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第3章

  第3章 パーティーお開き



「お姉ぇ帰って来るの遅いですねぇ」

 真希が買い物に行ってからもう一時間は経っていただろうか。

「まだ一時間くらいだし買うものに悩んでいるんじゃない?」

 俺が真央ちゃんに答える。

「お姉ぇならもうとっくに帰ってきていいんですよ。コンビニは歩いて五分くらいの所だし、お姉ぇが買い物にこんなに悩むはずがないんですよ」

 心配しているせいか語尾がどんどん弱くなって行く。

「確かに悩んでいなかったな」

 昼間に買い物につき合わされていたときの事を思い出していた。

 買い物の仕方は、目に付いた気に入ったものはすぐ買うと言う感じで、全く悩むような素振りが見られなかった。

「だから心配なんです」

 また言葉弱く答える。

「じゃあ俺がちょっと見てくるよ」

 言い放ち部屋を後にしようとする。

「コンビニは玄関を出てずっと真っ直ぐの所にあります」

 真央ちゃんが場所を告げる。

「おう、わかった。じゃあ行ってくるよ」

 言いながら軽く右手を上げる。

「はい、行ってらっしゃい」

 真希のことが心配なのだろうか、ずっと弱々しい話し方だった。

(まったく、真希の奴、妹にこんなに心配させやがって、姉なんだからもっとしっかりしろよな全く)

 心中で悪態をつきながら階段を上り、メインルームに繋がる扉を開け進み、玄関へたどり着き外に出る。

「ん?」

 外に出て何かに気づいた。

「こんな時間に手紙って届くものか?」

 気になったので、郵便受けに入っている封筒を取り出す。

「送り先、差出人名なし、消印もなしってことは、直接ここに入れたってことか」

 封筒を見回しながら考える。

「流石に俺が開ける訳にも行かないし恵理奈さんに渡すか」

 先程出たばかりの研究所の中に引き返す。

「恵理奈さん」

「何だ」

「郵便受けの中に怪しげな封筒が入っていたので渡しておこうと」

 持っていた封筒を差し出す。

「そうか」

 封筒を受け取り中身を確認する。


 クシャ、


 中身を確認するや否や、恵理奈さんが封筒の中に入っていた紙を強く握っていた。

 表情もいつもと変わっていた恵理奈さんに恐る恐る訊く。

「どうしたんですか?」

「真希が誘拐された」

「え?」

(え、なんで、なんかの冗談?)

 予想打にしない事態に困惑して、頭の中が混乱していた。

「おい、大丈夫か!」

(恵理奈さん一体どうしたんだ? 何に大丈夫かって訊いているんだ?)


 バシッ、


「いてっ」

「しっかり意識を保て」

 いつの間にか地面にへたり込んでいた。どうやら混乱して意識が朦朧としていた所を恵理奈さんが叩いて覚醒させたようだ。

「すいません」

「いいから落ち着け。私は流深を連れて来る」

 気持ちを落ち着かせるために四五度深呼吸をする。

 そして、皆がパーティールームから駆けてくる。

「真希ちゃんが誘拐されたですって!」

 流深ちゃんが先頭を気って走ってくる。

「ああ、本当みたいだ」

 俯き篭った声で答える。

「僕が絶対に見つけるです!」

(そういえばさっき恵理奈さんは流深ちゃんを連れてくるって言ってたな、という事は流深ちゃんには真希を見つける何かしらの術があるのか)

 そう思い、暗くなっていた心の中に微かな光が零れてきた気がした。

「頼むよ、それでどうやって探すんだ?」

「周辺の防犯カメラにハッキングして真希ちゃんの足取りを追います!」

 言い放ちすぐさまパソコンへと向かい、幾つものパソコンを操作し始める。

「だから、流深ちゃんを呼んだんですね」

 道徳的なことを注意したいが今はそれど頃ではなかった。

「ああ、何処で覚えたのか知らんが、ハッキングの技術は私以上だ」

 パソコンのモニターを見ながら答える。

 恵理奈さんもできるんですか、そう思ったが口にはしない。

 実際問題今現在ではこの方法でしか探す術がないのは事実。唯一の希望を批判し止めさせるわけにはいかない。

「後どのくらい掛かりそう? 流深ちゃん」

「もう、防犯カメラへの浸入おわってます! 今は真希ちゃんをさがしています! あ、

いた!」

 真希が黒いスーツだろうか?

 その男に後ろから口を押さえられ身動きを取れないようにさせられていた。そして突然消えた。

「えっ!? 消えましたよ?」

 皆に訊く。

「おそらく防犯カメラには映らないよう自動車に細工をしたようだな」

「そうみたいです! 今から防犯カメラのサーモグラフィーモードで追跡します!」

 答えが帰って次の手が打たれる。

「で、今どこかわかる?」

 流深ちゃんに訊く。

「残念ながらわからないですぅ。エリア8に入った辺りからサーモグラフィーでも追跡出来なくなりました」

 落ち込んでいるのか俯きがちに答える。

「エリア8っていったらここから北の方だな、わかった、捜しに行ってくる」

「待て!」

恵理奈さんの静止にも気付かず、勢いよく研究所から飛び出る。

「行ったか」

 静止仕切れなかった恵理奈さんがつぶやく。

「流深、真希の居所はわかったか?」

「いいえ、まだですぅ。エリア8に入ってから全く足取りが掴めないですぅ」

 モニターに向かったまま悔しさを滲ませる表情で答える。

「となると、あいつだけが頼みの綱という事か」

「はい、そうです!」

「見失うなよ」

「はい、わかってます! 絶対に見失いません!」

 そして、部屋にキーボードを打つ音だけが響く。

 流深ちゃんは、パソコンに向かい、恵理奈さんは流深ちゃんのサーポートに入る。真央ちゃんは真希の無事を必死に願う。

多数あるモニターの内の一つは自動車の通ったルートが表示されていた。

多数あるモニターの内の一つは何処かの地図を表示され赤い点が点滅していた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


月明りに照らされる夜空の元、走るシルエットが街中を駆け、公園へと抜ける。

(真希、何処だよ)

 何も考えず無我夢中で走っていたらここに着いた。

走っていた理由はただ一つ真希を探していたからだ。

公園に来たのは付き合いがまだ短いながらも一番思い入れが、思い出があるからだろう。

(エリア8って言えば向こうの方向か)

 北の方角を遠く見つめ暫く立ち尽くす。

 辺りは静寂に包まれていた。立ち尽くしていつ創真自身も動く気配が一向になかった

 動いているものは時たま吹く風に煽られ、揺れる、指輪にチェーンを通して作られたネックレスだけであり、風で揺れるたびに光を反射し輝いていた。

 静寂の中に立ち尽くす創真、真希を探しているにも関わらずいまだに動く気配がみられない。

(みつけた!)

 心中で大きく叫ぶ。

 静は破られ地面をける音が響く。

 静は破られ体が動き出す。

 創真が暗い闇の中へと駆ける。

 駆けて行く者が見えなくなる瞬間に一つの小さな輝きが見えた。

 そして、闇夜の中人の気配が完璧に消えた


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「少し買いすぎちゃったかな」

 手に下げているレジ袋を眺めて言葉を漏らす。

「皆も待っているし早く帰らないとね」

 研究所の方に進もうとした刹那、何者かに取り押さえられた。

(え、何!? とりあえず、風でぶっ飛ばすか?)

 など、思案している最中に取り押さえている男が耳元でつぶやく。

「抵抗をするな、そうすればお前の身の安全は保障する」

(抵抗するなってこの状態でしない方がおかしいてしょうが!)

 ぶっ飛ばすと決意する。

 男が続けてつぶやく。

「保障するのはお前だけであって、研究所にいる者の安全を保障するか否かは、お前の態度しだいだ」

(まさかこんなのが向こうにもいるの? それとも只のはったり? いや、今はこいつの言う事を聞いておく事が先決か?)

