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009 経験値は裏切らない

アストとブルタの敏捷の差はさほどないと考えている。【加速】というスキルもバンバン使えはしないのは本人の疲労具合から予測できる。


入り組んだダンジョンだがアストはこの三日間駆けずり回ったお陰である程度脳内マップが出来上がっている。


ゴブリンたちが等間隔にポップすることも何となく理解した。


その為、アストはここ数時間赴いていない位置に向かって突き進む。


背後の足音は迫ってきてはいるが、まだ追い付かない。恐らくアストの鋼の剣も持ってきているせいで移動速度が低下しているのだろう。


「ゴブさん見っけ! 君鬼ね!」


挨拶がわりに殴り飛ばし、蹴り飛ばし、首をゴキッしてすぐに移動を再開。


それを何度か繰り返して行くうちにブルタとの距離が五十メートルを切る。


ブルタは息を荒らげながらも冷静に速度を維持する。


【加速】圏内に入ったら躊躇わずアストを襲う算段であった。


収穫もあった。鋼の剣だ。これを売れば数ヶ月は働かなくても済むぐらいの値段にはなる。


アストも売れば、それこそ一年は遊んで暮らせるかもしれない。


才能の差にくじかれ、後輩だった連中が自分を追い抜いていくことにも嫉妬しなくなって久しい。


(そういえばアイツは剣聖の弟子になったんだっけな)


冒険者になり、すぐさまCランクに上がり街から出ていった少年を思い出す。


今思えば、アストはあの少年に似ていたから、こんな無茶なことを仕出かしたのかもしれないとブルタは考える。


本来なら街から街へと移動途中の一人組冒険者や、前準備を入念にしてから同じ腹に一物抱えた連中の手を借りて行動起こすのがブルタのやり口であった。


今回の犯行も顔馴染みの行商人かららしくないと言われるぐらいは心がざわめいた結果行ったものだ。ようは衝動的にやったこと。


そのお陰で冒険者ギルドの受付嬢には疑いをかけられてしまった。先日アストとやり取りをした受付嬢だ。


珍しい髪色以外にも礼儀正しいアストに目をかけていたのだろう。かなり質問攻めをされ三日も様子を見らざるを得なかった。


本来なら三日というのはハッタリで一日程度で戻って来るつまりだったのだ。予定が狂ってしまったことにブルタは舌打ちする。


予定通り戻ってこれたのなら、こんな面倒なことにならなかった筈だと。


(ちっ……幸運なヤツだ)


距離が四十メートルを切る。


あと十メートル縮まれば【加速】で決着がつく。


必死に逃げ惑うアストの命脈もここで尽き果てる。


ブルタはニヤリと口元を歪ませた。


彼はもう後戻り出来ないほど堕ちていた。


アストは眼前に見えたゴブリン四匹に一縷の望みを賭ける。


この四匹でダメならアストはもう打つ手がひとつぐらいしかない。


それも非常にリスキーなものだ。恐らく高確率で失敗するだろう。


だがこの賭けに勝てば、その打つ手と一緒に使える。そうすれば勝率は跳ね上がる。


先頭のゴブリンを殴り飛ばし次のゴブリンに視線を向けて、ぎょっとする。


ブルタが投擲した短剣が頭部に突き刺さっていたからだ。


やられた! と考えながら、すぐに次のゴブリンを始末する。


残った一匹にアストは拳を振り下ろす。


アストの視界に短剣が見えた。


アストの拳と短剣が最後のゴブリンに触れたのはほぼ同時。


短剣が突き刺さり殴り飛ばされたゴブリンが粒子になり消えていく。


崩れ落ちたアストは動かない。


【加速】を温存し鋼の剣を握るブルタが近づいてくる。


「下手な演技はよせ。もう逃がさねぇ」


アストがまた逃げる可能性を考慮して【加速】を温存し、ゴブリンを始末することでアストの計画を狂わせることにしたのだ。


「逃げ惑っていると思ったら、レベルを上げようとしていたのか。往生際が悪いな、坊ちゃん。本当に貴族の出か?」


油断せずアストの一挙手一投足を見逃さないブルタ。


(勿体ねぇーが、足の健でも切っておくか)


それぐらいならポーションで治るとはいえ、ポーションは高額だ。傷物だと言われ値切られはするだろう。


だがブルタもいい加減疲れたからか、考え方が乱暴だ。


一言も発しないアストにも何の疑問も持たない。せいぜい息切れして喋れないのだろうと。


背を向けたままアストはようやく一言零す。


「経験値は裏切らない」


ゾクリと今度はブルタが背筋が凍り咄嗟に剣を構える。


次の瞬間にはブルタが吹き飛ばされ、間髪入れずにアストが【縮地】で距離を詰めてくる。


「おい。……その()はどこから出しやがった?」


アストの猛攻を辛うじて受け止め、鍔迫り合いに移るブルタは睨みつけるようにアストに問いかける。


アストは真剣な顔で嘘を吐く。


「さっき拾った」

「嘘つけこの野郎!」


もちろん【インベントリ】から引っ張り出した物だ。


鋼の剣よりは少し性能は下がるが十分な攻撃力を持つ鉄の剣だ。


ましてやレベルが10に上がり、SPを40獲得したアストは体力に10。腕力に20。敏捷に10振るという大盤振る舞いだ。


体力400補正込み920。

腕力50補正込み75。

敏捷100補正込み150。


これにて体力と腕力はブルタを上回り、敏捷は互角と言ったところだろう。


そうすると見切りによりブルタの攻撃を捌くアストの方が有利になる。


「ぐっ……舐めるな! 【加速】ッ!」


ブルタの姿がぶれる。


アストは咄嗟に上半身を後ろに倒すと寸前で剣が振り抜かれる。


(回避してなかったら首を跳ねられていたよ!?)


先程までアストを殺さないように手加減したのとは訳が違う。今のブルタは頭に血が上っておりアストを殺すことに躊躇がない。


アストは冷や汗をかきながら、乱暴に剣を振り回すブルタにより防御に徹することになる。


「くそっくそっくそっ! どうしてお前らは俺を置いていく!? どうして俺だけ才能がない!? 答えろよ! 天才どもっ!!」


溜まっていた鬱憤が吹き出し、ブルタは泣くように叫ぶ。


「俺だって夢を見た! 英雄になる夢だ! だが、俺は能無しだった! 何の才能すら与えて貰えなかった!!」

「ぐっ……!」


ステータス以上に重く感じる攻撃にアストは圧倒される。


(そっか。こっちじゃ才能は“スキル“として現れるのか)


将来有望は通用しない。産まれ持った素質がスキルとして示される。


ステータスが見れるとアストは無邪気に喜んだが、ブルタと同じようにスキル欄がまっさらだったらと考えるとゾッとする。


ましてやアストは神様か何者かにチートじみたスキルを贈られている。


まさにブルタの八つ当たり相手にピッタリなのだ。


(でも……僕は!)


アストは剣を強く握り締め憎悪に染まったブルタの目を正面から見つめ返した。

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