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第2章

 第2章 学校へ行こう!



「がはっ!」

 え、何!? この痛みは? 敵襲? 敵襲か!

「敵襲だ!」

 勢いよく体を起こす。

「いきなり何!?」

「え?」

 情けない声を漏らす。

「いや、だって俺の腹に打撃を受けたような痛みが・・・」

「布団と間違えてアンタを踏んだだけだから気にしないで」

「気にするわ! てか、まず謝ろうよ!」

「ああ、布団にね、わかったわ。ごめん」

「俺は布団以下の扱いですか!」

「創真こそあなたの上で寝てすいませんって、布団に謝るべきでしょ?」

「え? いやなんで? ていうかこれが正しい布団の使い方だろ」

「まあ、そういうことにしといてあげるわよ」

「ああそりゃどうも」

 投槍に返す。

「今何時だよ」

「八時だけど」

「朝っぱらから、あんま騒がせないでくれ」

「最高の目覚めでしょ」

「そーですね。どーもありがとうございます!」

「そう、じゃあ毎日起こしてあげるわ」

「それだけは勘弁してください」

 土下座をして頼む。

「そう、じゃあ止めてあげるわよ」

 なんか、物凄く残念そうに見えた。

「まぁ、それはそうとして、もうそろそろ行くから準備しなさい。真央がもうそろそろでご飯できるって言ってたから」

「へーい。じゃあ着替えるか・・・あ!」

「どうしたの?」

「昨日の俺の服洗濯した?」

「うん」

「俺、服あれしかないんですけど・・・」

「ドンマイ」

 笑いながら答える。

「俺はなにを着ればいいのでしょうか?」

「私の制服着る?」

「それは旗からみたらただの変人だろ」

「確かに変人だけど・・・ なら、ジャージにする?」

 そこは否定してくれないんですか。

「それなら・・・いいか」

「じゃあ取ってくるから待ってね」

「おう」

 少し経って戻ってきた。

「はいこれ」

 手渡せたのは、赤色のジャージで肩から腕にかけて白い線が二本入っている。ズボンも側面に二本線が入っている。

「まあしょうがないか」

 渋々着替える事にする。

「私はご飯食べて待ってるから」

「おう、すぐ行くから」

 ハラもへってるしすぐ着替えっか。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「おまたせ~」

「真央これ美味しいね」

 厚焼き玉子を指す。

「そうでしょ、今日のはかなり上手くできたから」

「流石真央ね」

「ふっふーん」

 胸を張って誇る。

 あれ、聞こえてなかったのかなもう一度

「おまたせ~」

「ご馳走様、美味しかったよ、真央」

「どうも、ありがとう」

 笑顔で答える。

「ねー無視しないでって! 泣くよ俺、このまま無視し続けるとマジで泣くよ!」

 二人に尋ねる。

「はいはい、わかったから、泣かないで」

「お兄ぃ結構可愛いですね」

 真央ちゃんの言葉に赤面する。

「いただきまーす」

 恥ずかしいので誤魔化すためにご飯を食べ始める。

 今日の朝食はご飯、焼き魚、厚焼き玉子と和風で揃えられていた。

「お、マジで美味っ」

「そうでしょ」

 だから何で真希が威張る。

「お兄ぃよく似合ってるよ」

 俺が真希のジャージ着てることを絶対おちょくってるだろ。

「褒められてもあんま嬉しくないんだが」

「いいから、早く食べちゃいなさい」

 真希が急かす。

「別にそんなに急がなくてもいいんじゃ」

「アンタが試験で苦しむ姿が早く見たいのよ」

「なにその黒い発言わ!」

「だって面白そうなんだもの」

「面白くも何とも無いと思うんですけど・・・」

「それは見てからのお楽しみ。だから早く食べなさい」

「はいはい」

(折角の美味い飯なのに、なんでこんな急かされなくちゃならんのか・・・)

「ご馳走様」

(あーもう食べ終わったよ)

 食器を流し台へと運ぶ。

「よし、じゃあ行くよ」

 無理矢理手を引っ張って玄関へと連れ去る。

「いや、ちょま、まだ歯も磨いていないんですけど!」

 叫ぶが普通に無視される。

「はい! 靴履く! よしじゃあ行くよ」

「あ~もう、はいはい」

 勢いに押され靴を履く。

「いっていきまーす!」

「いってきます」

 元気な声と疲れた声が木魂する。

「同伴出勤いってらしゃーい」

 元気な声が家から響く。

「違うわ!」

「もう、恒例だな」

「何か言った?」

 鋭い眼光が向けられる。

「いえ、何も」

「んじゃ、行こー」

「ちょ、走んなくてもいいんじゃ?」

「なんか、気分的に」

「はぁー」

 ため息を吐きながら振り回される。そして、十五分程走らされた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ここよ」