 万が一、研究所の方にもこんな奴らいる可能性を考えて今は大人しく従う事にした。

 そして、自動車の中に連れ込まれる。

 私の後に続き男も自動車に乗り込む。

「どうも、いらっしゃいませ。彩吹真希さん」

 運転席の方から女性の声がする。

「どうも、ご招待頂きありがとうございます」

(なんなのよ、一体こいつらはいったい何? とりあえず今は弱気なところは見せるべきではない。努めて強気でいかないと)

「あら、威勢のいい元気な子で」

「それはどうも、で、なんの御用でしょうか? わざわざ世間話をするためにこんな事をするとは思えないんだけど」

「あら、そんな焦んないで本題は後で話してあげるから。まずは携帯電話を出してもらえないかしら」

「残念ながら、今は持っていないわ。近くのコンビニに行くだけのつもりで、こんな寄り道をする予定はなかったもので」

(ホントなんで携帯もってこなかったのかしら)

「あら、そう、ならいいけれど。ならここからは本題ね、もうわかっていると思うけれど私たちはあなたの事を誘拐させてもらうわ」

(まぁ、どっからどう見ても誘拐だしね)

「私を誘拐してどうするつもりなのかしら?」

(ここは、相手の目的を知るためにも、なるべく多く話して情報を得ないと)

「目的ねぇ、それは後で話すとしてあなたのご両親はどうしているのだっけ」

「私の両親がどうかしたんですか」

「いいえ、ただの興味本位で訊いているだけよ。で、どうしているのだっけ?」

「最先端区域で働いているわよ」

「そう、最先端区域で働いているわね」

(知っているのならなぜ訊くのかしら)

「続けて自動車を運転している女が話す。

「最先端区域って、凄いところよね、研究設備は物凄く充実しているし、いい所よね」

「そうみたいですね、それがどうかしたんでしょうか」

「私もね最先端区域で働きたいのよ。でも、まだ私には招かれるだけの実績がないのよ」

「だから、それと私を誘拐する事に何か意味があるんですか」

 真希の話を聞いているのか、いないのか、わからないが女が話を続ける。

「自分で言うのも難だけれど、私は科学者としての実力はかなりのものなのに、なぜ招待されない」

(自意識過剰なだけなんじゃ)

「そして、辺りを見回して気がついた。研究所に備え付けられている機材がどれだけ低スペックでクオリティーが低いかを、こんなものでは素晴らしい実績なんて残す事はできない、と」

「そうなんですか」

 適当に相槌を打つ。

「そうなのよ、だから私は誘拐をした」

「唐突に答えだしましたね。正直いって文が幾つか飛んでて何を言いたいのかわからないんですけれど」

「あら、わからないの? 簡単なことよ、あなたを使って身代金を請求しようって事よ」

「それだったら、なんで私なんかを誘拐するのかしら、他の人を狙った方がお金が手に入るのに」

「あら、そんなかまととぶらなくっていいのよ。ある程度の事は調べてあるんだから。あなたの両親は最先端区域で働いているわね」

「それは、さっきも言ったと思いますけど」

「その両親から毎月、大量の生活費を振り込まれているみたいね」

「まあ、よくご存知で」

「それでも振り込まれえているお金は給料の極一部みたいのよね」

「へぇ、そうなんですか。でも、誘拐する相手が私でよかったです」

「ええ、私たちも最初からあなたをターゲットにしていたから意見が一致して嬉しいわ」

「なんで私を?」

「理由は簡単。御友恵理奈は確かにお金を持っているけれど狙うにしてもリスクが高すぎる。私たちも流石にレベル8を相手にしたくはないわ。そして浅石流深こいつを誘拐して、御友恵理奈から巻き上げようと思ったけれどこいつもレベル7と厄介。最後に彩吹真央、彩吹真央このどちらかを誘拐するとしたら、あなたになったわけ」

「私を選んでくれたことは感謝します」

「真希の方にした理由は簡単二人ともレベル3なら、姉の方を誘拐して妹を自由に動かす。姉が危険な身にあるって知れば、あなたより従順に動いてくれそうだしね」

「その判断は正解ですね。私が残されていたら、どんな手段でも使って乗り込んでいましたし」

(本当に私の方でよかったわ。真央は本当にレベル3だから。私ならその気になればいつでもここから出られるし)

 自動車が十字路を左へと曲がる。

「さて、もうそろそろ私の研究所が近い事ですし」

一拍間を空けて話す。

「眠ってもらうわ」


 ビリッ、


 真希の隣に座っていた男がスタンガンで真希を気絶させる。

 朦朧とする意識の中、最後に車窓からの夜空が見えた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「恵理奈さん!」

 キーボードの音だけが響いていた部屋に大きな声が轟く。

「どうした」

「いきなり移動しました!」

 焦り、驚いていた。

「どこに行った」

「エリア8の15―8です!」

「馬鹿な、さっきまで公園に居たのだぞ」

 恵理奈さんも珍しく驚いていた。

「はい、走り出したと思ったら次の瞬間には移動していました!」

「電波は問題なく受信しているか」

「はい、なんの不具合もでてないです!」

「ならいったいなんなんだ。まさか・・・いやありえないな」

 何か考えが浮かんだが、一瞬で一蹴した。

「桜空の能力は確か速遠兼眼レベル10だったな」

 流深ちゃんに確認を取る。

「はい、そうです!」

「人は一人一つの能力しか持てない。なら、これはどう説明すればいい」

 創真の瞬間移動に困惑する。

「実際の能力は瞬間移動テレポート系の能力だったが、テストで上手く欺いたか? いや、それでもおかしい。御友高校前公園からエリア8の15―8までの距離は瞬間移動レベル10でも一回で飛べる距離ではない。流深、他の場所で電波は発信されたか?」

「いいえ、されてないです!」

「そうか・・・手掛かりが他にない以上そこに向かう。流深、行くぞ」

「はい、行きます!」

 二人が颯爽と玄関へと向かう。

「真央、留守番頼んだぞ、必ず連れて帰ってくる」

「はい、わかりました。待ってます」

 赴く者、佇む者、ここで二者に別れる。前者二人は玄関を立ち、後者は椅子に座り祈りを送る。立つ場所は違えど、同じ思いを持つ者達の心は一つである。

 研究所の隣に建つガレージへと向かう。

 ガレージへと着き、シャッターを開け、勢いよく、綺麗にバイクに跨る恵理奈さん、その後ろにちょこんと座る流深ちゃん。

「流深、あれの準備をしとけ、大きな戦いになる可能性が高い」

「はい、わかりました!」

 返事をするなり垂れ下がっていた袖を捲った。

 シャッターが自動で閉まり、バイクを噴かす音が辺りに響く。

「行くぞ」

「はい!」

 バイクの轟音が響きわたり、テールランプが赤く尾を引いて行く、何もかもを包み込むかの様に黒く染まった空の下を。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ここか」

 平屋建ての古びた建築物の前で一つの声が聞こえた。

「待っててくれ」

 声の主と思われる姿の影が街灯の光を受け伸びている。

「今から行くから」

 その影が徐々に大きくなり、建築物へと一歩ずつ近づく。

「絶対に助けるから」

 そしてドアノブに手を掛ける。


 ガチャッ、


 鍵がかかっており開けることができなかった。

 他に入り口がないかと辺りを見回すが、それらしきものは見当たらない。

 平屋の建築物の回りはには、囲うように出入口だけを空けた塀があるだけだった。

(どうするか)

 考えを巡らせるが一瞬で案が浮かぶ。

 すぐさまそれを実行に移す。


 ドゴンッ、


 ドアノブを蹴り壊し無理矢理中へと入る。

「お邪魔します」

 律儀にちゃんと挨拶までして。 入った先にあったのは狭く、暗く、長い廊下だった。

 その廊下の右側に扉が2つ、左肩にも扉が2つ、奥の突き当たりに扉が1つある。

(蝨潰しに全部回るのもありかも知れないが、ここは一番広そうな所から行くか)

 そして、廊下の一番奥にある扉へと手を掛ける。

「ありゃ、当たり」

 少し笑いながらおどける。

 そこには十数人の男が立ち並んでいた。

「やっぱこう言うのっていつ見てもおっかないな」

 その男たちは一応にサングラスを掛けていた。

「んで、定番だとあんたがこの中のリーダーって 所?」

 その男たちの丁度真ん中に立ち、背丈こそは回りと比べても大差ないが、別格の雰囲気を醸し出しているスーツのような服を着た男へと話し掛ける。

「・・・」

 反応がない、ただの屍のようだ。

 じゃなくてまさかの無口キャラですか!

 いや、もしかしたら本当に聞こえていなかっただけかも知れない。

 と言うことでもう一度話し掛けてみる。

「あんたがこの中のリーダーか?」

「・・・」

 反応がない、ただの屍のようだ。

 もうやだ! 俺、無口な人苦手!

 と、心中で大ダメージを受けていたが、それを表に出さず話を続ける。

「とりあえず真希を返してもらいに来たんで、そこを退いてもらおうか」

「・・・」

 数十人もの人がいるとも思えない程の静寂だけだあった。

 そうですよね、今までのパターン的にそこも無言ですよね!

