第18話 セリオ。
セヴィリアーノ様がビダルの国境付近で行方不明になって、一月近くになる。
彼の副官のビエイトが血眼になって探したが、見つからないまま雪になった。
ビダル国で冬の間の捜索は、二重遭難の恐れがあり、泣く泣く帰還した。本人は春になったら再び捜索隊を出す気でいるが…
…正直、生きている気はしないな。
そんなことを考えながら、セリオは呼び出しを受けたセドニオ皇太子殿下の執務室に向かって長い廊下を歩いていた。帝都は雪はほとんど降らないが、窓の外は冬枯れの景色が寒々しい。
皇帝陛下にビダル行きを命じられたとき…。
セヴィリアーノ様はあのネレア国での火責めで焼け落ちた梁の下敷きになった部下のチロを救おうとして、右半身に大やけどを負った。ビエイトが応急措置はしたが。
私たちは幸いにして、そこの屋敷の元領主が地下に作ってあったワインセラーに逃げ込んで無事だった。蒸し焼き寸前だったが。
その後、全焼した屋敷にセヴィリアーノ様の首を探しに来た反帝国主義の奴らをみな切り殺して、ネレア国の国王を嫡男に替えて、部下を2名置いてきた。
前王は殺さず幽閉し、報告に帝都に戻り…
「そうか。大儀であった。今、ビダル国にフール国の兵が入り込んでいるらしいから、急ぎ向かうように。」
皇帝陛下がろくにセヴィリアーノ様を見もせずにそう言い放った時…さすがに…さすがの私も、ビエイトも、抗議の声をあげた。せめて火傷の手当てをしてから、と。
「なにか?問題があるか?」
陛下は不思議そうに私たちを見て言い放った。
セヴィリアーノ様は私たちを手で制して、
「賜りました。行ってまいります。」
そう言って、陛下と兄上のセレドニオ様に首を垂れた。
その日の夜のうちに、無事だった5人だけを連れて、セヴィリアーノ様はビダルに向かった。
そうしてあの日…ろくに治療を受けれなかった火傷は膿み、彼は火傷と過労のために発熱していた。しかも、彼の愛馬は疲労していたため、いつもと違う馬に乗った。
それでも…最後まで、付いてきてくれた部下を労わっていた。
「もう死んでるだろう?春になって、奴の太刀でも見つかれば、それを棺に入れて葬式にすればいい。」
はっと我に返る。
セレドニオ様は執務室で、各国から集めた美女を侍らせて、酒を飲んでいる。セヴィリアーノ様と同じ顔で。
…まだ昼間だというのに。
「そうでございますね。雪が溶けたらビエイトが捜索隊を出すと言っておりましたので、せめて太刀が見つかるとよろしいですね。」
「まあ、何でも構わないがな。奴の葬式は盛大にやってやろう。帝国の将軍、だからなあ。なあ?セリオ?」
そんなことを楽しそうに言いながらも、まだ幼い少女を膝に乗せてもてあそんでいるセレドニオ様に、セリオは深々と礼をすると、執務室を後にした。
執務室を出ると、セリオは深いため息を一つついて、来た廊下を戻っていった。




