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074 怪物二匹

ジュラを仲間に入れた事で、殲滅力が爆発。


スーゼンがオーガの動きを止め、アストが注意を引き、ジュラが仕留める。


そうすればBランクの魔物と言え、ほぼ何も出来ずに倒される。


彼らの敗因があるとすれば、個として強かったことだろう。その為、仲間との連携は杜撰でありほぼ単独で戦っていた。


本来なら森の奥地で何不自由なく生きてきた絶対強者なのだから。


産まれ持った強さにあぐらをかいていた時に、自身より遥かに強い(・・)上位個体であるオーガキングが誕生した。


ガウクスク大森林にて、新たな王が生まれた瞬間であった。


だが、彼らが従っているのは()ではない。


それよりも遥かに恐ろしい連中(・・)だ。




オーガの数も残り僅か、こちらもBランク冒険者の大半が脱落。


デズニーの活躍により死傷者は無し。


「行ってくるんだな」


長い戦いだったというのに、一切の疲れを感じさせない様子でAランク冒険者『二代目蒼鬼』ガゼルが言った。


肩に担いだ大斧にはべっとりと血がこびりついている。


「父ちゃんなら楽勝だ!」

「ありがとう」


気力回復ポーションを片手に息子のメットが自信満々に叫ぶ。


手渡された気力回復ポーションを飲み、愛する家族を順に見る。


「これが終わったらあたしは剣聖の試練を受ける為に頑張るんだから、パパしくじっちゃダメだよ?」

「ハッハッハ! ケルは本当にジュラくんが好きなんだな」

「大親友だからね!」


娘のケルは相変わらずの様子であり、ガゼルからしたら将来が若干不安であった。


「あなた。無事に帰ってきてよね?」

「もちろんだな。オラは君の元に必ず戻って来るんだな」

「きゃっ……あなたったら……」

「「うぇ〜」」


何年経っても美しい妻を抱き締めながらイチャイチャし始める二人に、子供二人は吐きそうなリアクションをとる。


「しくじるんじゃないよ、ガゼル」

「母ちゃん。……分かってるんだな。母ちゃんの願いを叶える為にも、ここで死ぬ訳にはいかないんだな」

「はんっ。そんな事は気にしなくていいさね。……年寄りの事なんざ気にせず、お前は好きなように生きればいい。子は親の所有物じゃないんだ」

「だから好きなように生きてるんだな」

「一丁前な事を言うようになったじゃないか。……死なければ必ず治してやるさね」

「ああ、死なないんだな。オラは偉大な『蒼鬼』の血を引いているんだな」


お互いにしか伝わらない想いを胸に抱く。


「……その訛りも引き継がなければ良かったのにな」

「あら、お母様。そういうところが彼の素敵なポイントじゃないですか」

「「「うぇ〜」」」


ガゼル最推しのマイリヒの惚気に、今度はデズニーも一緒に吐きそうなリアクションをとる。


そのやり取りから普段の家族仲はすこぶるよろしい事が窺える。


「なに、あの空間。割り込める気がしないんですが」

「やっばカッケェーな! ガゼル様!」

「ここにも居た。ガゼルしか勝たんさん」

「様を付けろ! この半目野郎ォ!」

「そこキレるポイントなんだ!? あ、ちょっ、やめぇ〜」

「お、おち、落ち着いてっ」


唐突にキレたジュラに首元を掴まれ前後にシェイクされるアスト。


スーゼンはアタフタしつつ何とか宥めようとするが、声が小さすぎてジュラには聞こえてなかった。




僅かに残ったオーガ達は自身の王を呼びに行く。


オーガキングは戦場をこれまでの流れを全て見てきた。


そして冷めきった嘲笑を浮かべる。


──何をしても無駄だというのに。


──お前達は何も分かっていない。


──所詮これまで全てが余興(・・)


