第1話 旅暮らし。
「お嬢さん、恋の悩みかい?どれ、私が見てやろう。」
ディヤが小さなテーブルの向こう側に座った娘さんに話しかける。
カードを両手でかき回すようにシャッフルして、トントンッ、と整える。三つの山に分けて、もう一度ひとまとめにする。
髪色はくすんだ金髪だが、手や顔は褐色。そのディヤの手がまるで一本のリボンのようにカードを滑らす。
「何が知りたい?お相手との相性かい?この恋の成就かい?」
もじもじしていた少女が、
「今、好きな人がいて…その人が私の運命の人なのかどうか、が知りたいの。」
「ああ、わかったよ。カードを自分で選ぶかい?これだというカードを2枚引いてごらん。」
角が取れたボロボロのカードを、少女が悩みに悩んで、2枚指さす。初々しいね…。14歳、ぐらいかね。初恋かねえ?
「じゃあまず、お前さんの知りたかったことの答えさ。」
ディヤの左手のカードを開ける。祝福を受ける男女の描かれたカード。ただし逆。
少女が絵柄を見て、顔をほころばせる。正位置ならねえ…。
「うーん。お前さん…その男に体の関係を迫られてる?俺を好きならいいじゃないか、みたいな感じで。」
「え?……ええ。」
「今さえよけりゃいいならいいさ。でもね、これから何が大事なのか、よく話も出来ない男なら…ちょっと考えな?」
「えっ?」
その少女が息を飲み込む。
「さて、2枚目にひいたカードが、お前さんへの助言のカードだよ。」
そう言いながら、ディヤが2枚目のカードを開く。
死神か…。
そのカードを見て、少女の顔が暗くなる。そうね、骸骨のカードなんて図柄が悪すぎるよネ。
「おや、いいカードが出たね。」
「え?」
うつむいていた少女が驚いた顔でディヤを見つめる。
「お前さんに、もっといい恋が待っているよ、ってカードだよ。なんでもそうだけど、終わらないと始まらないからね?」
「えっ……はい。」
「その男と付き合いは長いのかい?」
ディヤがカードをしまいながら、世間話のように聞く。
「はい。もう2週間になります。」
「……そうかい。」
…イマドキノワカイコハ…
お代を払って去っていく少女の後姿をショールの下から覗き見る。晴れ晴れとして見える。なんだか、常連さんになる予感がするねぇ…。
「おやまあ、お前さんもいっちょ前に占えるようになってきたじゃないか?」
テントの奥からニヤニヤしながらウマばあさんが声をかけてくる。
「あの子がまともな子でよかったじゃないか。悩みもしないで男の言いなりになっていたら、もてあそばれて捨てられてた口さ。ここに座ったときに、もう半分は決心ができてたんだろう。わたしたちゃ、ほんのちょっと背中を押すだけさ。」
「……」
「ほれ、お代を渡しな。」
しわだらけのウマばあさんの手に、今しがたもらったお代を手渡す。
500リル。数え終わった札の中から1枚は返って来る。100リルはお小遣いでもらえるから。
ディヤはテントの前で、ちまちまと恋占いをやって、ウマばあさんはテントの奥で、もう少し突っ込んだ占いをやっている。高いけど。
ディヤがこのレマのテントに転がり込んでから、もう3年になる。
いろいろあった。レマの旅は基本のんびりしたものだが、夜盗に襲われかけたり、酔っ払いに絡まれたり…。下手な役人に売り上げのほとんどを取られたこともある。
「お前さんは体が貧相だからねえ…踊ってもそそられないだろうし、客も取れないだろうし…占いでもやるしかないか?」
そう言って、カードを教えてもらった。ばあさんの使い古したカードを貰った。基本の22枚しかないカードだけど、どっち向きかで意味が変わるし…お代がとりやすいように、なるべくいい占いにしろ、って言われても正直、難しい時もある。どうしてもどうしてもいいカードが出ないときは、追加で一枚引いたりするときもある。
カードにはそれぞれに意味があるが、
「お前さんの感じたまんまで良い。みんな人生の後押しをしてほしいだけなんだから、カマすんだよ。」
いとも簡単にウマばあさんはそう言うけど。
さて、次のお客さんだ。
ディヤはショールを被りなおして、カードをシャッフルする。




