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第6話 客人。

「今、家に客人がいる。おばあがそれをしらせるように、と。」


ランタンを持って前を歩くサハジが、そう言った。まだ少年だ。10歳ぐらいだろうか。


「あら、珍しいわね。」

レマの人々は、このヴァミばあさんの作る薬を買いに、一年に一度はかわるがわるここに立ち寄っている、と前にパヴァンに聞いた。

その都度、日持ちのする食料や、今回みたいに衣料品を持ち寄ってくる。


沢山のレマたちがかわるがわる立ち寄っているとしても、まだ一度もここで他の人たちに会ったことはなかった。


「おばあ、ただいま。」

「……」

「ディヤが来たよ。」

「……」


その昔は木こりの小屋だったのだろう。レンガで丁寧に作られているその小屋は、ヴァミばあさんが住み着いて20年以上たつらしいが、そう朽ちても見えない。パヴァンのように訪れる男衆が丁寧に補修しているのもある。


ドアを開けて、真っ暗な部屋に入る。灯りはサハジの持ったランタンだけだ。


幾重にも敷物を敷き詰めた椅子に座るヴァミばあさんに深々とお辞儀をする。

「今年もお世話になります。」

真っ暗な中で、カードを開いていたようだ。テーブルに置いたランタンに照らされて、おばあが薄っすらと微笑んでいるのが見える。


パヴァンは慣れたもので、さっさと台所に入って、しょってきた食料を棚にしまっている。


「……」

「ディヤ、お前は今日から客人の世話をしろ。」


サハジが、おばあの言葉を告げる。

私も最初は驚いたが…話せないおばあの代わりに言葉を口にするとき、サハジの声のトーンは少し低くなる。


「はい。」


ここにいて、というか、レマにいて…このおばあの言うことに従わない人はいない、らしい。ウマばあさんが初めてここに私を送り込むときに、そう説明してくれた。

偉大な占い師。ヴァミ。



サハジに奥の客間に案内されると、客人は男。しかも怪我人の様だった。右上半身、顔までが火事にでもあったのか、火傷で腫れている。おばあの火傷の薬なんだろう、緑色のぬるぬるとした何かが、右半身に塗られている。膿の匂いと、強烈な薬草の匂いで、部屋が充満している。


「僕が、おばあに言われて、森で拾ってきた。おばあはサティシュ、と呼んでいる。」


…どうも、火傷をしてすぐの状態には見えない。その所々が膿を持って破けてぐちゃぐちゃになっている。こうなる前に治療ができなかったのか?


本人は発熱のために朦朧としているようだ。


「いい?一日に一度、きれいな水で流して、そっと拭き取ったら、この薬を十分に塗って。その繰り返し。熱は、疲労によるもの。皮膚が落ち着いたら薬を替える。飲み薬も用意してあるから飲ませて。水もね。明日からでも柔らかい食事を与えて。いいね。」


サハジが低い声で告げる。


「はい。」


小さいランタンをテーブルに置いて行ってくれたので、右半身を上にして寝かされている男が観察できた。背中に枕が押し込んである。サハジが寝返りができないようにそうしたのかもしれない。

長い黒髪に…よく日に焼けている肌を持った男。軍人なのか、筋肉が随分と付いている。椅子を引き寄せて、汗を拭く。


朝まだ早い時間に、起き出してまず泉まで水を汲みに行き、持ち込んだパンでパン粥をつくる。レマの香辛料の利いた粥では、慣れない人は食べにくいだろうから。


小さい鍋ごと部屋に持ち込むと、男は起きていた。引かれているボロボロのカーテンの隙間から朝日が漏れている。


「…お前は、だれだ?ここは、どこだ?」


語調は…助けられた感謝というよりは、警戒に近い。

綺麗な帝国語だった。黒髪に黒い瞳は南部にはよくいる。レマの人たちもそうだが。


どっかりと椅子に座って、皿にパン粥をよそうと、スプーンでかき混ぜて冷ましながら、男の問いに答える。

「あたしはレマのディヤという。ここの住人のおばあに頼まれて、あんたのお世話係をするようにいいつかったのさ。そのおばあの孫があんたを森の中で拾ったってよ。はい、あーんして。」


困惑したような顔をしていたが、男は素直に口を開けた。こうして改めてみると結構な大男だが、小鳥みたいに口を開けるのは可愛らしい。遠慮なく、スプーンを突っ込む。ごくり、と男ののどが動くのを確認する。飲み込みは大丈夫みたいね。


「もっと早いとこ治療してもらっていたら、こんなにひどくなんなかったのにねえ…はい、あーん。」


小さい鍋一つ分を平らげて、水を飲ます。右手は腫れているから、何も持てそうにないし。


「少し休んだら、薬を替えよう。寝てな。」


鍋を片づけて、ちゃちゃっと朝ご飯を済ませ、さっき泉で汲んだ水をたらいに入れて部屋に戻る。洗ってあるボロ布も貰って来た。


「少し、冷たいかもね。洗うわね。」

「……」

「痛い?」

「大丈夫だ。」

「サティシュ、我慢しなくてもいいのよ?痛くない?」

「…その名は?」

「ああ、おばあがあんたにつけた名前。いい名前ね。」


そっと患部を拭く。おばあの薬の瓶を開けると、強烈なにおいがしたが、気にしていてもなんともなんないのでそっと、豪快に塗っていく。


この人は…武人らしく、体中傷がある。ずいぶん昔に自然に治ったようなものから、割と最近のものまで。

髪を軽く拭いて、火傷したとこ以外も拭いていく。







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