第22話 生誕祭。
生誕祭での出来事は、旅先で見た素人のコメディ劇の様だった。
セリオは思い出すたびに、思わずくくっと笑ってしまう。それほど、あっけなく、笑うしかないほどのお粗末なものだった。
正面の高い席に前国王に似た綺麗な金髪のアベリオ王太子がお座りになり、生誕祭が始まった。仰々しいマントを羽織ってはいるが、色白の、まだ少年だ。
国中の貴族たちが集まっており、中々華やかだ。
王太子の後ろには体格のいいビダル国の将軍、が立った。向かって右側には母御が座り、左側にはフールから側室殿と一緒に遣わされたグルツ候が立って…皆の挨拶を受けていた。
来賓の挨拶で、セヴィリアーノ様が王太子の前に立つ。
手筈通り、恭しく贈り物の箱を持った私が後に続き…王太子の足元に、金貨をぶちまける。観客から歓声が上がる。
「王太子、お誕生日のお祝いの品です。昨年、帝国からお買い求めいただいた穀類の代金として頂いたビダル国の金貨です。そのほとんどが、偽金貨でした。混ぜ物された金貨を帝国に支払うとは…王太子殿下は大物でございますね。」
そう言って、セヴィリアーノ様がにっこりと笑う。
すっかりおびえてふるふるっと、頭を振る王太子が、救いを求めるようにグルツ候を見る。
「いくら何でも…無礼ですよ。」
王太子と同じくらい青ざめた顔のグルツ候が、絞り出すようにそう言った。
「無礼?偽金貨を握らせられて、帝国が黙っているとでも?」
ざわついていた観客が、水を打ったように静まり返る。
「これでビダル国金貨の価値が地に落ちました。帝国は次期王となるあなたに、賠償金を請求する権利があります。穀類はもう、納入済みですからね。」
「……」
「国庫にある金貨もお返しいたしますので、金と変えていただきたいですね。たいした枚数ではない。5万枚ほど。」
「……」
「さあ、王太子殿下もこの金貨の真偽のほどを確かめてみてはいかがでしょう?」
そうセヴィリアーノ様に促されて、恐る恐る王太子が自分の足元に転がるビダル国金貨に、座ったまま手を伸ばし…かがんだ王太子の髪を…セヴィリアーノ様がむんずとつかむ。
その後は…もう腹を抱えて笑いたくなるほどだった。
出席していた全員の、ひゅっ、と息を吸い込む音が響き渡る会場で…セヴィリアーノ様が王太子の金色の髪を…正確にはカツラ、かな?…引きはがした。
カツラを固定していたのであろうピンが、金貨の上にパラパラと落ちる。
「おやおや、ビダル国は金貨も偽物だったが、王太子も偽物だったようですね。」
くくっと楽しそうに笑って、セヴィリアーノ様が金髪のカツラをグルツに投げつける。
グレーの髪の少年は、金貨の上にねじ伏せられた。母御はおろおろしているし。
「あれもこれも嘘でしたね。では、改めて聞くが…前国王を殺したのは、お前か?」
セヴィリアーノ様のブーツの下で身動きを封じられた王太子が涙目で言う。
「…僕じゃない…グルツだ。」
「ガイスカ!」
名を出されたグルツが叫ぶ。
控えていたビダルの将軍は、グルツの声には、何の反応もしなかった。
「茶番はこれまでにしましょう、グルツ。衛兵、ゲルツ候とアベリオ殿下と側室殿を、地下牢に。出口を塞いである。関係者はそこで拘束しろ。」
ガイスカ、と呼ばれた男が指示を飛ばす前に、出入り口に向かって逃げようと走った人間はすべて拘束された。
「さあ、フールの宰相殿、どうされますか?ビダル国内にたむろしているフール兵をお連れになってすぐにでも国元に帰った方がお利口だと思いますが?」
ガイスカがそう言うと、一部始終を無関係を装って見ていたフールからの来賓は、ため息を一つついて席を立った。
「ガイスカ!お前もアインゲル殿下を殺しただろう!同罪だ!」
衛兵に連行されながら、グルツが叫んでいる。
「皆、騙されるな!ガイスカ、お前が仕組んだのか!」
「グルツ、お前は大事なところを忘れている。俺がカワイイ姪っ子を殺すわけないだろう?」
「は?」
驚愕でグルツの目が見開かれる。
ぎゃあぎゃあとした叫び声が、やがて聞こえなくなる。
姪っ子?聞き間違いでなければ…こいつは姪っ子、と言った?
セヴィリアーノ様はとっくに自分の席に戻られて、くつろいで事を眺めている。
まあ…この人のことだから、たとえあれがカツラじゃなくても、力ずくで王太子に真相を聞き出していただろうけどね。
会場は…ガイスカの次の言葉を待っている。
「貴族院の皆様は、3年前に撲殺された男の死体を検死されたと思う。グルツがアインゲル殿下だ、と言っていたやつだ。」
「……」
「すでに皆様ご存じの通り、この国に第一王子は存在しません。王女殿下は私が逃がしました。」
言い方からすると…貴族院のメンバーは知っていたことなのだろう。正妃の子供が女の子だったと?しかもこの男は…王弟か?
ちらりと、セヴィリアーノ様の顔を伺うが、にこやかに笑っていらして…逆に怖い。
「あの時はあまりに急な事件で、王女を逃がし、酔っ払いの死骸を探すのがやっとでしたが…幸いにして、王女殿下は帝国の将軍、セヴィリアーノ様に保護されておりました。」
え?
会場が歓喜で沸き立つ。その中、セヴィリアーノ様に目配せされて、侍女が護衛騎士に連れられて、ゆっくり壇上に上がる。




