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ダンボール少女|(家族・ハートフル)

 猫みたいな女の子を書きたいなと思ったが吉日。


 その後、碧河が手を加える事は無かった。

 アルバイト帰りの小路。今日はクローズまで働いた為、寒さを和らげる日光は無い。吐きだした白い息は顔にぶつかる頃には、既に熱を失っている。

 …寒い。

 俺は目の前にある自販機でホットココアを飲むことにした。

硬貨を入れ、ココアのボタンを押す。ガタンっという音が足元で鳴り、音の出所に手を入れるために屈んだその時。

 ……ぼむっ…。

 何やら物音が聞こえた。音のした方に視線を向けると、そこには、ゴミ置き場からはみ出した大きな段ボールがあった。音源はこれと見て間違いないだろう。音の正体が気になった俺は、ココアを冷めないように上着のポケットの中に入れ、その中を覗く事にした。

 段ボールの蓋を開け、携帯電話の明かりを中に向けた。

 (…女の子!?)

 その中には、小さな女の子がいた。その子は縮こまって新聞紙に身を包み、眠っていた。

 さて、どうしたもんか。放っておく訳にもいかないし。かと言って、事情も分からないのに警察っていうのも気が引ける。

「…んんっ……」

 少女は顔を顰め、体を更に縮こめたと思うと、薄っすらと目を開いた。寒くて目を覚ましたのだろう。

「・・・・・」

「・・・・・」

 無言で目を合わせる俺と少女。さて、どうするか…。

「えっと…済まない、起こしてしまって」

 とりあえず、安眠を妨害したことを謝っておく。

「!?」

 俺は段ボールの中を覗いていた顔を慌てて起こした。何故かというと、少女が俺の顔などお構いなしに段ボールから飛び出ようとしたからだ。俺は間一髪、回避に成功。ただ、少女は着地時に新聞紙に足と取られ、その場に倒れてしまった。

「おい、大丈夫か!?」

 俺が少女に駆け寄り、屈んだ。

「…うぅ……」

「どこか怪我でもしたか?」

 俺は少女の四肢と調べようとした時、

「…お腹空いた……」

 木枯らしに掻き消されそうな声で、少女は呟いた。

 ――これが俺と美亜の出会いだった。




 少女を背負って家に帰宅。彼女を部屋の真ん中にあるこたつの横に置き、台所に向かう。冷蔵庫を開けると、牛乳があったので、それをマグカップに移して電子レンジにかけた。牛乳を暖めている間に晩飯を作り出す。

 下ごしらえの最中に牛乳が暖まったので、それを持って行ってやると、少女は部屋の隅で縮こまってこちらを見ていた。彼女からは警戒の色が見て取れる。

「これでも飲んで体を暖めろ」

 少女の近くにマグカップを置き、晩飯の調理に戻る。

「あちっ…」

 振り返ると、恨めしそうな少女の視線があった。俺が悪いのか?

 調理が終わると、それをこたつの上に並べて座った。今日の献立は野菜炒めと焼き魚。疲れたのでシンプルに仕上げた。

 少女はというと、こっちをジーっと見ているだけである。

「食べないのか?」

 俺は彼女の分も用意していた。少女は俺の問いに無言で首をふるふる振って答える。

「そうか。いただきます」

 俺が食べだすと、少女はマグカップを右手に持ち、こたつを挟んで反対側に怖ず怖ずと四つん這いでやって来た。マグカップの中を見ると、牛乳はまだ半分くらい残っていた。

「それ、暖め直すか?」

 マグカップを指してそう言うと、少女は首をぶんぶん振る。

「そうか」

 ただ、それだけ返事をして、俺は食事を再開する。

 少女は、料理に口を近づるが、すぐに再び離す。その料理を見る表情は、また恨めしそうなものになった。

「もしかしてお前、猫舌か?」

 俺が問うと、少女は料理を見たままコクリと頷いた。

 俺は立ち上がり、食器棚から大きくて広い皿を持ってきて、彼女の野菜炒めを移し変えて皿全体に広げる。

「これで覚めるのが早くなるだろ。魚とご飯は野菜炒めを食べながら待っててくれ」

 少女は俺を見て、コクリと頷いた。

 箸で野菜炒めを少量掴み、息を吹きかけ口に運ぶ。彼女はそれを何度も繰り返す。

「…俺は(たちばな) 雄二(ゆうじ)。お前は?」

 食事中、頃合いを見計らって、俺は口を開く。

「…美亜(みあ)