 わかっていたので今回はそれほどダメージを受けなかった。

 静寂を切って足音が響く。

「・・・!」

 驚かされた。敵の皆さんが俺が通れるように、奥の部屋へと繋がる扉の前に道を空けてくれた。

(折角だし通らせてもらうか)

 扉へ向け二歩、三歩と進む。

 男たちを横目に残り二歩、三歩の所に着く。

 そしてドアノブに手を掛けた刹那。


 ドンッ、


 低く鈍い音が鳴る。

 地面には罅が入り、砂煙が昇る。

「やっぱりか」

 拳を地面に打ち付けた 男の腕の横に1人の少年が立っていた。

「確かにその能力じゃ、こんなことしなきゃまともに食らわせることはできないな」

 避けられたことに驚く 男を横目に、まだ話す。

肉体強化ボディーストレンクスン系の能力レベル5って所か、まぁそんな大振りじゃ俺には当たらんよ」

 ようやく砂煙が静まる。

「なら、今度はこっちの番だな」

 殴ってきた男の正面に回り、鳩尾へと鋭く膝を入れる。

 短くうめき声をあげてその場に突っ伏す。

「ようやく声を出したか、今度はどいつが喋ってくれるんだ?」

 威勢よくいい放つ。

 辺りを見回して見ると、既に半円に取り囲まれていた。

 背中には壁、正面には敵、逃げ場のない状態になっていた。

「四面楚歌ってやつか?」

 絶体絶命の状態にも関わらず口元は笑っていた。

 そして、正面の敵へと 向かって突っ込む。

 男も応戦と殴りにくるが、それを紙一重でしゃがみ避け、前へと伸びている腕を掴み、背負い投げのように投げ、敵の背中が地面に着くと同時に腹を踏みつけ気絶させた。「ここの用心棒はこの程度のレベルか?」

 鼻で笑う。

 横からフックのように殴り掛かってきた男の腕が振られている最中に、腕の外側を掴み、中腰になり右足を掛け相手の勢いを利用しつつ地面へと打ち付ける。

 そして追い討ちと、また腹を殴り付け気絶させる。

「一丁あがり! 次はどいつだ?」

 いつの間にか三人に囲まれていた。

 そして、同時に襲い掛かってくる。

 最初に殴り掛かってきた相手の腕の横を殴り軌道を逸らせ、襲いかってきたもう一人の顔面を殴らせる。

 そして、残る一人の懐に素早く潜り込み、また背負い投げのように投げ、仲間の顔面を殴っていた敵の上へと落とす。

 今投げ、重なっている敵に追い討ちと思いっきり踏みつける。

 三人をあっという間に片付けた。

 刹那、少し離れた場所から椅子が物凄い速度で飛んできた。

 それを、体をそらしギリギリでかわす。

「今度は少し骨がありそうだな」

 ポケットに手を突っ込み、真希に斬られた物干し竿を取り出す。

速度調節スピードコントロール系のレベル5か6って所か?」

 また、椅子が飛んでくる。

 だが、今回は不意打ちではなかったので、体は飛んでくる椅子が右側を通り抜けることが可能なほど避けた、が、それを物干し竿で打ち返し、近くにいた敵の所へ飛ばし三人ほど倒した。

 物干し竿には椅子を打ち返したせいで凹んではいたが、構わず椅子を飛ばしてきた相手の所へと駆ける。

 二発程また椅子が飛んできたが、物干し竿で叩き運動方向をずらしてかわした。

 そして、物干し竿が届くまでの所に着き、真希によって斬られた先では刺さずに、普通に殴り戦闘不能にさせた。

「真希が近くにいるんだ、死人は出したくない」

 今さっき倒した敵を見下しながらいい放つ。

 すると隣の部屋から。


 ドゴーンッ、


 爆発音のような音が轟く。

(何があったかわからんが急いだ方が良さそうだな)

「もうそろそろ終わりにさせてもらうぞ」

 今一度辺りを見回すと立っていたのは二人だけだった。

 1人は手下その1といった感じの男、もう1人は最初に話し掛けたリーダー的な男。 まずは手下その1を潰そうと、突っ込む。

 すると相手は右手を前に差し出す。

 差し出す先に赤く光る粒が渦巻く。

 渦巻くものにはっきりと輪郭がついた。

 輪郭がついたものは赤く燃え、渦巻く火球だった。

 火球を物干し竿で打ち消す。

「今度は発熱イミトブラスト系のレベル6って所か? 色々と能力者がいるな」

 感心しつつも次々と飛ばされてくる火球を避け、打ち消す。

(流石中ボス的ポジションにいただけあって面倒だな)

 間髪なく飛んでくる火球のため一気に距離を詰めることが叶わずにいた。

 だが、着実に一歩ずつ近づく。

(どうやって一気に近づくか)

 考え近くにあった椅子を投げつける。

 が、やはり火球を撃たれ勢いをを相殺された。

(ここだ!)

 相殺され、空中で一瞬制止していた椅子に次発を決めるために走り込んでいた勢いそのままに物干し竿を打ち放つ。

 度肝を抜かれた攻撃に火球を撃つ猶予さえなく、無情にも体に椅子が飛び込む。

 飛び込む勢いに負け体が後ろに押され、背後の壁に頭を打ち、意識を失う。

 椅子を打った代償で遂に物干し竿が2つに折れた。

「次はボスのあんたが倒れる番だな」

 そのボス的な男はいつの間にか、野球ボール大のコンクリートの球を持っていた。

「今度は野球でもするのか?」

 最後の男はピッチャーかの様にコンクリートボールを投げる。

 コンクリートが飛んでいるとは思えない程の速さで投げられた。

 それを折れた物干し竿で打ち返す。


 カーン、


 甲高い音が響く。


 ドンッ、


 重鈍な音が響く。

 打ち返したコンクリートボールが男の横を通り抜け、壁にぶつかり砕ける。

 打ち返すために使った物干し竿はボールの威力に負け、後方へと飛ばされていた。

 砕けたコンクリートを見ると中は野球の軟式ボール同様空洞になっていた。

「よくそんなん投げれるな、野球選手になった方がいいんじゃないか?」

 両の掌を背後の壁にやり、右手で壁のコンクリートを引き、ボール状に形作る。

「そうか、形質変化ハードソフト系のレベル7って所か、この中じゃ一番レベルが高いな」

 一気に走りだし距離を詰めに掛かる。

(遠距離系の敵を相手にするなら、これが妥当だろ)

 蹴り飛ばすタイミングを図りながら近づく。

(それにもうあれを打ち返せそうにない)

 先程のバッティングで 腕が痺れ、腕に力が入らなかった。

 途中投げられたボールを難なくかわし、敵の目前まで迫る。

 だが、足が地面に飲み込まれ、前のめりになり転びそうになった所に、狙っていたかの様に顔面に拳が飛んでくる。

 ギリギリで体を右に反らしかわしたが、拳が掠れたせいで、左頬には切り傷があった。

(なるほど、右手で投げたボールは囮で本命はこの足元の罠か)

「通りで左手を壁から離さない訳だな」

(壁から手を離さない訳は、力を継続させるのが理由だろう) 一先ずこのままでは一方的に殴られるだけなので、敵の能力によって軟化し足を掴まれている中、上手くバランスを保ちながら後退る。

 男が壁から左手を離す。

 能力が解けたと思い足を持ち上げる。

(・・・!)

 驚き、焦る。

 確かに能力は解けていた、足首まで地面に埋まったままで元の固さに戻っていた。

 男が近づいてくる。

 無表情のまま一歩ずつ。

 着実に進み、創真の正面に着く。

「・・・」

 無言で立つが拳を握る。 右腕を後ろに引き、そのまま動作の続きのように前に拳を放つ。

 顔目掛け飛んできた拳を頭を動かしどうにかかわす。

(顔だったからどうにか避けれたが体を狙ってきらた避けられないぞ)

 心中で安堵と焦りが交錯する。

 男はまた顔を殴ろうとしてくる。

 それをまたかわす。

 その後も何発か顔を殴ろうとするが、全て避ける。

(こいつ遊んでいやがる。どうやら腕が使えないこともばれているみたいだな) いまだに顔を必要に狙われているが、全て避ける。

(こうなったら無理矢理にでも隙を一瞬作らせるか)

 何かの作戦を決め、それを実行へと移す。

 拳を避けた後に生じた隙に、力の入らない拳で相手の顎にアッパーを打つ。

 倒すことはかなわなかったが、一瞬上を向かせ隙を作った。

 そして、男の視点が殴られる前に戻った時には創真の姿は消え、ネックレスの放った光の残像だけがあった。

「終わりだ」

「うっ」

 短いうめき声を残し、男が倒れる。

 倒れた者の後ろには一つの影があった。

 その影の招待は創真であった。

 いつのまにか後ろに回っていた創真が、体を回転させ、遠心力を利用し敵の首をいつの間にか掴んでいた物干し竿で殴り、気絶させたようだ。

(やっと終わったか・・・じゃない、真希!)

 思いだし、先程入ろうとし、拒まれた扉へと手を掛け、開ける。

 扉を開けるなり大声を出す。


「真希!」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


(ここはどこ?)

