表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/45

第29話 つかの間の休息。

ビダル国の女王陛下とその王配殿下は、政略結婚とは思えないほど、仲睦まじいらしい。そんな噂が、国内外に囁かれた。


公務はもちろん、視察の際も、王配殿下の体調を考慮して、ステップの低い馬車が用意され、舞踏会などでも踊れない殿下に合わせて、陛下も踊らない。

殿下の黒髪はお顔の右半分を覆うが、整った美しいお顔だそうだ。右手は常に手袋をしていて、左側には常に陛下が控えて、肩を貸している。驚くことに、殿下のお世話は他の使用人を入れずに、陛下がされていて、入浴も食事もかいがいしくされていらっしゃるらしい。


…ふん…

ビダルに潜り込ませている部下の報告書を読んで、セリオが口の端だけで笑った。


帝国の国庫にあるビダル国金貨は、順調に新しい金貨と入れ替えられている。新しい金貨はビダル国の国花であるヤマユリが刻まれている。飾らない愛。そんな花言葉も相まって、帝国のご婦人方に新しいビダル金貨は大人気になっているらしい。実際…中々美しい造りをしている。


ただの金貨にしないで、付加価値を付けてきた。

あの、カミロという男、使えるな。帝国で働かないかな?そんなことをふと思う。


帝国内の属国にも、ビダルにもフールにも、隣接する国々に、セリオが諜報員を送り込んでいる。彼らは普通にその土地で生活し、見聞きしたことを知らせてくることになっている。


セリオが驚いたのは、帝国内の情報だ。


秋口には、帝国内の隅々まで、帝国の将軍セヴィリアーノ様がビダル国の女王と結婚し、体は不自由だが結構幸せに暮らしているという噂が広まっていた。元々、帝国内では民に人気のあった方だ…それにしても…


…早いな。


まあ…何らかの問題が生じたときに、将軍が向かわないことは時間とともに広がるだろうとは想像したが…。現に今も、南東部の国で跡目相続で内乱になるかもという情報を得て、ビエイトに行ってもらっている。セレドニオ様に報告したら、皆殺しにして来いと言われたが…ビエイトがうまくやってくれるだろう。


この情報の拡散が…吉と出るか、凶となるか…。



仲良く暮らしている、か…。


セリオは冷めかけた紅茶を飲みながら、あの初めて会った時、セリオを真っすぐに見つめたアイーダ女王陛下の瞳を思い出した。


今から思えば、あの目は…弱った子猫を守ろうと大きな外敵に毛を逆立てる母猫みたいだったな。


ふふっ。と笑いながら、セリオはまた、仕事に戻った。




*****


「ねえ、ウマばあ、ディヤは帰ってこないの?」


思い出したようにスミタが話しかけてきた。ビダルの秋祭りに向かっているから…忘れていたというより、この子も聞きにくかったんだろう。


「あの子はね、帰るべきところに帰ったからね。」

「…そうか。」

「でも、私たちもあの子も、旅はまだまだ続く。いつかどこかでまた会える。」

「そうか。」


つまらなそうに返事して、スミタは荷馬車の上から一面のそば畑の白い花を見ているようだ。この子は…結構ディヤをかわいがっていたからね。


早いもんで、ヴィマばあさんのところにディヤを送り出して、1年になる。



今年の春は、西回りで北上して来た。

昨年の春に決壊したオーラ国の大河も、帝国から派遣された1000人を超す兵が救援と復興を続け、以前よりも堅固な堤防が築かれている。まあ、完成まではあと3年ぐらいはかかるかもしれないが。この復興の支援をしていたのは、セヴィリアーノ様だ。兵を残すことを決めたのも。


そんなオーラ国を過ぎ、西のサウロ国を回り…


どこに行っても、帝国の将軍セヴィリアーノ様が結婚してビダルに婿に入った噂話で賑わっている。春に南部で共有した情報が、帝国内に浸透するのは割とすぐだ。レマの民はどこの国にも出向くから。


帝国の将軍が負傷して、実質引退した。

フールの南下を阻止するために、ビダルに婿に行かれた。


今のところ、将軍がいなくなったことの弊害は出ていない。大きな争いごともない。大きな災害も。

このままいけば…あの子たちも何事もなく暮らせるだろうが…そうもいかないだろうな。何かあったときに、双子の兄の方はうまく立ち回れるのだろうか?


ウマばあさんは、スミタの目線の先の白い花を咲かせたそば畑を見る。


その上に広がる真っ青な青空。


運命の輪は動き出し、あの子は将軍の手を取った。



「そこが…あの方の旅の終点ではない。」

パヴァンが旅に戻ってきて、ヴァミの言葉を伝えた。

「この結婚を慶事として帝国内に広げるように」と。



私にはよくわからない。話が広がれば広がるほど、あの子の幸せな時間は短くなる気がして身震いする。ヴァミが見ている物を、私たちは見ることができない。



せめて1日でも長く、あの子が幸せであるように…ウマは青空で廻り続ける輪を眺めた。












評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