「やっとついたか。て、おーすげぇ」

 御友高校――クラシックな外観で雰囲気のある造りである。

「とりあえず、事務室に行きましょう。こっちよ」

 向かう方向を指差し、促す。

「ん、ああ」

 校舎に見とれて止まっていた脚を動かし、真希に付いて行く。

 正門から右手にある来客兼職員用の玄関前へと着く。

「必要書類とか用意してあるのか?」

「それなら、昨日のうちに恵理奈さんが送っといてくれたみたいよ」

「流石恵理奈さん、手際がいいな」

「いいから行くわよ」

 入り口のスロープを登り玄関の中へと入る。

 床には黒いタイルが敷き詰められ、壁や天井は清潔感にあふれた純白である。

 外装も然ることながら、内装もデザインに拘られていた。

「すいませーん」

 事務の職員の人が感じよく返事を返す。

「何の御用でしょうか?」

「こいつが今日編入試験受けるんですけど」

 と、俺の事を指差す。

「では、受験される方のお名前の確認をよろしいでしょうか?」

 受付の女性が俺に尋ねられた。

若干なんでその服着てんの? という目線を感じたが気にしない

「平井創真です」

 手元にある書類(?)を確認しながら。

「はい、承っております。ではこちらに」

 女性が事務室から出て案内を始める。

「じゃいこう」

「おう!」

 だが、此処で立ち止まる。

「どうしたの、創真?」

「土足でいいのか?」

「いいのよ、うちの学校は、早く行こ」

「あ、うん」

 短いやり取りをし、受付の女性に付いて行く。

 廊下を突き当たりまで歩き、左に曲がった正面にある部屋へと案内された。扉の上にあるプレートには小会議室と記されていた。

「ここで筆記試験を行います。カンニング防止のため携帯電話などは、私か彼女に預けて下さい」

「あ、俺携帯持ってないんで大丈夫です」

「そですか、では軽く筆記試験の内容について確認しますね。教科は英語、国語、数学の三教科。それぞれ時間は六十分間です。わかりましたか?」

「あ、はい! あの時間が余ったら次の教科を始めてもいいですか? 後、全て解き終わった時に試験終了にして貰いたいんですけど・・・」

「三教科それぞれ間に休憩無しになりますが、それでも構わないのなら可能ですよ」

「それでお願いします」

「はい、わかりました。それでは、試験用紙を持ってきます。筆記用具は持参されましたか?」

「あ、忘れました」

 正確には準備する時間もなく、無理矢理連れ出されたんだが。

「では、こちらで用意しますので少々お待ち下さい」

 そして、先ほどの道のりを戻る。

「そうだ、創真一つ良い事教えてあげる」

「何だ?」

「この学校は成績優良者には、補助金だかなんだか忘れたけど、まぁ何かしら良い待遇があるから頑張りなさい」

「そういう事はもっと早く言おうよ! それ知ってたら少しは勉強したのにさ」

「だって、今思い出したんだもん。それに、勉強しても意味無いって言ってたのは誰だっけ?」

「さ、さあ、誰だろうね~」

「自業自得ってやつなんだから、頑張んなさい」

「・・・ああ」

 俺のテンションが下がってきた所に受付の女性が戻ってきた。

「ては、試験を開始しますので、受験者の方は中に入って下さい」

「あ、はい」

 受付の女性に付いて中に入る。

「では、そこのせきに着いて下さい」

「はい」

 小会議室という事だけはあって勉強机ではない机が円形に並んでいる。

「私はこの試験の監督をしますので、不備等があったら言って下さい」

「はい」

「では、180分三教科連続の試験開始」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


――80分後

「すいません、終わりました」

「早いですね、もういいのですか?」

「大丈夫です」

「それでは、終了します。外で待っていてください」

「はい」

 そして、外に出る。

「お待たせ」

 真希がいつ持ってきていたのか分からない本を読んでいた。

「思ってたよりは早いじゃない」

「案外簡単だったからな」

「ふ~ん。そういえば何であんな注文したわけ?」

「あんまり真希のこと待たせたくなかったからな。それでだ」

「あっそう」

 会議室の中から受付の女性が出てくる。

「別の者が次の試験場へと案内しますのでお待ち下さい」

「え? あ、はい」

(これで終わりじゃないのか?)

「真希、これで終わりじゃないのか?」

「このあとは、能力検査スキルチェックがあるのよ」

「何をするんだ?」

「その人の能力のレベルを測るのよ」

「で、どういうことをするんだ?」

「それは人によって違うからわからないわ」

「そうなんだ」

「あ、丁度誰か来たじゃん」

 廊下の奥の扉が開けられ、一人のシルエットが見える。

「あれ、どっかで見たことがあるよーな」

 真希が目を細めて見ている。

「はろ~真希ちゃん」

「あ、華菜娃さん」

「誰?」

 耳打ちで真希に尋ねる。

「恵理奈さんの知り合いで、能力の研究が主の人よ」

「なーに、ヒソヒソ話してるのかな?」

 華菜娃さんが茶化すように訊く。

「今、華菜娃さんの事紹介してたんです」

「あ、どうも、初めまして」

 頭を軽く下げる。

「え~と、平井創真君だっけ」

「はい、そうです」

 華菜娃さん――見た目は30歳前後の短髪でスラーっとした長身の綺麗な人だ。

「君は何でウチのジャージを着ているのかな?」

(ごもっともな反応だとおもいます。俺も同じ立場だったら絶対に訊いている)

「学校に行くからそこの学校の服装の方がいいと思ったんで」

(これで誤魔化せりゃいいんだけど、何で誤魔化すかって言われたら本当のことを言った方が何で? て訊かれそうだからな)

「そーなの? 私服でもよかったのよ」

「そうですか」

「そーです。あっ、次の能力検査を担当するのが私、かがみ 華菜娃かなえです。よろしく」

 爽やかな笑顔で手を差し伸ばしてくる。

「よろしくお願いします」

 差し出された手を握り、握手をする。

「ところで何でここに居るんですか」

 真希が華菜娃さんに疑問を投げかける。

「能力者の割合ってがくせーが約八割じゃない。それに高校生はその中の約四割を占めているから、能力の調査するにはちょーどいいのよ」

「そうなんですか」

「納得してくれた? それじゃー、案内するから付いて来て」

 踵を返し、白衣を翻し、先程入って来た扉から外へ出る。

 渡り廊下を歩き続け一つの建物の前で脚を止める。

「ここが今回、能力検査を行う実演小屋セレクトキャビンだから」

「結構大きいし、綺麗ですね」

 建物の回りには良く手入れの行き届いた草木が茂っており、実演小屋の外壁には蔦の植物が張り付いており、緑の壁が弧を描いて広がっている。

「鑑賞し終わった? じゃー、中に行くよ」

 木製の扉を開け中へと入る。

「うぉ、中も凄い」

 思わず声を漏らしてしまった。

 中には木目を基調としたモダンな造りになっている。目の前の廊下の両側には向かい合う様に幾つか扉が付いている。

 その廊下を渡り辿りついた部屋の中央には螺旋階段が上下に伸びており、それを中心に円形になっている。

 今来た廊下とは反対側の方には大きな窓が取り付けられ、太陽の光が降り注いでくる。

 窓側の方にはテーブルとイスのセットが幾つか置かれ、壁沿いにはベンチが設けられている。

「ここは、生徒たちの憩いの場として結構使われているの。昼食時には大繁盛しいるのよ」

「確かにそうでしょうね。こんなに良い場所ですし」

「でー、平井君。君の能力はなんだい?」

「えっ、え~と」

(どうしよう、能力何にしよう。あーもう、何でもいいから適当に言うか!)

「・・・目。目の能力です」

(これで、だいじょうぶか?)

