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居場所をなくした勇者と元魔王が辺境でスローライフはじめました  作者: 冬木ゆあ


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第4話 畑を作ろう

 アニエス村には定期的に商人のジョンさんがやってきて、露店を開いている。この日は俺が頼んでいたものが届く日で、俺は台車を引いて村にやってきた。

 ジョンさんの荷馬車には人だかりができていて、俺に気がついたジョンさんは手を振った。


「アルさん、頼まれていたもの持ってきましたよ」


 そう言って、荷馬車から出したのは植物の苗だった。家の裏に畑を作ろうと思って、俺は前回会ったときに頼んでいたのだ。

 受け取った苗を台車に乗せて、代金を支払ってから家へと戻った。

 俺はさっそくくわを手に取り、家の裏に出た。そこには放っておかれた畑があり、そこを耕しはじめた。すると、ニコエラも小屋から出てきて、不思議そうにこちらを見ている。


「なにしているんだ?」

「うん? せっかく畑があるんだし、野菜でも育てようと思ってな」


 ニコエラは興味深そうに俺が耕しているところを見ていた。

 一通り耕し、今度は買った苗を植えはじめると、ニコエラは隣に座った。


「私も手伝おう。どうやるんだ?」

「こうして穴を掘って、こうして苗を植えるんだ。ほら、やってごらん」


 ニコエラは見よう見まねで苗を植えた。なかなか上手だった。


「うまいじゃないか」


 ニコエラは満更でもない感じで、苗を植えはじめた。


「アルバートは随分と慣れているんだな」

「まぁな。俺の実家は農家なんだ」

「ふーん。それでか。――なら、実家に帰るという道もあったんじゃないか?」


 ニコエラの問いに、俺は実家を思い出していた。


「それが、俺は実子じゃないんだ。両親は小さい頃に魔獣に襲われて死んでいる」


 ニコエラは手を止めて、俺の顔を見た。その顔はどこか申し訳なさそうで、俺は慌てて言った。


「気にするなよ。もう昔の話だ。それに、親父は俺を引き取って、実の子と変わりなく育ててくれた。弟もいいやつだ。だからこそ、俺は帰れない。跡を継ぐのは、実子である弟のヘンリーであるべきだ」


 ニコエラは俺の言葉を聞いて、しばらく黙っていたが、ぽつりと口を開いた。


「実子じゃなくても家族なんだろう。そのうち、顔くらい出してやれ。私も付き合ってもいい」


 俺はニコエラの横顔を見た。その横顔は寂しそうで、俺は尋ねずにはいられなかった。


「ニコは家族はいるのか?」

「魔族は人間と違ってあまり家族という概念はないな。両親はいるが、随分と会っていない。最後に会ったのはいつだったかな……」

「会いたいと思わないのか?」


 ニコエラはわずかに視線を上げて考えてから答えた。


「……言葉にするのは難しいけど、魔族は種族同士のつながりが強い。大人になってしまえば、両親も種族の内のひとりだ。伝わるか?」


 俺は首を横に傾げ、いまいちその感覚がわからずにいた。


「なら、なぜ俺に帰郷をすすめる?」

「人間は家族というものを大事にするだろう。きっと、お前の親父殿と、弟は、お前に会いたいだろうと思ったんだ」


 手を動かしながら話しているニコエラの横顔を見て、彼女なりに人間を理解しようとしているのだと感じた。


「……まぁ、そのうちな」


 俺はそう呟いた。


 最後にバケツに組んだ水を、ひしゃくで畑にまいていく。水が舞って、陽の光を反射し、きらきらと輝いていた。


「ニコに手伝ってもらって、早く終わったな。――そうだ。海に行ってみないか?」

「ああ、いいね。行ってみよう」


 俺とニコエラは森の先にある海に出かけた。まだ春先の海は静かで、波の音が辺りに響いている。

 ニコエラに火をおこすように頼み、俺は岩場に行き、釣りをはじめた。

 釣った魚二匹をバケツに入れて、ニコエラのもとに戻ると、ニコエラは焚火に木をくべながら待っていた。俺はニコエラの隣に座り、釣ったばかりの魚に木の枝を差して、焚火の脇に差した。チリチリと音を立てながら火が燃えている。その横で俺は海を眺めていた。


 ――ゆったりとした時間が心地いい。


 戦いに身を投じていたときには感じられなかった時間だった。隣でニコエラも海を眺めながめてぼーっといている。


「……こんな穏やかなときを過ごせる日が来るとは思っていなかった。私をここに誘ってくれてありがとう、アル」


 ニコエラは俺を見てにっこりと微笑んだ。

 はじめて『アル』と呼ばれて、少しだけ心が跳ねたのは内緒だ――。

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