 まだ薄い意識の中で考える。

(体か重たくてうごかない)

 腕を動かそうとするが、自由が利かない。

「ここは?」

 どうにか声を発する。

「あら、お目覚めになったの」

 どこかで聞いたような声が反ってくる。

 薄い意識の中、瞼を開ける。

 ぼやけた視界の中には、白い服を着た人のシルエットが見える。

「あなたは?」

  視界かぼやけているせいで、誰か判別することができない。

「もう忘れちゃったの? 悲しいわね」

 視界かが徐々に回復し、話している相手が白衣を着ているのがわかった。

(白衣を着ているけど、うちの研究所の人じゃなさそうね)

 視野を上に上げ顔を確認する。

「・・・! 今ちょうど思いだしたわ」

 睨む様に相手を見つめる。

「あら、そう、それはよかったわ」

「私的には、さっきの出来事が夢落ちで終わってくれたら助かったのに」

 自動車に乗せられてからのことを思い出す。

「まあ、そんなつれないこと言わないで欲しいわね」

「そうですか。そんなことより、誘拐したのは本当に私だけなんでしょうね?」

 辺りを見回して見るが、真希と誘拐犯以外は見当たらない。

「安心していいわよ。あなたしか拐っていないから」

「ならよかった」

 安堵の息を漏らす。

(もし、私以外に誰かいるのなら、無理矢理にでも助けて逃げていたわね)

 大言に聞こえるかも知れないが、実際に助け出すだけの実力を有しているからこそ及んだ思考であった。

(私1人みたいだし、もう少しここにいて情報収集をしますか)

 今すぐは逃げないと決めた。

 少しでも情報を得ようと、はっきりとしてきた視界で見渡す。

 部屋の形は長方形で、床も壁も天井もコンクリートがむき出しになっている。

 部屋の中はすっきりとしており、観葉植物が数本あり、他にあるものと言えば、机の上に加湿器が置いてあるだけだ。

 扉は部屋に二ヶ所。

 1つ目は真希から見て正面、誘拐犯から見て背後。

 2つ目は真希から見て右側、誘拐犯から見て左側。

 扉のない他の壁には窓もなく、部屋の灯りは、天井に吊るされている照明が1つあるだけであった。 見回して思ったことを率直に言う。

「随分と暗いところね」

「まあね、ここは元々仮眠室だからね」

「仮眠室って言う割には布団がないですけど?」

 個人的に気になったのかどうでもいい事を訊く。

「あなたを招待するために片付けたのよ。眠たいなら隣の部屋に布団があるから、用意してあげましょうか?」

「大丈夫です。もうゆっくりと寝させてもらったみたいですし」

 気絶させられていた事を揶揄する。

 すると、誘拐犯は方耳を押さえる。

 髪に隠れてよく見えないが、イヤホンを付けているようだ。

 イヤホンからの話を気き終えたのか話だす。

「あなたにとって良いお知らせよ」

「・・・一体何?」

 疑いながらも耳を傾ける。

「どうやったのかわからないけれど、あなたの仲間がここに来たみたいなの」

(まさか、恵理奈さん!?)

 続けて誘拐犯が話す。

「昨日からあなたの所に泊まっている少年が来たのよ」

「なんだ、創真か」

 落胆からか、思わず声を漏らしていた。

「創真って言うのねあの少年」

(あっ、)

 要らぬ情報を与えていた。

(まあ、名前が知れたからって何かあるわけじゃないし、まあいいか)

「1人で乗り込んで来ているみたいだけどあの子は強いのかしら?」

「残念なことに、仮想戦闘機で戦ったら、私に負けました」

「あら、そうなのなら警戒する必要はなさそうね」

(本当に警戒しないでもらえると助かるんだけどね。私といい勝負できるから、余程強い人がいなかったら大丈夫でしょ)

 短絡的に考える。「しないでもらえると助かります」

「あら、でも残念。すでに侵入しているから、迎撃させてもらうわ」

(ああ、もう創真のバカ)

「その迎撃する人たちって強いんですか?」

「そうね、強いわよ。レベル5以上のが何人かいるしね」

(何人かってことは複数人創真の所にいるのか、一対一なら負けないだろうけど、複数はどうなんだろう)

 信頼と不安が混ざる。

(こいつを倒して早く創真を助けないと)

 早急に脱出すると決めた刹那。


 ドンッ、


 轟音と共に地響きが正面の扉からする。

「あら、始まったいや終わったかしら」

(本当に急がないと!)

 心中でいくら焦ろうがそこには障害があった。

 1つ目は手足が縛られており、自由がきかないこと。

 2つ目はここが空気の流れがない、密室であること。

 1つ目の障害は身動きが取れないことだったが、2つ目は能力が十分に発揮できないという障害だった。 なぜ能力が十分に使えないか、風使いは分けると二種類ある。

 一種類目は自らが起こした風を強化するタイプ

 二種類目は空気の流れを操って風にするタイプ

 真希はこの後者のタイプだ。

 空気の流れがない密室では回りの空気を大量に飛ばしても圧縮するだけになり、十分な威力が出せない。

なので真希は十分な実力を発揮できないでいる。

「終わってなんかいないよ」

(どうやって逃げるか)

 真っ先に浮かんだのは手足を縛っているロープを切り裂くこと。

 だが、それを実行しないでいた。

「あら、そうかしら」

「ええ、そうですよ」

(ここじゃ、上手く力を調節できそうにないわね)

 加減を間違えて自分を傷つける可能性が高いので、別の手を考える。

「なんでそんなことが言えるのかしら」

「教えて欲しい?」

(これだ!)

 一つの案が浮かぶ。

 目に付けたものは、誘拐犯の後方にある加湿器。

「なら、是非教えて頂戴」

「理由は簡単よ、創真のことを信じているから」

 加湿器のコンセントを力任せに起こした風で切断する。

 斬られた先からは、電気が火花のように飛び散る。

「信頼ね、理由はそれだけかしら」

「それだけあれば十分だと思いますよ」

 今度は加湿器を持ち上げた。

 フラフラと不安定に空中を進み、切ったコンセントの前で静止させ、倒し中の水を零す。

 零れた水が切れたコンセント先、火花に触れる。

「青春らしい理由で面白いわね」

「青春の中にこんな思いでもできて欲しくなかったですけれど」

 火花に触れた水がどんどん気化して行く。触れないものは風で押して触れさせる。

「またそんなつれないこと言って」

「こんな状況を喜ぶ人の方が少ないと思いますよ」

 零れていた水がほとんど気化する。

 今までは視界の隅で捉えて、相手に気づかれないように見ていたそれにわざと視線を送る。

「あら、そっちに何かあるのかしら」

「え、何のこと」

 わざと見たということを悟られない様に、こう答えた。

 相手が視線を向けた方へと振り向く。

「あら、いつの間にかこんな事をしていたの」

「さ、さあなんのことかしら」

「誤魔化すのが下手ね。こんなことをしたら危ないでしょ」

 恐らくコンセントを抜くために加湿器の方へと歩く。

(作戦通り)

「しまっ――」

 相手の声を遮って1つの音が鳴る。


 ドゴーン、


 爆発音が部屋に轟く。

 爆発音は、加湿器の辺りから鳴った。

 爆発を起こした犯人は真希、被害者は誘拐犯。

 どうやって爆発を起こしたかというと、水を電気分解した際に発生した水素を操作し、火花に触れさせ、爆発させた。

 爆発の衝撃で誘拐犯の女が飛ばされていた。

(爆発で壁が壊れてくれればよかったのに)

 流石コンクリートでできているだけはあって頑丈であった。

表面が多少崩れ焦げた程度で済んでいた。

(でも、一番の狙いは達成できているみたいだし、いいか)

 女は飛ばされて床の上に寝転んでいた。気絶はしておらず、意識はハッキリという訳ではないがあるようだ。

(このままのびていてくれると助かるんだけど)

 今は爆発の衝撃などでダメージを受け、寝転んでいるが、直撃していたわけではないので、いつ起き上がってきてもおかしくはなかった。

(さて、この後どうしましょうか)

 最良のシナリオは、先程の爆発で壁が壊れ、外と繋がることだったが、失敗に終わった。

 そこに真希以外の声が鳴る。

「こんなこと、あなた程度のレベルじゃできないのにどうやったのかしら」

 爆風で飛ばされた女が 、仰向けの状態のまま、こちらを見づ訊く。

「簡単なことよ」

(意識があったのか)