「目の能力って事は視力か動体視力の強化又は、透視のどれだい?」

(おお! よかった大丈夫みたいだ)

「視力と動体視力どっちも大丈夫ですよ」

「おー、凄いね。じゃー下だ。付いて来て」

 螺旋階段を降り地下2階へと来た。

 造りは螺旋階段を中心にして四方に廊下が伸びそれぞれの廊下の右側だけに扉が付いている。

 地下も上の階と同じ造りで円形になっていた。

「平井君の能力を検査する部屋はこっちね」

 付いていき部屋の中へと入る。

「私も入っていいんですか?」

 真希が訊く。

「邪魔さえしなければいいよー」

 軽く答える。

「じゃあ失礼しまーす」

 真希も中に入る。

「じゃあ。平井君そこに立ってくれ」

 テープで目印が張ってあるのでそこの前に立つ。その間に華菜娃さんが何か良く分からない機械の横の椅子に着く。

「じゃー、先に動体視力の検査を始めるから、前を見て」

 前って壁しかって思い見ると、壁ではない別のものが広がっていた。

「ここって地下なんじゃ・・・」

 目の前に広がっていたのは、広い空間だった。少なく見ての奥行きは1km以上あった。

「これってどういう仕組みなんですか? どう見てもおかしいでしょ」

「ってことはこれを初めて見たのか、これは空間調節ディメンションコントロールって言って、空間の奥行きをある程度変えられるわけ」

「へぇ、凄いですね」

「んじゃー、軽く説明するよ。あそこにピッチングマシーンがあるのが見えるね」

 空間調節の中にあるピッチングマシーンを指差す。

「あそこから野球ボールを飛ばすからそこに書かれた数字を当ててね」

 手元にある野球ボールに数字を書き横の機械に入れる。

「さっきから気になっていたんですけど、その機械は何なんですか」

 箱型の機械にアンテナのような物が一本伸びていた。

「これは、流化転送機パーティクルトランスファーって言って空間調節の中にあるあれに送るの」

 と、空間調節の中にある、似たような機械を指す。

「あっちのは流化受信機パーティクルレシーバーって言って流化送信機から送られた物を受信する物よ」

「でも、何であんな近くにあるのにそんなものを使うんですか」

「あの中って完璧に安定した空間じゃないから、人が入るには危ないからこうゆー機械を使うってわけ」

「そうなんですか」

「でー、ついでにあそこに見えるもう一つの機械は捕球くんで、送ったボールをピッチングマシーンに入れてくれるの」

 いつの間にかに送られていた野球ボールを捕球くんが忙しなくピッチングマシーンに入れていた。

「じゃー、始めるけどいい? 三桁の数字が書かれたボールを五つ飛ばすから」

「はい、わかりました」

「んじゃあ、3・2・1・スタート!」

 ピッチングマシーンから物凄い勢いでボールが五連続で飛び出した。

「早!」

 真希が声を漏らす。

「351、946、476、204、637」

「え、見えたの!?」

 真希が驚く。

「はーい、全部正解。時速300㎞だからレベル7だね。もうちょい速さ上げるね」

「はい」

「私、全然見えなかったんだけど」

 華菜娃さんがボールにまた数字を書き流化転送機に入れる。

「んじゃあ、始めるよ。3・2・1・スタート」

 先程よりもさらに早いボールが連続で飛ばされた。

「915、740、335、692、294」

「・・・正解。時速500㎞だからレベル10ね。凄いじゃない!」

「そりゃどうも」

 頭に手をのせ軽く頭を下げる。

「あめでとう、創真凄いじゃん」

 と、肩を軽く殴る。

「サンキュ」

「この学校初のレベル10ね。今まではレベル8までしかこの学校にはいなかったのよ」

「え、でも真希って――」

 いきなり真希に連れ出される。

「創真、私がレベル9ってことは皆には内緒にしてるの」

 小声で話す。

「でもなんで?」

「何かと面倒なのよ、学校で一番レベルが高いとなると色々な仕事とか回されるから、嫌なのよ」

「へ~、そういうもんなんだ」

 お互いに小声で会話を続けた。

「な~に、二人でいちゃついてるのかな?」

 華菜娃さんが近づいて来る。

「いや、なんでもないです!」

 真希が慌てて返す。

「そう、じゃー次は視力の方を測るね」

 言い放ち、キーボードを操作して、空間調節の操作をする。

「とりあえず最初はレベル5の5㎞からね」

「はい」

「今私が打った言葉がむこーにあるモニターに表示されるから、それを読み上げてね」

「わかりました」

 俺は右手で右目を押さえる。

「それでいーの?」

「あ、はい視力はどっちも同じなんで」

「じゃー、はーい、どーぞ」

 言い切ると同時に打ち終える。

「・・・・・・」

「どーかしたの?」

 華菜娃さんが首をかしげる

「あれを読むんですか」

 左手で指を指しながら訊く。

「そーよ、指示どーりにね。じゃないとカウントしないから」

「・・・はい」

 一呼吸置く。

「俺に構わず先に行け!」

「・・・。どうしたの創真。元から壊れてたけど、余計壊れた?」

 冷たい視線が注がれる。

「いや、あそこに『俺に構わず先に行け!(感情を込めて)』って書いてあるんだよ!」

 必死に弁解する。

「せいかーい」

 暢気な声を出す。

「華菜絵さん、なんで、こんなの出すんですか!?」

 声を荒げて訊く。

「私が少年漫画が好きだから。それに、なーんか、かっこいーって思ったからよ」

 笑顔で答える。

「いまどき、そこまでベタな漫画ってあるんですか?」

 呆れながらも訊いてみる。

「それが、たま~にあるのよ」

「すなんですか」

「それじゃー今度は距離倍にして10㎞ね。今度はレベル10だから。ついでにこれが空間調節でできる最大距離ね」

「あのーまたさっきみたいなのを出すんですか?」

「そのつもりよ」

 うわ~めっちゃ笑顔だ。

「できれば止めてもらいたいんですけど・・・」

「じゃー考えといてあげる」

 考えといてあげるって絶対変える気ないな・・・。

「・・・はい」

「それじゃーどーぞー」

 話終えると同時に、キーボードを打ち終える。

「ここは俺が食い止める!」

「・・・」

「真希! 無言は止めて! それに華菜娃さん! やっぱり変えてくれませんでしたね!」

「おー凄いじゃないか。正解だ。視力の方もレベル10だ」

「無視ですか! 俺の事無視で話進めますか!」

「両方レベル10なわけだし、あの距離でボール飛ばしてみよーか」

(これはいくら言っても聞いてくれないな)

