア」


 棒を拾ったのは魔術師の杖(スタッフ)とかのつもり……ではなく、「燃えるもの」があった方が炎が長持ちするのではないかと思っただけだ。


 狙い通り棒から噴き出した炎がワニ(大)の横腹を焼いて行く。

 ワニ(大)は逃げ出した。


「逃がすか」


とは言ってみたものの、ワニモドキの走る速さは非常に速い。すぐに見えなくなってしまった。


「あいつ、どうやって餌を獲るつもりだろう」


 腹を減らして近づいてきたところで返り討ちだ。


 朝一に潜ったのに、やっとクチンに到着したときには昼近くになっていた


 やはり、ワニモドキが近くをうろついていたので今日の洞窟行きは中止にしたらしかった。


 俺は残った方の大鼠をブッチさんに渡し、近くにワニ(中)が転がっているはずだというと、ブッチさんの指示で何人かの大人が探しに行き、無事にほとんど動かなくなっていたワニ(中)を回収してきた。


 もちろん、クチンの食糧として差し上げた。


 俺はいつもの5人と共に、サクラの家に向かった。


「もぐもぐもぐ」

「んっんっ、ゴクン」

「……おいしい……」


 持ち込んだキャットフードは、ワニモドキの攻撃で少し潰れていたが大好評であった。動画を撮影してメーカーに送ったら、CMに使ってもらえそうなほどおいしそうに、真剣に食べている。


 真空パッケージで袋の強度に不安があったので大量には持ち込めず、仔猫用ということでハナ達より若い者限定にしたので、扉の隙間から大人たちが何人もこっそり覗いている。


 大鼠もワニモドキも渡したのに。


 実際、一口、「あーん」と口に入れてもらったチャトラが、自分で手を動かして食べ始めたくらいだから、相当美味しいのだろう。これにはサクラがものすごく驚いていた。


「すっげぇ味が薄いと思うんだがそんなに旨いか」

「うん、お兄ちゃん、これはおいしいよ」


 俺は金欠によるリアル短期間1万円生活を実践中、値段の安さから余計なものが入ってなさそうなこのキャットフードに手を出したことがあるのだ。食感は悪くなかったが味が薄く、しょうゆを足した覚えがある。


「これが旨いのなら、魚肉ソーセージは味が濃すぎるだろ」

「あれはあれでおいしいよ、お兄ちゃん」


 両方食ったことがある者として言うなら、どちらもおいしいという程度の味の違いではない。あっさりした具なしのお茶漬けと、非常に濃いテリヤキ味のジャンクフードの違いより差が大きいと思う。


「どちらかだけ持ってくるとしたら、どっちがいい?」

「断然こっちだよ、お兄ちゃん」


 ハナはすっかり俺の横が定位置で「お兄ちゃん」がデフォルトになっている。別に連呼してほしいとは思わないが、「魔王様」よりマシなのは言うまでもない。


「ハナ、ワニモドキと戦って疲れたんで家に泊めてもらっていいか」


 夕方になり、俺はそう切り出した。戻れない時刻ではないが、もしもう一度ワニモドキと戦闘になったらいつ戻れるかわからない。


 サクラの家はチャトラが寝るところが必要だし、トラやミケ、クロは泊めてくれと気軽に言えるほど話をしたことがない。


「うん、もちろんいいよ、お兄ちゃん」


 ハナは屈託なく承諾してくれた。


 ハナの家はサクラの家の近所で、一人暮らしである。基本的にクチンでは授乳を終えて狩りを覚えたら独り立ちするらしい。

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