そのように内心を抱きながら、オーガキングは金棒を担ぎ前線に姿を現す。


全身引き締まった筋肉で構成された“朱鬼“は全てを悟った上で戦う。


──この戦場に勝者など初めから存在しない。


彼だけが知っている真実であった。




「……来る」


最初に感じ取ったのはマルクであった。


木々の奥から凄まじい殺気と気配を纏った存在が、全てを圧倒しながら近付いてくる事に。


「これは……僕でも苦戦を強いられそうだ」


天才剣士の名を欲しいままに手に入れてきたマルクは、表情を険しいものに変える。


「アスト君、流石の君でも相手が悪すぎるよ。……ここからは大人しくしてく……っ!!?」


友人の心配をする最中、マルクは全身の毛が逆立つような濃密な殺気に気付いた。


「マルクゥ!! 出たぞ(・・・)ォ!!」


矢倉から飛び降りながらギルドマスターのソラーゲンは怒鳴るように叫ぶ。


「……はい。招待状(・・・)を今受け取ったところです。どうやら名指しのようですね」


僅かに震える腕を掴み気丈に振る舞うマルクに、ソラーゲンは沈痛な面持ちで頭を下げる。


「すまんっ! お前しか相手にならないんだっ!」

「ええ、分かっていますよ。……それに光栄な事です。それはつまり相手にとって僕が一番“強い“という認識なんですから」


澄み切った青空を見詰めるマルクは静かに闘志を滾らせる。


恐怖からの震え?


──否。


武者震いだ。


どうしようもなく高ぶる高揚だ。


(試そうか。剣聖に教わった剣技の深奥を)


彼にしては珍しい獰猛な笑みに、傍に居たソラーゲンはプルっと一瞬だけビビってしまう。


(ははっ……この『武帝』と呼ばれた俺をビビらせた? やはり末恐ろしいヤツだ)


マルクはもう何も視界に入らないかのように、静かに歩き出す。


進行方向上に居た冒険者達は、冷や汗を浮かばせながら道を開ける。


それはまさに真っ二つに割れる海のよう。




「ッ! 出やがったか!」


戦場でもデズニーが初めに勘づいた。


「まさか、同時とはな」


前方から朱い鬼が、そして山一つ挟んだ先には、朱い鬼よりも恐ろしい存在が現れる。


手に持った長杖を壊れんばかりに強く握り締める。


僅かに震える身体は紛うことなき──恐怖からの震えである。


「お母様……」

「おばあちゃん?」


マイリヒとケルが左右からデズニーを抱きとめる。


「俺も居るぜばあちゃん!」


メットはその気配を遮るようにデズニーの前に立ち力こぶしを作ってみせる。


「ははっ……なんだいなんだいっ! 人を年寄り扱いして! 少し疲れただけさね! さあ、残った残党を処理するよ! ガゼルが思う存分暴れられるようにねっ!」


一瞬だけ、マイリヒとケルをギュッと抱き返すと、すぐに離しいつものおっかなくも頼もしいデズニーが帰ってくる。


「お前は取り敢えず『三代目蒼鬼?』の疑問符が取れてから言いな!」

「好きで付けてるわけじゃない!!」


メットだけは少し当りがキツかったが、誰がどう見ても愛情表現の裏返しであった。


「はっ……はっ……はっ……な、なに、あれ?」

「ア、アストくん!? だ、だいじょうぶ?」


濃密な殺気に晒されたアストは過呼吸を起こし、倒れ掛けていた。傍に立っていたスーゼンが慌てて支えるがどうにも具合が良くなさそうであった。


「……アスト。お前はもう休んだ方がいい」


アストの様子に疑問を抱くことも無く、真剣な表情で戦力外通告を告げる。


「……お前は才能の塊だ。誰がどう見てもそう言うだろう。だが、早すぎる(・・・・)んだよ。この場に立つには経験が不足しすぎてる」

「そう、かも……なんだか震えが止まらないんだ。二つの殺気が僕を射抜いて……どうしようもなく……怖いんだ」

「アストくん……」


押し寄せてくる殺気だけで精一杯のアストは、素直に自分の実力不足を感じ取っていた。


ジュラは大剣を担ぐと、アストとスーゼンに背を向ける。


「ガゼル様の露払いはアタイとケル達がやる。……スーパイセンは、アストを頼んだ」

「ッ! ……ま、任せてっ! か、必ず、護るよっ!」

「おう!」


ケル達の元に飛び出すジュラと、アストを背負い防衛拠点に駆け出すスーゼン。


二人の奥底にあるモノは一緒だ。

 

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