 そして、仰向けで地面に倒れている女へと目線を送る。

 爆風で飛ばされたにしては服についていた汚れは、地面を転がった時についた砂埃程度で、焦げたような跡がついていなかった。

「私がレベル3じゃないってこと」

「あら、本当はレベルいくつなのかしら」

 さっきまでと比べて、話し方が若干弱々しい。

「特別に教えてあげるわ、私の能力は空気変動エアオペレーターレベルは9よ」

「・・・!」

 そんな馬鹿なっと驚いた顔をしていた。

「だから真央じゃなくて私の方を拐った事は感謝しているの」

「ということは私たちは一番のジョーカーを連れてきたということか」

 自嘲気味に笑う。

「そういうことね。私たちとってはラッキー7とまではいかないけれど、なかなかいい手が残っているから」「・・・」

 誘拐犯は黙っていた。

「本当の事を言ったついでにもう1ついうと、いつでもあなたを倒すことができるのよ」

「あら、なら何故そうしないのかしら」

「傷つけたくないのよ」

「あら、もう十分に傷つけられたのだけれど」

 仰向けで寝転んで動けないでいるのだから、十分に怪我を負っていた。

「それは結構ましな方だと思うよ。わざわざあんな面倒臭いことまでしたんだから」

 爆発の事を思い出しながら言う。

「あら、これでましだなんてよく言えるわね。酷かったらどうなっていたのかしら」

「そうね、もしかしたらあなたが死んでいたかも知れないわ。私はこんな密閉された空間の中だと、力を上手く制御しきれないのよ」

「あら、だから爆発にしたの? 随分と乱暴ね」

「そうかもね、でも結果的にはよかったわ。あなたを動けなくなる程度まで弱らせることができたから」

「私が動けなくなった所でなにか変わるのかしら」

 率直な疑問を投げ掛ける。

「変わるわね、創真が助けに来るまでの時間を確実に稼げたわ」

 そう言って疑問に答えた。

「あら、でもその時間稼ぎも意味がないんじゃないかしら」

「どういうこと?」

 今度は真希が疑問を投げ掛けた。

「さっきも言ったけれど、その子は今私の部下に迎撃されているのよ」

 先程地鳴りが聞こえた方向へと目線を送る。

「それがどうかしたの?」

「あら、普通のこどもが、大人十人以上を相手にして勝てると思うかしら」

「思わないわね。なら私からも質問していい?」

「いいわよ」

「レベル5〜6程度の能力者が十人以上いたら、レベル10の能力者に勝てると思う?」

「難しいわね。・・・まさか!?」

「ええ、そのまさかよ。アイツはレベル10、だから負けない」

「あら、でも仮想戦闘機ではあなたが買ったんじゃなかったかしら」

「まぁ勝ちはしたけど、アイツには私の攻撃が一回しか当たらなかったし、手加減していて最初から負ける気だったし」

 怒りを込めたような声で答えた。 そして一拍置いて真希がまた話す。

「だから創真は絶対に負けない。それに私は創真が助けてくれると信じてる」

「そう」

 今度は青春らしいと茶化さず、短く受け答えた。

 そして部屋の中に静寂が訪れた。

 静寂の中に居るのは二人。

 一人は手足を縛られ、動けず壁にもたれかかる者。

 一人は体を強く打ち、動けず床に寝転んでいる者。

 そこに静寂を破る音が鳴る。


「真希!」


 扉を勢いよく開け、一人の少年が飛び込んできた。

「やっときた、遅いわよ」

 入ってきた少年に安堵の表情で答える。

「悪いな、ちょっと邪魔が入って遅れた」

 悪びれた風もなく答えた。

「全く一人で乗り込んできたって言うか、ら心配していたのよ」

「俺の事は心配しなくて大丈夫だよ。それより、真希の方は大丈夫だったか?」

 真希目の前まで歩む。

「ええ、大丈夫よ。そこに倒れてるのがいるでしょ」

 と、目線を送る。

「ん? いないぞ」

 目線を辿った先には誰もいなかった。

「え、でもさっきま――」

「いや、ちゃんといるぞ」

 創真が入ってきた扉とは別の扉の前にいた。

「あら、ようやく気がついてくれた? 仲良くしている所に割って入るなんて無粋なことしたくなかったから待っていたけど、もう少し早く見つけて欲しかったわ」

「それはすみませんでした」

 かばうように真希の前に立った創真が答えた。

「あら、素直な子ね、でも、もう終わりにしてあげるわ」

 ふらふらな女は右手を前に差し出す。

「え?」

 真希が思わず声を漏らしていた。

 声を漏らした理由、それは、差し出された手の先にあった。

 その先に握られていたものは拳銃。

「あら、安心していいわよ彩吹真希、あなたは狙わないから」

 女は創真の方へと照準を合わせる。

 銃口は創真に向けられたが、それを撃とうとしている者は、体に力が入らないのか壁に体重を預けていた。

「撃つのは構わんが、ちゃんと俺に向けて撃てよ!」

 張った声で力強く女を睨み付ける。

 創真の物凄い剣幕に一瞬おののいた。

「あら、なら遠慮なく撃たせてもらおうかしら」

 握られていた拳銃の引き金に指がかかる。

 そして、


 パーン、


 乾いた音が部屋中へと響き渡る。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 星がまばらに輝く夜空 の元を一台のバイクが物凄い速度で駆けていた。

 そのバイクに跨っていたのは、恵理奈さんと流深ちゃんであった。

 恵理奈さんがバイク中央のカーナビの様なものを操作し、どこかへ電話を掛ける

『はい、もしもし』

「私だ」

 ヘルメットの中にマイクとスピーカーが入っているらしく、よそから見たら普通に運転している様にしか見えない。

『ああ、御友か今度はなんの用だ?』

「お前らに依頼だ」

 話し相手は男。

『だから、前も言ったが俺に電話するんじゃなく普通に通報しろって』

「そんな事はどうでもいい。依頼を受けるか否か答えろ」

 相手の返答など意に介さず話した。

『それに、依頼じゃなくて普通に通報しろよ。で、何があったんだ?』

 嘆息交じりの声に現状を伝える。

「真希が誘拐された。それで今私は犯人がいると思われる場所に向かっている」

『誘拐か、場所がわかってるなら今から向かう、どこだ?』

「場所は教えるが、私が指示するまでは待機してろ」

『は? 何でだよ、場所がわかってるなら、俺たちが行った方が手っ取り早いじゃないか』

「勘違いするな、私は国民の義務として警察に教えただけだ。お前たちは逮捕だけしろ。真希は私たちが助け、犯人に痛い目を合わす」

 感情的な声で言い放つ。

『本気で言ってるのか?』

「ああ、本気だ。私の条件が飲めないなら場所は教えん」

『・・・だが、相手が武装している可能性がゼロじゃないんだ、だから俺たちに任せろ。俺たちはそういうのを想定した訓練を受けているんだからさ』

「なら、そいつ等と私たちが戦ったとしたら、どちらが勝つ?」

『それは、・・・わかったよ、その条件を飲む』

「わかった。場所はエリア8の15―8だ」

『了解。俺たちはその近くで待機させてもらうよ』

「ああ、任せた」

『ちゃんと指示しろよ、それに合わせて突っ込むからよ』

「ああ」

『それじゃ、またな』

 電話が終了した。

「交渉成立だ。もう少し速度を上げるぞ流深」

「はい!」

 バイクの唸る音がより大きくなり、速度が増す。

 一分一秒でも早く目的地に辿りつくために。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 乾いた音がなった後、部屋が静寂に包まれる。

 静寂を破り口を開くのは銃を撃った女。

「あら、これはどういうトリックかしら」

 されに受け答えるのは、創真。

「トリックなんかないさ、実力だ」

「あら、実力でそんな妙技ができるなんて凄いわね」

 その妙技とは放たれた銃弾を持っていた物干し竿で弾いたことだった。

「アンコールならいくらでも受けるぞ。ただし、次からは全部アンタに打ち返すんで、そこんとこよろしく」

 ホームラン予告をするかの様に折れて、元の半分程の長さになった物干し竿を誘拐犯に向ける。

「あら、そう、だったら遠慮なく撃たせてもらおうかしら」

 そしてもう一発銃弾が放たれる。

 爆発音と共に物干し竿を振り切る。

 2つの音がほぼ同時に二ヶ所でなる。


 カンッ、

 ドンッ、


「え?」

 情けない声を漏らす女。

 放った銃弾は物干し竿によって見事に弾かれ、髪をかすれ顔の右側を通過し、後ろの壁に着弾していた。

「さあもう一発こいよ」

 挑発をかます。

 が、そんな挑発が応えられる事はなかった。

 女は状況を理解し、その後恐怖かなにかで気絶し、その場に倒れこんでいた。

「片付いちまったか、なんか拍子抜けだな」

 そう言い残して気絶した女に背を向け、真希の方に体を向け一言。

「よし、逃げるぞ」

 真希の背後に周り、手足を縛っていたロープをほどき始める。

「全くアンタったら、ホント・・・」

「ホントなんだ?」

 ロープがほどけ二人とも立ち上がる。

「なんで、こんな所にまで来るのよ! 危ないじゃない」

 そう言ってから俺の頭を軽く殴る。

「痛っ、いや、だって真希の事が心配だったんだもん」

 殴られた所を擦りながら心配していた事を告げる。

「これでもしアンタが死んでいたらどうするのよ」

 安心からか真希の目が若干潤んでいた。

「あれくらいじゃ死んだりしないって」

 安心させようと笑顔で答える。

(実際さっき叩かれたのが受けた攻撃の中で一番痛かった訳だし)

「でも、ありがとうね」  笑顔に笑顔で返し、俺の頭に手を置く。

「ああ」

 涙ぐんだ真希に直視されお礼を言われ、照れ隠しか短く答え、視線を反らす。

(やば、今の真希可愛いすぎる!)

