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知らないふり
お客さんは身勝手なもの。
私を口説きながらも、当たり前に他の店にも行く。
同じ店の女の子から連絡が来た。
私にガチ恋していると言うお客さんが、クラブへ入るところを見た、と。
「彼女には内緒にしておいて」
そんなふうに言っていましたよ、と添えられた目撃情報を受け取る。
店の女の子同士、互いの指名客を見かけたら報告し合う。
そんなことは当たり前なのに、どうしてお客さん側はそう思わないのだろう。どうして、自分だけは黙ってもらえると思うのだろう。
そう不思議に感じるが、きっとそんなものなのだろう。
私は不自然にならないように、密告を悟られないように言葉を選ぶ。
目と鼻の先の場所にいるのだから、当然私のところにも来るものだとスマホを取り、指を走らせる。
何も知らないふりをして、少しだけ甘い言葉を選ぼう。
今夜も狐と狸の化かし合い。




