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第19話 手紙。

早いもので、年が明けて、もう2月も終わろうとしている。


セリオが自分用の執務室で、皇太子であるセレドニオ様の業務を片づけていると、ビエイトが転がるように部屋に入ってきた。


「なんだ?」


「セリオ様!殿下が!セヴィリアーノ様から連絡が来ました!」


「……」


基本的にはどんな状況でも、私かビエイトがセヴィリアーノ様に控えることになっているが、万が一の時の連絡は、ビエイトの奥方宛に女性名で出すことになっている。


ビエイトが上気した顔で、その手紙を私に渡してきた。


「…生きていらっしゃると、思っておりました!」


…生きていても、セヴィリアーノ様の地獄のような日々が先延ばしになるだけだけどな。


私は生まれた時から、皇帝陛下の双子の息子と共に育てられた。侯爵家だったが、母が、お二人の乳母だったから。12歳ごろまでは、一緒に学び、剣術も馬も、いつも3人一緒だった。

いつからだろう…セヴィリアーノ様の能力が勉強でも剣術でも、兄上を超すものだと…そこからあの方の地獄は始まった。13歳で将軍職に命じられ、ほとんど城にも戻れずに、帝国内はもとより、隣国とのもめごとの前線に立ち続けた。もう、10年になる。


私は…その兄、セレドニオ様に忠誠を誓い、彼の、目、としてセヴィリアーノ様に控えた。


10年…


いっそ…ビダルの森の中で静かに死んでいた方が…あの方は幸せだったかもしれない。


ビエイトに渡された、宛名に奥方の名前の書かれた手紙を開く。




*****



「へえ、あいつ、生きてたんだ。」


たいして興味もなさそうにそう言って、セレドニオ様が今日も執務室でどこだったかの国の王女を組み敷いている。喘ぎ声をあげさせてご満悦のようだ。


「で?なんだって?ビダル国を取るの?いいんじゃない?いつも通りセリオがサインして書類を回しとけば?」


「承知いたしました。私も同行いたしますので、後ほど報告に上がります。」

「ん…ふあっ…。」


必要な書類を揃えて、セレドニオ様のサインを頂きに来た。執務室でのこんな光景も見慣れたものである。


礼をして、部屋を出る。

ドアの前には4人も護衛が控えている。どれだけ…小心者なのか。



セヴィリアーノ様からの手紙には、3月末のビダル国の第二王子の生誕祭に公式に出る準備の要請が書かれていた。


帝国からの正式な訪問として前触れを出す。

お祝いとして、王城で管理している金庫から、偽ビダル金貨を100枚。

…どういうことだ?

兵を1000。

殿下の正装一式と、予備の軍服2組。

珍しく…馬車の用意。

兵はビダルに入れずに、国境沿いの領主館で待機。

3月20日に合流する…。


さて、忙しくなる。


セレドニオ様のサインを書き入れて、公的文書をビダル国に出させる。

合わせて、国境と街道に近い領主館を選んで、一か月の借り上げと、使用人の身元調査をするように命じる文書を持たせる。


財務方に金庫を開けさせ、保管してあるビダル国金貨を確認させる。ビダル国金貨は金の質もよく、安定しているので、帝国内でも取引に普通に流通している。貨幣価値も高い。


「偽金貨を100枚探し出せ。」


そういうと、財務の役人は憤ったが…割とあっけなく、まがい物が出た。重さが違う。すべてがそうだったわけではないが、新しい金貨、は偽物の可能性が高いようだ。あとを財務の役人に任せて、軍に向かう。


ビエイトを捕まえて、セレドニオ様の許可が出たことを伝え、1000人の兵をそろえておくように指示する。


「野営になる。それなりの期間待機できるように準備しろ。3月になったらすぐ出る。」

「はい。ありがとうございます!」


嬉しそうにビエイトが感謝を伝え、訓練中だった兵士たちの中に帰っていくと同時に歓喜の声が上がった。


…ビエイトは、志願する兵が多くて選抜が大変だろうな…そう思って、つい口元が緩む。


どの前線にいても…あの方は部下を大事にされた…それどころか、戦場になるであろう土地の住民も先に避難させた。なるべく累が及ばないよう。戦事も、まずは話し合いで、決裂すれば、関係者だけを…もちろん、そんなことばかりではなかったが。


収まらない兵士たちの歓喜の声を背中に聞きながら…セリオは2月の末の空を見上げて一つため息をつく。


















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