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第39話 午後4時。

間に合ってよかった…。


セリオは、皇帝陛下の後宮に向かって歩いている。


アイーダ様の部屋の前は血の海だ。

部屋に入ることを拒んだ近衛騎士が応戦したが、一人も残っていない。

中庭では、皇太子の直属の近衛騎士達をビエイトが連れてきた兵士たちが片づけている。


ずるずると髪を持たれて引きずられていく黒髪の男の左ほおには、ナイフで切り裂かれた傷が見えるが、それ以上に顔はぼこぼこにされている。白いブラウスも真っ赤だ。引きずっていく後に、血のりが長い道を作っていく。


しっかりとした足取りで…血まみれになった上着は脱ぎ捨ててきたセヴィリアーノ様の横には、寄り添うように杖を持ったアイーダ様が歩いている。


「セリオ」

「はい。」

「皇帝陛下に先に報告に行かなくてもいいのか?」


男を引きずるセヴィリアーノ様が振り返りもせずに、私にそう問いかける。


「さすがの私も…もうとっくに、何が正しいのかは存じ上げておりますので。」


その後ろに、ガイスカとその部下、パヴァンとチロが続いている。

途中で、外を片づけたビエイトが、兵を連れて合流した。


廊下ですれ違った侍女たちが、ひっ、と声をあげる。

…どう見ても、セレドニオ様がセヴィリアーノ様を引きずっているように見えるに違いない。そのくらい…セヴィリアーノ様の病状は宮殿内に知らされていたから。


宮殿の奥に、血の道ができていく。


後宮の入り口の前で警備をしていた兵士が、ビエイトを見て、黙って道を開ける。


「父上。ただいま参りました。」


「ああ。遅かったな。それで、その女がビダルの女王か?」


皇帝陛下が寝ころんで水タバコを吸っている。部屋中、その匂いだ。いつも思うが、むせかえるような、嫌な臭いだ。


「この男が、陛下に献上するべき女を自分の物にしようと致しましてね。少々痛めつけておきました。」


「ああ。」


アイーダ様を嘗め回すように見ていた皇帝陛下は、目の前に放られた男には何の興味もないようだ。


「こちらにその女を寄こせ。ん。」


「その前に、先日お話しておりましたこの書類にサインをお願いいたします。」

セリオが一歩前に出て書類を出すと、めんどくさそうに皇帝陛下が…指さしたところにサインを入れてくれた。ろくに読んでもいない。つけている指輪で玉印も頂く。

「これでいいか。」


「はい。では、殿下、ここに、サインをお願いいたします。」

血まみれの男を放り投げて手の空いたセヴィリアーノ様にサインを促す。

「……セリオ?」

「早く。」


セヴィリアーノ様が、左手で、ご自分の名前を書き入れるのを見届ける。

この方はもともと左利きだ。先ほど…セレドニオ様が左手に仕込みの剣を持つセヴィリアーノ様を見てせせら笑ったが…ご兄弟なのに、そんなことも知らなかったのだろうか。


「これで、譲位の書類が整いました。陛下、おめでとうございます。」

「……」


私が跪いたのを見て、ビエイトと彼の連れた兵士がそれに習う。


「まあ、いい、早くその女をこちらによこせ。」

今の今、皇帝の位を降りたその男が、アイーダ様を指さす。


「…この男を捕らえて塔に幽閉しろ。我が妃を所望するなど、もってのほかだ。」


「は?何を言っているんだ?」


よく状況がわからないほど酔っているのだろう。しばらく見ないうちに、またぶよぶよと太ったその男を、ビエイトの連れてきた兵が連れて行く。パヴァンが男の指の玉印を抜き取ろうとして取れなかったのか、左手の中指を切り落として、血の付いた玉印を自分の制服で拭いている。


「ぎゃあああ…近衛は何をしている!」


「こんなことをして許されると思っているのか!」


皇太子の直属の近衛は一人も残っていない。この男は、一生を塔で過ごすのだろう。どのくらい人生が残っているのかはわからないが。


一部始終を怯えながら見ていた後宮の女たちは、皆顔を青くしていた。

母の姿を探すが…今、個人的なことは後にすべきだろう。そうセリオは判断した。


「後宮は閉鎖する。ここにいる方々の処遇は追って指示する。行くぞ、セリオ。」



「はい。セヴィリアーノ皇帝陛下。」












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