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【完結】転生者(の親族)のオレがアップルハザードで王位についてしまった件  作者: いろは えふ
第2章(前編) 紅青薔薇戦争(べにあおばらせんそう)

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狭間の港町

 濡れていたはずの衣服はすっかり乾いてはいたものの、まだあちこちが痛い。カナタが身体を起こすと、二頭の子イルカとぶつかった。


「うっわっ! び、ビビった!」

「お腹空いたきゅい?」

「カナタ起きたきゅん?」


 目の前の喋る子イルカに混乱し、カナタは傍らのイツキを揺り起こす。まだ眠たげにゆっくり瞬く、無防備なイツキの表情は何年ぶりに見ただろうか。


「カナタ。起きたのか?」

「い、イツキ! 起きたらイルカが喋ってんだけど! コイツ等も異種だよな……」


 マジマジと子イルカ達を見るカナタ。イツキは昨日あった出来事を、カナタが気を失った後から話して聞かせてやるのだった。


 身体の痛みの理由、目の前の子イルカ、この場所についても話して貰えれば、合点がいったと。カナタは納得した。


「おう。カナタ、イツキ。おはようさん。丸っと一日半だ。2人共よく寝てやがったな。ちぃとは休めたか? そうだ。腹は減ってるかい? 果物を取って来たんだ。食えそうか? ついでにこの島の探索もしたんだが、ちと面白い事が分かったぜ。食いながら話そう」


 いつの間にか完成していた、広い食卓へと着席を促され、カナタ達は向かい合って腰を掛ける。食卓のテーブルには、パンとスープ。果物と肉が、草で編まれた籠や、食器の上に並ぶ。


「すっげぇ美味そうだけど。これ、じーちゃん作ったの?」

「こんな大層なモンを俺が作れるわけねぇじゃねぇか。ドルチェの嬢ちゃんと、そこの子イルカずが作ってくれたモンだよ。厨房に入ると、ガサツだってマトリんにいつも追い出されてたからなあ。俺は料理をした事がねぇんだよ。今度作ってみるかね」


 気にも留めていない様子で笑いながら、いただきますと手を合わせ、フィロスは朝食を食べ出した。イツキとカナタもフィロスに続く。


「旨っ! ドルチェ嬢女子力高くね?」

「だから言っただろう? ドルチェ嬢は海底1の美イルカなんだってな。それは何も外見だけの事を言ってんじゃねぇのさ。中身から滲み出す大切なモンもあるって事だな」

「確かに美味いな。フィロスさん。先程言っていた、この島について分かった面白い事というのは?」


 一通り食べ終えれば、イツキは顔を上げて、フィロスに先程の話を促す。


「あー。そうだそうだ。この島は隔絶されてるみてぇでな。辿り着くのは奇跡的で、意図的に来るのは至難の業な、とんでもねぇレアな島なんだとよ。当然地図にも載ってねぇそうだ。それと、どうしてかは分からねぇが、ここには、色々な場所へ繋がる空間の歪が集まってる」

「空間の歪が集まる島……ですか?」


 フィロスの言葉に相槌を打ちながら、イツキは先を促す。


「おうよ。あらゆる場所へ瞬時に行けるみてぇでなあ。各空間から敵が逆流して来たらマズいが、こっちから攻める分には地の利がありそうだ。リスクもあるが、拠点向きのレアな島って事だな」

「それって、冥界にも瞬時に行けるって事だったりすんのか?」

「ああ。それがなあ。探しちゃみたんだが、冥界への扉だけは見付からなかった」


 カナタも食べ終え、手を合わせた。


「隠されてんのか、そもそも無ぇのか。はたまた、冥界に繋がる仕掛けがあったりするのかもしれねぇ。まあ、直ぐは動けねぇわな。情報も足りねぇが、親父が海上で睨みを利かせてる。航路は諦めた方が良さそうだぜ」

「そ、それってオレ、常に狙われ続けるって事だよなっ! あんなでっけぇイカとか、山男とかにさっ!」


 カナタが立ち上がった拍子に、首から下げたチェーンの指輪が襟元からはみ出す。それを見たフィロスが、少し考えてカナタに尋ねた。


「カナタ。おめぇさんが冥界に行かにゃならん目的はなんだい?」

「えっ? 林檎の力が使えるようになるまで冥界に匿って貰って、その間に父ちゃん探して林檎について聞くんだろ?」


 カナタが答えると、フィロスは肯定して頷く。

 

