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第15話 情報収集。

「お前も占いをやっていたのか?」

「うん。踊り子になるには貧相な体つきだから、って言われてね。」

「……そうか。」


いや、おまえ…そこはお世辞でも、そうでもないとか…ない?


何時ものようにサティシュに抱えられている。こいつは私のことを抱き枕兼湯たんぽぐらいにしか思っていないようだ。私が女だと気が付いても(それはそれで失礼なことだけど!)、肌の色や身分や…あまり扱いは変わらなかった。


「今日、おばあの開いた俺のカードはなんだ?」

「…ああ。」


少し、畏れているんだろう。自分の生まれたころの話を聞いたばかりだったから…無理もない。


「まずね、あんたの過去。吊るされた男の逆。」


ディヤはおばあの開いたカードを思い浮かべる。逆位置だった。


「……」

「もがき苦しんだ。身動きが取れない、受け入れられない…そんな感じ?」

「……」

「今…出たのは隠者。今、静かに自分のことを考えている?このままでいいのか、審理はどこにあるのか。自分の欲は何か。固執してきた物を冷静に見る機会?」

「……」

「そして、太陽。全てが明瞭になる。」

「……」


「おばあが、あんたは月、だったと言っていた。月は、不安や精神的な支配。あんたはあんただよ。ね。もちろん、占いで人生が決まるなんて思っちゃいけない。私たちは生きているんだから、迷いも、恐れもあってあたりまえ。そんな感情も、喜びも、みんな自分の物なんだ。まあ、これは私に占いを教えてくれたウマばあさんの受け売りだけどね。」


ぎゅっと、抱きしめていた腕に力が入る。


「お前は…どうするつもりだ?」


「私?もう3年もビダルに関わらなかったからね…まずは情報収集してみるよ。金貨の偽造の件もあるしね。」

「……」



*****


年が明けてから、私たちは取っておいたフールの兵士の制服を着て、王都に出かける。安宿を拠点に、しばらく滞在することにした。お金はフールの兵が所持していたものをお借り?した。結構な金額だった。

当然、3部屋取るのだろうと思ったら、パヴァンが、主が一部屋で良いと言った。と…2部屋しかとっていない。狭いから!


私たち、と言ったが、私と、パヴァンとサティシュ。サティシュは褐色の顔料を塗って、レマ族に似せてある。もともと髪色も瞳も黒なので、違和感がない。パヴァンが言うには、フールの軍にはそれなりの数のレマや、他の大陸からの移民も兵として存在しているらしく、皮膚の色が違ってもあまり気にしないらしい。

実際、良く町ですれ違った。


しばらくぶらぶらして判ったことは、あの偽造金貨は何の問題もなく流通していること。ビダルの軍は相変わらず将軍ガイスカが務め、あの日、牢で反撃に出た第一王子を蹴り殺し、側室殿とグルツに信用されているということ。

国王になる第二王子がまだ幼いので、側室殿の側近としてフールから来ていたグルツが、侯爵位を貰って、摂政政治をしていること。

宰相のエリサルドはなんとか頑張っていたが、ついに昨年辞めたらしい。


…まあ、正直、新しい情報は入らないな。


ただ、この3年のうちに、この国がまるでフールの属国の態であることはとてもよく分かった。たとえ国王がいなくとも、貴族院もあるはずなのに…機能していないのか、疎外されているのか。それとも…様子を伺っているのか。義弟のアベリオが即位するにも、貴族院の承認が必要だ。


フールの兵士はいろいろなところにいて、あちこち冷やかしながらぶらぶらしている。飲み屋で騒いだり、酔っぱらってビダルの雑兵と喧嘩していたり…。居酒屋で晩御飯を食べていて…同じ制服を着ているのが恥ずかしいほどだ。誰にでも聞こえるほどの大声で話している。


「見たかよ?あの王子?グルツ候にそっくりに育ったなあ。元々の種は奴じゃないのか?あれで王子が金髪じゃなかったら、区別つかねえなあ。」

「なあ、デカくなったらよりそっくりになったな。並んだらまんま親子だな?」

「まあ、どっちにしてもこの国はフールの属国になるんだろう?がははっ」

「3月末にあの王子の生誕祭があるんだろう?そこで決まりだな。」


随分余裕だな。まあ、大方上層部がそう吹き込んでいるんだろう。誰の種でも、側室殿はフールの王女だ。ゆえに…フールに不都合は何もない。


席を外していたサティシュが席に戻ってきた。

ご飯は食べさせてあげるわけにもいかないので、しぶしぶ左手で一人で食べている。右手の火傷はすっかり腫れも引いたが、使いたくないんだろう。


3人で黙々とご飯を食べて、安宿に戻る。

途中、例によってフールの兵が、ビダルの雑兵と喧嘩をしていた。見慣れた風景だ。いつもなら、かかわらないように、見て見ぬふりをするところだったが…4人がかりで足蹴りにされていたビダルの雑兵が半ばごみを捨てるように側溝に放り込まれた。


フールの兵は飲み直しに行くようだ。

すれ違いざまに、見るとは無しに…


「…カミロ?」


酷く腫れあがった顔が、一瞬こちらを見た。









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