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第44話 番外編 カミロとフアナ。

「フ、フアナ、大変だ!」

侯爵家の執務室に駆け込んだカミロを、執務中のフアナが呆れて見返す。

「なに?」



父、ガイスカが帝国から馬車と帰ってきた日、俺とエリサルド宰相と、迎えに出た。

馬車から降りてくる女王陛下と王配殿下のご到着を並んで待つ。

が…馬車の扉は開けられなかった。


「セヴィリアーノ様はセルブロ帝国の皇帝陛下になられました。」

「え?」


父の言葉がよく頭に入らない。どういうこと?


「ゆえに…妻であらせられるアイーダ女王陛下は、帝国皇帝陛下の正妃になられます。」

「ん?…ちょっと待って、父上。どういうことでしょう?」


「カミロ…そう言うことだ。」

めんどくさそうに、父が言う。


「え?」


「アイーダ女王陛下に言われたであろう。もし戻れなかったら、王位継承権2位のお前が、この国の王になれと。」

「…父上?」

「お前の権限で、貴族院を開け。大至急だ。王の不在の国ほど、狙われやすいものはないからな。」

「あ…あの…」


「お前はすぐに、フアナを呼んで来い!」


しびれを切らして、父が俺をしかりつける。

俺は…走った。


フアナがいる侯爵邸は城下にある。

俺は…動揺したため…馬に乗るとか、馬車に乗るとかが思いつかずに、走った。


汗をかきながら息を切らして飛び込んだフアナの執務室で、彼女は事務官と仕事中だった。

なに?と言った後も、書類に目を落として、事務官に指示を出している。


「フ…フアナ?俺…国王になることになった。」


訝しそうに俺を見たフアナが、一言言った。

「カミロ?とりあえず、水でも飲めば?」


事務官の一人が、微笑みながら水差しからグラスに水を注いでくれた。それを一気飲みする。


「とにかく…すぐ王城に一緒に来てくれ!」


俺と話していてもらちが明かないと思われたのか、事務官に指示を出して、フアナが席を立つ。

「着替えるから、そこで待ってて。」

自室でそう言われて、フアナの着替えをうろうろして待つ。


侯爵家の馬車を用意してもらって…王城から走ってきたことを話すと、心底あきれられた。

馬車の中で、かいつまんで状況を説明する。


「まあ。要するに…」

「ん?」

「私が貴方の子供を二人産めば事足りるってお話ですね?」

「え?」

「一人は王家の跡取りに、一人は侯爵家を継がせればいい、そういうお話ですね?」


なんだか…的を射ているような…ずれてるような…。




:::::



ビダル国の王妃になってからも、侯爵家の運営は彼女が携わっていたし、社交も、政務も完璧だった。俺の嫁…すごい。美人だし。


俺たちの間には娘が二人と、少し離れて息子が産まれた。

王家の跡を取るのに、必ずしも男子にこだわらなかったが、長女は婿を取って侯爵家を継いだ。次女は祖父、ガイスカの右腕だった若き将軍に嫁に行った。


さて、息子は…。


「どうもね、アイーダ様のところの末娘と恋仲らしいわね?」


久しぶりにゆっくりとフアナとワインでも飲もうかな、と思っていたら…あまりびっくりして吹いてしまった。


「え?てことは…セヴィリアーノ様の娘さん?」


何言ってるんだこいつは?という目でフアナが俺を見る。


「そう。」


「えええええっ??」


そうか、フアナは知らないんだ。


俺がばったり出会ったアイーダ様にしがみついて泣いてしまった時…俺は気が付いていた…射殺されるような冷ややかなセヴィリアーノ様の視線に…。

あの方の執着を…甘く見てはいけない…。


その後も妙に、アイーダ様にはみっちりとあの方がひっついていた。


…なんか…怖い。


「私は良いと思うわ。もちろん帝国との関係性もあるけど…何より好いた者同士が結婚できるなんて、運命?いえ…それだけで、もう、ひとつの奇跡みたいなみたいなものだと思うのよ。ね?カミロ?」


「…フアナ。」




あの日、父上に頼んで家にある全財産をお借りした。

フアナのいる娼館に乗り込んで、あのばあに、土下座してお願いした。足りない分は一生かかっても払うから、フアナを返してほしい、と。


「ふん。で、お前さんが自分で稼いで貯めた金は、いくらだい?」


布袋に入れた金貨24枚。これしかためれなかった。それももちろん、借りてきた金の上にのっけてあった。


ばあは大笑いして…その布袋だけを受け取った。


「あの子を身請けするだの、欲しいだの、って言うやつじゃなくて、返してほしいっていう男が来たら返してやってほしいって言われてんのさ。」

「え?」

「あの子はとびきりいい子だよ?幸せにするんだよ?」


「はい。はい、絶対に!」



あの時ばあと約束した。

俺が返してもらった、とびきりいい子は…幸せになっただろうか?



…奇跡、ね…そうかも知れないね、フアナ。













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