「そうさな。林檎の力の秘密を知るにゃトモザネを見つける必要がある。セツカの指輪を頼りに、その軌跡を辿りゃあいいんだったろ? 林檎だっておめぇさんの目的の1つだ。なら、どっちから始めても構わねぇじゃねぇか」

「確かにそうかもしれねぇけど。その間ずっと狙われ続けるってのがな。オレ、敵意持つ異種達から逃げ延び続ける自信ねぇんだけど」


 フィロスの言葉に、今までの巻き込まれを思い出したのか、カナタは渋い表情を浮かべながら、自分の首元に手を添える。


「その為の俺等と拠点じゃねぇか。船上でも大活躍だったんだろ。カナタ? マトリん程じゃねぇが、俺にも弓の心得は多少ある。俺等だけで不安なら、おめぇさんが自己防衛程度には弓が使えるようにもしてやれるぞ」

「んー……まあ。考えとく?」


 自身無さげに、卓上に置かれた弓を眺めて、カナタは曖昧に返事をした。


「おめぇさんが以前、指輪を覗くと娼館が見える。と、俺に教えてくれたよな。それはどんな娼館だった?」

「夜の港町と、2つのデケェ娼館っつーのかな? 白い壁で青い屋根の洋館と、赤い屋根で妓楼みてぇなとこがある町だった。ゲームかなんかに出て来たのか、見た事あるような気ぃしたんだよな」


 フィロスに無理強いをすつもりは無いのだろう。話題を変えるフィロスの言葉に記憶を掘り起こして、カナタは答えた。


「狭間の街ミーリャ……」


 思い当たる場所が浮かんだのだろうか。口にしたイツキの表情が刹那に曇った。


「狭間の港街、クリソミーリャかい? あそこの月は、不思議と沈む事がねぇんだよ。幻想的で面白ぇ街だぜ。林檎の手掛かりがそこならば丁度いいじゃねぇか。親父のお気に入りの女も居るしな。俺の親父の事は、姐さんに協力を求めに行こうぜ?」

「あ、あそこは異種に住み心地がいい。異種嫌いのカナタを連れて行くには……。別の方法は無いんですか?」


 表情を曇らせたまま、首を振ったイツキがフィロスへと尋ねる。

 

「他に頼れそうなお袋は、2か月前から留守だしなあ。帰りがいつかも分からねぇ。今んとこは、狭間の街を目指すのが林檎への最短じゃねぇかい? カナタの指輪が示してるんだしな。おめぇさんも、早くカナタを日常に返してやりてぇんだろ?」

 

 カナタを引き合いに出されてしまえば、断る理由を失ってしまう。イツキは渋々頷いた。


「イツキ。お前もしかして、クリソミーリャってとこ、行きたくねぇ感じ?」

「いや。これは俺の個人的な問題でな。大丈夫だ。お前が行く場所へ俺は付いて行く。ただ、本当にあの街は異種が多いんだ。大丈夫そうか?」

「イツキと居りゃ多分大丈夫だ。悪いのや怖ぇのばっかじゃねぇってのもちょっとだけ分かったし、異種にもほんの少しだけ慣れた気ぃするしな」


 イツキの言葉に答えて、食卓に飲み物を運んで来た子イルカをつつく。擽ったそうに身を震わせるイルカ達は可愛いと思えた。カナタはイツキへと笑顔を見せる。


「次の目的地は決まったみてぇだな。んなら、今日までは拠点の準備作業して、明日出発しようかね」

 

 予めフィロスが作ってくれていた空き部屋や厨房へと、海中神殿から届けられた家具や荷物を入れる作業をすれば、洞窟だったはずの場所は、立派な拠点へと生まれ変わった。


 フィロスの強い希望で、今は広めの空間に作られたバーカウンター内へ、酒瓶や酒樽を運び込んでいるところだった。味見と称して酒を飲み始めてしまったフィロスは、イルカ達やカナタに散々絡んで、眠り込んでしまっていた。


 ソファ席に置きっぱなしの毛布を拾い上げて掛けてやったカナタは、イツキの姿が見えないのに気付き、外へ出た。


 ――――18――――

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