第42話 春。(最終話)
単騎に突っ込まれて、アイーダ様の一行が止められる。
ちょうど帝都を抜けたあたりだ。緊張感が漂うが…護衛に付いていた師団長が敬礼をしているところを見ると、帝国の人間か?
「どうした?」
「なにか…帝国からの使者でも来たんでしょうかね?」
ガイスカが警戒しながら、アイーダ様の乗った馬車に馬をよせる。
馬を降りてきた男が、かぶっていたスカーフを取って、こちらに向かってくる。
先頭の軍の馬を止めたのは…セヴィリアーノ様?か?
長い黒髪が、朝日に煌めいている。少し遅れて、パヴァンとビエイトの乗った馬が追い付いてきた。
慌てて馬を降りたガイスカは、アイーダ様の乗った馬車に向かおうとするセヴィリアーノ様の前に立ちふさがる。
「ガイスカ、通してくれ。」
「…セヴィリアーノ様…しかし…」
「このままだと…ビダルに女王を略奪に行くことになるぞ?」
「…それは困りますね。どうぞ。よくお二人で話し合われてみてください。」
真顔でとんでもないことを言う人だ。ふふっ。思わず笑ってしまった。
馬車に乗り込んでいくセヴィリアーノ様は寝ていないんだろう。ひどく目の下に隈がある。
さて…。
国元に帰ったら、愚息を再教育して使えるようにしなくちゃな。そんなことを考えて、ガイスカが笑う。3人一緒に10年近く教育して、政務も手伝わせてはいたが。
あいつはいまいちだが、嫁は肝が据わっていて、出来がいい。手綱を取ってもらえば、何とかなりそうか。
アイーダ様が…帝国から帰ってこれないようならカミロに頼む、と言っていたが…こんな慶事ならまあ、それもいいか。帝国との関係も良いものになる。何より、本気で帝国に攻め込まれたら大変だしな。
ニマニマしているパヴァンと、対照的に青ざめた顔をしておろおろしているビエイトが、馬から降りて座り込んでいる。よほど叱られたのかな?悪いことをした。こうなる気はしたんだが…。ガイスカも二人の脇に座った。
思わぬところで小休憩になった一行は、春の日差しの中でくつろいでいる。
「私たちの、ヴァミ様が言っていた。」
いつもは無口なパヴァンが珍しく話しだす。ヴァミ?誰?
「あのお二人の占いをしていて、笑っていらした。」
「……」
「ほら、見てごらん、世界、のカード。ハッピーエンドだ、ってね。」
くくくっ、と笑うパヴァンにつられて、私も笑ってしまった。
「そう言えば、パヴァン。あの方がアイーダ様をディヤ、と呼ぶだろう?あれは?」
パヴァンはにこやかに笑って、空を指さす。
「私たちの言葉で…光、です。」
パヴァンが指さした先の空は柔らかに晴れて、日差しが暖かい。
もうすっかり春の中だな。
本編 完です。番外編に続きます。




