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第二十五話:セシリアの見合い

 遅くなってすみません……。

「はあ……」


 セシリアは、見合いのために着飾った鏡の中の自分にため息をついた。

 あの頃より、少し大人びた自分の顔。

 

 化粧も上手くなった。

 髪もロゼに教えていた頃以上にアレンジが増えた。


 気遣いだって前よりできるようになったし、社交用の言葉使いや礼儀作法だってきちんと覚えた。



 それは全て、三年後に迎えに来てくれるだろう彼――クライドのためにと頑張ってきたことであったのに……。


 結局、約束の日から一月たっても、クライドが迎えに来てくれることはなかった。

 

 渋る伯父を説得し、見合い相手を見繕ってもらった。


 きっと伯父も、陛下が来ることはないと悟ったのだろう。


 見合いの約束を取り付けてもらい、その日が一日一日近づいてくるたびに、その前に彼が来てくれるんじゃないかと毎日期待した。


 なのに――


「陛下の馬鹿……っ……。大馬鹿ぁ! バカバカバカバカカバカバカ! もうバカかカバか分かんないくらいバカぁ!」 


「落ち着いてくださいませ、セシリア様」


 メイドのドリーは、困ったように微笑みながら、運んで来た紅茶をテーブルに置いた。


「でも、ドリー……」


「なぜ陛下が未だお迎えに来られないのかは分かりません。ですがあのように恐ろしかった陛下が、今やすっかりお優しくご立派な王に変わられた。もう無駄に誰かを処刑することもございませんし、独りよがりの政もなさらなくなった。それこそ、三年経った今も、あなた様の事を愛しておられる証ではありませんか」


「……そうかな」


 そうだったらいいと思ったが、きっと現実は厳しい。


 三年という月日は思いのほか長かった。


 会いたいと思う気持ちがつのると同時に、どこか冷静にもなっていた。


 考えてみれば、一国の王、それも性格はともかく容姿は端麗で剣術にも優れた青年が、当時名前だけのハリボテ貴族の娘に過ぎなかった自分になど、本当に恋をしてくれていたのだろうか。


 顔は人並みで、性格は負けず嫌いで可愛げもない。


 特に女性らしい特技もないし、家にいるよりは外で自然の中を駆け回りたい。


 自分が男なら、自分のような女を選ぶだろうか。


 いやきっと、もっと笑顔が素敵で慎み深い女性を愛するだろう。

 恥じらいに頬を染め、いつも優しく寄り添ってくれるような女性を。


 きっと、クライドも――



「お気持ちは察しますが、セシリア様。どうか、お見合いはお考え直し下さいませ。陛下は必ず、あなた様を迎えに来られます」


「……」


 ドリーの言葉が右から左へ抜けていく。


 結ばれる運命ではなかったのだろう、初めから。

 クライドも、セシリアとは出会いが特殊で、側室の中では毛色の違う女だったから気になっただけ。


 彼も今頃、側室入りを希望する可憐で清楚な貴族の少女らと会ううち、目がさめている頃に違いない。


 一時の気の迷いで、妙な約束をしてしまったと。


「もういいの、ドリー。きっと都合の良い夢を見てたんだわ、私」


「セシリア様……」


 セシリアの今まで見たこともないほど沈痛な横顔に、ドリーもそれ以上のことは言えなかった。


 セシリアがこれから会う彼は、家柄こそ今のアディソン家に相応しいが、一人の人物としてみれば、容姿は平凡で趣味はチェスという、貴族としてごく普通の男らしい。


 若干内向的で無口らしく、しかも年齢は十歳も上らしいが、子供好きで優しい性格だと聞いていた。


「さ、前向きにいきましょ! 第一、あんな変態腹黒王なんて、どこが良かったのかしら! もう振り回されるのはこりごり!」


――コンコン


 タイミングよく鳴ったノック音に、セシリアは立ち上がる。

 相手が来たのだろう。



 落ち込みそうになる気持ちを、見合い相手は絶対にあんな腹黒王より良き夫になってくれると自分で自分を励ました。


 セシリアが階段から下りてくるのを待っていた執事のアルバートに、「大丈夫だから」と懸命に笑顔を作って見せた。



「ごきげんよう、ジョージ様」

 

 アルバートの開けた客室の扉の向こうの男性に、明るく挨拶する。

 ただセシリアの視線はやはり伏せがちで、彼の足元にポツリと落ちていた。



「セシリア」


「――!」


 一瞬、体に電流が流れたかと思った。

 

 自然と、ドレスのスカートを持つ手が震える。

 ゆっくりと視線を上げ、自分の名を呼んだ人の顔を見た。



 トクンと胸が大きく弾む。



「へい、か……」


 待ちわびた男の姿があった。一層凜々しくなった、金髪碧眼の彼の――クライドの姿が。


あとがき


 つ、ついに……!?

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