第45話 番外編 スミタ。
「ねえねえ、ウマばあ、聞いた?」
スミタがそんな風に話し出すときは、どっからか面白い噂話を仕入れた時だね。
カードをシャッフルしていた手を止めずに、ウマばあが、適当に相槌を打つ。
「はいはい。今度は何だい?」
「ほら、帝国のセレドニオ様が病死、って公表されたでしょう?あれって実は、侍女に手を出して、その侍女が無理心中したんですって!」
「ほお。そうかい。」
「セレドニオ様に一服盛っておいて、自分も毒を飲んで死んだらしいのよ?あーね。女癖悪いって、前々から変な噂があったもんね。」
「ほお。」
「ビダルに婿に行っていたセヴィリアーノ様が呼び戻されて、がっかりした皇帝陛下は隠居した。これが真相らしいのよ!」
「ほおほお。」
「セヴィリアーノ様は、ほら、右半身不自由だったって話だったけどね、ビダルの女王陛下がありとあらゆる手を尽くして、今はもう、馬に乗れるぐらい回復しているらしいよ?それでね…女王を帝国に嫁にくれないなら、ビダルに攻め込むぞって、脅したらしい。あははははっ。」
「ああ…そりゃ、良かったねぇ。」
「愛、よねえ…。」
「ふふふっ。そうかいそうかい。じゃあ、お前とヨギの将来でも占ってやろうか?」
とんとんっ、とカードを揃えてウマばあが笑う。
「いや。いい。なんか悪いカードでも出ちゃったら、立ち直れないもの。」
川に馬を洗いに行っていたヨギが帰ってきたのを見て、スミタが駆け出していく。
私の占いも、まんざらじゃないねぇ…。
あの子は本当に、太陽を手に入れたんだ。
初夏の陽が眩しくて、ウマばあは手をかざす。
スミタも、あの子も…いい旅であることを祈ろう。




