表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/45

第14話 動き出す輪。

「……」

「審判か。いいカードが出たな。」

「おばあ…私は…。」


頬杖をついて不思議そうに眺めていたサティシュが、カードの意味を教えろと言うので…


「え?ああ…過去の蘇り?…覚醒、復活…大きな決断?あたりかな。」

「ふーん?」

首をかしげるサティシュに…


「……私は…3年前まで、ビダル国の第一王子だった。」


「ん?…え?だって、お前、女?」


「そう。セルブロ帝国の帝王が、近隣諸国の王女を後宮に集めていたころ、私は女として生まれ、男として育てられた。14歳まで気が付かなかったのも自分で飽きれている。今から思えば極力肉を付けないように、節制した生活だったし、月の物も来ないほどだった。侍女は乳母が一人だけついていた。私は…何の疑問もなく、王太子になるものだと思っていた。」


「…お前…。」


「フールから和平のためにと送り込まれてきた側室殿に息子がいる。第二王子、アベリオだ。いま、14歳になったか。父王と母は殺され、私は投獄された先から逃げ延びた。レマに匿われて、3年も生き延びた。はははっ、情けないだろう?」


「じゃあ、お前…3年前に死んだとされる…」


「そう。アインゲル第一王子だ。」


「……」


「第二王子、義弟が、15になるのを待って、一気にビダルはフールに傾く。帝国とのバランスが取れなくなる。この国は…中立でなければならない。そうでなければ、大きな戦争が起きる。」

「……」


カードをシャッフルしていたおばあが、何度も頷いている。

そう、だれも望んでいない。フール以外は。


「サティシュ、お前が生きていようと死んでいようと…この国は戦場になる。」


サティシュは眉をひそめる。まあ、その位の情報はもちろん持っていただろう。

自分がどこで死ぬかによって、戦争が仕掛けやすくなる。そこまで考えていたかどうかはわからないが。



「……」

「さて、今のサティシュを見よう。私は昔、お前を占った。」

サハジが言う。


カードが3枚並べられる。


何度も聞かされた話なのか…サハジがその、昔の占いの話を始める。




皇帝に男の子の双子が生まれた。


たいそう寵愛した妃であったために、皇帝は出産の無事を祈っていたらしいが、なにせ双子だ。兄はするりと生まれたが、弟はそれから8時間もかかってようやく生まれた。妃の負担は大変なものだったろうが、母親としてたいそう喜んでいたらしい。


慶事でお祭りになった。私たちレマもかなりの数、帝都に集まった。


よく当たると評判のチャヤというレマの占い師が御前に呼ばれた。その女は…よく稼げる占いが得意だった。皇帝の取り巻きがその女を呼んだのも、運命なんだろう。


よく稼ぐ占い…そう、いいことばかり言ってもそれなりのご祝儀だが、もっと稼げるのは…これから起こる悪いこと、不吉なこと…不運がどこからきて、どうすればそれを避けれるか、ドラマチックに語ること。礼金が弾んでもらえる。


チャヤは二人の赤ん坊を前に、それをやった。


兄は父王に似た子に育つだろう。


弟は武術に優れ、やがて父王もしのぐだろう。


これを止めるためには、早いうちに権力を与え、父王のために戦わせればいい、と。

そうすれば、刃が父王に向かう前に力尽きるだろう。と。


チャヤは自分の未来をどう見たのか…生きて王城を出ることはなかった。



南の国にいた私が、はるばる呼ばれた。

出来れば関わりたくないと、じっとしていたが、無駄だったようだ。


私は二人の赤子を前に、カードを開いた。


兄は父にそっくりに育つだろう。やはり、そう出た。


先の皇帝は偉大だった。広大な大地をよく治めた。なるべく血を流さない方法で、帝国を大きくし、安定させた。


現帝王は…小心者だった。いつも先王と比較されていたせいなのか、持って生まれた物なのか…疑い、不安、繊細…。それをごまかすために、虚栄、欲望や快楽に溺れていく…そんなものでできている人だ。


弟は…先帝に似たようだ。争いごとを好まず、平和な生活を望んでいるが…月のように生きることになる。光が差し込めば…光さえ届けば、世界が手に入る。



「兄は父にそっくりに育ちます。


弟は兄をよく補佐し、太陽と月のようにお互いを照らすでしょう。」



まあ、皇帝の望んだ占いではなかったんだろう。私もそれ以上は言えないし。


私は生きて王城を出られたが、舌を切られて、もう話すことはできなかった。帝国も追放になった。


それから…寵愛していた妃は体を壊して亡くなり、皇帝は難産で生まれた弟を逆恨みしたのさ。もちろん、チャヤに言われた、いつか息子に殺されるんじゃないか、って占いに怯えたのもある。


結局、皇帝はチャヤの占いに支配されて、弟を戦場に放り込み続けたんだよ。



震えるサティシュの手を取る。

暖炉は燃えているが、ぎゅっと握りしめた手が冷たくなっている。


「ねえ、サティシュ?あなたの母上は、あなたが産まれて、喜んだってよ?ね?」

青い顔で…サティシュが私を見て…ほんの少し、頷いた。


「……」

「さて、お前のカードを開こう。過去から。」


吊るされた男の逆。


「今」


隠者。


「そして、未来だ。」


…太陽。
























評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