「・・・はい」

 諦めて指示道理にすることにする。

「始めるから準備しといてくれ」

 ボールに数字を書き、流化送信機にボールを入れる。

「・・・はい」

「準備できた? それじゃー3・2・1・スタート」

 10㎞先のピッチングマシーンから野球ボールが連続で飛ばされる。

「628、063、118、725、830」

「・・・正解! おめでとー。速遠兼眼ファーラピダーレベル10よー」

「とりあえず、おめでと」

 ずっと黙っていた真希がやっと口を開く。

「ありがとう」

 二人に礼をする。

「この結果なら筆記試験が、れー点でも、たぶん受かるよ」

「おー、本当ですか! よかったぁ」

 安心して力が抜ける。

「じゃーこれを持って事務室に行ってくれ」

 能力試験結果と書かれた用紙を俺に渡す。

「こういうのって普通監督者が持って行くんじゃ・・・」

「いーのよ、どーせ結果は変わらないんだから」

「そんなんでいいんですか?」

「いーのよ、じゃー早く持って行きなさい」

 意地でも持っていく気はないみたいだ。

「じゃ、行こう創真」

「あ、うん」

 真希に促され、行く事にした。

 扉を開け、螺旋階段を上り外へと出る。

「さっさとこれ渡すか」

「そうね、早く行きましょ」

 渡り廊下を渡り、事務室前へと着く。

「すいませーんこれ持ってきました」

 事務室の中に告げる。

「え~と、平井創真さんですね。では能力試験結果の用紙を受け取ります」

 事務の人に用紙を渡す。

「これが筆記試験の結果です」

 事務の人から用紙を渡される。

「早く見して」

 真希が急かす。

「よし!」

 緊張の一瞬。二つ折りにされている用紙を開く。

「えっ・・・」

 真希が驚く。

「全部満点ってアンタどんな頭してんのよ!」

「保障があるって言うから本気で解いたこうなったみたいだな」

 空笑いしながら答える。

「へーそうなんだ」

 感情のない声が返る。

「平井創真さん合否結果がでましだ。合格です。おめでとうございます」

「あ、ありがとうございます」

「こちらに、編入手続きに必要な書類が入っていますので、指定された日までに提出して下さい」

 一つの封筒を渡される。

「ありがとうございました」

 軽く頭を下げ、そして振り返って真希に話しかける。

「さ、帰ろう」

「そーね、優秀な創真さん」

「何ですかその初めて聞く口調は?」

「いえ、なんでも、じゃあ帰りましょうか」

 玄関を出てから真希が携帯電話を取り出し時間を確認し、口を開く。

「丁度昼時だしどこかで食べてく?」

「いいけど、俺一文無しだよ」

「いいわよ、そんくらい奢ってあげるから」

「マジか! サンキュ!」

「ま、合格祝いってことで。少し歩くけどいいでしょ?」

「ただ飯食えるなら何処までも着いて行きます!」

「じゃあ、私はタクシーで行くからアンタは走ってきなさい」

「それは勘弁!」

「まぁ、冗談だけど」

「真希、腹減ったし早く行こう」

「そうね」

 真希に付いて何処かへと向かう。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 学校から暫く歩いて駅前へと着いた。

「ここでいい?」

 大型ハンバーガチェーン店を指差す。

「いいけど混んでるな」

 昼を少し過ぎたとはいえ、人気があるようで未だそれなりに並んでいた。

「十分も並ばないと思うし行こう」

 そして、列の最後尾に並ぶ。

「俺、こういう所初めて来たよ」

「へーそうなんだ。結構美味しいよ」

「んまぁ楽しみにしとくよ。それはそうとさ真希?」

「何よ」

「この格好目立たないか?」

 そういえば創真は真希のジャージを着ているのであった。

「一応私も制服で着てるから大丈夫でしょ」

「ん、ならいいけど」

 ――待つこと数分。

「次の方どうぞ」

 レジの女性が案内する。

「あ、私たちね」

 レジの前へと立つとレジの方が「ご注文をどうぞ」と言う。

「え~と、チーズバーガーセットで、創真アンタは?」

 創真へと視線をやと、珍しいものを見るかのようにメニューを凝視していた。

「創真」

「・・・」

 呼びかけたが無反応なのでもう一度。

「創真」

「・・・」

 まだ、メニューに夢中になっている。

「後もう一つチーズバーガーセット下さい」

 レジに告げる。

「では、こちら側に並んでお待ち下さい」

「はい」

 真希が移動する。

「創真、こっち」

 まだ見ていたので無理矢理引き寄せる。

「どんだけメニュー見てんの!」

「いや、だって沢山種類があるんだもん! 凄くない!」

 何故かやたらとテンションが高い。

「いいから落ち着きなさい」

「じゅーぶん落ち着いてるって!」

 それで落ちついいているつもりなんだ。なんか変なスイッチ入ったみたいね。

「あ、きた」

 トレーに乗せられたチーズバーガーセット×2を受け取る。

「ほら、いくよ」

「お、おう!」

「じぁ席探そう」

「おう!」

 あーなんか疲れる。

「どこか空いてない?」

「見つかんないけど」

「レベル10でしょ見つけなさいよ」

「これは能力関係ないって!」

「使えないわね」

「どーもすいませんね」

(ようやく元に戻ってきたか。なんでメニュー一つでテンション上がるんだか)

「あそこ空いてるから行くよ」

「おう」

 私の後に続いて創真が席に着く。

「じゃ、食べましょう」

「そうしよう」

 創真がチーズバーガーを口にする。

「うわ! 美味! これ」

「そんなに美味しいかな」

 真希が空笑いしながらチーズバーガーを口にする。

「美味いって!」

「美味しいて言えば美味しいけど、そこまでじゃないと思うよ」

 そして、もうチーズバーガーを食べきった。

「アンタ、食べるの早いわね」

「美味かったからな、これはどん何なんだ」

 次はポテトを口にする。

「おお! これも美味い」

「いいから落ち着いて食べなさい」

(なんか、私が保護者みたいね)

