第二十四話:三年後
三年後――
当主を取り戻したアディソン家は、以前とは比べものにならないほど、名家としての威厳と地位を取り戻していた。
もう、誰も斜陽貴族だと思ってはいない。
だが彼らの生活ぶりは変わりなく、豪華な宝石を身につけることもなく、庭には野菜を植え、慎み深く暮らしていた。
「ねえ、伯父様……」
セシリアは朝食を終え、熱いコーヒーを飲みながら新聞をチェックする伯父の背中に話しかけた。
「ん? なんだい、セシリア」
髭を整え、身なりも整えた伯父のカイルは、社交界でも有名なイケメンジェントルマンと化していた。
それでも独身で未だ恋人を作らないせいで男色家ではとの噂もあるが、セシリア的にはそうでないと信じたいところ。
「……約束の日、過ぎてるわ」
伯父は途端に目を泳がせ、ペラペラと忙しなく新聞をめくり始める。
「え? な、何か約束してたっけ」
「とぼけないでっ! もうあれから三年よ? ……約束の日から一週間も――」
母親の病気が治ってからというもの、医者のアレックスも来ることがなくなった。
城内のニュースはただ王国新聞で知るのみ。
国王、クライドは日々外交や統治に忙しく過ごしていると書かれてある。
無駄な恐怖政治は行わなくなり、民を第一に考える王だと評判が上がっていた。
そんな彼の側室に入りたいと願う女性が殺到しているということも。
なんだかもう、セシリアには、彼のことが遠くに感じられるようになっていた。
「ま、まあまあ。セシリア……三年ちょうど、なんていう約束じゃなかったし。きっとそのうち来られるかもしれないだろ……な?」
たとえそうだとしても、こっちは一日千秋の思いで過ごしてきたというのに。
ここずっと雨がちだった天気がやっと晴れたというのに、セシリアの心はまるで嵐のまっただ中だった。
クライドは忘れてしまったのだろう。
あの時の約束も、あの時感じていた愛も。
彼が近々誰かと結婚するらしいという噂も耳に挟んだ。
やっぱり。予想した通りだった。
自分だけが待ちぼうけ――
「もういい、伯父様。私、お見合いしてよその人と結婚するわ」
彼が新たな道を歩むというのなら、自分だって立ち止まって彼を想い続ける必要など無い。
伯父にはさんざん考え直すよう言われたが、セシリアの意志は固かった。
あとがき
短くてすみません……^^;