 心中はもうお祭り騒ぎになっていた。

(でも、あの笑顔が見れて良かった。あんないいもの見れたんだから、それだけで今日の努力の対価どころかお釣がくるな) 背けていた視線を戻し微笑みかけ「じゃ、脱出しますか」と、声をかける。

「ええ、そうね。こんな暗い所さっさと出ましょう」

 創真が先に部屋を出て続いて真希も部屋を後にする。部屋の中に居る誘拐犯に一瞥をして。

「うわっ、凄っ」

 一枚扉を挟んだ部屋に着いた瞬間真希が声を漏らす。

「ん? どうした?」

 何が凄いのかわからないので真希に訊く。

「どうしたって、これ創真がやったの?」

 荒れた部屋、倒れている十数人の男、ひび割れた地面、これらのことを訊く。

「気絶している奴らは俺がやったけど、地面砕いたり、椅子壊したりしたのはこいつらだよ」

 倒れている人たちを見渡す。

「そうなの」

「ああ、俺が壊した物っていえばこれくらいだよ」

 地面に手を伸ばしなにかを掴む。

 掴んだものを「これ」と言って真希に差し出す。

「あっそれ物干し竿じゃない」

 拾った物は、折れたのもう片方。

「そう物干し竿、俺が壊したのはこれくらいだだな」

 いまだに右手で持っていた物干し竿と、拾った物干し竿の折られた所を合わせる。

「どんな使い方したらそうなるのよ、ホントもう無茶して」

「まぁ色々とコイツには頑張ってもらったよ」

 闘っていたときの事を思い出す。

「それに俺は仮にもレベル10だ、こいつらを倒すことくらい雑作ないよ」

「私には負けたのに?」

 茶化す様に訊く。

「うっ、まぁそれはそれだ。早くこっから出よう」

 少し焦った風に急かす。

「はいはいじゃあ出ましょう」

 それに渋々従う。

 そして倒された男たち の間を後にし、暗い廊下を抜け、外に出る。

「脱出完了ー」

 創真が両手を上げ体を伸ばす。

「お疲れ様ー」

 真希も一緒になって体を伸ばす。

「じゃあ恵理奈さんに連絡取って迎えに来てもらおうか」

「そうね、じゃあ創真、携帯貸して」

 困った様な顔をして「えっ?」と返し続けて話す。

「俺、携帯持っていないんですけど・・・」

「は? なんで持ってないのよ、ホント使えないわね」

 今までの中で一番の侮蔑の視線が送られる。

「いや、だってさ、自分の着替えも満足に持ってない奴が携帯を持っていると思うか?」

「確かに持っているわけがないわね」

「だろう。そういう真希は携帯持ってきて・・・いないのか」

 真希が外出した理由がコンビニに買い出しに行ったことだと、話している最中に思い出して、諦めた。

「うん。だってさ歩いて5分位の所だし必要ないと思うじゃん」

 逆の立場だったとしたら俺も携帯を持っていくとは限らないので、これ以上は言及しない。

「じゃあしょうがないから公衆電話でも探そう。小銭くらいはあるよな」

「あるわよ、買い物に出たんだからちゃんと持っているわよ、ほら」

 と言い俺の方に手を差し出す。が、

「あの、真希さん。どこにあるのでしょうか?」

 真希は「えっ!?」と言ってから手元を見回す。

 そして誤魔化すように笑いながら。

「鞄あの中だ」

「・・・」

 互いに見つめあう形で制止する。

「忘れちゃった。てへっ」

 自分で自分の頭を軽く叩き、舌を出して可愛らしくおどける。

「・・・」

 無反応で冷たい視線を返す。

「ごめん、自分でやっといてだけど、今のはないわ」

 珍しく謝った。

「うん、じゃあどうするか。近くに交番とかあればいいけど、ここら辺にはなかったし、しょうがない、戻るか」

 嘆息しながらも決める。

「まぁ、それしかなさそうね」

 真希もあまり乗り気ではないが意を決した。

 そして二人とも振り向き、建物を眺める。

「じゃあ行くぞ」

「ええ」

 互いに確認をとり、中に入ろうとした刹那。 左側のシャッターが開き、中から声が轟く。

「あら、忘れ物かしら」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「もう準備はできてるか」

「はい! できてます!」

 物凄い早さで進むバイクの上で確認を取る。

 法廷速度を守っているのかと訊かれたら、自信をもって「いいえ」と答えられる程に。

「そうか、ならいい。もう少しで着くからな」

「はい!」

 街灯もまばらになってきた道を進む。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 扉を押そうとした際にかけられた声に驚き制止していた。

「ええ、そうよ。私の鞄をこの中に忘れたみたいなのよ」

 創真よりも先に答える。

「あら、そうだったの」

 いまだに声だけがシャッターの奥、おそらくガレージから聞こえる。

「だから取らせてもらうわね」

「わかったわ、入らせてあげる。だだし」

 そう言ってから言葉を止める。

「ただし何よ」

 一向に言い出そうとしないので苛立って訊く。

「私が直接あなたを案内するけれど」

 いい放った刹那、ガレージから巨大な何かが飛び出てきた。

「えっ!?」

 また驚く真希。

「王道パターンだな」

 妙な事を呟く創真。

 ガレージから出てきた物は、シルエットからは人形と思われる巨大ロボットだった。

 腕があり、胴があり、頭がある、脚はキャタピラになっていた。

「いや、アンタ、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」

 焦る真希

「ん、ああ、そうだな。こりゃそんなこと言ってる場合じゃなさそうだな」

 冷静な創真。

「とりあえずここは逃げる?」

「その方が良さそうだな、パターン的には指先から銃弾が飛んでくるなんてことありそうだし」

 会話が聞こえていたらしくロボットから声がくる。

「あら、その通りよ。よくわかったわね」

「マジっすか! よし、逃げるぞ真希」

 適当に言ったことが当たったことに驚き、急いで逃げると決める。

「あら、そうはさせないわよ、あなたには散々邪魔をされちゃたしね。無事に還すようなことはしないわ」

 ロボットの右腕を創真に向ける。向けた腕の先にある五本の指な先がドームのように開き、中かに銃口が見える。

「終わりよ」

 女の冷酷な声が終わりを告げる。

 声の直後に無数の銃弾が地面に着弾した音が轟く。

 撃たれた後には静寂と砂煙が残る。

「さあ、邪魔者が排除されたしあなたをもう一度招待してあげるわ」

「誰が排除されたって?」

 砂煙が立ち上る中から声がする。

「!」

 今度は女の方が驚かされる。

「助かったよ、真希」

「ホントよ、アンタどんだけ無茶したいわけよ」

「あら、一体どんな手品を使ったのかしら」

 疑問に思う女。

「手品じゃなくてただ能力を使っただけよ。アンタの右腕を見てみ」

 創真に向けられていたはずの腕が狙いよりも下に向けられていた。

「なるほどそういうことね」

 腕が真希の上からの風の攻撃により押されたことに気づく。

「そういうことよ。今度は全身を吹っ飛ばしてあげようか」

 強気でいい放つ。

「だから、高レベルの能力者は嫌なのよ」

 ロボットからそう呟かれる。

「それはすみませんね」

 呟きに対して答える。

 女は「聞こえていたのね」と言ってから話を続ける。

「私が高レベルの能力者が嫌いな理由は簡単に言えば嫉妬かしら。レベルが高いと言うことの優越感に浸っているのが許せないのよね」

 真希が「そうなの」とうなずいて話を聞く。

「こんなは理由ならレベルの低い人なら皆抱いている様な理由よね、でもね、これが一番の要因なのよ。優位者はその地位を甘んじて受けとる。低レベル者には手が届かないものだというのに、そういうのが許せないのよ」

 女の言葉を黙って聞いていた真希は少しの時間考えを巡らせてから口を開く。

「そうよね確かに、私もそう思うわ。でもね、レベルの高い人たちが皆あなたのいう優位者だとは思わないわ」

「あら、そういう発言は優位者だからできるのではないかしら」

「私はそうは思わない。少なくともあなたがそんなことをいうのは他の能力者に失礼だと思うわ」

「あら、どういうことかしら。レベルが高いそれだけで優位になるんじゃない? あなたが今生活している学校という空間でもレベルが高いだけで、持て囃される。能力をひけらかして悦に入る。そんな人もいるんじゃないかしら」

「ええ、確かにそんな人もいるわ、でもだからってそれがなんなの? 能力っていうのはどこまで突き詰めても所詮はただの能力。それ以上でも以下でもないのよ、そんなんで判断するな、アンタは自分のレベルに甘えて、今たっている場所に満足を得ているからそう思うんじゃないかしら」

「結局そういう考えは優位に立っているから言えるじゃないかしら。そんな人に私たちの気持ちがわかるのかしら」

「わかるよ!」

 大きな声で叫び、ロボットの奥にいる女を見据えるかのように見つめろ。

「私はね元々はレベル3だったのよ、まあだからってそのことで劣等感を感じたことはなかったのよ」

 今度は女の方が話を聞く。

「でもね、両親が最先端区域に行った時に思ったのよ、私のお父さんとお母さんは本当に凄い人なんだって、だからこそ、そんな両親を超えたい、物凄く驚かせたいそう思ってから私が両親を超える事ができる事はないかって考えて思いついたのが能力なのよ、勉強は嫌いだったから科学者でトップを取る事は諦めたけれど、能力者の中ではトップを取りたい、取るって決めたの。それからは恵理奈さんに手伝ってもらって7年間ずっと能力開発をしてきたのよ。もちろん今も続けているわ。あなたは諦めないことを諦めた。私は諦めていないそれだけの差よ」