「ボク、もう少し落ち着いて食べましょうね」

「誰がボクだ! それになんですか、その妙なキャラわ!」

「いつも通りよ、ボク」

 にこやかに小首を傾げる。

「お願いしますそのキャラ止めて下さい」

「飽きたらね」

「・・・はい」

 諦めたようで、創真がドリンクを飲む。

「うわぁ!」

「今度は何かな?」

「今これ、シュワってした。これ何」

 眼を見開いて驚き、真希に訊く。

「何ってただのコーラよ。そのシュワってやつは炭酸ね」

「へぇそうなんだ」

「まあ、おいしいでしょ?」

「うん。俺これ苦手だわ」

「人が折角買ってあげたのに嫌いってのわ無いんじゃないかな。ボク」

「あの、真希さん」

「何かな」

「表情と目が一致いてない様に見えるんですけど・・・」

 笑ってはいたが目が怖かった。

「それに、苦手なだけで嫌いとは言ってはいません」

「そう、ならちゃんと飲みきりなさいよ」

「はい!」

 そして、一気に飲み干した。

「ど、どうだ。飲み切ったぞ。ゲップ」

「どうだって、そんな意気込むような事じゃないでしょ」

「そうですか。うぇーなんか変な気分」

「私ももうそろそろ食べ終わるから待ってなさい」

「へーい」

 そして、真希が食べ終わり、トレーを返して店を出る。

「んじゃあ、恵理奈さんの所に行きましょう」

「ああ、行こうか」

 店をでて、恵理奈さんのところへと向かうのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「やっと着いたわね」

「ああ、やっと着いたよ」

 疲れきった声で返す。

「なんかやけに疲れていない?」

「誰のせいだと思っているんですか!」

「誰のせいなの?」

 全く見当が付かないと首を傾げている。

「真希のせいでしょうが」

 また疲れきった声で答える。

「何かあったかしら」

 どうやら本当にわかっていないようだった。

「帰る途中、真希が目に付く店に行きまくるから、それに振り回されて疲れきったんですけど・・・」

「そんなに寄っていないって」

「これでも?」

 手に持っている物を前に差し出す。

「ホント、荷物持ちがいて助かったよ」

 悪びれたところが一切なかった。

「あ~もういいです。何言っても無駄だって言うことがわかりました。てか、よくこんなにお金持っていたな」

 買い物では2~3万円位使っていた。高校生では大金だろう。

「まあ、結構お金はあるのよね。んじゃあ早く中に行こう」

「そーですね」

 感情無く答える。

 扉を開け中へと入る。

「ただいまー」

 ただいまなんだ、んじゃ俺も。

「・・・ただいま」

 様子を伺うように控えめに声を出す。

「おかえりなさいです!」

 流深ちゃんが右手を大きく上げて返事を返してきた。

「帰ったか」

 恵理奈さんが無愛想に返事をする。

「創真さん合格おめでとうです!」

「え、なんでもう知ってるの!?」

 創真が驚いていた。

「先程学校の方から連絡を貰ったんだ」

「そうだったんですか」

 恵理奈さんの説明に納得した創真であった。

「そこで、創真さんにお祝いです!」

「え、マジで!」

「はい、マジですよ!」

 辺りに目をやると手に持っているものと似たような紙袋が置いてあった。

「中、見てもいいですか?」

 恵理奈さんに確認をする。

「構わん」

 相変わらず恵理奈さんって口数少ないよなぁ。んまあこんな事はどうでもいいから中身を確認して見ようか。

「おーありがとうございます」

「なに、私にも見して」

 真希が無理矢理に覗き込んでくる。

「ちょま、俺もまだちゃんと見てないのに」

 さっきまで目の前にあった紙袋が真希の下にあった。

「なんだ、ただの服か。もっと面白い物がよかったのに。 ・・・燃やすか」

「それは止めて! 真希が喜ぶような面白い物が入っていたら、絶対俺が困るわ! それに自分はあんなに服買っといて他人の物になると一気に興味ゼロですか」

「他人の物だからじゃなくて創真の物だからよ」

「あーそうですか俺の物だからですか・・・」

「まあいいから早く着替えなさい」

 俺の事を指差して命令をする。

(結局興味はあるみたいだな。えーと着替えられそうな場所はっと・・・あった)

「保険室(?)借りますね」

「はい、いってらっしゃいー」

 真希が手を振って見送る。

 数分後、創真が戻って来る。

「桜空創真のファッションショー」

 馬鹿が一人入室しました。

 創真の言葉に続いて真希も一言。

「どうもありがとうございましたー桜空創真でしたー」

 馬鹿が排除されました。

「もうちょい相手してよー」

「えー面倒臭い」

「というか俺がこんないいもの貰っちゃっていいんですか?」

「気にするな」

「セールで格安だったです!」

「そうだったんですか」

(できれば聞きたくなかったな)

「よかったじゃない、これで私のジャージ着ないで済みそうね」

「まあそれは助かるけど」

「それで今日は合格祝いでパーティーをしますよ! パーティーですよ! パーティー!」

 流深ちゃんがはしゃぐ。

「そうだ、真希」

「なんんですか?」

「真央も呼んでおけ」

「はーい」

携帯電話を取り出し、電話を掛ける。

「そういえば、なんで恵理奈さんは真希とかとあんなに仲いいんですか?」

「真希と真央の両親と私は仲がよくてな、二人が最先端区域行く際に預かったんだ。流深も同じような感じだ」

「そうだったんですか」

 思ってたよりも面倒見いい人なんだな。

「連絡完了!」

 真希が戻ってきた。

「真央が直ぐいきますだって」

「そうか、何か食いたいものはあるか?」

「えっ! 恵理奈さん久しぶりにご飯作ってくれるんですか?」

 表情を一気に輝かせる。

「そこにあるチラシから好きなものを選んでおけ」

「なんだ、違うんだ」

 唇を尖らせて小声で嘆息した。

「はい! 選ぶです!」

 流深ちゃんが嬉しそうにチラシに飛びつく。

「創真さんは何か食べたいものはありますか?」

「う~んそうだな。俺は――」

「ボクはピザがいいです! 後、チキンも食べたいです! それにお寿司とカレーと中華とそれとそれと、もうとにかくいっぱい食べたいです!」

「そうなんだ、でもそんなにいっぱいは食べきれないんじゃない?」

「そうなんですぅ。それが悲しいです!」

 その言い方だと全く悲しそうには見えないけれど、まぁ気にしないでおこう。

「あー私はなにか美味しいものね。美味しいもの以外認めないから!」

 気を取り直した真希が言い放つ。

「それに載っているものは殆ど美味しいものだと思うけど」

 チラシに目線をやりつつ告げる。

「そうじゃなくて、私をわっと驚かせてくれるようなものが食べてたいのよ。もちろん美味しくてね」

「そんな抽象的なものじゃなくて、もっと具体的なもの言えよ」

「そうね、見た目とのギャップていうのが大事だと思うの」

(あーもう俺の話を中途半端にしか聞いていな)

