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第31話 秋祭り。

半年前に、陛下とガイスカに婚姻の提案を貰った時、俺は正直に嬉しかった。


端的に言うと、ビダルが体勢を整えるまでの盾、わかりやすい政略結婚の提案ではあったが。そう思っても、ディヤを抱きしめに行きたくなるぐらいに、俺は嬉しかったのだ。


ビダル国は宰相も戻し、まだ若いがカミロも財務大臣をよくこなしている。フールがらみのごたごたで罷免されていた財務大臣は高齢のため、副大臣になって、カミロをよく教育し、補佐している。聞かれればささやかにアドバイスもしている。

国軍の演習も見にいったが、こちらはガイスカがきっちりやっていたので憂いはない。対フール対策で意見を求められれば、もちろん答える。


これまで帝国内をくまなく見てきた知識や体験がいろんなところで役に立つらしい。


側室が住んでいた離宮は、今、迎賓館として整備を進めている。金鉱山も見たが、今までのやり方で問題なさそうだ。今後は、国内でいい人材を育てるための学校を作っていく予定だ。


いい国だ。こじんまりとはしているが。

ディヤと一緒に俺用に作られた床の低い馬車に乗って、国内の巡視もしてきた。どの町に行ってもどの村でも、俺たちは歓迎された。馬車の中から左手を振る。村の子供たちに野の花を貰って、ディヤが微笑む。


巡視中も、もちろん普段も、俺には使用人を付けず、身の回りのことはディヤがやってくれる。公に発表した俺の体調は、あまりよくないことになっているので。


「こんなこと、お安い御用よ?」


ディヤがいつも笑う。この笑顔に俺はどれだけ癒されたと思う?

右半身が不自由な振りなど、一生していてもいいと思える。許されるなら。


眠りにつくときは、ディヤの髪に顔を埋めながら、手のひらにディヤの心音を感じている。

こんな日々が…来るとも思っていなかったが…続くとも思っていない。


お互いに気が付かないふりをしながら、1日1日を愛おしく過した。


俺は、ずるいな。

束の間、だと思っているのに、ディヤを抱かずにいれなかった。愛おしかった。

それでも慎重に、子は成さないように気を付けた。俺の子など産んだら、帝国に目をつけられてしまう。


ガイスカは2年と言ったが…ビダル国内はそうもかからず落ち着きそうだ。今のところ、他国からの干渉もない。


このまま…日々が過ぎていくのは、許されないだろうか。



ディヤが寝返りを打って、俺の胸にしがみついてくる。

俺は、カーテンの隙間から見える、まるでこちらを窺うような月から、そっと目をそらす。


明るいところにいると…暗闇が目立つ。



*****


バルコニーに出たアイーダ女王陛下は広がる澄み切った秋空に響く歓声に思わず笑みを浮かべて、半歩遅れて後ろにいる王配、セヴィリアーノに手を伸ばす。


ビダル国の秋祭りは大層にぎやかだ。店も沢山出て、国内外から人が集まる。

私は4年ぶりになる。


あの日も…ここに戻るまでも、いろいろなことがあった。

王城のバルコニーで、国民の歓声を受ける。私の肩を抱いているサティシュの手に少し力が入る。肩に力が入っていたかしら。


我が夫の顔を見上げると、にこりと笑ってくれた。


二人で並んで手を振る。

はるかに広がる秋の青空の元、1週間の秋祭りが始まった。

城下の街道沿いにたくさんの店が並んでいるのが見える。


「ウマばあさんは来たかしら?」

「?」

「ああ…私を匿ってくれていたレマの民よ。」

「ああ、お前に占いを教えてくれたって言う人ね。」

「そう。」


今日のサティシュの正装は、この秋空のような綺麗な少し濃いめのブルーの上着に、金糸の刺繍が入っている。いつも着ていた黒に銀糸もなかなかミステリアスっぽくていいものだったが、ブルーの上着のサティシュの顔は明るく見える。

私のドレスはそれに合わせて、白地にブルーが重ねてある。サティシュの色をどこかに入れたいんだけど、黒はなかなか差し色には難しいので、黒のオニキスのネックレスを付けている。


用意された椅子に座って、サティシュと並んでにぎやかな城下を眺める。


今年も来ているはず。会えないだろうけど。


あの頃、今ここに座る私たちを想像できただろうか?

町から町にさすらうように旅をする生活…。終点の見えない旅。

そんな旅の中でも、この国を後にした私が生きているのが不思議だったあの頃。


そうして、薬草まみれのサティシュに会って…。

悪夢を見てうなされるサティシュを連れて、ウマばあさんのところに戻ることも、実は考えた。


…私は占いをして、この人は用心棒をして…なんてね。


もしもそうしていたとしても、あの時、と考えるのだろう。


過去は占えない。ウマばあさんが言っていた。


もしも、は今の、足枷にしかならない。


「どうした?ディヤ?」


黙り込んだ私の顔を覗き込んで、サティシュが心配そうに聞く。


「ええ。幸せだなあと思って。」


抜けるように高い青い空を眺めて、私は今ある幸せをかみしめた。










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