 女は無言だった。何も言い返さないという事は、真希が言っていた事が的外れではなかったという事だろう。

「だから私は自分のレベルの事を自慢したりはしない、アンタが私をレベル3だと思ってたように学校の人も皆レベル3だと思っている。尊敬されるようなことは何一つしていないんだし、それで持て囃されるのも嫌だしね」

「あら、だったら正当な評価を受けなさい。それがとうぜんのことなのだから。それに、そんな理由でレベル3と偽っているのなら、他のレベル3の人に対して失礼になるんじゃないかしら」

「そうね、わかった。私はもう自分のレベルを偽らない」

「そう、それはいい心がけね。最後のご講義ありがとうございました」

 いい終えた刹那、右腕を真希へと向ける。

「あなた達を始末して逃げさせてもらうわ」

 銃弾が放たれる直前に真希の前に回りこみ、右腕をまえに突き出す創真。

「創真逃げて! 今回は間に合わない!」

 目の前には私を庇おうと立っている創真が見えたと同時に、銃弾が飛び二人へと向かう。そして、人の命を奪うには十分すぎるほどの灰色の雨が降った。




「え!?」

 状況を理解できずにいる創真と女。

「あっ!」

 状況を理解し、安堵のため息を漏らす真希。

 なぜ二人が無事だったのかその理由は、二人とロボットの間に突如現れた黒い塊にあった。

 その塊が銃弾を受け止め二人を守ったのであった。

「あら、今度こそどんな手品なのかしら。皆目見当がつかないわ」

 無理難題を突きつけられ困惑する。

「だから、能力よ」

 その問題に一瞬で答える。

「あら、ありえないじゃな。あなたの空気を操作する能力のではこんな事は不可能じゃないかしら」

「誰が私の能力って言った?」

「あら、じゃあ誰かしら」

「気付かないの? この音に」

 どこからか、唸るような音が近くで聞こえる。

「あら、確かに何か聞こえるわね」

「あ、本当だ」

 二人が気づく。

「アンタ、逃げるなら今のうちよ」

「あら、それは私に言っているのかしら」

「他に誰かいるかしら」

 辺りを見回しながら言う。

「いないけれど、私が逃げる理由が見当たらないのだけれど」

「そう、ならいいけれど」

 忠告は聞き入れられなかった。

 そして、唸る音を出していた正体が到着する。

「危機一髪です!」

「二人とも無事か」

 唸る音の正体はバイク乗っていたのは恵理奈さんと流深ちゃん。

「流深、助かったわ」

 二人がバイクから降りる。

「はい、助けました!」

「無事そうだな」

「はい、大丈夫です」

 真希が答える。

「一気に片付けるです!」

 言い放った直後流深ちゃんの腕の先、袖を捲られた手から青白い光がでた。

「創真、急いで下がって!」

「え、何で」

「いいからっ」

 状況を理解する暇を与えられず、真希によって恵理奈さんの方へと吹き飛ばされる。

 飛んだ創真とすれ違うように黒い塊が飛ぶ。

 黒く巨大な塊は津波のようにロボットへと進んでゆく。その幅は研究所の敷地程あり、高さはロボットをゆうに越して 黒い波がロボットに衝突する。

 圧倒的な質量と威力で押し流されるかと思ったが、少し後退しただけで立っていた。

 黒い波が通った後は黒く染められていた。波は敷地全体を通り抜け眼前に見える景色は、黒く染め上げられたものだった。

 創真の前に辺りを染めたもがあったので手にとってみる。

「これは、砂鉄?」

「ああ、そうだ」

 答えた直後辺り一面を覆っている砂鉄の一部に恵理奈さんが触れた。

「うわっ、凄っ」

 創真が驚いた理由は目の前にあった大量の砂鉄が大きな一枚の鉄板へと変化していたからだ。

「そうか、流深ちゃんの能力は発電ライトエナジー系で恵理奈さんは物質結合スティックマター系の能力者なんだ、しかも上位の」

「ああ、そうだ」

 短く答え、鉄板に触れる。するとロボットの足下の鉄板が綺麗に切られたようになり、地面とロボットにくっつくように鉄板が二分された。

「流深、頼んだ」

「はい!」

 返事をした直後、指先から光が広がる。

 刹那、砂鉄の津波により、塗装は剥がれ、表面は荒い鑢の目になったロボットが浮き上がり、真希と創真のいた建物へと飛んで行く。

 飛ばされた先にも、もちろん鉄板があり、打ち付けられ、両腕を開かせられ大の字の様になり、地面から若干浮いた形で静止した。

「さて、これでようやく落ち着いて話せるな」

 振り向き続けて話す恵理奈さん。

「二人とも本当に無事そうだな、安心した」

 怪我をしていないかと二人を見回す。

「ええ、私はなんともないわよ」

 笑顔で返す真希。

「俺もさっき真希に飛ばされて擦りむいた以外は大丈夫です」

 答えてから飛ばした張本人に一瞥するが顔を逸らされる。

 無事を確認し終えたので敵の方へと振り返る。

「たっぷり礼をさせてもらおうか。浮華冷菜ふか れいな!」

 ロボット越しの相手を睨みつける。

「あら、よくご存知で」

 ロボットから浮華冷菜の声が返ってくる。

「恵理奈さんアイツと知り合いなんですか!?」

 真希が訊く。

「いや、直接会うのは初めてだ。だが、あの兵器を見てそう思った」

「どんな奴なんですか?」

 今度は創真が訊く。

「確か元々は能力者監視委員チェッカーに所属していたんだ」

「能力者が暴動を起こしたりしないか見張る警察みたいな所ですね」

「ああ、そうだ。そこの技術部、暴動などが起きた際、鎮圧に使う武器の開発する部署に居たんだが、鎮圧する際に必要以上な威力の武器を作るようになり追放されたと聞いてる。あれとかを造り始めたんだろうな」

 そのあれこと、ロボットを見つめる。

「確かにあんなのを作り始めたら追放されますね」

「あら、追放されたのではなくて私から辞めたのよ」

 浮華がロボット越しに答える。

(あ、聞こえていたんだ)

 心中でつぶやく創真。

「もし、大規模な暴動が起きたら。もし、高レベルの能力者が暴動を起こしたら。

それを踏まえて新たな武器を開発していたのに、それは只の殺人の兵器だとか言われたのよ。それで頭にきて抜けたのよ」

「それはただの逆切れなんじゃ・・・ それにその人が言っていたことは正しいと思うのは俺だけだろうか。現にさっき殺されかけた訳だし」

 銃撃されたときの事を思い出す。

「確かに私も殺されかけたわ」

 ここに二人の証人がいる。

 それに対し浮華はこう反論した。

「あら、あなた達を殺すつもりは最初からないわよ、さっき撃ったのはゴム弾。威力こそ強めにしてはいるけれど、殺傷能力はないわ」

「殺傷能力がなかったら良いって訳じゃないでしょ! もし喰らっていたら私たちは大怪我していたかもしれないじゃない!」

 真希が浮華の反論に噛み付く。

「あら、実際には喰らっていないから、気にする事はないんじゃないかしら」

 悪びれた風もなく返した。

「喰らった、喰らわなかったとかじゃなくて、私が言いたいのは――」

 真希の言葉の途中恵理奈さんが腕を真希の前に出し静止させる。

「もういい、こいつはさっさと動けなくして警察に突き出す」

「あら、あなた達にそんなことができるかしら」

「ああ、そんなポンコツロボは破壊する」

 言い放ち目の前にある鉄板にもう一度触れる。

 すると、鉄板の一部が銃弾の様な形に変化した。

「流深!」

「はいです!」

 返事と同時に流深ちゃんの指先から青白い火花が散り、刹那、銃弾の形をした鉄塊を浮かせる。

 浮かんでいる鉄塊は先程撃たれたゴム弾とは比にならない程の数があった。

「えいっ!」

 流深ちゃんの短い掛け声を機に、浮いた鉄塊がロボットに近い方から順々に飛んで行く。そしてそれらが全てロボットへと直撃する。

 金属同士がぶつかり合う音が響き終え、静寂になる。ぶつかり砕けた鉄塊は中を漂ったり、地面に着地していた。

 攻撃を受けたロボットは撃たれる前と同じ姿でそこにあった。

 多少ボディーに傷が増えてはいたがそれだけだった。

「流石に硬いな」

 恵理奈さんがつぶやく。

「あら、これで攻撃はおわりかしら」

浮華が挑発の声を上げる。

「いや、まだある。流深、アイツを覆ってくれ」

「はいです!」

 恵理奈さんの指示に通りに、流深ちゃんがまだ中に浮いていた大量の砂鉄を操り、ロボットを覆い包む。

そして、近場の鉄板に触れ、ロボットを覆っていた砂鉄を固め、鉄板へと変化させ、動けなくする。

「では、終わらせるか」

 言ってからロボットの下へと一歩ずつ近づいて行く恵理菜さん。

 その後に続こうとする三人。だが、

「真希と流深はそこに残れ」

 恵理奈さんが告げる。

「何でですか!」「ボクも行くです!」

 真希と流深ちゃんが不平を言う。

「真希は流深の護衛。流深は非常時の時そこにいる方が都合がいいからだ」

「わかりました」「わかったですぅ」

 二人とも渋々納得する。

「じゃあ、創真はそっちなんですか?」

 やはり納得がいかないのか質問をする。

「それはそっちに置いて置いても意味がなさそうだからこっちにした。それだけだ」

(なんか俺、どうでもいい理由でこっちなんだ)