「見た目が、何これ食べ物? って状態なのに食うと美味いみたいなものか?」

「そんな定番のじゃないのよ。なんて言えばいいんだろう、えーと、んまぁギャップが大事なの!」

 浮かばないから適当にはぐらかしやがった。

「んじゃあ・・・ どうみてもピザなのに、食ってみたらクレープの味がするとかか?」

「そんな感じなんじゃない」

(なんか妙に反応が薄いってか、俺の言葉が右から左にスルーして行ったな。もう興味なくなったのかい、折角考えたというのに)

「そういうアンタはなにが食べたいの?」

 勢い良く質問された。

「俺はなんでもいいよ」

「なんでもいいのね、わかった」

(あっ、やべ、これは絶対にろくでもないことを考えている。急いで付け足さんと!)

「ただし、健康がいなく普通に市販されているものな!」

「ちっ、そんなのわかっているから」

 舌打ちしたってことは本当にとんでもないものを食わせる気だったのか。危なかったわ。公園の草とか食べさせられたいたかもしれないな。

「ちなみに、俺になに食わせようとしてた?」

 恐る恐る訊いてみる。そして、笑顔で返答。

「レンガとか塩酸とかオリハルコンとかよ」

 想像以上だった。公園の草とかはまだ可愛い方だったんだな。

「そんなもん食わせる気だったのかよ! てか、レンガと塩酸はよくはないけど、まだいいとしてオリハルコンはここにあるのか? なら是非見せて下さいよ幻の金属を!」

「あるわけないじゃない、それにオリハルコンは冗談よ」

「それ以外は本気と」

「信じるか信じないかはアンタ次第!」

 言って俺を指差し、何かに気づく。

「そんなの買った服の中にあったかしら」

 俺の首元を指していた。

「これか? 入っていなかったよ元々俺のだ」

 リングにチェーンを通したネックレスを見せる。

「誰かからの贈り物?」

「いや違うんだ。これは母さんの形見らしいんだ」

「そうなんだ」

「あ、別に形見だからって、母さんが亡くなってるとは限らんから。生きているのかどうか、顔も知らないんだよな」

 声からも表情からも淋しさが感じられた。

「でも、俺はいずれ会えるってしんじているから。信じるものは救われるっていうしな」

 今度は声も表情も明るかった。

「そうね、私もアンタがお母さんに会える事を信じるよ」

「ただいまー」

 真央が入ってきた。

「おかえりです! 真央ちゃーん!」

「流深ちゃーん」

 真央ちゃんと流深ちゃんが抱き合った。

「二人は仲がいいんだね」

「仲良しです!」

「そういえば何をしていたんですか?」

 真央が回りに訊く。

「今何を頼むのか決めていたところよ」

 真希が答える。

「それで何にしたの?」

「それが、まだ決まっていないのよねぇ。真央はなに食べたい?」

「私はなんでもいいよ」

「そう、じゃあ私が適当に決めちゃっていいかしら?」

 俺の時とは違って、変な物は食わせる気はないんですか。

「お姉ぇに任せる」「はいです!」「別にいいよ」

 真央ちゃん、流深ちゃん、俺が答える。

 恵理奈さんは返事が無かったが、あの人は何でもよさそうだしな。

「んじゃあ、頼んでくるねー」

 また携帯を掛け始める。

「そういえばそれは何が入っているの?」

 真央ちゃんが持っている袋について訊く。

「この中にはクラッカーと飲み物が入っています」

「何でクラッカーなんか買ったの?」

「お姉ぇに頼まれて買ったんですよ。パーティーするからクラッカーも買ってきてねって、言われて」

「真希らしいな」

 空笑いしながら答える。

「それはそうとこんな所でクラッカーなんか使って散らかしちゃっていいのか」

 創真が回りの人に訊く。

「向こうにパーティールームがあります!」

 モニターが沢山ある方向と逆側にある扉を指す。

「正確には使っていない地下室への階段ですよ」

 真央ちゃんが流深ちゃんの説明に付け足す。

「へぇー地下室まであるんだ。ここって大分広いんだな」

「地下だったら幾ら騒いでも大丈夫なんですよ」

「朝まで騒ぐです!」

 真央ちゃんと流深ちゃんが楽しそうに話す。

「朝までって子供は早く寝ないと駄目だよ」

 二人に注意してみる。

「子供扱いしないで下さい」

「ボクはもう立派な大人ですよ!」

 真央ちゃんと流深ちゃんが頬を膨らませて怒ってくる。

「はいはい、ごめんね」

 こんなことで怒るなんてまだまだ子供だなっと微笑ましく思う。

「おっまたっせ」

 注文し終えた真希が戻ってきた。

「何を頼んだんだ?」

「フライドチキンのパーティーバーレルとピザを二枚頼んどいたわ。こんだけ頼んでおけば5人でも足りるでしょ」

「わーい、ピザとチキンてす!」

 流深ちゃんが手を上げてが喜ぶ。

「来るまで時間あるけどその間なにする」

 創真が皆に尋ねる。

「そうね、じゃあ皆で仮想戦闘機でタッグ戦でもやる?」

「嫌だわ!」

「私も遠慮します」

創真と真央ちゃんが反対した。

「何で嫌なのよ! 来る前に腹ごなししましょうよ」

 不満を漏らす。

「そりゃそうだろ! あんなもんもう食らいたかないわ!」

 真希と戦った時に最後受けた攻撃を思い出しながら言う。

「私は皆みたいにレベルが高くないからいいです」

「真央、そんなこと気にしなくたっていいからやろうよ」

「いいって、だって皆レベルが高すぎるんだもん。

お姉ぇはレベル9、お兄ぃはレベル10って聞いたし、流深ちゃんはレベル7、私はレベル3だし差がありすぎるんだもん」

「そうだったわね、忘れてたわ」

「なら、お姉ぇと流深ちゃんで戦えば?」

「それはいい」

 真希がすぐ断った。

「あまり流深とは戦いたくない」

(戦いが好きそうな真希が拒否するとは、流深ちゃんも相当強いみたいだな)

