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第三話:恥を知りなさい!

「死刑だ!」


 そう指をさす王に、セシリアは言葉を失った。

 その言葉に反応するように、女性警備隊が風のように現れて彼女を拘束する。


「いだだだ! 関節! 関節がっ!」


 女性とは思えぬ声を上げたが、もはやカワイ子ぶっている場合ではないのだ。


「あっ……」


 王にアゴを持ち上げられ、セシリアは負けじと彼を睨みつけた。スカイブルーの透き通った瞳は、まるで冬の空のように、冷たくキンと張り詰めていた。


「何だその目は。余の決断に不服があるのか」


 瞳孔がギッと萎縮する。セシリアは背筋がゾッとするのを感じた。


(何か言わなきゃ! 何か言わなきゃ……私、このまま……)


 セシリアは必死に考えをめぐらせた。己の命がかかっているのだ。次の言葉で生死が決まる。

 ゴクリと唾を飲み込み、


「ぼ、暴力反対!」

「――は?」


(バカ! 私何を言ってるの?)


 命を懸けた発言が、よりによって町角のパンより安い言葉だったことに、彼女自身が最も失望した。

 王をふと見れば、まるで踊り狂う豚を見ているかのような、とても怪訝な顔をしている。

 だがそんな表情をしていようとも、彼の端整な顔立ちが陰ることはない。顔の美しい者は得であると、セシリアはこの場にそぐわないことを思っていた。 


「女、まだ余に歯向かおうというのか?」

「私は女と言う名前ではありません、セシリア・アディソンです」


 強調するかのように、特に名前の部分に力を込めた。


「アディソン? ああ、無能な父親が死んで借金に首が回らなくなった、哀れな没落貴族か」

「――っ」


 ローデルランド王国の若き王は、名をクライド・アーキン・オルディスと言った。

 クライドは女性よりも美しい唇を、あざ笑うかのように残忍に曲げる。


「ここへ来たということは、大方お家を護るように死にかけの母親から仰せつかったのだろう。自己の利のために娘を売るとは、フン、老い先短いそなたの母もロクな死に方をせんだ――」


 パチン! と頬を叩く乾いた音が廊下に響いた。警備の手をふりほどいたセシリアは、その瞳にたくさんの涙を浮かべて口元を震わせていた。


「ロクな死に方をしないのはあなたの方です、陛下! よくもそんな非情なことを……っ。恥を知りなさい!」


 恥を知りなさい!

 恥を知りなさい!

 恥を――

 恥を――

 彼女の頭の中で、その言葉が何度も反響する。


(あ……。死刑確定させちゃった)


 ジンジンと熱い掌、バクバクと脈打つ心臓。


(やってしまった!)


 セシリアはそう思った。だが、後悔などしてはいない。

 殺すなら殺せばいい。自分を大切に育ててくれた愛する両親を、あろうことかあんな風に侮辱されたのだ。

 自分の命おしさに、黙ってなどいられなかった。


 クライドは刃のような視線を向けると、


「来い、女」

「いやあ!」


 セシリアは髪を乱暴にわし掴みにされると、さき程案内された部屋へ無理やり引っ張り込まれた。天蓋つきの豪華なベッドへ放り投げられ、すぐさまクライドが覆いかぶさってくる。扉は案内係に閉められた。その直前、彼女のイヤミのこもった卑しい目が垣間見え、後々仕返しをしたいところだが、今はそんなことに構ってはいられない。

 

(何なのこれ! どうすればいいの!)


 半ばパニックに陥るセシリアに、クライドは不敵な笑みを浮かべた。


「その度胸、気に入った。そなたに余の子を孕ませてやる」

「……え」


(何ですか、その下品な宣言は!!)


「おい、礼を言わないか」


 セシリアがそれを拒絶するかのようにそっぽを向いたが、想定内のことだったのかクライドは大して気にも留めてはいないようだった。


「お前は楽しめそうだ。色々と」


 そう含み笑いをすると、セシリアの白く細い首筋に顔を埋めた。


「んっ……」


 ねっとりと舌が首を這い上がってくる。抵抗しようにも、いとも簡単にねじ伏せられた。

 男女の力の差は歴然としていた。どれだけ声をあげようと、助けなどくるはずもない。

 まるで引きちぎられるかのように手荒くドレスを脱がされながら、セシリアは、


(いつかものすごい復讐をしてやる!)


 と別の意味で燃えあがっていた。 


あとがき

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