「あ~あ、なるほど。納得しました。」

「それで納得すんのかよ!」

 思わず声を上げていた。

「だってこれ以上に納得できる理由がある?」

「ないですね。そうですね」

(ここで突っかかっていても無駄なだけだな)

 という事で、二手に別れてから歩き、ロボットの前に到着。

 近くに来てちゃんと見るとやはりでかい。

「まずは腕から分解するか」

 俺に教えてくれたのか、ただの独り言かはわからないが、つぶやいてから、地面の鉄板に触れ、自身が乗っている部分を持ち上げ、台のようにし腕の正面に着く。

 どうやって分解するのか興味心身で見つめる。

最初に鉄板に触れ、それをもぎ取り捨て、そこにロボットのボディーが現れ、手を触れ目をつぶる。

(どんな金属を使っているのか探しているのか、確か物質結合の能力で物を変化させるには、それが何なのか理解していないと能力が使えないみたいだからな)

「わかった」

 つぶやいた直後にロボットの右腕が落ちた。

 次に同じ要領で左腕を落とし、キャタピラと胴の接合部分も切り落とした。

(決着ていうのは案外呆気なくつくもんだな)

 最後に胴を真っ二つに割る。

「あら、わたしの負けかしら」

 操縦席に座っていた浮華がロボットの中から颯爽と飛び降り、両手を上げる。

「あら、わたしの負けかしら」

 操縦席に座っていた浮華ロボットの中から颯爽と飛び降り、両手を上げる。

「なんて言うと思ったのかしら」

 言葉と同時に両腕を下げ、袖口に強いこんでいた拳銃を二丁取り出し、恵理奈さんへと向け連射する。咄嗟にそれを避けるために右側へと飛び込む様に回転し、鉄板の敷かれた地面の上を転がる。

「流石にやるわね」

 咄嗟の攻撃を避けるだけではなく、もう攻撃の効かない状態になっていた。

 浮華と恵理奈さんの間には二人を隔てる様に一枚の壁が出来上がっていた。

 その壁は鉄製、回避した際の転がった一瞬で地に手をふれて壁を形成した。

 注意が自分に来ていない事に気付いた創真が浮華の背中目掛けて走り出す。

 足音を殺した走り方で背中へ近寄り、勢いと腕力を込めた拳を浮華に放つ。

 感づかれる事なく放った拳が浮華の背中へ着々と進み、命中し吹き飛ばす。

 だが、吹き飛ばされたであろう場所には誰も居らず、細長い何かがあった。

 細長く建った四本のなにか。辿るように下方から上方へと視線を滑らせる。

 最初に見つけたのは人の脚。次は腕と胴。次は頭。その顔をよく見つめる。

 それは見覚えのある、最近であった人物。今対峙している敵。浮華だった。

 細く延びた四本の棒は支える脚。その脚は浮華の首の後ろ辺りから延びる。

 黒い脚が浮華を少し浮かせた状態にし、支える。背中に何かの機械が有る。

 この四本の脚は、浮華が背負っているであろう機械から延びているようだ。

「あら、後ろからの攻撃なんて卑怯じゃないかしら。おかげ様で起動しちゃったじゃない」

 言う事を聞かない子供に諭すかのように創真に告げる。

「そんなよくわからない物を使うよりは、卑怯じゃないと思うけどな」

 よくわからない、という言葉に反応したのか述べだした。

「あら、これはただの安全装置よ。まだ開発中だけれど、なかなかいいのよ。自身の危険に気付いた時に身を護ってくれるのよ。今回は気付くことができなかったけれど、本体を攻撃してくれて助かったわ。もうあなたの攻撃は当たらないわよ」

「へぇ、面白そうだな」

 安い挑発に乗り、浮華へ向け走り出す。

 そして、四本足に支えられている浮華の直前に迫る。

(脚の中に入り込むのは危険そうだな)

 試しにと支えている脚の一本に蹴りをかましてみるが、やはり人の蹴り程度ではビクともしなかった。

「あら、その程度かしら。次は私の番ね」

 そう言った直後に本体から二本の棒を新たに出し、腕として使う。

 そしてその腕で左前足に当たる脚を蹴った創真に向け突きを放つ。

 放たれた突きに体を半身捻ってかわし、腕が地に着く直前に掴み投げる。

 見事に投げ飛ばした、とまでは行かなかったが後ろ足に当たる棒が浮く。

 タイミングを完璧に合わせたウルトラCの技であったが、バランスを崩すのが精一杯だった。

 反対の腕で突っ張り体制を立て直した浮華が今度は突きではなく、薙ぎ払うように攻撃をしようとしたが、体制を崩した間に創真のことを見失っていた。

「うっ」

 いきなり低く苦しそうな声が上がり、浮華が崩れ落ちる。

 倒れた理由は僅かな隙に死角となる真下に走りこみ、腹に一撃を決めていた。

 そして、一瞥しその場を離れる。

「恵理奈さん」

「ああ」

 短いやり取りだったが、それだけで伝わった。

 返事をした直後地面に手を付き、浮華の機械でできた手足を鉄で動けなくし、歩き一歩ずつ近づいて行き、動けなくなった浮華の背後に立つ。

「今度こそチェックメイトだな」

「そうみたいね」

 苦しそうな声を上げる。

 その声を聞いてから浮華の背負っている機械に触れ、先程のロボットと同様に砕いた。

「片付いたな」

 浮華の事を見下ろし、携帯を取り出し何処かへ電話をかける。

「私だ、終わったから来い」

 一言だけを告げて携帯をしまう。

 そして、数十秒後に5台の車が来る。

 一人の男が先じて車から出て声を上げる。

「御友! ホシはどこだ!」

「一人はここにいる、他の奴はそいつが知っている」

 ホシって犯人のことなんだぁっと思っていたら、話が回ってきた。

「で、どこにいるんだ?」

 男が創真の近くに駆け寄ってきて訊く。

「あの建物の中に十人ちょっといます」

「そうか、人数が多いな、応援を呼んでくれ」

 つぶやいてから、乗っていた車の助手席に乗っていた男が「はい!」と返事をする。

「今から突っ込むぞ! ついて来い!」

 男が他の車に乗っている人達に告げる。

 そして、車に乗っていた全員が建物の中へと突入する。

「恵理奈さんあの人は誰なんですか」

「ああ、アイツは竹口たけぐち、刑事だ」

「へぇ、そうなんですか。どういう知り合いなんですか?」

「単なる大学時代の友人だ」

 と、そこに真希と流深ちゃんが合流する。

「二人とも怪我してない?」

 真希の駆け寄っての第一声。

「大丈夫だ」「俺も大丈夫!」

 恵理奈さんと創真が答える。

「安心したです!」

 真希の気持ちを代弁した流深ちゃんが笑顔で返す。

 そこに竹口が建物の中から出てきて訊く。

「中の奴らをやったの誰だ」

 真剣な眼差しが向けられる。

「あっ、それ俺です」

 挙手する。

「よくやったな、お前すげぇよ」

 微笑を含んだような声でかえす。

「竹口丁度いいところに来た。この二人を送っていってくれ」

 恵理奈さんが創真と真希を指す。

「はぁ、なんでだよ。御友が送って行けよ」

 あからさまに拒絶をする。

「構わんが私はバイクで来ている。ということは警察が4人乗りを推奨するという事でいいんだな」

(これは軽い脅迫だな)

「いや、そんなことは言ってないが、っ、あー、もう、送ってきゃいいんだろ」

 頭を掻きながら嫌々承諾する。

(流石恵理奈さんだな)

 心中で苦笑いの創真。

(とりあえず帰る足ができたからいいか。いいよな、うん)

 無理矢理押し入るようで申し訳なく思う。

「それじゃあ竹口さん、よろしくお願いします」

 創真がそんな事を思っていたのに遠慮なしの真希。

「お願いします」

 それに続く創真。

「あいよ、ほら、サッサと乗りな」

 乗ってきた車に戻る竹口。

「「はーい」」

 小学生のように返事する二人。

 そして乗り込む。いつの間にかに恵理奈さんと流深ちゃんもバイクに跨っていた。

「御友、先導してくれ」

「ああ」

 ということで出発して研究所へと向かう。

 空の色はもう黒だけではなく、赤から青へのグラデーションがかかり始めていた。




 

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