「じゃあ、仮想戦闘機は無しって事で何やる?」

 また創真が皆に訊く。

「なら、億万長者ゲームでもやる?」

 真希が提案してみた。

「え~」「ボクは遠慮しますぅ」「俺もいいや」

 真央ちゃん、流深ちゃん、創真、皆断った。

「なんでよ」

 皆に理由を訊く。

「あれは一回やれば十分だからだな」

 創真が代弁して答えた。

「そう、じゃあ妥当にトランプでもやる?」

「そうするか」

 創真が答える。

「大富豪やるです!」

「大富豪ならいいですよ」

 今度は皆賛成した。

「それでトランプはどこにあるの?」

「今取ってくるです!」

 流深ちゃんがトランプを取りに行く。

「持ってきました!」

「早!」

 創真が声をあげた。

「では配るです!」

 そして、カードを配り大富豪を始める。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ――一戦目終盤

「革命です!」

「えっ、このタイミングで」

 真希だけが声を漏らした。どうやら強いカードだけを残していたみたいだな。

「そして8切りで9で上がりです! 一番です! 大富豪です!」

「俺の番だな。9だからダイヤの4で縛りだ」

 二人ともパスをした。

「Qのスリーカードだ! どうだ!」

 また二人ともぱすだった。

「なら2で上がりだ。二番目だから富豪か」

 ここで姉妹の一騎打ちになった。

「私の番だね、お姉ぇ」

「いいから、早く出しなさいよ」

「2だから10で縛り」

「パスよ」

「じゃあ、Kのツーペア」

「・・・パスよ」

「じゃあ、8切りで1で上がり。残念貧民だ。お姉ぇおめでとう、大貧民」

「そりゃどもありがとう」

 ふてぶてしく答える。

 こんな感じで何度か続けた。

 流深ちゃんは始めから大富豪で、真希も始めから大貧民、俺と真央ちゃんは入れ替わり立ち代りだった。

 そして何度目かの対戦中にインターホンが鳴り響いた。

「あ、来た! 大富豪は終了ね」

 真希がカードを投げ捨て外へと向かう。

「あ、お姉ぇ負けてるからてズルイ」

 出前が届いた事と真希が放棄した事によって大富豪は終了した。

「流深ちゃん大富豪強いね」

「はい、ボクは強いです!」

「それに比べて真希は弱かったね」

「お姉ぇは今回惨敗でした」

 空笑いしながら真央ちゃんが答えてくれた。

「お待たせさまー」

 真希が両手でピザの入った箱を重ねて二枚もち、その上にフライドチキンのバーレルを乗せて入って来た。

「ピザとフライドチキン両方売ってる出前あるんだ」

 創真が疑問を唱えた。

「違うわよ、タイミングよく二つのお店の人が来ただけね」

「あーそうなんだ」

 感心して答える。

 よく見てみればピザとフライドチキンのパッケージが違っていた。

「それじゃ、パーティールームに行きましょう!」

 真希が元気よく歩き出す。

「行くです!」「いきましょう!」

 続いて流深ちゃんと真央ちゃんも歩きだす。

「あ、俺いくって。て、お前らトランプくらい片付けろって」

 散らばっていたトランプを纏めもとの入れ物に戻し、後を追う。

「創真、ドア開けて」

 追いつくやいなや命令された。

「はいはい」

 真希の両手が塞がっているので仕方がなく空ける。

 部屋の中にはダンボールが沢山積まれており、壁に沿った隅っこに階段があった。その階段を下りた先に広い部屋があった。

「おー結構広いんだな」

 創真が率直な感想を述べた。

「はい、広いですよ!」

 流深ちゃんが答える。

「いいから退いてー邪魔だから」

 真希に言われて避ける。

「ふう~重かった」

 持っていた食べ物を部屋の真ん中にあるテーブルの上に置いた。

「そういえば思ったんだけどさぁ」

 真希が創真に疑問を投げかける。

「何だ?」

「こういう重たいものって普通、男であるアンタが持つべきなんじゃないの」

 俺の事を思いっきり睨んでくる。

「アハハ、何のことかしら。一体全体なんのとだか、さっぱりわからないなぁ」

「あっそう、創真一回、上向いてみて」

「ん? わかった」

 言われた通りに上を向いてみる。

「特に何もないじゃ――  うっ」

 いきなり腹に鈍痛が走った。

「い、いきなりなにするんだよ」

「さあ、一体全体なんのことだか、さっぱりわからないなぁ」

「そうですか」

 まったく同じ言葉を言われたのでこれ以上返す事ができなかった。

「全く、二人ともそんなにいちゃいちゃしちゃって」

 真央ちゃんが楽しそうにこっちを見ていた。

「だから、あーもう言いや、何度も否定するのも面倒だから」

 投槍に返す。

「できれば、助けて欲しかったよ、真央ちゃん」

「嫌ですよ。そうした方が楽しそうでしたし」

 屈託のない笑顔で答えられた。

「私は、恵理奈さん迎えに行ってくるわね」

「はーい、行ってらっしゃい、お姉ぇ」

「んじゃあ、その間に俺たちは、これ並べとくか」

「そうしましょうか」

 真央ちゃんが頷く。

「ボクも手伝います!」

 皆で手分けして紙皿や紙コップなどを並べる。

「恵理奈さん連れてきたよー」

「待っていたです!」

「丁度並べ終えたところですよ」

 真希の後に流深ちゃん真央ちゃんが続いた。

「それじゃあ、始めるから皆席に着いてー」

 真希が促す。そして、全員が席に着く。

 机の一番奥に恵理奈さん、入り口から右側の奥から真希、隣に創真、左側に奥から流深ちゃん、隣に真央ちゃんが座る。

「それじゃあ、創真の合格を祝してかんぱーい」

 真希が紙コップを高く掲げる。

『かんぱーい』

 皆も続いて紙コップを掲げる。そして、全員注がれていたオレンジジュースを飲み干す。

 そして、一つ驚いた事を真希に小声で訊いてみる。

「恵理奈さんってこういうのに意外と乗ってくれるんだな」

「そうよ、みんなは恵理奈さんはこういうの乗らないって思うみたいだけど、案外そういうことはないのよ。まぁ私たちと居る時だけだけどね」

「お前らなんか言ったか?」

 恵理奈さんが半目でこっちを睨む。

「「いえ、なにも」」

 見事にハモった。

