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第二話:最悪な初対面

 豪華な馬車の迎えに、セシリアは息を吐いた。キッと前を向いて覚悟を決める。


(いよいよ、私は……! 冷酷な王様か何か知らないけど、王妃の座さえ手に入ればいいんだから! それで、お母様だって――)


 興奮を押さえるように深呼吸し、白いハンカチを振って別れを告げるドリーを背に、セシリアは金の馬車に乗り込んだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


(あれが、王宮……? 不気味)


 天気が悪いからということもあるのだろうか、小船から見た王宮はどんよりと暗く、人が住んでいるのかどうかも怪しいほどであった。

 セシリアはやはり思っていたキラキラの王宮暮らしとは少し違うようだと、早速肩を落とす。


 この国はとても豊かな国だった。国の中心を通るキリー河は、肥えた土壌と新鮮な魚を人々に提供し、交通網の発達にも寄与していた。

 人々はこの河を崇め、愛し、大切に扱っていた。


 その大河の上流にあるのが、この国の君主の住まう城。周囲は険しい山々に囲まれており、船でしか行くことのできない場所にあった。

 セシリアはその後宮へ入ることが決まったのだ。

 だが大変に穏やかな河の先にいる王は、とても残虐な性格をしていた。

 気に入らないことがあると、それがどれだけ優秀な部下でも、どれだけ善良な市民でもすぐに処刑した。

 それにより、暮らしは豊かでありながらも、お城の中も国もどこか殺伐とした雰囲気が漂っていたのである。


 しかし、人々は小さな希望を持っていた。いつかこのキリー河が心優しき姫を運び、王の心を癒すだろうと。嘘とも真ともつかず、まるでおとぎ話のように囁かれていた。

 そこからいつしかキリー河は、”王妃道クイーン・ロード”と呼ばれるようになり、贈り物たる妃の誕生を静かに待っていた。


 そんなことに疎いセシリアは、河の上を滑るように進みながら、薄暗い王宮を見つめ、


(私はホラーは苦手なのよ!! お部屋にバスルームがあるかしら……?)


 王に会うよりもまず、真夜中のお手洗いの心配をしていた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「あなたの部屋はこちらです」


 とても広くて豪華な部屋だった。窓の外は雨が降り始めている。

 まず最初に王と会うとばかり思っていたセシリアは、いきなりこれから住むことになる部屋に案内されて出鼻をくじかれた気になった。だがバスルームはとりあえず各部屋に一つあるようで安心する。

 外が厚い雲に覆われているだけでなく、王宮ないも明かりがあまり灯っていない。


「あの」


 案内係の女性を呼び止めた。


「私はこれからどうすればいいのですか」


 案内係の女性が小さくため息をついたのか、それとも鼻で笑ったのかは分からない。だがセシリアを見る目はとても冷たかった。


「そんなこと、ご自分でお考えになってはいかがですか?」


 おそらく、落ちぶれ貴族のセシリアが妃になる可能性などアリの目玉ほどもないと思われたのだろう。新しく後宮へ女性が入ったというのに、丁重に扱おうという気は見られなかった。

 それだけ言い残して立ち去っていくその女性に、セシリアは密かに奥歯を噛み締めた。セシリアは名のある家の育ちだったが、破天荒な性格の父の遺伝子をそのまま受け継いだかのように、お嬢様とは言いがたい性質をしていた。

 子供のころはドロだらけになるまで遊びまわったし、気に入らない相手がいるとイタズラで仕返しをする。母親にはたびたび咎められていたが、まあまあとなだめる父親のおかげでそのままに育った。


 その性格が災いしたのか、無碍に扱われたことにセシリアは怒りを覚えていても立ってもいられなくなった。

 一度覚えた怒りは、何かにぶつけるまで彼女の中からは消えない。

 セシリアは戸口に立ってそっとヒールからかかとを抜くと、わざとらしく「あーれー!!」といいながら案内係の女性めがけて足を振った。


 廊下を、背を向けて歩いていた女性へぐんぐんとヒール弾丸が迫る。


 スコーン!!! と見事命中したヒールに、セシリアは真っ青になった。


「あ、あれ……」


 案内係の女性がサッと道を譲った先にいたのは――――――


「貴様」


 ヒールがぶつかって額を赤くしたのは、背の高い、金髪碧眼の世にも美しい男性だった。


(ま、ま、ま、さか)


 後宮に入れる男性など、たった一人しかいない。セシリアは僅かに後ずさった。


「王様サマでいらっしゃいますか? あ、このたびはお日柄もよく――」


 王は無表情で人差し指をセシリアに向け、


「死刑だ!!」


(お父様、お母様、ごめんなさい。私は部屋について数秒で死刑になりました……あははは)


 笑い事ではないと思いつつ、セシリアは頬を引きつらせながらも、笑うしかなかった。 


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