 ポツリと、ただそれだけ答えた。

「どうして、あんな所にいたんだ?」

「・・・・・・」

 この質問の答えはいつまで経っても返ってこない。

「はあ、警察に届けるしか無いのかなあ…」

 俺がそう言った瞬間、俯いて黙っていた美亜と名乗った少女の体がピクリと動いた。

「ふう、話はまた明日にしようか」

 食器を流しに運ぶと、俺はこたつを壁に立て掛け、空いたスペースに布団を敷いた。布団が一枚しか無かった為、俺はこたつのマットと布団で寝る。片付けは……明日で良いか。

「布団は使って良いから」

 その言葉を最後に、俺は眠りについた。





 翌朝、目を覚ますと、布団に美亜の姿は無かった。

「美亜…?」

 名前を呼んでも部屋を見渡しても、彼女を確認出来ない。風呂に入って、しばらく待っても彼女は帰ってこなかった。美亜がこの家にいる理由は無い為、恐らく出て行ったのだろう。

 バイトへ行く時間になったので、家を出る。一応、美亜が帰ってきても大丈夫なように鍵は開けておいた。





 美亜の事が気になってはいたが、特に支障なく仕事をこなす事が出来た。

 上がりの時間は昨日と同じ。外も寒い。今日も温かい飲み物を飲もうと、昨日と同じ自販機に寄った。すると、そこには昨日のダンボールがまだ置いてあった。

 美亜は帰って来たかな、と思いながら、昨日を懐かしむように何気なくダンボールを開けてみると、中には小さな女の子が縮こまって新聞紙に身を包み、眠っていたのだ。

「…んんっ……」

 少女は顔を顰め、体を更に縮こめたと思うと、薄っすらと目を開いた。

「…よう」

 とりあえず、昨日と同じように声を掛けた俺をぼーっと見つめる少女。

「目、覚めたか?」

「!?」

 少女が俺の顔などお構いなしに段ボールから飛び出ようとしたので、俺はそれを避けた。俺は間一髪、回避に成功。ただ、少女は着地時に新聞紙に足と取られ、その場に倒れてしまった。…もの凄くデジャヴ。

「大丈夫か?美亜」

「…うぅ……お腹空いた……」

 俺は溜息を一つ着いて、美亜を背負って帰宅した。

 今日は体力が残っていたので、昨日よりちゃんとした物を作った。猫舌の美亜のために人肌の温度で出してやる。

「ほら、今日は熱くないから早く食え」

 美亜は怖ず怖ず箸を進めだした。食事中はお互いに無言だった



 後片付けを終え、時計を見ると、いい時間だった。

「さて、俺は寝る。お前も適当に風呂入って寝ろ」

 部屋の隅にいる美亜にそう告げ、いつもの様にこたつを壁に立てかける。

「…何も聞かないの?」

 布団を敷いている俺に美亜が問う。

「話さない癖に何言ってんだよ?別に良いよ」

 帰る場所がダンボールしかなく、その事情も話せない。こんな女の子にも人には言えない事情があるのだろう。

「…警察には言わない?」

 …よく見ると、美亜は小さく震えていた。彼女は昨日の夜もこんな風に震えていたのだろうか…。

「言わないよ。帰る所がダンボールしか無い女の子にまた出て行かれても困るからな」

 そう言って、頭に手を置くと、美亜は一瞬ビクッとしたが、撫でてやると安心したのか、彼女から体のこわばりが抜けていった。

「ほら、風呂に入ってこい。お前、昨日も入ってないだろ?」

 撫でるのを止めると、美亜は何だか名残惜しそうにする。

「…うん」

 風呂に向かったのを見て、俺はこたつのマットの上で横になり、昨日と同じ布団を掛け、目を閉じた。



 暫くして、背中に何かが当たって目を覚ます。布団を捲り中を覗くと、横向きに寝ていた俺の布団に入り込み、丸くなって、俺の背中にくっついて寝ている美亜の姿が目に写った。

 はあ、部屋の隅で縮こまってたり、熱いものが食べられなかったり、猫みたいなやつだなあ。なんて思いながら美亜を布団に移し、布団を掛けてから俺は再び眠りに落ちる。

 ――翌朝、美亜はまた俺の布団に潜り込んでいた。

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