「ボクはピザを貰うです!」

 流深ちゃんが勢いよくピザに手を伸ばす。

 流深ちゃんはあれで食べれるのか? と思った。そりゃそうだろう、手の先には明らかに余っている白衣の裾があるからだ。

 だが、そんな疑問はすぐさま解決された。白衣が垂れ下がったままで器用にフォークを使ってピザを食べていた。

「あれ、凄いな」

 真希に訊いてみる。

「あれって、なによ?」

「あれって流深ちゃんの食べ方」

「ん、あ、本当だ凄いね」

 どうやら今まで気づいていなかったようだ。

「そんなこと、どうでもいいから、これを、食べなさいっ」

 真希が俺の口に無理矢理フライドチキンを突っ込んできた。

「ひぎがりごんなもほふっこんで、っへこへふまっ(いきなりこんなもん突っ込んでってこれ、美味っ)」

「そうでしょう」

 笑顔でこっちを見てきた。

(笑顔で返した事よりさっきの言葉を理解してくれた事の方が凄いな)

「よし、なら真希も食えっ」

 今度は俺が真希の口にピザを突っ込む。

「んあ、美味しいわね、流石私が注文した店だけのことはあるわ」

 何故か真希が誇る。

「真希がえばるような事していないだろう」

「私のおかげでこんな美味しいもの食べれるんでしょ?」

「そーですね」

 これ以上何を言っても無駄なのでここで話を切る事にした。

「お兄ぃジュースなくなってますよ」

 言いながら真央ちゃんがジュースを注いでくれた。

「お、ありがとう。真央ちゃんは誰さんと違って気がきくよなぁ」

「どういたしまして」

 真央ちゃんが笑顔で返す。

「誰かさんって誰のことかしら」

 その誰かさんが俺にじっととした目線を向けてくる。

「さぁ誰でしょうか。本人が一番わかっていそうですけど」

「んじゃあ、思い当たる節が一切ないから私以外の誰かね」

「お前だろうが!」

「やっぱり私の事だったのね」

 笑顔で怒った顔を俺に向けてくる。

「とりあえず、一発殴る!」

「や、止めろって! そん位の事で怒るなよ」

 椅子から立ち真希が居る方と反対側に後ずさりする。そこに恵理奈さんが一言。

「能力は使うなよ」

 ピザを食べながら真希に注意する。

「恵理奈さん注意だけじゃなくて止めてくださいよ!」

「自業自得だ」

 バッサリ言い捨てた。

「んじゃあ、覚悟はできたかしら?」

「いや、できないから、てか一生できないから」

 そう言いながらまた後ずさりをする。

「そんなの、知らん!」

 言い放ち俺に向かって走り出す。

「いや、知ってくださいよ!」

 真希から逃げようとしたが脚を躓かせて転んだ。

「よし、踏み潰す」

「げはっ」

 文字通り踏み潰された。

「痴話喧嘩ならよそでしてくださいねー」

 真央ちゃんがこっちをニヤニヤと見ながら茶化す。

 そんなこんなで一時間程経過した。

「あれーもう飲み物なくなっちゃったじゃない」

 真希がペットボトルを逆さまに振りながら中を覗く。

「しょうがない私が買いに行くかぁ」

「いいよ、俺がいくからさ」

「アンタ、まだここら辺の地理全然分からないでしょ? そんなのに行かせる訳にはいかないの。それに今日はアンタが主役なんだから、ここにいなさい」

「わかったよ、俺はここで待つよ」

「お姉ぇ私も行こうか?」

「いいよ、もう外くらいからさ」

「そう、わかった」

「飲み物適当でいいでしょ?」

 真希が皆に訊く。

「はいです!」「いいよ」「任せる」

 流深ちゃん、真央ちゃん、創真が答える。

「んじゃあ、行ってくるわね」

 真希が部屋から出て行く。

「真希も気を使うって事できるんだな」

「お姉ぇは結構気が利きますよ」

「ふ~ん、俺にはそんな仕草全然見せてくれないけれどなぁ」

「まだツンツンしているだけで、いずれデレてくれますよ」

「そんな日がくるのかね」

 笑いながら返す。

「もう、ご飯がほとんどないです!」

 テーブルの上に乗っているものはほとんど食べ終えられていた。

「仕方がない、お菓子でも持ってきてやろう」

 恵理奈さんが椅子から立ち上がり部屋を後にする。

「わ~い、ありがとうです!」

「その代わり、明日のおやつはなしだ」

「う~ でも背に腹は変えられないです!」

 頬を膨らませて唸っていた。

「なら、待っていろ」

心なしか恵理奈さんの顔がいつもの無表情ではなく、少し微笑んでいたような気がした。そしてすぐに戻ってきた。

「ほら、お前たちの分だ」

 流深ちゃんの分だけではなく、俺と真央ちゃんの分も前に置かれた。

「ありがとうございます」「ありがとうです。」

 俺と真央ちゃんがお礼を言う。

「わ~い、お菓子です!」

 流深ちゃんはもう袋を開けて食べ初めていた。続いて俺と真央ちゃんも食べ始める事にした。

 そして、真希が帰って来るまで雑談をしているのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「うわぁ、思ってたよりも寒いわね」

 買出しに行くために外に出た真希が率直な感想を漏らす。

「さすがに四月だからって夜はまだ肌寒いか。早く買って帰ればいいかぁ」

 誰に語るでもなくその場で一人ぼやき、歩みを進める。

 五分ほど歩き最寄のコンビニへと辿りつき、中へと入る。

「さてと、何をかおうかなぁ。あの二人は炭酸でも買っとけばいいと思うけど、恵理奈さんと創真のはどうするか」

 とりあえず1.5リットルのコーラを持っているかごの中へと入れる。

「どうしようかなぁ」

綺麗に並べられているジュースを眺めながら考えを巡らせる。

「まぁ、なんでもいいか」

 無難なところで1.5リットルのリンゴジュースをかごの中に入れる。

「後はお菓子を適当に買っていけばいいかな」

 と、目に留まったお菓子をかごの中へと放り込む。

「よし、これで完璧っと」

 そして、レジにかごを置き、支払いを済ませコンビニを出る。

「買うものも買ったし、寒いから早く帰りますか」

 どこかいつもと違う雰囲気の夜空の下を足早に駆ける。



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